なのはASTRAYS_05話

Last-modified: 2009-09-24 (木) 20:43:27

老人達が作り出した悪役と破壊者──、2人は老人達の意のままに働き続けました。
あるときは学び、又あるときは戦い、彼等はいつしか自我を持つようになりました。
しかし、悪役を命じられた者は老人達の思惑とは違う成長を遂げました。
その変化は些細なことから生じたモノでした。
──そう、それはたった1人の男との出会いから・・・。

 

【山岳地帯 上空】

 

 劾、フェイトと合流したなのはが本部に連絡を入れる。

 

「こちらスターズ1。ブルーフレーム及びライトニング1と合流しました」
『了解。スターズ1、ライトニング1、ブルーフレーム、エンゲージ!』
「こっちの空域は3人で抑える。
ロウは予定通り新人達のフォローをお願い」
『あいよ、フェイト!そっちも抜かるなよ!』
「それとロウ、騎士カリムから預かったデータを8に転送しておく。
使えそうなら連絡をしてくれ」
『サンキュー劾!おっと、こっちもそろそろ現場に着くぜ!!』

 

ロウからの通信が切れると、3人はガジェット2型に向かって一直線に進んでいった。
なのはは飛行中のフェイトに並ぶと、懐かしむ様に話しかける。

 

「同じ空は久しぶりだね、フェイトちゃん」
「うん、なのは」
「フフッ、それじゃぁ下と背中は任せますね、劾さん!」
「ああ、了解した。ミッションスタートだ!」

 

劾の掛け声と共に、なのはとフェイトが散開する。
次の瞬間、2人が元居た位置を上から迫った3機のガジェット2型が通り過ぎ、
それを見越して放たれたブルーフレームのバズーカによる爆風がその全てを飲み込んだ。
なのははすぐさま方向転換をすると、先ずは隙の少ないショートバスターを放ち2機を撃墜、
さらにこの攻撃によって散開した敵に対してアクセルシューターで追い討ちをかけ、分隊1つを一瞬で殲滅させる。
一方で、フェイトは自身の持ち味である高機動戦闘を存分に発揮して敵を攪乱しつつ、
自身のデバイスであるバルディッシュのハーケンフォームで斬りかかり、鎌状の魔力刃によって敵の数を確実に減らしていった。
さらに刃による攻撃と平行して、離れた敵には簡易誘導性能をもったプラズマバレットを放っている。
ガジェット2型の軌道へと的確に打ち出された魔力弾は吸い込まれるように命中し、相手を爆散させた。
2人の攻撃をなんとか掻い潜りながら死角から襲い掛かる2型も、コンプリートセンサーによって
完全に敵の動きを把握したブルーフレームの誘導魔力弾により堕とされていった。

 

──遡ること数時間。

 

【機動六課 訓練シュミレート施設】

 

 機動六課が動き出してから2週間が過ぎた。
ロウの探し人やC.E.の世界は未だに見つかっていないが、それでもロウと劾はミッドチルダで前向きに生活をしている。
元々ポジティブな2人ではあったが、特にここ最近では2人とも機動六課での仕事で大忙しで、
落ち込んでいる暇などは与えられなかった。
新人達4人も六課の生活に慣れてきたらしく、今ではしっかりとなのはの教導についていっている。
この日も早朝訓練のシュートイベーションで、なのはが新人達の相手をしていた。

 

「我が乞うは疾風の翼、若き槍騎士に駆け抜ける力を」
『Boost up acceleration』

 

キャロの両手に桃色の光が収束していき、それを一旦左手に集めて拳を横薙ぎに振った。
それと同時にキャロの隣でエリオが構えていた槍型のデバイス”ストラーダ”が光に包まれ、機動力が強化される。

 

「あの、かなり加速が付いちゃうから・・気をつけて」
「大丈夫、スピードだけが取り柄だから!
行くよ!ストラーダ!!」

 

ストラーダから勢いよく魔力が噴出され、その力を溜めていく。
その間ティアナの砲撃や、キャロの使い間である飛竜”フリードリヒ”の放つ火球がなのはの注意をひきつける。
そして・・・

 

