なのはクロスSEED_番外編3

Last-modified: 2008-03-15 (土) 18:38:27

――3/14、AM6:50。

 

いつものように翠屋の開店準備をしていたキラ。
出入口の前の道を掃除していた時にふと名前を呼ばれて中へと入る。
そして中に入るとそこにはキラを呼んだ本人、高町恭也が待っていた。
「何ですか? 恭也さん」
「……キラ、今日が何の日か知ってるか」
何やら神妙な面持ちで話しかけてくる恭也。
「ええと……何かありましたっけ?」
思い出してみても本当に心当たりが見当たらないキラは聞き返す。
「……今日は3月14日、ホワイトデーだ」
「……ホワイトデー?」
――白い日?
直訳してみるが訳がわからないキラ。
「先月、2月14日がバレンタインデーだっただろ、そのお返しをするのが今日、ホワイトデーなんだ」
「……お返し?」
「ああ、と言う訳で俺は今から全速力で買いに走ってくる」
……忘れてたんですね、恭也さん。
という言葉を脳内で再生させるが、思い返してみるとキラにとっても無関係ではなかった。
(……そういえば、僕も)
先月なのはにもらったチョコレートを思い出す。
(……僕も何かお返しをしないと……そうだ、恭也さんに聞いてみよう)
その意見を聞こうとして恭也へと振り返る。が、
「……いないっ!?」
すでに恭也の姿は無く、忽然と姿を消していた。
「あれ?キラ君、恭也知らない?」
そして後ろから聞こえてくる女性の声。
振り返るとそこにいたのは恭也の彼女、月村忍さんだった。
「えと……さっきまでそこにいたんですが……」
「ふぅ~ん……」
あ、何か空気が変わった。
何か嫌な予感がしたキラはとりあえずこの場から逃げようとし、
箒と塵取りをもってそそくさと道へと戻っていった。

 

――同刻、マンションの一室。

 

「……ホワイトデー」
「ん?どうしたのフェイト?」
ふとテレビを見ていたフェイトが漏らした一言に反応するアルフ。
「……ううん、なんでもない」
ホワイトデー……バレンタインデーのお返しがもらえる日だという。
だけど……。
じーっと椅子に座って雑誌を読んでいるアスランへと視線を注ぐフェイト。
「……ん?どうした、フェイト」
「……なんでもない」
「?」
彼は気付いていないだろうが、実は2/14にチョコ入りのココアを渡している。
だが、それは正式にちゃんと渡しているわけではないので、お返しなんて期待は出来ない。
(……何考えてるんだろ、私)
頭を振り払い、視線をテレビへと戻す。
「……少し出かけてくる、反応があったらすぐにかけつけるから」
そういい椅子から立ち上がるアスラン。
「わかった、いってらっしゃい」
「いってらっしゃ~い」
そして振り返る事なく扉の向こうへと消えていった。

 

――PM7:50、高町家。

 

翠屋の営業が終了し、高町家へと帰宅した面々。
そして、全員で食卓を囲み、夕食が終わった後にそれぞれのやりたい事へと赴く。
あれから恭也さんの姿は結局見ていないけど……まぁ、問題ないよね。
とりあえずタイミングを見計らって、声をかける。
「なのはちゃん」
呼ばれた本人、なのはは皿を戻してこちらへと向き直る。
「何? キラ君」
テコテコと歩いて近寄ってくる。
「ちょっといいかな?」
「?」

 

――数分後。

 

なのはの部屋から出てくるキラ。
「お待たせ、ごめんね、急にパソコン借りちゃって……」
「ううん、別に問題ないよーでもどうしたの?いきなり借りたいなんて……」
「ちょっと、ね」
「?」
「じゃ、おやすみ。なのはちゃん」
「おやすみ~」
それぞれの部屋へ戻っていった二人。

 

――PM11:20、マンションの一室。

 

予定より遅くになってしまったが帰宅したアスラン。
今日は特にジュエルシードの反応もなかったのでゆっくりと買い物が出来た。
「ただいま……」
扉を開き、明かりのついているリビングへと足を運ぶが、
そこにはテーブルで寝ているフェイトの姿があった。
そしてテーブルには一人分の食事が置いてあった。
「これは……」
言うまでも無く、アスランの分だろう。
フェイトはずっとアスランが帰って来るのを待っていたのだろう。
その気持ちを察したのか、アスランは微笑みをこぼす。
「……ありがとう」
寝ているフェイトを起こさないように抱きかかえ寝室のベッドへと運び、扉を閉める。
そして遅めの食事を取った後、自室に戻りさげていた袋を開く。
「さて、さっさと仕上げてしまうか……」

 

――翌日、AM6:00、高町家・なのはの部屋。

 

携帯のサウンドが決まった時間にアラームを鳴らし、目覚ましの役割をしていた。
だが、なのははそれを取ってすぐに消し布団へとまた潜り込む。
そしてまた意識が遠のいていきそうになり……

