なのはASTRAYS_03話

Last-modified: 2009-08-22 (土) 17:01:22

──世界を見続けるために老人達が選んだ道は、体を捨てることでした。
しかし、体を捨ててまで見続ける世界はもう殆ど安定し、代わり映えの無い日々が続きました。
毎日毎日同じものを見続ける老人達は、その世界に飽きてしまいました。
そこで彼らは考えました。
どうしたら世界が安定していく様をもっと面白く見られるのかを・・・。

 

【廃棄都市区画】

 

──二週間後
ミッドチルダ北部には廃棄都市区画が存在する。
これは、4年前に起きた臨海第8空港の大火災に伴い空港諸共廃棄された市街地であった。
その市街地にあるひび割れたビルの屋上に、そういった場所には凡そ相応しくない年頃の少女が二人立っている。
オレンジ色の髪をした少女ティアナ・ランスターは、所持している銃を調整しながら視界の
端で体を動かしている相方に話しかけた。

 

「スバル、あんまり暴れてると試験中にそのおんぼろローラーが逝っちゃうわよ」

 

スバルと呼ばれた、ローラースケートの様なものを履き、右手にはリボルバーが付いている手甲
をはめた少女は少し困ったように返す。

 

「うぇ~、ティア~嫌なこと言わないで~。ちゃんと油もさしてきたっ」

 

そんな二人の会話を他所に、彼女達の近くに空間映像が映し出される。
映っていたのは、幼い顔つきで空のような瞳をした少女であった。

 

「おはようございますっ!さて、魔導師試験の受験者さん2名、揃ってますか?」

 

少女の問いに、ティアナとスバルは映像前に横に並ぶと「「はいっ!」」と元気よく答えた。

 

「確認しますね。陸士386部隊に所属のスバル・ナカジマ二等陸士と、 ティアナ・ランスター二等陸士。
保有している魔導師ランクは・・・、陸戦Cランク、本日受験するのは陸戦Bランクへの昇格試験で間違いないですね?」
「はいっ」「間違いありません!」
「はい。本日の試験管を勤めますのは私、リィンフォース・ツヴァイ空曹長です。 よろしくですよ~」
「「よろしくお願いします」」

 

ティアナとスバルは敬礼しながら答える。
その上空では、フェイトとはやて、ロウの三人がヘリコプターに乗りながら彼女たちの様子を観察していた。

 

「お、さっそく始まってるな~。リィンもちゃんと試験官してる」
「元気が良い受験生だな!」

 

ヘリのドア全開で見下ろす二人にフェイトはやんわりと注意する。

 

「二人とも、ドア全開だと危ないよ。モニターでも見られるんだから・・・・」
「は~い」「わりぃな」

 

二人が椅子に座るとフェイトはパネルを操作し、スバルとティアナの情報を映す。

 

「この二人が、はやてが見つけた子達だね?」
「うん、フェイトちゃんも直接見るのは初めてだったっけ?
二人とも中々伸びしろがありそうな、ええ素材や」
「陸士386ってことはカルタスと同じ部隊か・・・」
「そうだね。今日の試験の結果によっては同じ部隊になるかもしれないよ」
「本人達の意思もあるし、直接の判断はなのはちゃんと劾さんにお任せしてるけどな。
部隊に入ったら、なのはちゃんの直接の部下で、教え子になるんよ」
「そっか。大変だろうけど結構良い体験になるな!」

 

ロウはこの二週間でフェイトとはやての幼馴染であり、管理局のエースオブエースと謳われる
”高町なのは”一等空尉に教わった魔法戦を思い出していた。
最初の内は素人同然の動きしかできなかったロウと劾だが、ロウは自身のサバイバビリティの高さから、
そして劾は傭兵として培われた多彩な戦闘経験を生かし、二人の実力は最終的になのはを追い追い詰められるほどになった。
ちなみに追い詰めた後の二人はバインドで動きを封じられ、なのはの魔法の中でも特に
威力の高いスターライトブレイカーを喰らったことで半日ほど気絶することになったのだが。