「エリオっ!今っ!!」
「いっけえぇぇっ!」
『Speer angriff』

 

ティアナの合図と共にエリオが激しい勢いでなのはに突貫した。
爆風で吹き飛ばされたエリオは、なんとか近くのビルの踊り場に着地する。

 

「エリオ!」

 

スバルが心配の声を上げ、エリオはそれに応える様になんとか体制を立て直す。
土煙が晴れてゆき、中からなのはが現れたが一見どこにも攻撃がヒットした形跡はなかった。
しかし

 

『Mission complete』

 

なのはのインテリジェントデバイス、”レイジングハート”から新人達にとって予想外の言葉が放たれる。

 

それに同意するように、なのはが自分の左胸の上を指差して言った。

 

「うん、お見事。ちゃんとバリアを貫いてジャケットまで通ったよ」

 

その言葉に新人達は皆、明るい顔になる。
早朝訓練終了との事でなのはの掛け声により4人が整列した時、エリオが違和感に気付いた。

 

「──なんか、焦げ臭くありません?」
「ん、そういえば・・・」

 

なのは達が臭いの原因を探すように辺りを見渡していると、スバルはハッとした様に自分のローラーの異変に気付く。
どうやら先程のシュートイベーションでのオーバーワークが祟ったようで、あちこちから火花を散らしている。

 

「しまった~、無茶させちゃった・・・」
「オーバーヒートかなぁ。
ティアナのアンカーガンも厳しい?」
「はい、騙し騙しです・・・」
「皆訓練にも馴れてきたし、そろそろ実戦用の新デバイスに切替えかな」

 

なのはが頬に指を当てながらひとりごちると、確認するかのようにティアナが呟いた。

 

「新・・・デバイス?」
「「『その通り!!』」」
「うわっ」

 

新人4人が振り向くと、そこにはメカニックのシャーリーと8を持ったロウが腕を組んで立っていた。

 

「あれれ?シャーリーもロウさんもどうしたんですか?」

 

2人の登場を前もって聞かされていなかったなのはが2人に問うと、ロウがそれに答えた。

 

「新人たち用のデバイス調整が完了したことの報告と、それに合わせてここの訓練シュミレータへの初期設定ってとこだ」
「なるほど。すごくグッドタイミングですね」
「おうっ!こっちの作業は数分あれば終わるから、都合がよければ30分後位にデバイス調整室に来てくれ。
それで大丈夫だよな、シャーリー?」
「はい。あっちは準備ばっちりです」

 

それを聞いたなのはは、新人達4人を見回すと少しだけ考えてから指示を出した。

 

「うん。それじゃぁ4人は一旦宿舎でシャワーを浴びて、着替えてデバイス調整室に集合しようか」
「「「「はいっ」」」」

 

応えと同時に5人は、なのはを先頭にして移動を開始する。
その後ろではロウとシャーリーが空間に映し出されているパネルを操作していた。
そんな中、ロウの通信機に劾からの通信が入る。
どうやらフェイトの車に乗っているようで、その後ろにははやての姿も確認できた。

 

「ロウ、俺はこれから八神部隊長と聖王教会へ行ってくるが・・・。
なにか必要な物や情報はあるか?」
「あ~今は特に。8、お前は?」
『おいおい・・・、忘れたのか?ロウ。
例のガジェット2型だったか?
あれの詳しいデータが入っていたら持ってきてくれ』
「そうだったな!忘れてた」
「2型・・・、割と最近確認されたという飛行型か。了解した」

 

劾からの通信が途切れると、ロウは作業へと戻った。

 

【ハイウェイ】

 

 フェイトが6番ポートへ行くとの事だったので、劾とはやては途中までそれに便乗して車に乗せてもらっている。
フェイトが運転する車の中で、三人は聖王教会の事について話していた。

 

「聖王教会騎士団の魔導騎士で、管理局本局の理事官・・、カリム・グラシアさんか。
劾さんは勿論のこと、私もお会いした事はないんだけど」
「そやったね」
「はやてはいつから?」

 

はやては頬に指をあてて考え込んだ。

 

