なのはクロスSEED_第14話

Last-modified: 2008-05-06 (火) 07:48:06

魔法少女リリカルなのはクロスSEED
第14話「胎動する願い、そして……邂逅なの」
 
 
 
――時の庭園・玉座の間最深部。
 
 
崩れ行く床、庭園全体に響き渡る振動。
崩壊した崖の先から眼下に広がる虚数空間を見つめ続けるフェイト。
虚数空間へと落ちていった母親と姉を、ただ見つめることだけしか出来なかった。
さし伸ばした手は届く事はなかった――その悲しみが、悔しさが、全身を巡る。
 
(……私は……結局、母さんに何も……)
 
後悔の念にかられるフェイト。そんなフェイトの目の前を通り過ぎる一筋の紅い閃光。
その光から感じる魔力……それはフェイトがよく知る魔力であった。
 
「……アス、ラン?」
 
間違いなくアスランだ、彼の魔力は自分が一番近くで感じていたので間違えるはずもない。
多分、あの光はおそらく彼自身……。
だが、一体何処へ向かうのか、閃光は虚数空間を避けるように下へと飛んでいく。
 
「あれ……アスランじゃないのかい?」
 
アルフも同様に気付いたようだった。
もう戦いは終わったというのに、一体何をしているんだろう?
  
「フェイトちゃん!!」
 
そんなフェイトの思案を霧散させるように、上空から響く自身の名前を呼ぶ声。
天井に空いた穴より白い服を身に着け、桜色の光を纏い、降りてくる少女。
「大丈夫!?」
「あ……」
言葉に出せず、首を縦に振るフェイト。
「なのはは無事に駆動炉を止めれたみたいだね」
なのはの安否を知り、ホッとしたアルフが声を発する。
「うん、それは良かったんだけど……さっき、こっちに紅い光が来なかった?」
それを遮るように焦ったように問うなのは。
「紅い光……ああ、さっき確かに通り過ぎていったけど……?」
「その紅い光に、ジュエルシードが全部奪われちゃって……」
「な、なんだって!!?」
なのはの言葉に一番反応したクロノが声を上げる。
「さっきの紅い光、って……」
言葉にしてからフェイトへと視線を向けるアルフ。
 
「…………アスラン」
 
呟くようにその名前を搾り出すフェイト。
「でも、アスランの奴、何だってそんな事を……」
アルフの疑問の声に誰も返答できなかった。
そんな中、目を瞑っていたクロノが片目を開く。
「……ちょっと待て、さっきの紅い光がアスランだとしたら……」
そこで言葉を区切り、再度開口する。
 
 
「……下へ向かったはずの、キラは……?」
 
 
「「「「!!!」」」」
 
全員の脳裏に浮かぶ最悪の状況。
「そんな……まさか……」
見る見る青ざめていくユーノの表情。
「エイミィ! 聞こえるか!? 今すぐキラの所在と魔力反応を!!」
『了解っ!……え……?』
元気よく返事をしたと思ったら、その直後に発せられる呟き。
「どうした!?」
『……ない』
「え?」
最後の言葉しか聞き取れなかったクロノは疑問の声を発する。
 
『……庭園内から、キラ君の魔力反応が感知できないの!!』
 
何度もコンソールを叩き、あらゆる方法を用いても、
ディスプレイに表示される文字は『Not Found.』と残酷な言葉。
 
その現実は言葉となり、その場にいる全員へと伝わった。
 
「――――ッ!!」
 
そして誰よりも一番に駆け出したのは、なのはだった。
「レイジングハート!」
『Flier Fin.』
足元に具現化する桜色の小さな羽根。
原型を留めていない地面を踏み出し、空へと飛び上がる。
 
――その向かう先は、紅き閃光の進んだ方向へ。
 
「なのは!」
後を追う様に飛び上がるユーノ。
「ちょ、待つんだ二人共!!」
それに続く形になるクロノ。
「……フェイト」
心配そうな表情で見つめるアルフ。無理も無い。
つい先程あんな事があったばっかりで、尚且つまだ事件が終焉を迎えていないのだから。
「……私達も、行こう」
だけど、フェイトの目は前を向いていた。
 
