「連合兵戦記」4章 5

Last-modified: 2016-05-22 (日) 13:51:42

「ハンス隊長から支援要請です!」
「了解!弾は…白だな」
都市内のゴミ捨て場と化した公園に配置されていた155mm榴弾砲 ロングノーズボブの砲手 
ダン・マクガイヤー少尉は、部下の報告により、上空に撃ち上げられた信号弾を確認していた。

 

周囲に先程展開していたゴライアス部隊は、都市内に侵入したザフト軍を迎撃する為に出払っていた。

 

「ファイア!」155mm榴弾砲が火を噴き、砲口から噴出した衝撃波と爆炎が、
周囲のゴミを瞬間的に吹き飛ばし、燃焼させた。
同時にハンスらの付近に展開していた迫撃砲部隊も支援砲撃を開始していた。
彼らは、ハンスの部隊が出撃すると同時に地下通路を利用して、ザフト部隊がいる地点の近くのビルに到着していたのである。
一部は、地下通路に侵入していたザフト軍と交戦し、全滅、後退を余儀なくされた者達もいたが、
多くは、無事に予定の場所に展開していた。

 

「味方ごと砲撃する気か…?」一瞬ケヴィンと部下達は、地球連合軍が味方の弾着観測班ごと
自分達を集中砲撃で撃滅することを図ったのだと考えた。

 

だが、その予想とは裏腹に無数の砲弾は、彼らに命中する前に上空で一斉に破裂し、煙幕を噴き出した。

 

瞬間的にハンスのゴライアス部隊とケヴィンの率いる部隊は、白い煙幕に包まれた。

 
 

「糞!なんだこの煙は!?センサーがっ」
ケヴィンは、モニターに映し出される映像だけでなく、レーダーすら使い物にならないことに苛立った。
彼と彼の部下、そして敵部隊を包み込むように展開する牛乳を溶かした様な白い煙、その中に銀色の粉末が煌いていた。

 

煙幕には、チャフと同じ効果を発揮する微粒子が含まれていたのである。
この視界ゼロの中、ハンスらは、ゴライアスの肩に装備されたライトによる発光信号で連絡を取り合うことで白煙の中でも連携可能であった。
これは、NJ災害以前のレーダー等の電子兵器に頼った戦争が主流とされていた地球軍では、
誰にでも簡単に行えるものではなく、ハンスと部下達の訓練の賜物であったと言える。

 

「そこだ!」白煙の向こうにいるザフト歩兵目がけ、ゴライアス部隊は攻撃を開始した。
ゴライアスの14.5mm重機関銃が歩兵を薙ぎ払い、グレネード弾が、ジンの脚部に着弾した。

 

重機関銃弾を浴びたザフト兵の肉体はズタズタに引き裂かれ、飛び散った鮮血が白煙を束の間、
鮮やかな朱に染めた。
「くっ、どこにいる」ケヴィンは、レーダーも目視が信頼できない為、索敵手段を熱センサーに切り替えていたが足元で、
小虫の如く動き回るゴライアス数機の動きを捉えるのは容易ではなかった。
バースト射撃で撃破しようにも、味方の歩兵の生き残りが足元にいる以上それは不可能であった。

 

ケヴィンの僚機を務める部下のジンの背後に攻撃が命中する。

 
 

「後ろにもいるのか!?」包囲されたと考えたケヴィンは、一瞬正面の敵への警戒を薄くしていた。
その隙を突きハンスのゴライアスを敵指揮官のジンの真下まで接近した。

 

ハンスのゴライアスは、グレネードランチャーをケヴィンのジンの頭部に向けて発射した。
白煙の中で輝くジンのモノアイは、まるで人魂の様に不気味だった。

 

「アンテナが!やってくれるっ」グレネードを受け、ケヴィンのジンの頭部の大型ブレードアンテナが砕け散った。
それは、指揮官であるケヴィンと離れて突入し、市内で地球連合軍部隊と交戦していた部下達との通信が
困難になることを意味していた。
尤もはるか前に中継役の通信車両の大半が撃破されていたが。

 

「こいつ!」ケヴィンのジンが重突撃機銃を放つ。
ハンスは、即座にゴライアスを横に跳躍させて回避する。
ハンスの後ろにいたゴライアスが被弾し、爆散する。
「バークっ」煙幕が晴れ、ハンスが、廃墟の影に身を隠したのと同時に、
鉛色の雲が立ち込める上空に赤い星が生まれた。

 

「信号弾、ザフトのものか?」「信号弾!今度は何処だ?」その信号弾は、彼らと同じく都市内で戦闘しているMS部隊からでなく、
安全なはずの後方に展開していた車両部隊から発射されたものであった。

 

「中隊長!敵の攻撃です!」生き残っていた装甲車のクルーの報告がコックピットに響いた。

 

「何!一体何処から!?」ケヴィンは、予期せぬ敵の出現に絶句した。
「やってくれたか!ディエゴ曹長!」対するハンスは笑みを浮かべた。

 

「敵は姿を消す魔法でも使ったとでもいうのか?」

 
 

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