 

「ところで・・・。ロウはこの後の準備とか大丈夫なの?」
「そや、戦闘に参加もできるメカニックアドバイザーなんて特殊なのを希望したのはロウなんやから、これに落ちたら洒落にならんよ?」
「つってもデバイスにはガーベラストレート2を装備してあるし・・・。
劾の方も新装備は武装済みだから、あとは試験を受けるだけだぜ」
「それならいいんだけど・・・。あ、そろそろ始まるみたいだよ」

 

試験会場にあるゴール付近のビル、窓際の一室に劾となのはは居た。
なのはがパネルを叩き受験生の情報を呼び出していると、劾のデバイス”サーペントテール”
が画面に割り込んで情報を表示する。

 

『Not the life reactive within the range and dangerous articles do not react.
The examination is always started.
(範囲内に生命反応及び危険物はありません。いつでも試験を始められます)』
「うん。ありがとう、サーペントテール」
『You're welcome. 』
「サーチャーとオートスフィアの設置も完了した。」
「すみません劾さん。この後すぐに試験が控えているのに・・・」

 

「問題ない。準備は終わっている」
「そうですか。がんばってくださいね」
「ああ」
「・・・そろそろ始まります。私達は全体を見ていましょうか」

 

モニターには試験の説明を受け、スタートする直前のスバルとティアナが映っていた。
そしてスタートを知らせる三つのランプが消えた瞬間、二人は一斉に走り出す。
ビルの中と外、二手に分かれた彼女等はローラーとアンカーガンを巧みに使い、
目標を確実に撃破しながらゴールへと向かっていった。
それを満足そうに見ながらはやては不敵に笑う。

 

「良いコンビや、けど・・・難関はまだまだ続くよ」
「コース後半に設置した大型スフィアとかね」
「あ~、受験者の半数近くを落とす中距離攻撃型自動スフィアか」
「そや、今の二人では防御も回避も難しい。お手並み拝見やね」

 

ヘリの中でモニターを見ながら話す三人だったが、突然モニターが何の映像も映さなくなった。

 

「なんや!?」
『サーチャーに流れ弾が当たったな』
「8、復旧は無理そうか?」
『難しいな』
「あの辺は他にサーチャーを置いていないしはずだし・・・」

 

三人がどうしようか迷っていると、なのはから通信が送られてくる。

 

『トラブルみたいだね。一応、現場に様子を見に行くね』
「そうしてもらえるか?なのはちゃん」

 

はやての返事を聞いて、なのははすぐに現場へ向かおうとした。
だが、隣に居た劾がそれを遮る。

 

「いや、俺が現場に向かう。高町、お前はゴール付近で待機すべきだ」
「ふぇ?どうしてですか??」
「受験生を見ている限り、これで終わるとは思えん。
それに見落としていたスフィアも撃破されたとなれば、次の目的地に向かっている可能性のほうが高い」
『俺も劾に賛成だ。あいつらは結構ガッツがあるぜ!』

 

モニター越しにロウも劾の意見に賛同すると、なのはは少し考えてからその意見に納得した。

 

「なるほど・・・。リィン、それでいいかな?」
『はいです、おねがいします』

 

試験監督であるリィンフォースの許しが出ると、なのはと劾はバリアジャケットに身を包み、
それぞれの場所へと向かっていった。
1,2分の後、ヘリに居た3人の元に劾から連絡が入る。

 

『劾だ。現場に着いたが、やはり受験生は先へ進んだようだ。
そちらでもそろそろ確認できると思うが・・・』
「っと、確認できました。──あれ、でも・・・」

 

映像で映ったのはティアナ一人で、尚且つ無謀にも大型スフィアの狙撃可能圏内を一人で走っているところだった。
すかさず放たれるスフィアの攻撃が直撃したかのように見えたが、煙が晴れて出てきたティアナは無傷のままで走り続けている。

 

「高速回避?いや、ちゃうな」
「なるほど、ティアナって奴は囮だな。多分、幻影か何かだろ」
『確かに!あれだけ走っているのに足元の小石一つ動いていないしな!』
「となると・・・、本命は──」

