「連合兵戦記」5章 2

Last-modified: 2016-11-15 (火) 20:32:19
 
 
 

――――――――――<リヴィングストン>格納庫―――――――

 

ザフトのMS部隊の移動基地でもあるレセップス級の格納庫は、元々広かったが、殆どの搭載機が作戦に出撃している現在、
この<リヴィングストン>の格納庫は更に広く見えた。
ノーマは、自身の乗機へと向かった。

 

ノーマが足を止めたMSハンガーには、ザフトの最新鋭機 モビルスーツ シグーがその力強い鋼鉄製の巨体を屹立させていた。
シグーは、ザフトの主力MS ジンよりも精悍かつ細みのある外見をしていた。

 

そしてその精緻な動きを可能とする両腕には、兵器が保持されていた。
右には、ザフト軍のMS用主力火器である重突撃機銃が、左には中世ヨーロッパの騎士が使用していたものを
巨大化させた様な円形のシールドとそこからはみ出たガトリング砲の銃口が鈍い光沢を放っていた。

 

円形の特殊合金製シールドの裏側には、ガトリング砲の機関部と徹甲弾、他数種類の弾頭が装填された弾倉パックがある。

 

シールドに火器を搭載するというのは、限られたウェポンラックの有効活用という意味では、
合理性があったが、敵の攻撃を受けることを考えると衝撃による動作不良や誘爆の危険性を孕んでいた。

 

シグーは、ジン部隊の指揮官機として開発された機体で、飛行MS ディンのスラスターを改良した2基のメインスラスターによって
機動性がジンの2倍近く強化されていた。

 
 

ジンをあらゆる性能で上回るシグーは、主力機 ジンの後継機種としてエースパイロットや指揮官を中心に配備が進められていた。

 

ノーマにこの機体が引き渡されたことには、
彼女自身が、MA22機、戦闘機12機、装甲車両29両を撃破し、戦闘艦4隻、輸送艦3隻を撃沈したエースパイロットであることだけでなく、
彼女の父親であるヨハン・アプフェルバウムの存在もあった。

 
 

ユーラシア連邦 ドイツ州 ケルン出身の第1世代コーディネイターにして、黄道同盟創設メンバーの1人であるこの人物は、
現在、同志の大半と共にプラント最高評議会のメンバーに選出され、
現在、アプリリウス2の地区代表 プラント最高評議会議長補佐として活動していた。

 

新兵からエースになったとはいえ、まだ経験が少ないノーマにシグーが引き渡されたのには、
実力のみならず評議会議員の縁者子弟に最新鋭の機体を引き渡しておくことで、ザフト内部での立場を良くしておきたい、
と考える関係者の配慮が全く無かったとは言えなかった。

 
 

「ノーマ小隊長!出撃されるのですか?」
先程まで待機室にいたのであろう。彼女の部下の一人が尋ねた。
「ええ、そうよ」「修復が完了次第、我々も共に出撃します!」
数時間前に経験した地球連合側戦闘機部隊との戦闘で、ノーマのシグーは殆ど損傷を蒙らず、弾薬と推進剤を消費しただけで済んでいた。
だが彼女の部下の機体は損傷を蒙り、現在修理中であった。
「今回の戦闘は私だけで十分よ、貴方達は、この艦の直衛に付きなさい」
「小隊長1人で市内の地球軍と戦うんですか?」
「そこまで無謀なことを私が考えているわけがないでしょ?私は突破口を開くだけよ、安心して」
「…了解しました。」次に背後から整備班長が彼女に声をかける。

 

「小隊長、出撃されるのですか」「ええ、整備は?」
「シグーは、既に完了しています。」「グゥルは使用可能?」
「グゥルへの推進剤補給は既に完了しています」「ありがとう。」
そう言うとノーマは、ハンガーに駐機された愛機の元に向かった。
彼女は、シグーのコックピットに乗り込むと即座に計器類を起動させる。

 

シグーは、ハンガーから歩き出すと、リニアカタパルト上に置かれた物体の上に足を置いた。
そのエイを思わせる物体は、後部に推進器があった。
シグーは、ジンよりもスラスターの推力はあるものの、飛行モビルスーツ ディンの様に自力で飛行することは不可能であった。
その為、追加装備が必要となる。

 

それが、このサブフライトシステム グゥルであった。

 

民間向けに垂直離着陸輸送機として開発されていた機体をベースに開発したこの機体は、
MSを搭載し、戦場まで輸送させることを目的に開発された無人航空機である。
その高い推力により、限定的ながらモビルスーツに空戦能力すら持たせることができ、
少しの改造で、無人輸送機・爆撃機としての運用も可能な装備である。

現在、ファーデン戦闘大隊の指揮下のモビルスーツ部隊が、
地球連合軍の追撃にグゥルを使用していたこともあって、艦内格納庫には、グゥルは、1機しか残されていなかった。
このグゥルも機械故障で出撃不能となり、修理の為艦内に残されていたものであった。
ちなみにノーマ小隊が使用していたグゥルは現在補給と修理作業中であった。
「これより出撃する!進路は?」
「進路クリア、発進どうぞ!」
はきはきしたオペレーターの声が彼女の耳を打つ。
彼女は、機体のスロットルを最大にした。
グゥルに乗ったシグーが、リニアカタパルトの力を得て空へと射出される。
「ノーマ・アプフェルバウム シグー出撃する!」
巨大なバッテリー仕掛けの白銀の騎士は、鈍色の空へと駆け上がって行った。

 

聖天使出撃 終

 
 

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