なのはクロスSEED_第01話

Last-modified: 2008-02-14 (木) 22:13:10

「う・・・。」
アスラン・ザラは体に走る痛みで意識が戻った。
「ここ・・・は・・・?」
その目を開いた天井は今までで見た事もない天井だった。
「・・・俺は・・・。」
頭に走る痛みを抑えながら記憶を辿る。ニコルの死、キラとの死闘、イージスの自爆。
自爆の際、脱出する事が出来ず、そのまま死ぬつもりだったのだが・・・。
「どうやら、まだ死んでないのか・・・。」
体中の痛みが今自分が生きている事を実感させられる。
「・・・キラ。」
ぼそりと呟くかつての友の名。
だが、それも昔の話。今はあいつは地球軍、俺はザフトで、敵だ。と・・・。
そして、友を殺され、そのキラも自身の手で討った。その現実を噛み締めると、目頭が熱くなってきた。
「・・・なんで・・・こうなっちまったんだ・・・。」
その言葉に返答出来る者など、いる筈も無い。

 
 
 

時が経つに連れ、段々冷静になって考える。
「そういえば・・・ここはどこなんだ?」
体を動かしたいが、体中に走る痛みのせいでまともに体を起こす事すら出来ない。
薄暗い部屋で自分の姿を確認すると所々に包帯が巻かれていて、隣のテーブルには薬やら血まみれの包帯が置いてあった。
(誰かが・・・助けてくれたのか。)
だが、あんな所を一体誰が助けてくれたんだろうか?そうアスランが自問自答していると、ドアが開く。
「あ・・・。」
入ってきたのは、金髪の少女。
年齢は10歳くらいであろうか。金髪をツインテールでまとめてある。
その少女はアスランを見て驚くように声を出した。
「目が覚めたんですか?」
「え、あ、ああ。」
両手に抱えた包帯と薬をテーブルの上に置いて、不要な物を捨てる。
「えと、君が、俺を助けてくれたのか?」
「あ、はい。」
「そうか・・・ありがとう。」
「あ、いえ・・・。」
礼を言われた女の子は少し顔が赤くなった。
「それで、ここはどこなのかな?」
「ここ、ですか?」
「うん、もしかしてここはオーブかい?」
「おーぶ?」
まだこのくらいの年齢の子供には地理はあまり詳しくはないか。と考えたアスランは違う質問をすることにした。
「えと、お父さんやお母さんは?」
その質問を受けた瞬間、少女が体を震わせた。それを見たアスランはしまったと思った。
(もしかしたら、この子は戦争で親を亡くしたんだろうか?)そう考えたのだが、
「えと・・・母さんが。」
「あ、お母さんがいるのか。」
「はい・・・。」
「それじゃ、お母さんを呼んできてくれないか?お礼が言いたいんだ。」
「あ、はい・・・わかりました。」
返事をするとそそくさと部屋を出て行った女の子。しかし、疑問が残る。
どうして、両親の事を聞くと震えたのだろうか?そう考えているとアスランはある事に気付いた。
「あ、名前・・・聞くのを忘れた・・・。」

 
 
 
 
 

同刻、海鳴市の病院にて。
「う・・・。」
キラ・ヤマトは意識を取り戻した。
「ここ、は・・・?」
目を開いて辺りを見渡すと、ここは病院なのだろうと思った。
「僕は・・・。」
なぜこんなところにいるのだろうか?
痛む頭を抑え、記憶を蘇らせようとする。アスランとの死闘、トールの死、そして突然のイージスの自爆。
とっさのことに何の対応も出来なかったキラはストライクのコクピットの中で自爆の光を見た。
そこまでの記憶はある。だが、そこから先が思い出せない。
「・・・・・・。」
見知らぬ天井を見ながら、記憶の中の光景を思い出す。
討ってしまった敵。親友に殺された友。そして敵になった親友との殺し合い。
「・・・アスラン。」
かつての親友の名前を呟き、過去の楽しかった日々を回想する。
「・・・僕達・・・なんでこうなっちゃったのかな・・・?」
誰もいない病室にその声はただ空しく響く。そしてキラの目にはいつのまにか涙が溢れていた。