「ん~、私が教会騎士団の仕事に派遣で呼ばれた時で、リィンが生まれたばかりの時やから・・・。
8年くらい前かなぁ」
「─ほう・・・」「そっか」
「カリムと私は信じてるものも立場もやるべきことも全然ちゃうんやけど、今回は2人の目的が一致したから・・・。
そもそも六課の立ち上げ、実質的な部分をやってくれたのは殆どカリムなんよ」

 

やたらと上機嫌な感じで、指を立てて話すはやてをフェイトはクスクスと笑いながら聞いている。
そんなフェイトの隣の助手席で劾は、数年前、自分とロウが初めて出会ってからの事を思い出していた。

 

「フッ、俺とロウの関係に少し似ているかも知れんな・・・」
「そうなんだ」
「ああ、普段は別行動でやっている事も仕事もその動機も違うのだが、あいつとは何故かよく会ってな」

 

「え、でも劾さん達の世界って、地球はともかく宇宙にまで進出していたんですよね?
そんな広範囲で”よく会う”って・・・」
「運命みたいなものを感じるなぁ」
「いつでも味方だった訳では無い。
初めて会った時、俺はあいつを始末する依頼を受けていた」
「始末って・・・」
「戦争中だったからな、よくある事だ。
その後、俺はあいつに何度も助けられてな・・。
その借りを返す為にも今回のロウの旅に同行した」

 

まさかこんな長旅になるとは思っていなかったがな、と劾が付け足すとはやてとフェイトは少し暗い顔になる。

 

「・・・俺達の世界がまだ見つからない事は気にするな。
今はそれよりもやるべき事があるだろう?」
「うん、ありがと。
しっかし、私もカリムに借りを作りっぱなしやなぁ。
今回もカリムのお蔭で、私は人材集めの方に集中できた」
「信頼できる上司って感じ?」
「ん~、どっちかって言うとお姉ちゃんって感じや。
まぁ、レリック事件が一段落したらちゃんと紹介するよ」
「うん、楽しみにしてる」

 

【機動六課 デバイス調整室】

 

 部屋に集まった新人達の目の前にある机の上に、4人の為に作られた新デバイスが浮遊している。
ティアナ達はそれを眺めながら感嘆の声を洩らしていた。

 

「うわぁ、これが私たちの新デバイス・・・、ですか?」

 

ティアナの問いに、近くに立っていたシャーリーは片手を上げて応える。

 

「そうでーす!設計主任は私、協力でなのはさんフェイトさんレイジングハートさんとリィン曹長。
システム構築とギミックはロウさんと8さんの豪華メンバーでガッチリ作りました!!」
「はぁ・・・」

 

エリオとキャロは、待機フォルムで浮いている自分達の新デバイスを眺めながら少し残念そうに言った。

 

「ストラーダとケリュケイオンは変化無し、かなぁ」
「うん。そうなのかなぁ」

 

今度はロウと8がエリオとキャロの頭に手を置いて解説を始めた。

 

「いんや、変化が無いのは外見だけだぜ!」
『2人ともちゃんとしたデバイスの使用経験が無かったらしいからな。
最低限の機能しか持っていない基礎フレームを渡していた』
「あ、あれで最低限ですか!?」
「ほんとにですか!?」
「おう!ま、俺が一から作ったデバイスだから、基礎フレームといってもそこらのデバイスよりも出力が高いと思うけどな!」

 

メカニックスタッフの2人がそれぞれに熱く語っていると、部屋に小走りでなのはが入ってきた。

 

「ごめんごめ~ん、おまたせー」
「お、なのは」
「ナイスタイミングです、なのはさん。
丁度これから機能説明を始めようかと・・・」
「そう。すぐに使える状態なんだよね?」
「ああ、このまま実戦に出しても問題ないぜ!」
「それじゃぁ説明を始めますね」

 

言いながらシャーリーが手馴れた様子でパネルを弄ると、部屋に備え付けられていた大型スクリーンに4機の新デバイスが映し出された。

 

「まず、この子達は数段階に分けて出力リミッターをかけているのね。
一番最初の段階だと、元々使っていたデバイスより少し出力が高い程度だから、それで扱いを覚えていく、と」
『お前達と一緒にデバイスが成長していく感じだ』