 

大型スフィアが配置されているビル付近の別のビル、その屋上にスバルは居た。
ロウ達が、長距離射撃も飛行魔法も持たない彼女が何をするのかと興味津々に見ていると、スバルはロウの予想斜め上を行く魔法を披露した。
カートリッジロードしたリボルバーナックルを地面に叩きつけ、彼女は思いっきり魔法名を叫ぶ。

 

「いっくぞおぉ!ウィング、ロードッ!!」

 

その瞬間、彼女の足元から水色をした光の道が伸びていき、スフィアのある部屋の壁に激突した。
ヒビが入った壁に気付いたスフィアが壁の方向に向かってチャージを開始するが、
大型スフィア近辺に絶妙のタイミングで現れたティアナのフェイクシルエットに対象を変更してしまったため、一瞬の隙ができてしまう。
その隙に壁を破って部屋へと突入したスバルは、そのままの勢いで大型スフィアに拳を突き出した。
しかし大型スフィアは自身に拳が届く前にバリアを展開し、それを防ぐ。
スバルはそのバリアを無理やり叩き割ろうと拳に力を込めた。

 

「うぉぉおおおおおっ!!」

 

スバルの雄たけびが部屋を覆いつくす。

 

「はぁぁぁあああああっ!!!」

 

リボルバーナックルからカートリッジがロードされ、更に拳に力が入る。そして・・・

 

「ぃりゃああああああああああっ!!!!」

 

無理矢理にねじ込ませた拳で、そのまま横薙ぎにバリアを割った。
防御手段がなくなった大型スフィアは牽制にビームを放つがスバルはそれをガードし、一旦後ろへと下がる。
そして両手をクロスさせた構えから円を書くように右腕を後ろに引き、前方に魔力を形成した。

 

「一撃、必倒ぉぉ!」

 

ナックルのリボルバー部分が激しく回転を始め、それに比例してスバルの拳に魔力が集まっていく。

 

「ディバイン!バスタアアァァッー!!」

 

叫び声と共にスバルが右拳で加速をつけて打ち出した光は、大型スフィアどころか
スフィアの後ろの窓ガラスまで纏めて吹き飛ばす。
モニターでそれを見ていたロウ達は、スバルのその魔法を見て驚愕した。

 

「あのディバインバスターってやつ、よくなのはが使うアレだよな・・・」
「うん。発射プロセスとかを見る限り、多少違う魔法みたいだけどね」
「あのスバルって子は、4年前の空港火災でなのはちゃんに助けてもらったらしいんよ。
もしかしたら、なのはちゃんへの憧れで独学~、なんてな」
「実際、なのはの教導を受けてないならありえるかもね」

 

ヘリに乗っている3人がスバルの魔法に関して考察していると、ゴール付近のサーチャーがスバルとティアナの姿を捉えた。
画面では負傷の為か時間短縮のためか、ティアナを背負ったスバルがローラーで移動、
背負われたティアナが射撃でスフィアを撃破していくというスタンスをとっていた。
スフィアを全て撃破すると、スバルはさらにローラーのスピードを上げてゆく。
そんな裏技を垣間見たフェイトは「すごい」と評価したが、一方でロウと劾は同時にフェイトとは別の感想を述べた。

 

「『まずいな』」

 

二人の意見の意味するところは別にあったが、すくなくとも劾の意見の意味に気付いたなのははゴール付近のビルで対応にあたる。

 

「アクティブガード、・・・ホールディングネットもかなぁ?」

 

なのはが魔法を発動させると共に二人はゴールし、そのまま奥の壁に激突しそうになる。
しかし、なのはが発動した魔法のネットとクッション材が二人を衝突前に守った。
呆然とする二人にゴールで待機していたリィンは頬を膨らませながら

 

「むぅ~、2人とも危険行為で減点です!怪我をしては元も子もないですよ!!」

 

と手足をバタつかせて怒っていた。
そんな中にバリアジャケットに身を包んだなのはが降りてくる。

 

