『ONE PIECE』VS『SEED』!! 514氏_第03話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 17:28:19

シェルズタウンでコビーと別れた三人は、グランドラインに向けて海を進んでいた。
 と言っても、直接向っているわけではない。シンが買っておいた物の中には確かに海図があったが、いくらなんでもグランドラインまでの航路は記されていなかった。とりあえず、近くにある島々を巡りながら、噂に聞く『始まりと終わりの町』ローグタウンに向かうということになっていた。
 しかし、

「あれー? おっかしいな」

 海図とコンパスを見ながらシンは首をかしげた。出発してから数日、そろそろ陸地くらい見えてもいい頃なのだが、相変わらず360度、どこを見渡しても海ばかりである。すなわち麦わら海賊団、目下遭難中。

「あー、腹減ったー」

 すでに本日数度目となる台詞をゾロがつぶやく。予定なら一日か二日前に島についている筈だったので、食料は一昨日の昼ごろには食べつくしてしまっていた。魚を獲ろうにも、時期が悪いらしい。
 少しばかり非難めいた響きが混じっているのはシンの気のせいではないだろう。

「俺に任せろなんて言ったのはどこのどいつだ」
「スイマセン・・・」
「だいだいお前が船長だろ、ルフィ。航海術を持ってねえってのは、おかしいんじゃねえか」
「おかしくないよ。俺たち漂流してたんだから」
「だからさ、はやく航海士を仲間にしようって言ってんだよ」
「普通そんなもんは海に出る前に何とかするもんだろう」

 正確に言えば、シンにはすこし航海術の知識はあった。しかし、それも所詮経験の伴わないものであり、その程度で渡れるほどこの海は甘くはなかったのだ。そもそもシンはルフィに音楽家になれと言われたので、そっちの練習に多くの時間を割いてきた。ルフィがそういった技術を持っていないと知ったのは、船に乗ってからである。
 なんにせよ、無計画に海に飛び出して、自分の村にすら戻れなくなったゾロが言えたことではないが。

「「腹減った」」
「しょうがない。もう一回潜ってくるか」

 バタッと倒れこんだ二人を見て、シンはため息混じりにつぶやく。コーディネイターのおかげか、二人と比べてシンの燃費は格段に良い。魚を獲るのはシンの仕事になっていた。
 ついでに言うと、シンは二人に自分の境遇を話してはいないし、そうする必要も感じていない。彼らはあくまで今の自分を仲間だと思ってくれている。だからシンも特に二人やこれから仲間になるだろう者たちの過去を詮索する気はなかった。
 赤服の上を脱いで潜る準備をしていると、空を見上げていたゾロが何かを見つけた。

「お、鳥だ」
「でけえな、わりと」

 つられてシンも上を見る。

「マキノさんのから揚げ旨かったなあ・・・」
「そうだなあ・・・・・・よし、食おう! あの鳥!!」
「どうやって」
「銃なんてないぞ」
「俺が捕まえてくる。まかせろ! ゴムゴムのロケット!」

 ルフィは腕を伸ばしてマストをつかむと、鳥に向かって飛んでいった。

「なるほどね」
「俺も負けられないな」

 あの鳥より大きい魚を獲ってこようとシンが気合を入れて海に飛び込もうとする。
 しかし、

「は!」
「は!?」

 変な声にもう一度上を見ると、ルフィが鳥に頭をくわえられていた。しかも鳥はそのままどこかに飛んでいく。

「ぎゃー! 助けてー!」
「「あほー!!」」

 二人は空腹も忘れて、鳥を追いかけ始めた。オールは一組しかないため、力が残っているシンが船をこぐ。

「あのバカ!!」
「何やってんだ、てめえは!」

 普通、手漕ぎで鳥に追いかけるなんて無理な話だが、さすがはシン、追いつかないまでも一定以上の距離を開けずに進んでいる。だが事はそう簡単には進まない。
 二人の行くてに助けを求める人影が見えた。

「遭難者か、こんな時に! どうする、シン」
「見過ごせるわけないだろう! 引きあがられるか?」
「このスピードじゃ無理だな」
「じゃあ落とす」
「わかった。おい、船は止めねえ。勝手に乗り込め!」

 そうして常識的な速度になった船に遭難者達が乗り込んだ。人数は三人。なんだか一般人らしからぬ格好をしている。案の定、彼らは礼を言うどころか懐から刃物を取り出してこう凄んだ。