「……アスランを……止めなきゃいけない……」
 
それに……彼に、アスランに伝えなきゃいけない事があるから……。
 
そして、彼女は使い魔と共に飛び立っていく。
 
 
――――全てを、終わらせる為に。
 
 
 
――時の庭園・予備駆動炉の間。
 
 
それぞれが輝きを放つ21個のジュエルシード。
全てが個別に輝きを放っているだが、その輝きが徐々に合わさりつつある。
(……ジュエルシードの魔力解放には俺の魔力だけでは足りない……それを補う為にこいつを使わせてもらう)
アスランは目の前にそびえ立つ予備駆動炉を見上げる。
予備の駆動炉という事なので、通常起動している駆動炉よりも魔力は高い。
この庭園を調べた際にこれの存在を知った瞬間、アスランは閃いた。
 
これを使えば――――と。
 
(……これだけあれば、ジュエルシードの魔力解放に必要な魔力は充分だ……)
足りないピースは見事にアスランの手中へと収められた。
イージスをスタンバイモードへと変化させ、予備駆動炉へと近付ける。
『Link beginning on movable furnace and Jewel Seed…….(駆動炉とジュエルシードとのリンク開始……)』
イージスの言葉の後、より一層輝きを増す全てのジュエルシード。
それに同調し、イージスも紅い光を帯び、輝きを放つ。
「……イージス、全てのジュエルシードの魔力解放に必要な時間はどれくらいだ?」
『Even all magic liberating is about 10 another minutes.(全魔力解放まであと10分程です)』
「そうか……」
呟くように言葉を吐くアスラン。
ふぅ……と深いため息を吐き、目を瞑る。
 
(…………これでいいんだ……これで…………)
 
誰にも悟られる事なく、ここまで来た。
自分の計画は滞りなく進んでいる。
フェイトにもアルフにも、プレシアにも教えていない――本当の目的。
キラも結界の中にいるし、残る不安要素は……。
先程ジュエルシードを奪ったあの白い服の少女……追ってくるだろうが、問題ない。
 
――――手は討ってある。
 
 
 
――庭園内・通路。
 
 
紅い光を追って飛翔していくなのは。
だが、
「!!!」
急ブレーキを掛け、目の前の光景に唖然とする。
「……嘘……」
そう呟くしかないなのはは立ち尽くす。
「なのはっ!!」
後ろから聞こえる名前を呼ぶ声。
声を発するユーノを先頭に、クロノ、アルフ。そして……フェイトが追いついてくる。
そして同様に目の前の光景に驚愕する。
「「!!!」」
「こ、これは……!!」
驚きの声を出すクロノと声には出さないが表情に現れるフェイトとアルフ。
目の前に広がる光景。
 
それは一面に映る無数の虚数空間――。
 
所々空間の隙間にはまだ通路の方が続いているように見える。
「これじゃ……先に進めない……!」
悔しそうに呟くユーノ。
前面にレイジングハートを構えるなのは。
「皆、下がってて!!」
レイジングハートの先端に展開する魔法陣と集束する魔法。
「なのは!?」
「無理だ!! いくら君の砲撃でも、これを突き破れない!!」
驚くユーノと冷静に状況を判断し言葉を返すクロノ。
「そんなの、やってみなきゃ、わからないじゃないっ!!」
そんな言葉には耳を傾ける事も無くただ一点に前を見つめるなのは。
 