 

8の補足に頷きながら、シャーリーは説明を続ける。

 

「スバルの方は、リボルバーナックルとのシンクロ機能も上手く設定できているからね。
収納と瞬間装着機能も付けておいたから持ち運びは便利になるはずだよ」
「本当ですか!?あはは、ありがとうございます」
「うん、さらにデバイスから直にウイングロードを展開できるから、攻撃や移動の幅も広がると思うよ」
「ふぇ~、最近の技術はすごいねぇ。昔よりかなり便利になった」

 

なのはが感嘆の声をあげるが、ロウとシャーリーはかなり疲れた顔をしていた。

 

「いや、ウイングロードってスバルの先天的スキルだろ・・・」
「あ、はい。そうですけど・・・」
「大変でしたよねぇ~、ロウさん・・・」
「ああ、大変だったよな、シャーリー・・・」

 

2人はどこか遠い所を見ながら同時に言う。

 

「「なにせこのスキルの設定だけに2日徹夜したからねぇ(したからなぁ)」」
「あ・・・、えっと・・、つ、使いこなして見せますっ!!」

 

メカニック陣とスバルのやり取りを見ながら苦笑いをしていたなのはは、新人達にきりだした。

 

「まぁ、細かいことは使いながら馴れていってもらうとして、何か質問はあるかな?」

 

4人は暫く顔を見合わせていたが、やがてティアナが全員を代表するかのように手を上げる。

 

「あの、先程話していた出力リミッターって、なのはさん達にも掛かっていますよね?」
「あぁ、私達はデバイスだけじゃなくて本人にもだけどね」

 

なのはの言葉に新人たちは声をだして驚いた。
本来、人間に魔力リミッターを掛けるのは犯罪者の再犯を防ぐためが殆どである。
まだ幼いエリオやキャロですら、それをなのは達が掛けているのは余程の理由があるからだろうという事を理解できるのだが、
肝心の”その理由”が全く思いつかなかった。
少し時間を置いてから、ロウが悩んでいる新人達に説明する。

 

「能力限定っつってな、この隊の副隊長以上の奴等は皆つけてるんだ。
こいつで個人の魔導師ランクを落としてやることで、部隊毎に定められた保有魔力ランクの
総計規模範囲内に収まるようにしているんだよ。
えっと、なのははいくつ落としているんだっけ?」
「私は元々S+で、2,5ランクダウンでAAまで。
だからそろそろ1人で皆の相手は辛くなってくるかなぁ」
「能力限定は滅多な事では外せないし、外すにも直属の上司の許可が必要になるから色々と不便なんだけど、
最大戦力の底上げって部分ではかなり有効な手段だな。
具体的には──」

 

ロウの説明を聞いていた新人達だが、少し詳しい説明に入った時点でティアナ以外の3人がついていけなくなってきた。
それに気付いたロウが、ニカニカと笑いながら一言で締めくくる。

 

「まぁ、簡単に言うとだな・・・。
戦力アップの為の裏技だ!」
「にゃはは、みもふたもない・・・」
『だが事実だ!』

 

その後は特に質問も無かったので、午後の訓練でデバイスの微調整を行うことになる。
しかしその前に敵が現れる事を、この時は誰も予想をしていなかった。

 

【聖王教会 大聖堂】

 

 ミッドチルダ北部のベルカ自治領内に存在する聖王教会本部。
一部ではその存在を快く思っていないものも居るものの、時空管理局とは良好な関係を築いてきた
次元世界最大規模の宗教組織である。

 

劾とはやてが教会本部に到着すると、直ぐに牧師らしい人物に中へと案内された。
3人は暫く長い通路を歩いていたが、先頭を歩いていた牧師はある一室の前で立ち止まるとその扉をノックした。
すると部屋の中から「どうぞ」という女性の声が聞こえ、目の前の大きな扉が開いた。
中に立っていたのは20代半ば程度の綺麗な金髪の女性で、修道服に似た服に紫色のリボンが特徴的だった。
はやてがその女性の目の前まで進むと、被っていたフードを下ろして話しかける。