「まぁまぁ、ちょっと驚いたけど無事でよかった。
とりあえず試験は終了ね、おつかれさま」

 

意外な人物の登場にポカンとしているスバルとティアナは、桃色の光に包まれるとゆっくりと地上に降ろされた。

 

「リィンもお疲れさま。ちゃんと試験官できてたよ」

 

なのはの言葉に喜ぶリィンが、なのはの後ろから走ってくるロウと劾を見つけた。

 

「あれれ?ロウさん劾さん、どうしたですか?」
「いや~、モニターで見てたんだが流石にヤバイと思って・・・」

 

「ここまで来た」
「ありがとう、でも大丈夫だったみたいだよ」

 

2人を見ながら答えるなのはだったが、ロウは首を横に振る。

 

「いや、俺が言っているのは二人の体の方じゃねぇよ」
「ふぇ、ちがうですか?」

 

ロウは言いながらスバルの近くに行くと、片方だけ脱げて火花を散らしながら転がっていたロ
ーラーを拾い上げ、持ってきた道具で修理を始めた。

 

「制御系は問題なし。あ、シャフトがいかれかけてるな」
「あ、あの~。なにを・・・」
「ん?見ての通り修理してんだよ。ゴール前のダッシュ中にタイヤが不自然にぶれてたからな。
相棒なんだろ?もっと大切に扱えよ!」
「す、すみませんっ!!」

 

ローラーを弄りながら言うロウに、スバルは素直に謝った。
劾はその間に、とティアナに近づいてゆく。

 

「足、怪我しているだろう?見せてみろ」
「あ・・・、はい」

 

劾がティアナの足を手当てしようとしていることに気付いたリィンが「回復なら私が・・・」と前にでるが、劾はそれを断った。

 

「いや、こういう怪我の場合は自然に治したほうがいい。
魔法だと後遺症が残りやすいだろう?」
「このくらいの怪我なら後遺症も出ないとおもいますけど・・・」

 

ティアナの足に、馴れた手つきで包帯を巻いていきながら劾は続けた。

 

「塵も積もれば山となる、だ。
長く魔導師をし続けたいなら、もっと自分を大切にしろ」
「・・・・はい」

 

そんな4人のやりとりを見ているなのはは、クスクスと嬉しそうに笑っている。
(六課設立の前から、もうお仕事してる)
2人の修理と手当てが終わると、なのははバリアジャケットを解除してきりだした。

 

「まぁ、細かいことは後回しにして、そろそろ場所を移動しようか。
ランスター二等陸士、歩ける?」
「はい!すみません」

 

今更になって、自分の憧れ続けてる人が目の前にいるという実感が沸いてきたスバルは、ボーっとなのはを見つめていた。

 

「なのは、さん・・・」

 

「うん?」
「あ、いえ、あの・・・高町教導官、一等空尉!」
「なのはさんでいいよ」

 

なのはは答えながらスバルに近づいていく。
そして微笑みながら話しかけた。

 

「4年ぶりかな、背伸びた?スバル」

 

自分の事なんて覚えていないと思っていた憧れの人にそう言われ、スバルは嬉しさから瞳に涙を浮かべる。

 

「また会えて嬉しいよ、スバル」

 

言いながら頭をなでるなのはに、スバルは泣き出してしまった。
それを横で眺めている劾の通信機に、はやてから通信が入る。

 

『さて、なのはちゃん的に2人はどやろ?』
「さあな」
『ふふっ、でもきっと・・・』
「はいですぅ♪」

 

少しずつ落ち着きを取り戻してゆくスバルになのはが「私のこと、覚えていてくれたんだ?」と問うと、スバルは顔を上げ

 

「あの、覚えていたっていうか、ずっとなのはさんに憧れていて・・・」

 

と途切れ途切れに答えた。
そうして少しずつ落ち着きを取り戻してきたスバルを見て、劾はところで、と彼女に話しかける。

 

「大型スフィアを破壊した魔法、あれは?」

 