「ディバイーン……バスタァ――――ッ!!!」
 
咆哮と共に放たれる桜色の砲撃。
それは通路に広がる虚数空間へと衝突する。
だが、それも虚数空間へと吸い込まれるように消えていった。
「そんな……」
落胆の声を出すなのは。
先に進めない以上はどうすることも出来ない。
全員の表情に諦めの色が浮かぶ。
そんな時、
「ッ!!」
踵を返し、来た道を戻ろうとするフェイト。
「フェイト!?」
突然の行動に驚いたアルフが名前を呼ぶ。
それにつられてフェイトへと視線を向ける三人。
「駆動炉への道はもう一つ……下へ降りる階段を使えば……!」
「「「あっ!!!」」」
フェイトの言葉に思い出すなのは、ユーノ、クロノ。
そう、4人がそれぞれ別れて、キラが向かったあの階段の事である。
表情が一転、全員の表情に笑みが戻る。
「急ごう!!」
「うんっ! おりがとう、フェイトちゃん!!」
クロノの言葉に相槌し、フェイトへと感謝の言葉を投げ掛けるなのは。
「……行こう」
少し驚いた表情を浮かべたフェイトだったが、促すように
フェイト自身、お礼を言われるような事をしているつもりは毛頭無かった。
だが、それでもこの子は自分に感謝の言葉を掛けてくれる。
屈託の無い、純粋な笑みを浮かべながら。
そして走り出す少女達。
 
――まだ、希望は潰えてはいない。
 
 
 
――時の庭園・予備駆動炉の間。
 
 
「…………」
あと少し、あと少しで全てが終わりを告げる。
刻一刻と刻まれていく時間の一分一秒、一瞬をかみ締めるようにただ待ち続けるアスラン。
(……母上……ラスティ……ミゲル……ニコル……)
目を瞑り、死んでいった自分の大切な人達を思い浮かべる。
思えば、母の死がきっかけでザフトのアカデミーへと入ったんだよな……。
こんな戦争を、早く終らせる為に。もう、俺と同じ思いを誰かにさせたくないから……。
これ以上、誰かの血が流れるのは嫌だったから……。
だけど、初めての戦場で起きた出来事は、予想もしない"再会"だった。
キラ・ヤマト……あいつとの出会いは月での幼少時での学校だった。
それから色々あって仲良くなったけど、戦争が激化して、俺達は離別した。
きっとすぐにまた逢えると思っていた。
だけど再会の場は、学校でもなければ、互いの家でもなく。
 
――戦場だった。
 
――――それも、"敵"として。
 
そして幾度となく戦った。俺はザフトの、あいつは地球軍の兵士として……。
 
そんな戦いの中、ニコルがあいつに討たれた。
 
ニコル・アマルフィ……アカデミー時代の親友で、卒業時には同じ赤を着て、同じ部隊に所属された。
元々人付き合いが得意じゃない俺は、イザークやディアッカと衝突する事もしばしばあったが、
そんな中で、あいつだけは仲良く接してくれた。
まだ14で、ピアノが好きで、それでも戦争を終らせようと必死に頑張っていた。
 
……そういえば、結局俺はあいつのピアノの演奏を最後まで聞いてやる事ができなかったな……。
 
前回の演奏会の時は、疲労の為もあってか途中で寝てしまったから、次はちゃんと聞こうと思っていた。
 
――そんな、"次"があると信じていた。
 
俺は憤慨し、キラを殺すつもりで戦った。
そして、ストライクに組み付き、イージスを自爆させて、自分も死ぬつもりだった。
 
だが、死ねなかった。
 
次に目が覚めると、俺は見知らぬ世界へと来ていた。
C.E.とは違う世界……この世界には俺達の世界にはないもの、『魔法』が存在していた。
しかも、俺にもその魔法を使う素質があるらしい。そしてその魔法を使うのに媒体となる道具、『デバイス』。
それの名前が……『イージス』だったのだから、運命という奴はとことん皮肉なものだなと思った。
 
こんな傷だらけの状態の俺を助けてくれたあの子、フェイト。
俺は彼女の母親、プレシア・テスタロッサの頼みもあり、彼女の娘の手伝いをする事になった。
ロストロギア、ジュエルシードを探す手伝いを。
そして、魔法の修練を終え、フェイトの元へと向かったその時。
 