 

「カリム、久しぶりや」
「はやて、いらっしゃい。 部隊の方は順調みたいね」
「うん。カリムのお蔭や」
「そういう事にしておくと、色々お願いもしやすいかな・・・」

 

微笑みながら答えるカリムは、はやての後ろに立っていた劾へと視線をむける。

 

「えっと、そちらが・・・」
「ああ、今日来るって言ってた劾さんや。
うちの部隊で教育員してる」
「叢雲劾だ。よろしくたのむ」
「カリム・グラシアです。お話は伺っていますよ」

 

劾とカリム、お互いの自己紹介が済んだ所で扉がノックされた。

 

「騎士カリム、お茶の準備が出来ました」
「ああシャッハ、ありがとう」

 

カリムが答えると扉が開き、紫色のショートヘアーの女性がティーカップやらクッキーやらの乗った配膳台を押して来た。
劾とはやては窓際の丸テーブルへと案内され、それぞれ椅子に座る。
シャッハと呼ばれた女性はテーブルに紅茶などを手際良く置いていくと、はやてに話しかけた。

 

「お久しぶりです。お元気そうで何よりです、騎士はやて」
「うん、シャッハも健康そうや」
「はい、おかげさまで。そちらの方は?」
「話は聞いてると思うけど、叢雲劾さんや」

 

はやてとシャッハの会話の中で劾の名前が出た瞬間、一瞬にしてシャッハの雰囲気が変わる。
シャッハは含みのある笑顔で劾を見ると、劾の目の前に置かれたティーカップにお茶を注ぎながら言った。

 

「はじめまして劾さん、お話は常々騎士はやてや騎士シグナム、他にも騎士シグナムや騎士シグナムから伺っております。
なんでもナイフを使った接近戦が中々得意だとか・・・。
どうです、この後お時間が余っているようでしたら私と模擬せ──」
「ところで騎士カリム!」

 

雰囲気が変わったシャッハに何処かの模擬戦中毒者の面影を重ねた劾は、彼女が言い終わる前にカリムにきりだした。

 

「──最近ガジェットの新型が現れたという話を聞いてな。
ロウがガジェット2型の情報を求めているんだが・・・」

 

それを聞いたカリムは顎に手を当てて少し考えると、丁度いいわねと言ってシャッハの退室を促した。
カリムが手元のパネルを操作すると、丸テーブルを包むようにカーテンが閉じ、
空間映像でガジェット1型を含む3つのタイプのガジェットが表示される。

 

「これガジェットの・・・新型?」
「今までの1型以外に新しいのが2種類。
戦闘性能はまだ不明だけど2型は飛行可能、3型は・・割と大型ね。
本局にはまだ正式報告していないわ。
監査役のクロノ提督には、触りだけお伝えしたんだけど・・・」

 

カリムの話を聞いていた劾は、聖王教会と時空管理局が別組織という事を実感する。
(協力体制とはいえ、やはり一枚岩とはいかない、か・・・)
劾がそんな事を考えていると、はやてが空間に映し出された一つの映像に気がついた。

 

「これは・・・」

 

はやての意図に気付いたカリムは小さく頷いて言う。

 

「─それが、今日の問題。
一昨日付けでミッドチルダに運び込まれた不振貨物」
「・・・レリック、やね?」

 

聞いたことがあるはやての言葉に、今まで沈黙していた劾が反応した。

 

「レリックとは・・・、あの?」
「うん。前に話した”超高エネルギー結晶体”」
「今回見つかった物は、その可能性が高いの。
2型と3型が表立って現れたのも昨日からだし・・・」
「ガジェットがレリックを発見するまでの予想時間はどの位だ?」
「調査では、早ければ今日明日・・・」
「せやけどおかしいな。
レリックが出てくるのがちょう早いような・・・」

 

はやての言葉に疑問を感じる劾、それに気付かずにカリムは続けた。

 

「だから、会って話したかったの。
これをどう判断すべきか、どう動くべきか。
レリック事件も、その後に起こる筈の事件も、対処を失敗するわけにはいかないもの」
「その後に起こる事件?なにかそれらしい情報でも掴んでいるのか?」