「船を止めろ。おれたちゃ、あの海賊『道化のバギー』様の一味のモンだ」

 もちろん、シンとゾロにそんな脅しが通用する筈もない。恩知らずな言動に、特にシンがきれて、遭難者改め海賊の三下たちをぼこぼこにする。
 このロスタイムがいけなかった。
 一通りやり終わって、二人が追走を再開しようと思った頃には、もう鳥とルフィの姿は消えてしまっていたのだ。
 シンとゾロは口論を始めるが、最終的にはこんなところで遭難している奴らが悪いという結論に達するまでそれほど時間はかからず、二人して彼らをもう二三発ずつ殴ることで決着がついた。もちろんこの間にもルフィとの距離は確実に離れていってしまう。
  とりあえず、彼らが所属する海賊団の拠点である島がすぐそこにあり、鳥も方向から考えてそこに向っていったのは間違いないらしいと言う話なので、そこに向うことにした。もちろん、船を漕いでいるのは拾われた海賊達である。

「あなた方があの『海賊狩りのゾロ』さんとそのお仲間だとはつゆ知らず失礼しました!」
「いいからさっさと漕げ」
「ホントにお前らの言ったとおりで間違いないんだろうな」
「そりゃ間違いなく。そのでけえ鳥なら何度か見てやすから」
「――で? なんで海賊が海の真ん中でおぼれてたんだ」
「それだ! よく聞いてくれやした!」

 ゾロの疑問に海賊達は待ってましたとばかりに話し始めた。なんでも、商船から宝を奪った帰りに、今度は自分達がその宝を女に奪われたらしい。
 注目すべきはその女の手口である。
 海賊相手に盗みを行える根性はもちろん、あらかじめスコールが起こるギリギリの場所・時間を選択できなければこの犯行は成立しない。温度・湿度・気圧・風向き・海流などのさまざまな情報を総合的に処理する必要がある。C.Eの技術でさえも天気予報の的中確立は100%には及ばないのだ。

「海を知り尽くしてるな、その女。航海士になってくれねえかなあ」
「そんなに正確に天候を予測できるのか・・・。しかしお前ら情けないなあ。海賊がそんなんでいいのか?」
「あいつ、絶対探し出してぶっ殺す!」
「それより宝をどうする」
「このまま帰ったらバギー船長になにされるか・・・」
「そのバギーってのは誰なんだ」
「ゾロ、お前賞金稼ぎだったクセに海賊の名前知らないのか」
「俺は賞金額しか見なかったからな。わざわざ名前なんか憶えねえ」
「二人ともホントに知らないんで? 俺たちの海賊船の頭で『道化のバギー』。『悪魔の実シリーズ』のある実を食った男でね、恐ろしい人なんだ」
「悪魔の実を?」

 悪魔の実。その言葉を聞いたとき、シンはなんだかいやな予感がした。なぜなら、自らやっかい事を拾って歩くような男であるルフィがその男がいる島に向って独走を続けているのである。

(何もなきゃいいんだけどなあ)

 心の中で呟きながら、どう考えてもそれが叶うわけないことをシンは確信してしまっていた。

 そしてこの状況である。
 数人の海賊達が女に襲い掛かろうとしていた。別に知人ではないが、シンとゾロは当然のように助けに入る。
 ルフィは仲間達の登場に歓声を上げるが、なぜだか檻の中にいる。
 島に到着した後、シンとゾロはとりあえずバギーのところに向うことにした。何か手がかりを得ることが出来るかもしれないと思ったからである。
 
「やーよかった。よくここがわかったなあ! 早くこっから出してくれ」
「なに遊んでんだ、ルフィ。鳥につれてかれて、見つけたと思ったら今度は檻の中か、アホ!」
「思ったとおりにしたって限度があるんだよ、バカ!」

 これで一安心とばかりに三人は言葉を交わすが、ゾロという名前に周りでざわめきが起こっている。
 ゾロがルフィとシンの仲間になったのはたかだか数日前の話であり、シェルズタウンの海兵たちがルフィたちのことを本部に連絡しないと言っていた以上、かの『海賊狩りのゾロ』が海賊の一味になっているという事実はまったく知られていない。それがある程度名の知られた海賊団の本陣に現れたとなれば、想像されることは一つである。
 その証拠に、一人の男がゾロに近づいてきた。ピエロを連想させるような風貌と他の雑魚たちとは一線を画す雰囲気が、そいつこそが『道化のバギー』であると物語っている。

「貴様、ロロノア・ゾロに間違いねえな。俺の首でもとりにきたか」
「いや、興味ねえな。俺はやめたんだ。海賊狩りは」
「俺は興味あるねえ。てめえを殺せば名が上がる。なんならそこの赤服もどうだ?」
「やめとけ。死ぬぜ」
「俺も同じだね」

 そう返したものの、シンは微妙な違和を感じていた。
 ゾロと自分の強さは対峙しているバギーも十分に理解できているはずだ。それが、これではまるで戦いたがっているようにすら思える。悪魔の実を食べているとしても、二人を同時に相手に出来るとは思えない。
 事実、襲い掛かってきたバギーのゾロは右腕、胴体、右太ももの三ヶ所、シンは左腕を切断し、簡単に返り討ちにしてしまった。
 ゾロはもちろん、ルフィも先ほど助けた少女ナミもバギーのあまりのあっけなさに驚くが、周りの海賊達はその光景を見て薄ら笑いすら浮かべている。

 その様子にシンの中で先ほどの違和が像を結び、ある可能性が脳裏をかすめる。
 その時、

 ザン!!