――――俺達は、再び邂逅した。
 
俺達以外にもジュエルシードを集めている者がいた。
その少女と行動を共にしていたのが、キラだった。
 
……本当に、運命って奴は残酷だ。
 
俺をこんな見知らぬ世界にまで来させておいて、またキラと戦う羽目にしてくれたのだから。
そして、互いの護るべき者の為に、俺達は再び戦った。
 
そんな中、俺は知ってしまった。
 
 
 
 
――――――――――"真実"を――――――――――
 
 
 
 
そして、そこから始まったんだ。
今、この瞬間に至るまでの、全てが…………。
 
この選択をした事に、後悔はない。
俺に出来る事といったら、これぐらいしかないのだから……。
 
 
だから、俺は――――。
 
 
『Master, The Jewel Seed magic was opened, and the preparation completion was done.(ジュエルシードの魔力開放、準備完了しました。)』
「……わかった」
 
 
――――もう、後戻りは出来ない。
 
 
 
――時の庭園・最下層への階段。
 
 
階段を下っていく一同。
所々振動により破損していて走りにくいが、それでも崩れ去っていないのが幸運だった。
そして、全員の先導を切っていたフェイトが階段を下り終わり、目の前の扉へと立つ。
「……この先の部屋の奥に予備駆動炉が……」
そう言葉を紡ぎながら扉へと手を触れようとするフェイト。
だが、
バチィンッ!!
「ッ!!?」
「フェイトちゃん!!」
触れようとした瞬間に指先に走る感触に思わず手を引っ込めるフェイト。
そんなフェイトを心配するなのはが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「私は、大丈夫……これは……」
そんな二人を避け、クロノが扉の前に立ち、S2Uを構える。
目を瞑り、足元に展開する青色の魔方陣。
「…………これは……!!」
目を開き、驚愕の声を上げるクロノ。
「どうしたんだ? クロノ?」
後ろからユーノが話し掛ける。
「…………これは、結界だ」
「結界?」
「しかも……構造と魔術式がかなり複雑にかけられている……これを容易に解くのは難しい……!」
悔しそうに言葉を吐き出すクロノ。
「そんな……」
「ここまで来て……」
表情が暗くなり、同じように悔しさを吐き出すユーノとアルフ。
そんな中、なのはに介抱されていたフェイトが立ち上がる。
「……フェイトちゃん?」
右手に握られたスタンバイモードのバルディッシュを、デバイスモードへと変化させ握り締める。
「……でも、結界なら壊す事は出来る……!」
両手で握り、前方の扉へと構える。
足元に展開する金色の魔方陣。
そんなフェイトと隣に並ぶ白き服の魔導師、高町なのは。
自身のデバイス、レイジングハートを同じく扉へと向けて構える。
二人の足元に展開する魔法陣、それぞれのデバイスの先端に収束する魔力。
「サンダ――……!!」
「ディバイ――ン……!!」
 
『みんな!!』
 
突如全員の脳裏に響く叫び声。
突然の出来事に思わず魔法を強制解除する二人。
「エイミィ!? どうしたんだ!!?」
『それが……!!』
 
 
 
――時の庭園・予備駆動炉の間。
 
 
「……始めるぞ」
『Yes, My master.』
懐から取り出した一冊の古ぼけた本、その本に折込がしてあるページを開く。
そこに記載されている呪文を唱えるアスラン。
 