そんな劾の質問にスバルはう゛あ、と声を漏らした。

 

「あ、あれは独学で・・・。すみません勝手に!」
「いいよ、そんなの」

 

そんな中、フェイトとはやてを乗せたヘリが降りてきた。
なのは達がいるハイウェイに着陸すると、ヘリの中から2人が出てくる。

 

「皆おつかれさま、リィンもよくやったね」
「怪我は・・大丈夫みたいだね」

 

フェイトの問いに元気よく返事をする受験生2人。
その答えに「そか」と相槌を打つと、はやてはポンと手を鳴らしてきりだした。

 

「さて、それじゃロウと劾さんの試験にうつろか」
「おう」「ああ」

 

はやての方を振り向きながらロウと劾は答えると、広げていた修理道具と救急用具をしまった。
2人が準備中なのを確認したはやては、なのはとフェイトに

 

「それではランスター二等陸士とナカジマ二等陸士のこと、よろしくお願いします」

 

と言って敬礼した。
それに敬礼し返したなのはとフェイトは、スバルとティアナをヘリの中へと促して、自分たちも搭乗する。
そして4人が乗ったヘリは、ドアを閉めて飛び立っていった。
ヘリが見えなくなる頃にはロウも劾も準備が完了していて、いつでも受験できる状態だったので、
はやては試験の説明に移る。

 

「さて、2人に受けてもらう試験はさっきの2人とおなじ、制限時間内に目標をすべて撃破してゴールするものや」

 

説明するはやての周りに試験の情報が表示される。
その中には先程スバルを苦しめた大型スフィアも確認できた。

 

「難易度はさっきと大して変わらないよう調整してあるけど・・・いけるか?」
「問題ないぜ!」
「むしろ少し上げてくれも構わないが・・・」
「・・・た、たいした自信やな。 あとは何か質問とかあるか?」
「2つ程質問していいか?」

 

劾がはやてに問うと、はやては首を縦に振って先を促した。

 

「まず1つ目、ダミーで配置されている目標は何として扱う?
人なのか、それとも物なのか・・・。それによって扱いが違って来ると思うんだが。
それと2つ目。今回の試験では周囲の安全確認及び戦闘による物損についてはどう考えている?」

 

純粋に質問しただけだった劾だが、はやては違う方向に考えてしまったらしい。
(はは~ん、さては劾さん、部隊長としての私の指揮能力を確かめておきたいんやな)
そんな事を考えているはやては、いきなり真面目な顔になると

 

「ダミーで配置されている目標は全て要救助者として扱います。
可能ならば害が及ばないように安全な状況を作り出してください。
又、今回は御覧の通り廃棄都市での戦闘になりますので、物損については考えなくても大丈夫です。
周囲の安全さえ確認できたのなら、ビルの1つや2つ倒壊させても問題ありません。」

 

と述べた。
それを聞いた劾は「そうか、これで安心して戦える」と不敵に笑っていたが、この言葉の意味するところをはやてはまだ知らない。
はやてが頬に人差し指を置き、頭に?マークを浮かべていると、いつの間にか近くのビルに移っていたリィンから連絡が入った。

 

『こちらの準備はOKです。いつでもいけますよ~』
「了解や。2人も準備はオッケーか?」
「おう」「ああ」
「それではカウントダウン開始や」

 

はやての合図で、ロウと劾の目の前に三つのランプが付いたパネルが表示される。
それを確認した二人は8とサーペントテールを構えて

 

「いくぜ!8!!」「サーペントテール!」
「「セットアップ!」」

 

それぞれバリアジャケットに身を包んだ。
しかし、彼等のバリアジャケットには2週間前には見られなかった点がいくつかある。
ロウのレッドフレームは腰の左から1.5m位の太刀をさげていた。
一方で、劾のブルーフレームは両足に3連砲、左肩の後ろに六連ランチャー、さらには背中にバズーカ砲を2門背負っていた。
これは2週間前にガジェットを倒した際、手に入れたパーツをロウが改造、物理弾を廃し大型の
カートリッジシステムを搭載したもので、同等の威力を誇る魔力弾の発射が可能となっている。
そして何よりブルーフレームの頭部の形状が大きく変わっていた。