「!!」

 背後に気配を感じたシンはとっさに上体そらすが、短刀を持ったバギーの腕にわき腹を斬りつけられてしまう。
 目の前ではゾロも同じくバギーの腕に攻撃を受け、こちらは自分以上の傷を負ってしまっている。

「ゾロ、シン!?」
「なに、あの手!」

 予測すらしていなかった事態にルフィとナミが声を上げた。
 シンは傷口を押さえながら構えるが、ゾロはひざを突いたまま立ち上がることさえ出来ない。逆にバギーは斬られた部分が元に戻り、何もなかったように立ち上がっていた。

「ほう・・・赤服、よく俺の攻撃に反応できたな」
「あんたが悪魔の実を食ったってのは聞いてたからな。あとは周りの反応と出血していない切断面を見れば、生きてるかもしれないってくらい思いつくさ」
「ぶわっはっはっは! どうやらおめえも只者じゃねえらしい。その通り! 俺の食った悪魔の実の名はバラバラの実。俺は斬っても斬れないバラバラ人間なのさ!」
「ホント、何でもありだなこの世界・・・」

 時空間転移のすえに最初に出会った人間がゴム人間という経験をしていなければ、シンとてこんなことは考え付きすらしなかっただろう。なにが起こってもおかしくないという思いは元々の住人達よりも強いといえる。

「急所ははずしちまったか、ロロノア・ゾロ。だが相当な深手だ。勝負あったな!」 
 
 相手はノーダメージ、こちらは一人はほぼ戦闘不能、自分も浅い傷ではない。
 現時点において、シンは自分の中にブーストモードとでも言えるものがあることは理解しており、以前のように発動中であっても我を失わないように訓練も積んでいる(発動させると種が弾ける様なイメージが浮かぶため、シンはその現象を『SEED』と呼んでいる)。
 ただし、自然に発現する場合とは異なり、自分の意思で無理矢理発動させると神経にかなりの負担がかかるので、完全に使いこなせていると言うわけでもないのだ。進んで使いたいようなものではない。

 もちろん今この場で戦うことが出来そうなのが自分しかいない以上、そんなことは言っていられない。しかも、ルフィがバギーを怒らせてしまった。シンは覚悟を決めて、精神を集中させる。
 すると、

「逃げろ!! シン! ゾロ!」
「なに!?」
「ちょっ! せっかく助けに来てくれた仲間に逃げろって、あんたはどうするのよ!!」

 シンはゾロと顔を見合わせて、ルフィの方を見た。何も考えていないのか、また助けに来ると信じているのかよく分からないが、たしかにここはいったん退くのが良さそうである。

「「了解」」
「バカたれが、逃がすか!! バラバラ砲!」

 二人で下がろうとしたところに、バギーが追撃を加える。飛んでくる両腕をシンがはじき返すと、シンのナイフを見たバギーが表情を変えた。

「おい、赤服、それをどこで手に入れやがった」
「なんでそんなことあんたに言わなきゃならないんだ」
「そいつはてめえなんぞが持っていい代物じゃねえ。俺様が使ってやるからありがたく渡せ!」

 どうやらバギーはこのナイフの来歴を知っているようだ。もちろん、だからと言って渡せる訳がない。

「おい、シン! さっさと来い!」
「そいつを置いてけ!」
「断る!!」

 襲い掛かる両腕をなんとか防ぎながらシンが三人のところまで行くと、ゾロがルフィに向いていた大砲をひっくり返した。

 ドウン!!

「無理するなあ」
「今のうちだ・・・。ところでお前誰だ」
「私・・・泥棒よ」
「そいつはウチの航海士だ」
「お、仲間にしたのか」
「バッカじゃのないの、まだ言ってんの!? そんなこと言うひまあったら自分がそこから出る方法考えたら!?」
「いや問題ない。てめえは檻の中にいろ」

 ゾロが鉄格子を掴もうとするのをシンがさえぎる。何も言わないので、そのまま檻を持ち上げようとするが、わき腹の傷のせいで上手く力が入らない。出血もひどくなる。

「おい、シン、いいよ。血が吹き出るぞ」
「ゾロがやるよりはましだ! 仲間を置いてなんていけるか!」
「なんでそこまで・・・」

 深く息を吐いて集中し、SEEDを発動させると、今度は一気に檻を持ち上げて肩に担いだ。

「いくぞ」

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