 

コンコンとドアが向こう側からノックされた。
「?」
誰だろうと思い、体を起こそうとするが、
「ぐっ!!?」
思いの他重症らしく体が起き上がらなかった。
「失礼しま~す・・・。」
そう言って入ってきたのは一人の女の子。
茶色の髪を両端に小さく括ってある。年齢的には10歳ぐらいだろうか。
「・・・えと。」
キラは思いも寄らない人物が入ってきて戸惑ってしまった。
「・・・え?」
女の子はキラを見て驚愕の表情を浮かべる。
「目が覚めたんですか?」
「え・・・う、うん。」
「よかった・・・もう5日も目を覚まさないからもうダメかと・・・。」
「5日・・・そんなに・・・。」
「あの、私、先生呼んできます!」
「あ、あの・・・。」
キラの言葉も聞こえず、女の子は部屋から出て行ってしまった。多分、医者を呼びに言ったのであろう。
「あの子・・・ここの病院の子なのかな・・・。」
まさか自分があの子に助けられたとは露ほどにも思ってはいないだろう。
キラがその事実を知るのはこのすぐ後であり、そして自分自身の置かれた状況を知る事となる。

 
 

「・・・そんな・・・。」
キラは愕然とした。目の前の医者の言葉が信じられなかったのである。
「・・・何度も言うが、ここはオーブなんて国じゃない。日本だ。それにオーブなんて国はない。プラント?ザフト?戦争?
 この平和な世の中で何を言っているんだ、君は。」
「そんな・・・。」
自分は過去にでもタイムスリップしてしまったのだろうか?
なら質問はもう一つある。
「今は・・・何年ですか?」
「今かね・・・新暦0065年だよ。」
「新、暦?コズミック・イラじゃないんですか!?」
「コズミック・イラ?何を言っているんだ・・・君は?」
「そん、な・・・・・・。」
キラは絶望した。
そして今自分の置かれている状況を認めざるを得なくなってしまった。

 

自分が今いるこの世界は、今までいた世界とは別の世界なんだ。と。

 
 
 

「・・・・・・。」
キラは病室で見慣れない天井を見上げていた。
(ここが死後の世界とか、そんなのだったらよかったのに。)
でも、自分は今、ここに生きている。
足もある、心臓も動いている。体の痛みもちゃんと感じられる。全てにおいて、生を感じる事が出来る。
(ここで・・・生きていくしかないのか・・・。)
だが、どうやって?身寄りもない、知り合いも友達も何も無い。
それどころか、自分が知っている当たり前の知識すら怪しいものである。
孤独。
キラはこの世界で誰にも無い孤独を抱えていた。
そう考えると、もう全てがどうでもよくなってきた。
(もう、僕なんて・・・生きていたってしょうがない・・・。)
コンコンとドアがノックされた。
「・・・どうぞ。」
力なく返事をするキラ。するとドアの向こうから入ってきたのは、
「あの・・・。」
さっきの女の子だった。
おそるおそる中に入ってくる。
(そういえばさっきの医者はこの子が僕を助けてくれたって言ってよな・・・。)
「君・・・。」
「ふぇっ?は、はいっ!」
急に畏まる女の子。
その動作が妙に可笑しくて、キラはぷっと笑ってしまった。
「え、えと・・・?」
女の子は訳がわからず混乱している。
「あ、ごめんね。えと、君が僕を助けてくれたの?。」
「え、は、はい・・・公園で倒れてるのを見つけて救急車を呼んで・・・。」
(公園・・・。)
自分は気を失うまではストライクのコクピットにいたはずなのに、どうして公園なんかにいたんだ?
「えと、何であんな所で倒れてたんですか?」

 