 

『Shape of the completesensor are good(コンプリートセンサーの調子は良好です)』
「ああ、だがこいつは魔力を喰いすぎる。普段は出力を絞っておいてくれ」
『OK』

 

コンプリートセンサーと呼ばれた一つ目タイプの頭部は昔、劾がミラージュコロイドで姿を隠した敵と戦う際に用いられた装備で、
その時のデータと廃棄研究所に現れた多脚型ガジェットを解析したデータを使って劾が設計、ロウが製作したものである。
2人がそれぞれの新装備の調子を確かめ終えたところで、丁度スタートのランプが全て消えた。
それを確認した劾は、すぐさまサーペントテールに指示をとばす。

 

「サーペントテール、コンプリートセンサーの出力を最大に。
一気にこの区域の情報を引き出すぞ」
『Consent(了解)』

 

ブルーフレームの頭部から薄緑色の光が溢れ、あたり一面をスキャンする。
そして劾の目の前のパネルに試験会場一帯の詳しい地図、目標の種類、配置など様々な情報が映し出された。
劾はそれを数瞬で把握するとレッドフレームに情報を送信し、今度はロウに指示を出す。

 

「ロウ、お前はマーキングしたルートを辿りゴールまで向かってくれ。大型スフィアは任せるぞ」
「わかったぜ!それじゃ、いっちょやるか!!」
『マップの受信を完了、いつでもいけるぞ!』

 

8が送られてきたマップをレッドフレーム左前方の空間に映し出した。
研究施設ではレッドフレームのカメラアイ部分に直接マップを写していたのだが、

 

「見にくい」という2人の意見を参考に8が改良したナビゲーションシステムである。
マップを確認したロウは一目散に駆け出していった。
劾もマップに表示された”目的地”を目指して動き出す。
今回、ロウに用意したルートの条件は、”ダミーの目標が存在しないビル”及びその付近を避けた上で、敵がばらけて点在する路地である。
それはお互いの武器、そして戦い方に適したルートといえた。
何故なら、劾には先程のスバルとティアナが使ったように”裏技”が存在する。
それを使うにはどうしてもロウに”目的地”の近辺に居てもらっては困るのだ。

 

「目的地を確認、攻撃に移る」
『Consent』

 

劾の言葉と共にブルーフレームの両足や肩の後ろ、両手に持っているバズーカから大型のカートリッジが排出され、
破壊力抜群の魔力弾が発射される。
魔力弾はスフィアが多く存在しているビルの柱へと向かい、一気に爆散した。
元々ボロボロで、何時崩れてもおかしくない様なビルは柱を失ったことで瓦解し、垂直に崩れていく。
無論、中にあった目標は倒壊に巻き込まれ、反応が全て消滅した。
そう、劾の裏技とはビル内に存在する多くの敵をビルごと潰すことである。
これにより無駄な危険を避け、尚且つ短時間での殲滅が可能となる。
劾が試験前にはやてに質問していたのは、この危険行為と見なされかねない荒業を正当化する必要があったからだった。
この荒業をモニターで見ていたはやては関心しながらもぼやく。

 

「う~ん、そこまで読んでの質問だったとは・・・。正直、劾さんのことを嘗めてたわ。
でもビル内にダミーが居たらどうするつもりだったんや?」
『コンプリートセンサーで近辺の情報は得ている。問題ない』
「サーチャーに向かってつっこまれた!?」

 

本人に通信を送っているわけでも無いのに先読みで突っ込みを食らったはやてはモニターを見ながら唖然としていた。
そんな彼女を余所に、劾は次の目的地へと向かう。
道の途中に構えるスフィアに対しては一旦バズーカを背中にマウントし、肘に装備されているハンドガ
ンの様な形状をしたライフルで確実に撃破していった。
そうして再び新たな”目的地”に到着した劾は、ライフルを肘の後ろへ畳むと再び二門のバズーカを
装備し直し、全身の銃口からビルの柱へと砲撃を加える。
2つ目のビルが倒壊したのを確認した劾は、左前方に表示されているマップを確認した。