「封印されし種の輝きを放つ宝石よ……その輝きが今一つになり、真の輝きを放ちたまえ……!!」
 
アスランの言葉の後に呼応して、眩い輝きを放つ全てのジュエルシード。
そして部屋の中に充満していく魔力。
ただ立っているだけなのに、アスランの全身に伝わる魔力の波動。
(これは……予想以上の魔力だ……!!)
気後れしそうになる程の魔力に、アスランの認識は再度改められた。
(流石はロストロギア……ということか)
全身に伝わる感覚、身体の全体が訴えている危険信号。
イージスを握る手の平に汗が滲む。微かにだが震えすら感じている。
だが、もう片方の手でそれを押さえ込む。
持っていた本を落とすが、それすら気にせずに視線は震える手に注がれる。
本能が告げている危険を己の強固な意志で押さえ込もうとしていたのだ。
そして、震えが徐々に収まっていく。
「…………よし」
本能を押さえ込んだアスランは決意の言葉を漏らす。
先程落とした本をもう一度拾い上げ、ページを捲る。
そして先程の呪文が記載されていたページをもう一度開き、そこには、先程の呪文以外にもこう記載されてあった。
 
 
"All the Jewel Seeds gather and the wish is realized at time."と……。
(全てのジュエルシードが集まりし時、願いは叶えられる。)
 
 
本に記載されている手順を、それが全て終了した事を確認する。
「……これで全ての準備は整った……後は、"願い"を言葉にすれば……」
『Master!!』
「!!?」
突然のイージスの言葉、そして背中に走る悪寒。
それを感じ取ったアスランは自然と右へステップを踏んでいた。
 
――瞬間。
 
後方の扉を砕く音。
それと同時にアスランがいた場所を貫く一筋の蒼き閃光。
その光は部屋の壁を貫き、消滅する。
 
反射的に扉へと視線を向ける。
閃光により砕かれた扉の爆煙に映る一つの影。
 
そして煙が晴れ、影に光が差し込む。
 
その姿を、アスランは知っていた。
いや、正確には――"この世界の誰よりも"――知っていた。
 
 
そこには、紅と蒼と翠のグラデーションのかかったバリアジャケットに身を包んだ少年が、
 
 
「……キラ!?」
 
 
キラ・ヤマトが、そこにいた。
 
 
 
――時の庭園・最下層。
 
『あった、あったよ!!』
二人の魔法をキャンセルさせるほどの叫び声の後に続いた一声。
「あったって、一体何が!?」
『キラ君の反応があったんだよ!!』
クロノの言葉がかき消すように響く声。
「え?」
まずそれに対しての第一声を出したのはなのはだった。
「本当か、エイミィ!?」
『うん!さっきまで無かったんだけど、突然反応があったんだけど……』
歯切れの悪いエイミィの言葉に疑問を抱く一同。
「どうした?」
『それが、確かにキラ君の魔力には違いないんだけど……』
「?」
『……魔力値が増大してるの、それも今までにないくらいに!』
コンソールを叩き、データを照らし合わせるエイミィだったが、
確かにディスプレイに映るデータは照合したのだが、
「ど、どういうことなんだ!?」
『私にも解らないよ!でも、キラ君はその扉の奥、予備駆動炉の間にいる事は間違いないよ!!』
その言葉に全員が扉へと向き直る。
「……この向こうに……キラ君が……」
無事だった事を聞いて安心したが、やはりその姿を見るまでは安堵できない。
キッと表情を引き締め、レイジングハートを構えるなのは。
同じ様に隣に並んでバルディッシュを構えるフェイト。
「フェイトちゃん」
名前を呼び、フェイトへと視線を向けるなのは。
そんななのはと視線を交え、無言で頷くフェイト。
彼女もまたこの扉の向こうに行かなくてはならないのだ。
 
 
 
――時の庭園・予備駆動炉の間。
 
 
――信じられない。
 
その言葉だけが今のアスランの脳内で響いていた。
(まさか……あれを破ってくるとは……!!)
あの結界魔法は"彼女"から教わった強力な魔法だったはず……。
今のキラの実力じゃ破る事は不可能だと思っていたが……。
(……やっぱり、お前は凄いよ……)
心の中でキラを褒めるが、それを口にも表情にも出す事は無く、
ただこちらへ向かってくるキラへと視線を向けていた。
 