「・・・わからないんだ。」
「えっ。」
「僕は・・・どうしてあんなところにいたのか。全然覚えてないんだ。」
「それって、まさか、記憶喪失・・・。」
それは違う。だけど、この世界においてキラの記憶などあってもなくても何も変わらない。
それ程にこの世界は違いすぎるのだ。
ましてや自分はさっきまでの世界で戦争をして殺し合いをしてたと言っても、誰も信じてはくれない。
「・・・僕は・・・。」
今自分がこの世界で唯一意味を持つもの、それは
「キラ・ヤマト・・・。」
「・・・きら・やまと?」
「ああ、僕の名前だよ。それしか・・・。」
それしか、この世界では何の意味も持たないのである。
「・・・えと、あの・・・。」
女の子は黙って俯いてしまった。そしてキラは女の子に言うべき言葉を思い出す。
「・・・ありがとう。」
「えっ?」
女の子は驚いて顔を上げる。
「僕を、助けてくれて、ありがとう。」
それは事実であり、それがこの子に言うべき言葉であるとキラは思った。
「い、いえ、そんな・・・。」
礼を言われて女の子は顔を赤らめた。
「あと、もう一つ聞いていいかな。」
「あ、はい。」
「君の、名前は?」
「えと、私の名前は、高町、高町なのはです。」

 

数分後、なのははキラの病室から退室した。
(ふぅ、ちょっと緊張しちゃった。)
胸を撫でて心を落ち着かせる。
なのはは自分の名前をキラに言うと彼は微笑みながら「ごめん、ちょっと一人で考えたい事があるんだ。」
と言ったので、自分は出て行ったということである。
だが、なのはが気になったのはその言葉ではなく、その表情にあった。
(あの人・・・どうしてあんな悲しそうな瞳なんだろう。)
そう、なのはが気になったのはキラの瞳であった。
今まで色んな人の瞳を見てきたが、あんなに悲しそうな瞳を見たのは初めてだった。
(・・・気にしてても仕方ない。また明日来た時に聞いてみよう。)
そして病室を後にしようとしたその時。
「・・・・・・っ・・・・・・っ」
何かがなのはの耳に聞こえた。
それがキラの病室からであると気付いたなのははこっそりと聞き耳を立てた。
「・・・うっ、くっ・・・ううっ・・・・・・。」
キラは病室の中で一人泣いていた。
先程はなのはがいる手前、泣くのを我慢していのだろうが、いなくなると同時に押さえ切れなくなったのであろう。
そしてなのはは静かに病室を後にした。

 
 

帰宅したなのはは自分の部屋へと入る。
(お帰り、なのは)
帰宅したなのはに気付いたユーノが起き上がる。
(ただいま、ユーノ君。)
(今日も病院行って来たの?)
(うん、あ、そうそうあの人意識が戻ったよ。)
(そうなんだ。それでちょっと気になる事があるんだけど。)
(何?)
(この間の人・・・あの人にも魔力の才能があるみたいなんだ。)
(ええっ!!そうなの!?)
(うん、最初に会った時、間違いなくリンカーコアがあるのを確認したから。)
リンカーコア。それは魔力を持つ素質のある者にある魔力の源。
(それじゃ、あの人ってもしかして・・・。)
(なのは?どうしたの?)
(うん、今日病院で聞いた話なんだけど・・・。)
なのはは今日キラが病院で医者に自分の事を言っているのを医者から聞いていた。それをユーノに話すと、
(・・・もしかしたら、僕と一緒なのかもしれない。)
(ユーノ君と?)
(うん、僕と一緒で、別の世界の人なのかもしれない。)
(それじゃ・・・あの人は。)
(多分、気付いているんじゃないのかな。自分が違う世界に来てしまった事を。)
そこでなのはは気付いた。
キラの悲しげな瞳、病室での涙。あれは自分が違う世界に来てしまった事なのではないのだろうか?
(それじゃ、あの人は・・・ひとりぼっち、なのかな。)
知り合いも誰もいないこの世界で、あの人は一体これからどうするんだろう?
そんな思いを馳せながら、なのははユーノと共に今日もジュエルシード探しに出かけた。

 
 
 