 

劾の一言にはやてとカリムはしまった、という顔になる。
2人は暫く顔を見合わせると、カリムが劾に言った。

 

「申し訳ないのだけれど、これはまだ言えません。
でも、近いうちには必ずお話しますので・・・」
「了解した」
(サーペントテールといい、この部隊といい・・・。
俺の周りは秘密だらけだな)

 

はやてはホッと一息つくと、手元のパネルを操作してカーテンを開けた。

 

「まぁ、何があっても大丈夫。
カリムが力を貸してくれたお蔭で部隊は何時でも動かせる」
「即戦力の隊長たちは勿論、新人達も実戦可能だ」
「うん。それに予想外の緊急事態にもちゃんと対応できる下地もできてる。
そやから、──大丈夫!」

 

はやてが意気込んだ所で、唐突にアラームが鳴り響き、はやてと劾の通信機から赤いアラート表示が映し出される。
それと同時にカリムの机のディスプレイにもアラート画面が映し出され、カリムにシスターシャッハからの通信が入った。

 

「騎士カリム!教会本部から機動六課への出動要請がかかりました。
教会騎士団の調査部が追っていたレリックらしき物が見つかったようです。
対象はガジェットに制御を奪われた山岳リニアレールで移動中とのことで、 調査部の調べによると、
リニアレール内のガジェットは最低でも30体、 大型や飛行型の新型タイプもいるかもしれない、とのことです」
「かなりまずい状況だな・・・」

 

シャッハの情報を聞くなり、はやては副官であるグリフィスとなのは、フェイト両隊長に通信を入れた。

 

「はやてちゃん、フェイトちゃん、グリフィス君。
もうそっちに情報が入っていると思うけど、いきなりハードな初出動や!
スターズもライトニングもいけるか!?」

 

はやてが両隊長に聞くと、直にフェイトとなのはの返事が返ってくる

 

「わたしはいつでも」
「わたしも」

 

それを確認したはやては、それぞれに指示を出し始める。

 

「ほんならシフトはA-3、グリフィス君は隊舎での指揮、リィンは現場管制、なのはちゃんフェイトちゃん劾さんは現場指揮、
ロウは現場での新人達のアシスト頼めるか?」

 

「了解だぜ!」
「よし、──機動六課フォワード部隊・・・出動!!」
「「「「「はいっ!」」」」」
「了解、皆は先行して。私も直に追いかける」
「うん。フェイトちゃん、市街地の飛行許可は出しとくな」

 

フェイトが車内でパネルを操作すると、車の上部に赤いランプが表れる。
そしてシフトレバーを操作して一気に加速していった。
カリムは未だに通信が開いているシャッハにはやてと劾を送っていくように指示を出す。

 

「はやて、聖堂の裏に出て。シャッハが待ってる。」
「おおきになカリム。今日のお茶美味しかったよ」
「俺はここから直に向かう。車を一台貸してくれ」
「はい、裏に一台手配してあります」
「助かる」
「それと、2型のデータはデバイスの方に送っておきますので・・・」
「了解した。急ぐぞ、部隊長」
「ほんなら、行ってきます」

 

【機動六課上空 ヘリ内部】

 

その頃、丁度六課から新人達となのは、ロウを乗せたヘリが飛び立っていった。

 

「新デバイスでぶっつけ本番になっちゃったけど、練習どおりで大丈夫だからね」
「デバイスの微調整は戦闘中に遠隔で行っていくから、お前達もがんばれよ!」
「はい・・・、頑張ります」

 

ヘリの中で浮遊しているリィンもエールを送る。

 

「エリオとキャロ、フリードも頑張るですよ!」
「「はい!」」「キュクル~」

 

「危ない時は私やフェイト隊長、ロウさんや劾さんがちゃんとフォローするから」
「ああ、だからびびってないで全力で戦ってみろよ!」
『逃げ腰よりも攻め込んでいった方が生存率も上がるぞ』
「「「「はい」」」」

 

そこまできてエリオがなのはの言葉に違和感を覚えた。

 

