なのはクロスSEED_短編

Last-modified: 2008-03-17 (月) 23:40:57

※このお話は以前に投下した『Anniverasary』の前になります。
 もし宜しければこの話の後に読んでみてくださいませ。

 

誕生日。
それはこの世に生を受けたその人にだけの特別な日。
そして、ここ時空管理局・機動六課にも一人、誕生日を明日に迎えた人がいた。

 

「……はぁ」

 

デスクにて一人ため息をつくのは、スターズ分隊隊長・高町なのは一等空尉。
そう、明日3月15日は彼女の誕生日である。
だが、現在の機動六課の状況は多忙だった。
先日のジェイル・スカリエッティ事件の傷跡は未だに残っており、
機動六課の面々もその復興作業に駆り出されていた。
なのはのその一例に漏れる事はなかったのだが、今日だけは違っていた。

 

「最近、忙しすぎてヴィヴィオに構ってあげてないでしょ?
 だから、今日はデスクにいて午後からは一緒にいてあげて」

 

と、友人であるフェイトに言われたのが今朝の出来事。
そして提出する書類等を全て仕上げ終わり、本日のデスクワークは終了した。

 

「……よし、それじゃこれを……あれ?」

 

送信しようとキーを押すが、なぜか眼前のディスプレイに浮かび上がる文字は『ERROR』だった。

 

「あれ? あれ? あれれ??」

 

やり直そうと何度試してみても送信できない。
困惑した表情を浮かべ、あたふたするなのは。
そんなオフィスの扉が開き、誰かが入ってきたが、
そんな事を気に掛けている余裕は今のなのはには無かった。

 

「どうしたの?」

 

そんななのはに声を掛ける一人の男性。

 

「あ、キラ君。それがその……」

 

キラはなのはの後ろからひょいっとディスプレイを覗き込む。

 

「ちょっといい?」
「あ、うん」

 

なのはの後ろから両手を出し、コンソールを叩き始める。
段々と目にも止まらぬ速さで叩き、複数のプラウザを表示しチェックしていく。

 

(…………)

 

そんなキラを見つめるなのはの視線。

 

――いつからだっただろうか、彼を見ていたのは。

 

部署も全然違う二人だったが、ある事件で一緒になりそれ以降も何度か一緒になった。
年も近く人柄的にも二人は仲良くなっていった。
そして今回の機動六課の設立により、二人は同じ部隊に配属となった。
分隊も同じで何かとキラに助けられる事も多くなり、信頼関係は深まっていき、
いつしかなのはの中での気持ちは変わっていった。

 

――キラ君は、私の事どう想っているのかな……。

 

「うーん……この端末のメインシステムのネットワークがエラー吐いてるね……」

 

――嫌われてはないと思うけど……でも……。

 

「一旦僕の端末にデータを転送してから送信した方が早いかな。それじゃこのデータを外部メモリに……」

 

――キラ君って、好きな人いるのかな……?

 

「転送完了っと……それじゃ僕の端末から送信しておくね」

 

――もし、いたら……どんな人なのかな……?

 

「それでいい? なのは……なのは?」

 

名前を呼んでみるが返事が無いなのはへと視線を向けるキラ。
そして気付くなのはの視線。
じっと見つめるそのまなざしに心が揺れ動くキラ。

 

(ど、どうしたんだろう……)

 

だが、見られ続けてると次第に恥ずかしさが増してくる。
押し黙ってしまったが、再度開口する。

 

「な、なのは……?」
「……ふぇ?」

 

ようやくキラが呼んでいる事に気付いたのか、どこか抜けたような返事を返すなのは。

 

「あ、あの……このデータ、僕の端末から送信しておくね……」
「え……あ、う、うん、お願い……」

 

気恥ずかしさからなのはから離れて自分のデスクへと戻っていくキラ。
そしてデスクから立ち上がるなのは。

 

「それじゃ、私は部屋に戻るね」
「あ、うん。お疲れ、なのは」

 

そしてオフィスから出ていくなのは。

 

「……なのは……」

 

そんな彼女の名前を呟くキラ。
キラ自身、彼女に対しては特別な感情を抱いていたのは理解していた。
一緒に仕事をする同僚、仲間、友達。
最初はそうだった。だけど、彼女の強さ、弱さ、そういった事全てを知った時には、