 

『トリィ!!』

 

「ふえっ!!?」
どこからか聞こえた声に驚いて飛び起きるなのは。
同じ様に籠から起きるユーノ。
見渡してみると、周りには誰もいない。だが、一つ変化があった。
「……パソコン?」
パソコンの電源がONになっているのだ。
そして画面の中を自由に飛び回る緑色の鳥。
「これが……さっきの声の正体?」
『トリィ!』
「……みたい、だね」
スピーカーから聞こえてくる機械的な声を聞き、確証を得る二人。
「でもこれって……」
コンコンとノックされる扉。
『なのはちゃん?僕だけど、もうすぐ朝練習の時間だよ』
向こうから聞こえてきたのはキラの声。
「あ、キラ君、ちょっといい?」
ガチャと扉を開き、中へと入るキラ。
「何?」
「これって……」
そういいパソコンのディスプレイを指差すなのは。
「ああ、ちゃんと動いたんだね。よかった」
「……やっぱりキラ君の仕業だったんだ」
「うん、だって最近のなのはちゃん時間になっても起きて来ないから、ちょっと変わった目覚ましでもしてみようかなって。
 中身は単純なプログラムだから簡単に作っておいたんだ」
そういいキーボードを叩き設定画面を映し出す。
「これで色々設定できるから、よかったら試してみて」
「それはいいんだけど……キラ君」
「?」
「そういうのは早く言ってよ~! 凄く驚いたんだから~!!」
ぽかぽか叩いてくるなのは。
「あ、ごめんごめん、驚かそうと思ってさ。……あ、後……」
ポンとなのはの手に乗せられる一つの包み。
「昨日、桃子さんに教わってクッキー焼いてみたんだけど……どうかな?」
「え?わ、私に?」
「うん、バレンタインデーにチョコレート貰ったから、ホワイトデーにそのお返しをするんだよね?」
「あ、ありがとう、キラ君」
「よかった、ホワイトデーのお返し、ちゃんと出来て……それじゃ僕は下で待ってるから」
「うん、ありがとう、キラ君」
「どういたしまして」
言葉と共にバタンと閉まる扉。

 

――そして、今日の訓練はいつもより張り切るなのはだった。

 

――同刻、マンションの一室。

 

「う、ん……」
特に時間という概念に縛られている生活ではないが、庭園にいた頃の生活習慣で意識が覚醒したフェイト。
「あれ……私……」
寝ぼけた頭で昨日の事を思い出そうとするが、リビングのテーブルでアスランを待っていた所までしか記憶に無かった。
なのに、なぜ自分はここにいるのか。その答えは必然的だった。
そして一言アスランにお礼を言おうと思い、アスランの部屋へと足を運ぶ。
コンコンとノックをしてみるが、反応は無い。
「まだ寝てるのかな……」
いつもなら自分より早く起きていたアスランが珍しい。
特に急いでいる訳でもないので、起こすのも悪いと思い部屋を後にしたフェイト。
自室の扉を開こうとした、瞬間。

 

「あ~~~~!! 何なんだよこいつ~~~~~~!!!」

 

中から聞こえてるのはアルフの絶叫だった。
そして扉を開き、フェイトが目にした光景。
それはアルフが黄色い球体と部屋中を追い掛け回していた。
「アルフ……何、それ?」
「あ、フェイト!アタシにも何だか解んないんだけど!!あ~~も~~逃げるなぁっ!!」
『ハロ、ハロ、ジカン、ジカン!』
捕まえようとするアルフの手を回避するその球体はフェイトの足元へと転がっていく。
そしてそれをひょいっと掴みあげるフェイト。
「……えと、これ……何?」
疑問の色ばかりが浮かび上がるフェイトとアルフ。
「……あ、ちゃんと動いているな」
そして背後から聞こえてくる声、アスラン・ザラだった。
「アスラン、これ何か知ってるの?」
「……知ってるも何も、これは俺が昨日作った目覚まし時計だ」
「「目覚まし時計?」」
その言葉に驚く二人。
「ああ、時間が来たら声で起こすようにしてあるんだ。しかもセンサー内臓だから捕まえるのも困難だぞ」
「「……」」
何でそんなものを……と思う二人。
「まぁ、もしよかったら使ってくれ」
「……これ、貰っていいの?」
「ああ、その為に昨日作ったんだからな……ふぁ~あ」
あくびをしながら自室へと戻っていくアスラン。
「あ、ありがとう、アスラン」
「……喜んで貰えたのなら、良かったよ」
「え?」
アスランが見たもの、それはフェイトの笑顔だったのだ。
それが見れただけで、彼は満足していた。
「これで……ゆっくり眠れる……」
そしてベッドへと沈みこみ、意識が消えていった。

 

――数時間後、アスランはアルフのいたずらで見事に自らが作った目覚まし時計で起こされたそうな。