 

「目標の半分を撃破。ロウの方も上手くいっているが・・・そろそろ大型スフィアと接触する頃だな。」
『Do you go to assist?(援護に向かいますか?)』
「フッ、それには及ばないだろう。残り時間もまだ十分にある。
俺達は俺達の成す事をすれば良い」
『Consent』

 

劾は崩れたビルから立ち昇る煙が晴れるのを待つと、最短距離で移動する為にその瓦礫の上を進んでいく。
一方で、ロウの駆るレッドフレームは指定されたルートを順調に進んでいた。

 

『そこの角を右に曲がれ、その後すぐに敵と遭遇するぞ』
「おっけ~!」

 

ライフルを構え、背中のブースターを噴かせながら角を曲がるロウの前に2体の敵が迫る。
ロウはそのまま減速せずに片方のスフィアにライフルを放ち撃破すると、もう片方の砲撃をかわしながら一気に距離を詰めた。

 

「へっ、なめんなよ!」

 

ロウは至近距離から放たれるビームを体を捻る事で回避すると、ライフルを空へと放り投げる。
それに気を取られた敵に対して、居合い斬りの要領で腰のガーベラストレート2を一閃。
宙に浮いていたスフィアは左右に分かれて落下した。
ロウはガーベラストレートを鞘に収めると、落ちてきたライフルを片手でキャッチする。
ガーベラストレート2はロウがミッドチルダに来る直前に護身用として、余っていたレアメタルを使用して作った太刀だ。
その硬さ、鋭さは2週間前の戦闘で急造して使った太刀とは比べ物にならない。
そしてもう一つ、使用したレアメタルの性質で、ガーベラストレート2は魔力による干渉を一切受け付けなかった。
これには作った本人であるロウも驚いていたが、しかしガーベラストレート2は元々強力な鋭さを持ち合
わせているため、どちらにせよシグナムが多用する紫電一閃のように剣自体の威力を強化する必要が無い。
故に、ロウはこれをメリットとして考えているのだった。

 

『この先のビルにある大型スフィアを破壊すれば後はゴールまで一直線だ!』
「わかった!」
『ぬかるなよ!』
「おうっ」

 

13階に大型スフィアが設置されているビル近辺には、誤射防止のために小型のスフィアは配置されていない。
これを逆手に取った劾が設定したルートは、数年前までショッピングセンターがあった地下道を通って行くというものだった。
実際、大型ガジェットはハイウェイや他のビルの上ばかりサーチしていて足元が疎かになっている。

 

「たしかに、これなら捕捉される心配も狙撃される心配もねぇな!」
『まさに地の利だな』

 

地下道を抜けたレッドフレームは、今度は大型ビルにならどこにでも備え付けられているダストシュートから12階まで昇った。
そして、ある一室の真ん中まで行くと真上に向かってライフルを構える。

 

「どんなに全方位と謳っていても、真下には攻撃できねぇだろ!!」

 

そう言うとロウは力強く引き金を引いた。
突然の死角からの攻撃に対して反応できなかった大型ガジェットは、床からビームの発射口
がある上部のユニットまでを打ち抜かれ、ロウが居る12階へと落ちてくる。
火花をバチバチと鳴らしながらも活動を続ける大型スフィアは、バリアを全開にして突撃してきた。
それに対してロウはガーベラストレートを構えると

 

「うおおおーっ!ガーベラストレートを喰らいやがれっ!!」

 

気合と共に一刀両断する。
勢い余ったスフィアは縦に真っ二つになりながら、レッドフレームの後ろの壁に突っ込んで爆散した。
ロウはふぅ、と一息つくとガーベラストレートを鞘に収める。
マップに記されていた目標のアイコンが全て消滅したことを確認したロウは劾との合流地点、即ちゴールへと駆けていった。
ゴール手前の分岐路で劾のブルーフレームを視認したロウは、ブースターの速度を劾のペースに落としながら合流した。