 

――キラ・ヤマトは高町なのはに心を奪われていたのだ――

 

ピピッ、ピピッ。
「ん?」
通信が入ったようなのでキーを叩く。
ディスプレイに映るその人は、ライトニング分隊隊長、フェイト・T・ハラオウンだった。

 

「どうしたの?フェイト」
『あ、キラ。今そこになのはいる? 端末に連絡したんだけど出ないから……』
「いや、さっき終わって部屋に戻っていったけど……」
『そうなんだ……あ、キラは今日のプレゼントとかって用意してる?』
「プレゼント?」
『あれ? 今日ってなのはの誕生日なんだけど……』
「……え?」

 

フェイトの言葉にフリーズするキラ。

 

『あれ?もしかして……知らなかった?』
コクコクと首を縦に振る。
『一応今日は六課のみんなでこっそりパーティーやろうと思うんだけど……』

 

それからのフェイトの言葉をキラの耳には聞こえていなかった。

 

――夕刻。

 

ヴィヴィオと夕食を食べようと思ったなのはだったが、突然フェイトから連絡が入って
『あ、なのは、夕食の前にロビーに来てくれない?』
と言われたのでヴィヴィオと共に廊下を歩くなのは。

 

「どうしたんだろ、フェイトちゃん」
「フェイトママ、どうしたの?」
「う~ん……なのはママにもわからないや」

 

そして一階の正面ロビーへと辿りつくと……

 

パンッ、パパパンッ!!

 

「へ?」「ふぇっ?」

 

「高町なのは(さん)お誕生日おめでとうございまーすっ!!!!」

 

パチパチパチパチ…………!!

 

そこには大きく"誕生日おめでとう、なのは"と書かれた看板と
中央に置かれたテーブルの上にあるバースデーケーキと料理。
そして、機動六課の面々がクラッカーを片手に拍手をしていた。

 

「み、みんな……」

 

そして六課の面々からお祝いの言葉とプレゼントを貰った。
だが、一つ気になる事があった。

 

「あれ……?」
「どうしたの? なのはママ」

 

皿に盛ってあるケーキを片手に周りを見渡すなのは。

 

「…………キラ君は…………?」

 

その言葉が発せられた瞬間、場の雰囲気が凍った。

 

「あ、その……えっと……」
言葉に詰まるフェイト。それを遮るように前に出るアスラン。
「それが……連絡はしたんだが……」
言いよどむが、結論的には『ここにはいない』という事なのだろう。

 

「…………そっか」

 

言葉以上に表情が一瞬暗くなるなのはだったが、すぐに笑顔を作るなのは。

 

「みんな……本当に、ありがとう……!!」

 

笑顔でお礼を言うなのはだが、その言葉の奥に隠された悲しみに気付いたのは、数人だけだろう。

 

そして、夜は更けていく…………。

 

――深夜。

 

パーティーもお開きとなり、時間は既にかなり遅くなっていた。
結局、キラはパーティーに来る事は無かった。
それだけが、なのはの心に深く残っていた。

 

(……来て、くれなかったなぁ……)

 

一番祝って欲しい人に、一番祝って欲しい時にいない。

 

あと数時間でなのはの誕生日が終わりを告げる。

 

(……もう、寝よう……明日もあるし……)

 

その前に用を足そうとして部屋を後にするなのは。
そして、用事を済ませた後化粧室から出てきて聞こえる音。

 

タッタッタッタッ……!!

 

階段の方から聞こえてくるその音は徐々に大きくなりこちらへと近付いてくるのが分かる。

 

(こんな時間に……誰……?)