無我夢中で空を舞い、目の前の扉を手で開けるという動作よりも、
『アグニ』を前方へと構え、トリガーへと手をかける。
狙いを定めるという事よりも早く、トリガーを押していた。
それ程にまでにキラは焦っていた。
長い砲身から放たれる蒼き閃光が眼前にそびえ立つ障害を砕く。
爆砕された扉から上がる煙。
 
――いる。
 
確信も無い、だけどキラは感じていた。
 
――この先に、アスランがいる。
 
足を地に着け、歩み始める。
きっと向こうもこっちに気付いているだろう。
攻撃してくるかもしれない。
だけど、キラは歩みを止める事も、身構える事もなく前進していた。
爆煙へと消えていく身体。そして、視界を支配している白い領域が段々と色を帯びていく。
そして、身体が煙の向こうへと出て行く。
その向こうに見える一人の影。
 
――間に合った。
 
紅き服に身を包んだ友の姿を見て安堵するキラ。
だが、まだそれは生存の確認という事だけ。
本題は――ここからだ。
 
「……アスラン」
「……キラ」
 
互いに名前を呼び合う二人。
再度歩もうとしたキラの足を止めたのは、ライフルを構えたアスランの姿。
 
「……どうして、来た……」
「……」
 
アスランの言葉に無言の反応のキラ。
 
"後の事……フェイトの事、頼む……お前にまた会えて、よかった……それじゃ、な……"
 
先程のアスランの言葉が脳裏に蘇る。
 
「…………君を、止めに来た」
 
ようやく振り絞った言葉を吐き出すキラ。
 
「……アスラン……君は一体何をするつもりなんだ……なんで……!」
 
苦々しく歯を重ね、同じく銃口を前方の親友――アスランへと向ける。
だが、そんなキラの言葉に対してアスランは表情一つ変える事は無かった。
 
「……キラ、最後の忠告だ……管理局と共にここから去るんだ」
「……君はどうするつもり」
「……お前には関係ない」
 
突き放される言葉に眉を動かすキラ。
やはりアスランは喋るつもりはないらしい。
 
――だけど。
 
「……言ったよ、僕は君を止めに来たって!!」
 
パッとライフルを上空へと投げ捨てる。
「ッ!!?」
アスランの視線が上空へと注がれる。
ダッ――!! その瞬間にキラは駆け出す。
両肩のサーベルを両手で引き抜き、一気にアスランへと迫る。
キラの揺動に気付いたアスランはキラへと再度照準を向ける。が、
(早い――ッ!!)
こちらがトリガーを弾くよりも早く、キラは左手を振るう。
サーベルの刃により弾かれたライフルはアスランの手から離れ後方へと舞い上がる。
「ちぃっ!!」
『Right and Left Arm Sabre.』
アスランの両手から発現する紅き刃。
横一閃に振られた右手のサーベルを後方へとバックステップしギリギリ回避する。
 
タッ、――――ッ!!!
 
後方へと着地した瞬間に踏み込み、再度キラとの距離を縮めようとするアスラン。
ライフルを取るよりも接近戦を選択したのだ。
(これで――ッ!!?)
だが、アスランの目に映る光景は予想を超えた。
キラはアスランの踏み込みを見た瞬間、脳裏で判断した行動は"バックステップ"
だが、アスランの踏み込みの勢い以上の加速ではない。
これでは距離を広げるどころか縮めるのをほんの少し遅くしただけだ。
しかも今のキラは未だに両手にサーベルを握ったまま――。
 
(何を――)
 
構えたままキラとの距離を縮める。
変更はない、接近戦なら俺に分がある。
この距離ならライフルに構え直すよりも、俺が切る方が――早い。
アスランは両手を握る力を込める。
 
――――だが、
 
「――ストライク!!」
『Agni,stand by.』
一瞬にしてキラの左脇より正面へと突き出される翠色の砲身。
『Master!!』『Burst!!』
イージスとストライクの声が重なり、砲身から放たれる蒼の閃光。
一気に縮めた距離はアスランに回避行動を取らせる暇も無く、砲撃を一身に浴びる事となった。
 