 

「上手くいったみたいだな!」
「ああ、だがコンプリートセンサーをフル稼働させ続けた所為で、残存魔力が少ない」
「あれは結構魔力を喰うからな・・・。魔力をそっちに渡すか?」
「いや、大丈夫だ。どのみち時間は有り余っている」
「そっか」

 

ゴール近くまで進んだ2人は、ゴールのすぐ横に浮いていたリィンフォースツヴァイを見つけた。
2人がゴールラインを通過しバリアジャケットを解除すると、直にリィンが話しかけてくる。

 

「お2人ともお疲れ様でした。試験はこれにて終了です」
「おう!で、結果はどうだ?」
「当然、合格や」

 

ロウの質問に答えたのは、ロウと劾が来た道とは逆方向から走って来たはやてだった。
はやては大分急いできたのか息が上がっている。

 

「予想よりもかなり速いペースで進むから、こっちも全速力で来たんよ」
「急がせちまったみたいで悪いな」
「いやいや、むしろ良い方向に期待を裏切ってくれて嬉しいよ。
こういう試験でビル3つも倒壊させた人なんて聞いたこともないし」

 

悪戯っぽく笑うはやてに、劾は少しだけバツの悪そうな顔をしながら言い分を述べる。

 

「今回の場合はアレが一番効率的だった。実戦では余り使える手では無い事は承知している」
「そやな。出動の度にバカスカ壊されてたら、六課の家計は火の車や。
それでもこのタイムは驚異的だけどな」
『結果オーライだ』

 

なんとも行き当たりばったりな思考の8に苦笑いをしながら、はやては手元のパネルを操作して、

 

なのは達に連絡をとった。

 

「あ、なのはちゃん?今こっちの試験が終わったよ」
『こっちは今着いたところ。──ってもう試験終わったの!?』

 

通信用の画面に映るなのはの後ろから、フェイトやスバル達の驚く声が聞こえた。
画面の中で慌しい表情をしたなのはが少し横にずれ、開いたスペースに入ってきたフェイトがはやてに質問する。

 

『こんな短い時間ってことは、ロウ達はもう撃墜されちゃったの?』
「ううん、2人は見事に全機撃墜。文句無しの合格や!」

 

画面の後ろで、ロウ達の前に受験した2人がさらに驚愕の声を発するが、
少しだけ冷静さを取り戻したなのはが皆を代表して質問した。

 

『劾さん達は一体どんな手段をつかったの?
多分、私でももう少し時間がかかるよ』
「それがな、ビルごとスフィアを撃墜したんよ」
『はい?』

 

言っている事の意味がよく分かっていないなのはとフェイトに、はやては経緯を説明する。
話を聞いた4人、特になのははその戦闘方法を信じられなかった。
なぜなら、なのははつい先日2人と模擬戦をしていて、その時にはいかに廃棄都市のおん
ぼろビルとはいえ、それほどの大質量を破壊できる装備も機能も両フレームからは確認されなかったからである。
なのはがモニター越しにロウと劾に目配りすると

 

『レッドフレームもブルーフレームも装備を追加したんだぜ!』

 

とロウから疑問に対する答えが返ってくる。
それを聞いたなのはは少しの間瞳を閉じると、意を決したかのように言った。

 

「それじゃあロウさん、劾さん。
正式に特別戦闘教育員と戦闘員兼メカニックアドバイザーとしての戦闘への参加を許可します」
(本当は、帰る所のある2人には危ない事をして欲しくないんだけど・・・。
ここまで結果を出されたら認めるしかない、か)
『おう!』『了解した』

 

なのはの言葉にそれぞれ答えるロウと劾、そんな2人をモニター越しに見ていたスバルとティアナは考えていた。
自分達もいつかはこの人達と肩を並べて戦えるのだろうか、と。
だが、このとき彼女等はまだ気付いていなかった。
それが叶うのは、そう遠くない未来の話であるという事を。

 

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