「あれ?でもロウさんも劾さんも魔力値0ですよね?
デバイスの微調整は解るんですが、フォローってどういう・・・」

 

キャロもエリオに同意して質問する。

 

「確かに・・。劾さん普段は戦闘指導してくれてますけど、ほとんど基本訓練や体術ですよね?」
「そうね。私やスバルもそれは気になっていた所だし」
「うん。私たちが受けた試験をどうやって短時間で一発合格したのか気になる」

 

なのははロウと劾の事を新人達に教えていなかった事を思い出し説明しようとしたが、それをロウが遮った。

 

「まぁ、見てのお楽しみってことだ。
魔法戦はまだ初心者だけど、お前らの邪魔にならない程度には戦って見せるぜ!」

 

ロウが満面の笑みで答えると、それでも気になっているのか新人4人はうずうずした様子だった。
なのははそれを見てハッとする。
(もしかして、皆の緊張を解く為にわざと・・・)
ヘリが出発してから個人差はあるもののずっと緊張を続けていた新人達だが、
今では初陣の緊張よりもロウや劾の戦闘方法に対する好奇心の方が上回っていた。
実際、新人達は念話で戦闘方法の予想と考察を繰り広げている。
だが感心しているなのはに対して、ロウと付き合いの長い8がなのはの予想をばっさりと一刀両断する。

 

『なのはが考えていることはまず無いぞ!
ロウはなにも考えていないだけだ!!』
「ふぇ、そうなの?」
「ん?なんの事だ??」

 

なのはとロウ、8がアホなやり取りをしている内に、ヘリは目的地付近に着いた。
リニアレールの線路が視認できる位の距離まで移動した所で、本部から通信が入る。

 

『空からガジェット反応です!航空型、現地観測隊を捕捉しました!
それとフェイトさんが飛行して、劾さんが陸路でそちらに向かっています』
「了解!ヴァイス君、私もでるよ。
フェイト隊長と劾さんとの3人で空を抑える」

 

なのはがヘリパイロットのヴァイス陸曹に言うとヴァイスは親指を立てて言った。

 

「ウスなのはさん、お願いします!」
『Main hatch open』

 

ヘリに刺さっているデバイス”ストームレイダー”がメインハッチを空けると、なのははロウに新人達を任せて飛び降りた。
高度が周りの山の頂上程度まで降下した時、なのはの首に架かっていたデバイス”レイジングハート”が光を放つ。

 

『Standby ready』
「レイジングハート、セーットアップ!」

 

起動キーによってなのはの体が桃色の光に包まれ、数瞬後に光の中からバリアジャケットに身を包んだなのはが現れた。

 

「スターズ1!高町なのは、行きます!!」

 

なのはの足から出ている翼型の移動補助魔法”アクセル フィン”がはばたき、加速していく。
一方なのはが見えなくなった頃、ヘリの中ではリィンが作戦説明をし始めた。

 

「今回の任務は大きく分けて2つ。
1つはガジェットを逃走させずに全機撃墜すること。
そして、もう1つはレリックを安全に確保すること。
ですから、スターズ分隊とライトニング分隊に分かれてガジェットを破壊しながら車両前後から中央に向かうです」

 

リィンが説明しながらパネルを弄り、リニアレールの見取り図を表示させる。
映し出された映像内のリニアレール中央車両部が点滅してた。

 

「レリックは此処、7両目の貨物室。スターズかライトニング、先に到達した方がレリックを確保するですよ」
「「「「はい!」」」」
「んで、俺と8は制御室に行って、リニアレールの制御を奪い返せば良いんだな?」
「はいです。制御室には沢山のガジェットがいると思われますので気をつけてくださいです」
『がってんだ!』
「私も現場に下りて管制を担当するですよ」

 

リィンフォースツヴァイは片手を上げると一瞬で服が騎士甲冑に変わる。

 

「おし、皆!気合入れて行こうぜ!!」
「「「「はいっ」」」」「キュクルー!」

 

機動六課の初戦闘が始まろうとしていた。
フォワード部隊はそれぞれの思いを胸に、戦場へと向かっていく。
自分達が得た、力の意味を考えながら・・・。

 

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