 

身構えるなのは。そして目の前にまで近付いたその足音は止まる。
その人影が月明かりに照らされて、影を侵食して姿を現す。

 

「…………キラ、君?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………な、なのは……」

 

息を切らし、肩で息をするその人影は、キラ・ヤマトだった。

 

――一階・ロビー。

 

「はい」
「あ、ありがとう」

 

なのはから差し出された水を飲み干すキラ。

 

「ふぅ……」
ようやく身体が落ち着いたのか、大きく息を吐くキラ。
「なのは……ごめんね……」
「え?」

 

いきなりの謝罪の言葉に驚くなのは。

 

「……誕生日パーティーに参加できなくて……本当にごめん……」
「あ……!」

 

――覚えててくれたんだ……。

 

てっきり忘れられているものとばかり思っていたなのはだったが、
キラがその事について謝ってくれた事、そして気にしてくれていた事に少し喜びを感じる。

 

「……ううん、気にしないで……」

 

――嘘だ。本当は君に祝って欲しかった。
――誰でもない、君に祝って欲しかった。

 

「……まだ、今日は終わってない……よね……」

 

壁にある時計を見るキラ。
ポケットを探り、その手に"何か"を掴む。
そして、意を決したように目を瞑り、再度開く。

 

「…………なのは」

 

椅子から立ち上がり、なのはの正面に立つキラ。
そしてその手に握った"それ"を正面に差し出す。

 

「……今更かもしれないけど、これ……誕生日プレゼント……」

 

「…………え?」

 

キラの差し出した手の平に乗っている小さな箱のようなもの。

 

「ダメ、かな……?」

 

だが、そんなキラの言葉に返答する前にその箱をキラの掌から受け取り、箱を開ける。

 

「うわぁ……!!」

 

その箱の中に入っていたのは一つの指輪。
中心に赤い球体の宝石がついたその指輪をみて驚きの声を出すなのは。

 

「ありがとう……キラ君……!」

 

そして早速指輪をはめようとするなのはだった。だが、

 

「……かして」

 

突然のキラの申し出に驚くなのはだったが、言うとおりに指輪をキラに渡す。
そしてキラはなのはの左手を持って指輪をはめる。

 

その指輪を嬉しそうに眺めるなのは。それを見てキラも嬉しくなった。

 

(よかった……)

 

でも、なのはは気付いてくれただろうか。
キラがはめたのは、なのはの"左手の薬指"だという事の意味に。

 

(……僕は……)

 

打ち明けたい。今なら言えるんじゃないか?
二人きりの空間。今後滅多にあるもんじゃない。
いやもしかしたらもう二度と無いかも知れない。

 

(…………よし)

 

「……な、なのは」
「?」
呼ばれて振り返るなのはへと視線を向けて見詰め合う二人。

 

沈黙の中、開口するキラ。

 

「……僕、なのはの事が……!!」

 

ピピッ、ピピッ!!

 

強制的に介入した通信、突然ディスプレイが開き、そこに映るのはアスランだった。

 

『キラ!こんな時間までどこにいるんだ!!明日は朝一で本局入りなんだぞ!早く帰って来い!!』

 

用件だけを怒鳴りつけ回線を切るアスラン。
そして再び訪れる沈黙。

 

「…………くすっ」

 

そんな沈黙を破るなのはの微笑。

 

「……アスラン」
「怒られちゃったね」
「……だね」
はぁと肩を落とすキラ。椅子から立ち上がりトボトボと玄関へと歩いていく。

 

「……キラ君!」

 

呼ばれて振り返るキラ。

 

「…………ありがとう!!」

 

満面の笑みで答えるなのは。
それが見られただけでも良しとするか。と自己完結して帰っていくキラ。

 

――翌日。

 

満面の笑みで訓練するなのはの左手の薬指の指輪に気付いた面々だったが、
あえて触れる事はなかった。

 

そして、横の訓練場では……。

 

会議終了後にキラに「ちょっと訓練していかない?」
と誘われたアスランだったが、開始直後にバインドを何重にも掛けられていた。

 

「お、おいキラ!!」
「……リミッター解除、ストライクフリーダム、ドラグーン発動」
『OK. DRAGOON system standby ready.』

 

背中のウイングがアスランを取り囲む。

 

「……大丈夫だよ、アスラン」
「な、何が……?」
「非殺傷設定だから」

 

――――だから、遠慮なく行くよ?―――― 

 

そんな親友の声が聞こえたアスランは顔が青ざめていった。

 

「フルパワー!! ハイマット・ドラグーン・フルバーストォォォォォォォッ!!!!!」

 

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

訓練場が、蒼い光で包まれていったある日の午後でした。