なのはクロスSEED_最終話3

Last-modified: 2012-01-29 (日) 21:44:59

 膨大な魔力と魔力のぶつかり合い。
 飛散する互いの魔力の欠片が幾つもの色を彩り、眩くちらつかせる。
 一瞬も気が抜くことのできない絶対的な状況の中、キラはただひたすらに目の前の駆動炉へとスターライトブレイカーを撃ち続ける。
 均衡した競り合いの中、互いに引かない状況が続いていた――が、

ピ、キィッ!!!

「!!!?」

 それはキラの耳にも届くほどの不協和音。
 そのオトの原因――それは握りしめているデバイス、ストライクのシュベルトゲベールに亀裂が入ったオト。

「ストライク!!?」
『も、うしわけ……あり、ません』

 脳内に響く声も、いつものはっきりした声ではなく、途切れ途切れの音声。
 音声を発する事すらまともに出来ない程にストライクは消費していた。
 膨大な魔力量の需要-バースト-と供給-チャージ-。
 それはストライクの許容魔力の限界を遥かに超えていた。
 だが、それを知っていて尚、マスターであるキラに答えられるよう全力を尽くしていた。しかし――
 入った亀裂が徐々に広がり、シュベルトゲベールの原型が崩壊していく。

「ごめん……ストライク……」

 最初から無茶だとわかっていた。
 最初から無謀だとわかっていた。
 最初から分の悪い賭けに出ているとわかっていた。
 でも、最後の最後まで諦めたくなかった。
 それはあの子に、なのはに教えてもらったコト。
 でも、今度は本当にダメなのかな――――そう諦めかけていた。

――アースラ・メインブリッジ

 アースラへと帰還した面々は、キラと駆動炉の一進一退極まる攻防を見つめていた。
 膨大な魔力同士のぶつかり合い、それをただモニターごしでしか見られないコトに歯がゆさを感じていた。
 そんな中、異変は起こる。
 キラの持つシュベルトゲベールに亀裂が入った。
 オトが艦内に響き渡り、管制官のディスプレイにも異変が起きた。

「ストライクのメインコアに異常!魔力値徐々に減少中!!」
『!!!!』

 オペレーターの発した声に一番に動き出したのがなのはだった。
 振り返り、ワープゲートへと走り出す。

「なのは!!」「待つんだ!!」

 同時に声を発したユーノとクロノ。だが、それでもなのはは走ることをやめなかった。

「時の庭園へ戻して下さい!!」
「許可できない!!」
「どうして!!?」
「危険すぎる!!ここにいる僕らも危険なんだぞ!!」
「でも!!キラ君が!!!」
「そんなことわかっている!!」
「だったら!!」
「わかっているさ!!!」

ダンッ!!!

 握り締めた拳を壁に叩きつけるクロノ、それにたじろぐなのは。
 
「わかって、いる…」

 あの時、キラを残す判断を下したのは自分だと。
 あの場で、全員を指揮する立場にあったのは自分自身だと。
 今の現状を作り出した責任が、自分自身にあると。
 クロノ・ハラオウン執務官が下した判断だと。

「クロノ、くん……」
「クロノ……」
 
 静まりかえる艦内。突然のクロノの行動に誰もが驚きを隠せないのだろう。
 いつもは冷静沈着な執務官殿が、そういった感情に任せた行動を見せたのだから。
 そんな中、フェイトだけはモニターのある異変に気がついた。

「あ…………!!!」

 口から零れたこの言葉に気づく者は誰もいなかった。
 そのモニターに映る一つの異変。彼女の瞳に映る"ソレ"は、ゆっくりと動き出した。
 

 
 ――――もう、ここまでなのかな

 ――――"まだ、だよ"

 ――――え?

 ――――"まだ、諦めるには早いよ”

 ――――でも、もう僕には

 ――――"だって、ほら"

 
「――――諦めるな」『Power sending.』

 ――――"僕は、一人じゃない。"

 僕は、夢を見ているのだろうか。
 もうダメだ、もう限界だ、目の前の絶望に負けそうになった瞬間。
 崩れ落ちそうになった僕の身体を、一つの手が支えてくれた。
 ボロボロで、傷まみれで、でも、だけど、昔からよく知っている手だった。
 そして、声が聞こえた。

 彼の、アスラン・ザラの声が。
 
『Recovery.』
 
 シュベルトゲベールを覆う紅と蒼の光が全身の亀裂を修復していく。
 そして、剣を持つ手がもう一つの手と重なる。

「――ア、スラン」
「――まだ、終わってない」 

 アスランの行動が理解できなかった。
 でも、それでもキラはただ、ただ嬉しさが込み上げていた。
 それは、絶望から這い上がった瞬間。
 手を差し伸べてくれたのは、かけがいのない親友。
 これほどまでに嬉しいことはない。

「―――――うん!」

 声と共にキラの表情に笑みが浮かぶ。
 先程までの顔とはまるで別人のように輝いていた。
 手に込める力が増し――そして、

「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」

 二人の咆哮が反響する中、魔力の激流の均衡が崩れ、

 紅と蒼の奔流が、時の庭園を飲み込んでいった――。

 ――僕は、帰るんだ。

 ――そう、あの子と約束したんだ。

 ――もう、約束を破りたくないんだ

 ――だから、

 ――僕、は

 眩いばかりの輝きがブリッジのメインモニターを包みこみ、
 それを眺めていた全員が目をしかめる。
 そして輝きが収縮していき、映っているのは硝煙のみであった。

 ――――――……なら

「え……?」

 微かに、でも確かになのはの耳には聞こえた。
 それは、掠れそうな程小さな声だったけど、でも確かに聞こえた。
 あれは、あの声は……

「オペレーター! キラとアスランは!?」
「現在、魔力反応を散策中!」

 でも――だって

「散策、完りょ……」
「どうしたの!?」 

 約束――したのに

「散策……完了……キラ・ヤマト、アスラン・ザラ……」

 
 どうして、"さよなら"なの?

「魔力反応、完全にロストしました…………」

 ――――キラ、君……