「バカな・・・。」
「信じられないかもしれないけど、ここは時の庭園と呼ばれる場所で、あなたのいうコズミック・イラなんていう世界じゃないわ。」
アスランは少女の母親、プレシア・テスタロッサと名乗る女性から事情を説明されていた。
ここは時空を移動する時の庭園と呼ばれる場所で、違う次元と呼ばれる世界が存在し、
自分は何も無い砂漠の次元で横たわっていたのを彼女の娘に発見され、保護されたのだ。と。
「こんな事が・・・これじゃまるでおとぎ話じゃないか・・・。」
魔法という架空の存在、違う異次元、全ては空想上のものだと思っていたのが、
今自分の目の前に、確実に、存在している。
「信じられないのも無理も無いわね、見た所魔導師ってわけでもないみたいだし・・・。」
「魔導師って、俺は魔法なんて使った事も見た事もないですよ。」
コズミック・イラにはMSはあってもプラントはあっても、魔法は存在しないのである。
「なるほど・・・あなたのいた世界には魔法がなかったのね。でも、おかしいわね。」
「?」
「あなたには魔法を使う素質があるのよ。」
「・・・は?」
アスランは間の抜けた声を出した。まさかそんな事を言われるとは思いもよらなかったからである。
「まあ、信じられないかもしれないけど、あなたの中には魔法を扱う事の出来る素質であるリンカーコアがあるのよ。」
聞くと、アスランを助けたその日にリンカーコアの反応が出たらしい。
「俺が・・・魔法を・・・?」
あまりにも突拍子の無い話にアスランの頭はついていけなかった。
「そして、これがあなたの唯一持っていたものなんだけど・・・これは魔法を扱う事の出来る出力装置なの。
 私達はこれを『デバイス』と呼んでいます。」
「『デバイス』・・・・・・。」
アスランはプレシアから渡されたそれをまじまじと見る。それは、赤を基調としたブローチのようなものであった。
「これがあなたの懐に入っていたのだけれど・・・。」
「俺の懐に・・・ですか?」
「ええ。」
だが、アスランにはこんなブローチなど持っていなかった。それどころか見た事もなかった。
「でも、俺はこんなものは・・・。」
「だけど、あなたの持ち物は後はあのボロボロの服だけよ。」
「そうですか・・・。」
アスランは愕然とした。
いったいこれから自分はどうやって生きていけばいいんだろう?
「それで、私から一つお願いがあるのだけれど・・・。」
「お願い、ですか?」
「ええ、今私はある研究をしていて、それに必要な材料を娘と一緒に集めて欲しいのよ。」
「・・・・・・。」
アスランは自分を助けてくれた人の願いを断るわけにはいかないと思い、
「・・・わかりました、俺でよければ。」
承諾した。

 

「ありがとう。」
そういったプレシアの顔は穏やかな笑顔であった。
「それじゃ、まずあなたは傷は治して頂戴。それからお願いするとしようかしら。・・・フェイト。」
ドアが開き、先程の少女が入ってくる。
「はい、母さん。」
「この子はフェイト。私の娘よ。」
そういってフェイトはペコと頭を下げる。
「よろしく、俺はアスラン、アスラン・ザラだ。」
「あ、はい。アスランさん。」
「それで、傷が治ったらこの子と一緒に魔法の訓練をして欲しいの。」
「魔法の?」
「ええ。さっきもいったけど、あなたには魔法を使うことのできる素質があるの。
 そして行く先の次元でその材料を集めるには魔法の力が必要になるの。
 だから、あなたが魔法を使えるようになって、この子を護ってほしいのよ。」
アスランはプレシアの言葉を聞いて納得した。
材料を集める為とはいえ、娘に危険な目に合わせているので、
アスランにフェイトを護ってもらおうということなのだろうと思い、プレシアの娘の心配する親心が伝わった。
だから、
「・・・わかりました。俺が必ず。」
アスランはこの命の恩人を護ると決意した。
「・・・ありがとう。」
プレセアの顔が喜び、微笑んだ。
だが、フェイトにはその微笑はなぜかひどく冷たい笑い方に見えた・・・。