 
 
――時の庭園・最下層への階段。
 
「はぁ、はぁ、はぁ……」
その場にいる全員が息を切らしていた。
先程から結界を破る為に魔法を連発していたのだが、まるで効果が見れない。
さっきまでの戦闘の疲労も蓄積しているので、もう全員に残された余力はもう少ない。
「この先に、キラ君がいるのに……」
進めない。その苛立ちがなのはの心に焦りを生む。
「……アスラン」
同様にフェイトも感じ取っていたのだろう。
もう戦う理由なんてない筈なのに、なぜ彼は未だに戦っているのだろうか?
その理由を知る為、その彼を止める為に――フェイトはバルディッシュを握る手に力を込める。
「……まだ、終われない」
フェイトの言葉に頷く皆々、余力を振り絞り、前方へと構える。
 
 
――――瞬間。
 
 
ズドォンッ――――!!!!
 
「!!!?」
突如鳴り響く爆音。
結界の向こうにそびえ立つ扉が爆砕する。
「な、何が……!?」
驚愕の表情を浮かべる各々。だが、目の前の結界は未だに健在であった。
つまり、あの爆音はこの中――結界の向こう側での出来事。
 
ガラッ。
 
「……くっ……!!」
 
呻き声と共に瓦礫の中から這い出てくる人影。
爆煙が晴れ、その影が姿を現す。
 
「――アスランッ!!」
 
誰よりも先に人影の主がアスランだと気付いたフェイトは思わず名前を叫ぶ。
結界の向こうにいるフェイトに気付いたアスランがこちらへと視線を流すが、すぐに前へと向き直す。
そして、その場にいた全員がその方向へと視線を向ける。
すると、通路の向こうから歩いてくる人影が一つ。影は徐々に大きくなり、その姿を現す。
 
「……あ!!」
 
そして誰よりも早くその影に気付いたなのはが驚愕の声を上げる。
なのはに続き、その場にいた面々もその影の正体に気付き始める。
 
「……みんな!」
 
結界の向こうにいた各々に気付いた影の持ち主――キラ・ヤマトは表情を緩め、声をあげた。
 
「キラ君っ!!」「キラさんっ!!」「「キラッ!!」」
 
一同が一斉にキラの名前を呼ぶ。
無事なその姿を見て、喜びを隠せない一同。
だが、彼女の――フェイトの視線はアスランへと注がれたままだった。
 
「アスラン……」
 
何がそこまで彼を動かすのだろうか?
何でそこまでして、何をしようとしてるのだろうか?
その答えを知る為に、そんな彼を止める為に、こんな戦いを終わらせる為に。
彼女は、フェイトはここまで来たのだ。
 
「アスラン……もうやめて」
 
どうしてそこまでするのかは私にはわからないけど、
もう、全部終わったのだから。だからもうこれ以上、
大切な人達が傷つくのは、もう――嫌だ。
 
「もうやめてっ!! アスランッ!!!」
 
自分でも驚くくらい大きな声で、フェイトは叫んでいた。
突然の言葉に驚く面々。だが、
 
「……ぐ…………!!」
 
フェイトの叫びが聞こえていないのか、アスランは力を込め立ち上がろうとする。
そんなアスランに差し掛かる一つの影。
目の前にまで近付いていた事にすら気付かなかったアスランは顔を上げ、キラと視線を交わす。
 
「……もうやめよう、アスラン、これ以上……」
「…………」
 
キラの言葉に対し、無言の表情で訴えるアスラン。
その目に宿るのは――諦めていないという意思。
それを見て悟ったキラは、サーベルを握る手に力を込める。
 
(……もう、こうなったら気絶させてでも……!!)
 
握った手を振り上げ、アスランの頭上目掛けて振り下ろそうとした
 
 
 
 
 
――――――刹那。
 
 
 
 
 
――――――――――"待ってください!!"――――――――――
 
 
 
 
 
「――ッ!!?」
 
キラは振り下ろそうとした手に再度力を込め、静止させる。
突如、キラとアスランの目の前に現れた一人の女性。
その女性はアスランを背にし、キラの目の前に立ちはだかるように立ち、両手を広げている。
まるで――アスランを護るかのように。
 
そして、結界の向こうにいる面々もキラと同様に驚きを隠せなかった。
 
「い、今あの人……どこから……?」
「一体どうやって……転送魔法か……?」
「でも、魔法陣の発生した形跡も見えないし……一体誰なんだ……?」
 
一瞬にして二人の間に割り込んだ事が不思議に思う、なのは、クロノ、ユーノの三人だったが、
後の二人は、より驚愕に満ちた表情をしていた。
 
 
「…………そんな……なんで……」
「…………嘘、だろ……?」
 
 
フェイトとアルフは思わずそんな言葉を漏らしていた。
二人の表情は酷く驚愕していた。まるで目の前の現実が、虚無か幻をみているかのように――。
 
「……退くんだ……君は、出てきてはっ……!!」
 
ゆっくりと立ち上がるアスラン。視線を目の前の女性へと向け、言葉を紡ぐ。
 
 
 
 
 
――――――"リニスッ!!!"――――――
 
 
 
 
 
アスランが言い放った言葉。
その言葉に聞き間違いがなければ、彼は間違いなく目の前の女性の名前を言った。
フェイトとアルフにとって、忘れる事の出来ない大事な家族――リニスの名前を。
確かに目の前にいる二人の間にいる女性の姿はリニスに間違いはない。
だが、色々な疑問が浮かび上がる。
 
なぜ、私達の前からいなくなってしまったのか?
なぜ、今まで現れなかったのか?
なぜ、今ここに現れたのか?
 
そして、一番の疑問。
 
 
――――なぜ、アスランがリニスを知っているのか?
 
 
アスランが庭園に来たのはつい数ヶ月前。リニスがいなくなったのは数年前。
それにアスランはこの世界に来てからほとんどずっとフェイトとアルフと共に行動していたのだ。
二人に接点などある筈がなかった。
 
"アスラン、あなたは……"
 
「…………」
リニスは振り返り、アスランへと視線を向ける。
だが、アスランはそんなリニスの視線から避けるように顔を背ける。
「……あ、あの……」
そんな沈黙を破ったキラの言葉。
その言葉にリニスはキラへと向き直る。
「あなたは……?」
 
"……私はリニス。かつて、プレシア・テスタロッサの使い魔だった者です……"
 
プレシア・テスタロッサの使い魔"だった"?
その言葉からしてそれはすでに過去の出来事という事。
なら、今は――?
 
"あなた方に……お話しなければならない事があります…………"
「――ッ!! リニスッ!!!」
 
大声を上げて名前を呼ぶアスラン。
その張り上げた声に驚く一同。
 
"……アスラン"
「くっ……! 何も……言うなっ!!」
 
軋む身体を叩き上げ、起き上がろうとするアスラン。
 
"アスラン、もうやめてください! あなたがしようとしてることは……!!"
 
 
――――アスランッ!!!――――
 
 
突然響き渡る叫び声。
結界の外からは声は届かないはずなのに、なのに聞こえた声。
その方向に全員が注目した先には、フェイトがいた。
その緋い瞳から流れ出る一筋の雫。
涙を流しながら、彼女の視線はアスランとリニスに注がれていた。
 
「フェイト……」
 
涙を流す彼女を見て、心が揺らぐアスラン。
そして、そんなフェイトを見つめるリニスの視線に含まれたいくつかの感情。
 
"フェイト……"
 
そして目を瞑り、意を決したように目を開くリニス。
 
"……やはり、知らなければならないのです……あの子にも、ここにいる方々にも……"
 
苦々しそうに下を向くアスラン。
言葉を紡ぎ続けるリニス。
 
 
"…………全て、お話致します…………"
 
 
 
 
 
to be continued……。