なのはASTRAYS_07話

Last-modified: 2010-04-07 (水) 23:34:57

 初出動から数日が経った。
新人達の訓練がチーム戦を想定したものから個人スキルのランクアップを主体としたものへと移行し始めた頃、聖王教会で以前から
調査していた2つのロストロギアが第97管理外世界”地球”の海鳴市で確認される。
本来なら地上本部の転送ポートを使って短時間で地球まで移動できるのだが、
六課の初出動と同日に起こった地上防衛用巨大魔力攻撃兵器”アインヘリアル”一号機襲撃事件の処理で、事実上地上本部はその機能を停止してしまっていた。
その為、出動の要請を受けた機動六課の面々はクラウディアに乗艦、現場へと向かっていた。

 

  STAGE 7 約束の刃・前

 

【艦船クラウディア 艦長室】

 

 数刻前まで食堂で新人達と雑談をしていたロウは、その途中でクロノに呼ばれ、劾と一緒に艦長室へとやってきていた。
劾がドアをノックすると、中から「どうぞ」と声がして自動扉が開く。

 

「久しぶりだな、ロウ、劾、それに8。元気にやっていたか?」
「ああ、おかげさまでな!」
『計らいには感謝している』
「・・・で、俺達を呼んだ理由を聞きたいのだが?」
「ああ、だが話はもう1人が来たら ──と、ちょうど来たようだ。」

 

艦長室に現れたのは無限書庫の司書を務めるユーノだった。
ロウと劾は意外な人物の登場に少し驚いてクロノを見る。
クロノは3人に座るように促すと、小さく溜息をついて話し始めた。

 

「ロウ、劾。2人に来てもらったのは他でもない、君達の世界についての話だ」
「俺達の世界について、なにか判ったのか?」
「ユーノが居るという事は、昔の文献にでも載っていたか?」
「ふぅ、やはり劾は鋭いな・・・。
この話はかなり突拍子も無いモノなんだが、それでも良いか?」
「ああ!」「頼む」

 

2人の返事にクロノとユーノは頷き合うと、ユーノは自分が無限書庫で見つけた文献の内容を説明し始めた。

 

「覚えているかな?
この前会った時にコズミックイラで検索してもソレらしい情報は見つからなかった、と伝えたよね」
「おう」
「そこで検索情報を変えてみたんだ。
”遺伝子操作技術”、”機械兵”って具合にね。」
『機械兵はモビルスーツを指すという訳か。
で、どうだったんだ?』
「検索条件と完全に一致って訳じゃないけど、数冊の本が見つかったんだ。

 

・・・そして見つかったどの本からも、同じキーワードが出てきたよ」
「それは?」
「”アルハザード”。
本人から聞いていると思うけど、かつてフェイトの母親が目指した場所」
「ユーノとなのはが出会うきっかけになったっていう事件の・・・」

 

ロウの言葉にユーノは静かに頷く。
そして、話の続きをクロノが説明した。

 

「だが、コズミックイラ=アルハザードという図式は確実に成り立たないんだ」
『歴史の問題だな』
「その通り。少なくとも君達から聞いた話では遺伝子操作技術が確立されたのは数十年前程度なのだろう?
だがアルハザードは御伽噺と言っても過言ではないくらい昔のものなんだ」

 

クロノの話に皆それぞれ思考を巡らせ、部屋を沈黙が支配する。
その沈黙を破ったのは劾だった。

 

「コズミックイラとアルハザードが同一ではないということは理解した。
だが、まだクロノの言う突拍子も無い話というのを聞いていなかったな」

 

クロノは暫く目を閉じると、意を決したように話し始めた。

 

「これはあくまで文献に記されていたモノで(、)成功したのか、否、実際に行われたかどうかも怪しいのだが・・・。
新暦が始まって間もない頃、アルハザードを人工的に生み出そうとした研究が行われていたらしい」
「世界を・・・創るだと!?」
「そんな事が可能なのか!?」
「さっき言った通り、突拍子も無い話さ。
その世界に移民させることによっての発展は望めるが、ゼロからとなるとまず無理だろう」
『だがソレを俺達に伝えたということは、何か思う所があるのだろう?』
「すまない。それは今調査してもらっている所で、話すことは出来ない」

 

クロノはただと続ける。

 

「一応、覚悟していて貰いたいんだ。
自分達の世界が、思い描いていた世界とは全く異なるモノだった場合の事を・・・」
「「・・・・」」

 

ロウと劾は当初、話がここまで大きくなるとは予想していなかった。
しかしクロノの話を聞き、ミッドチルダで自分達が過ごしてきた時間を振り返ってみたとき、それがとても笑い飛ばせる状況ではなくなっていることもまた、彼らには理解できたのだった。
この時はただ、自分達の世界が早く見つかる事を祈る他、ロウ達に出来ることは無かった。

 

【海鳴市 月村邸 庭】

 

 ロウ達が艦長室でクロノとユーノとわかれてから数時間が経過した。
なのはやフェイト、スターズやライトニング部隊の面々はバニングス家所有の山中にあるコテージの転送先へ、
八神家一同とロウ、劾は月村邸の庭の転送先へとたどり着く。
転送の光が晴れロウと劾が辺りを見回すと、そこには自分達の世界の地球とさほど変わらない景色があった。
2人がどこか懐かしいその風景に見惚れていると、近くの屋敷から紫色の髪の女性が手を振って走ってくる。

 

「はやてちゃ~ん」

 

女性の声に気付いたはやては、たちまち明るい表情になってその女性に返事した。

 

「すずかちゃん!久しぶりや。元気やったか?」
「うん。元気元気!皆さんもお久しぶりです」
「ご無沙汰しています」「お久しぶりです」

 

シグナムとヴィータが軽く頭を下げると、すずかはクスクスと笑いながらシグナムさん達も変わりませんねと答える。
そんなはやてとすずかの様子を見ていたロウは、はやてに2人の関係を尋ねた。

 

「なぁ、2人は大分仲よさそうだけど友達か?」
「あ、置き去りにしてもうてごめんな。
こちら現地協力者の月村すずかちゃん、仲良しの幼馴染や。
な、すずかちゃん」
「うん、仲良しで幼馴染ですよ」
「んで、こっちがロウ・ギュールさんでこっちが叢雲劾さん。
うちの部隊の頼れる隊員や」
「「外部派遣協力者扱いだけどな(だがな)」」

 

ロウと劾の息ピッタリの回答に笑いながら、すずかははやての今後の予定を確認する。

 

「あはは・・。
はやてちゃん、お仕事だからあんまりゆっくり出来ないんだよね?」
「う~ん、そうなんよ。
今、向こうの世界も色々と忙しくてなぁ」
「・・・そっか、 時間あるようならご飯とか一緒にたべよ」
「うん、きっと。次はいつ帰ってこれるかも分からんしなぁ」

 

少し残念そうに下を向く2人を見ていたロウは、はやての頭に手をポンと置いて言う。
すずかとはやてを仲間と離れて過ごしている自分に重ねながら・・・。

 

「距離や世界なんて関係ねぇよ。
”どんなに離れていても心まで離れたわけじゃない”、だろ?」

 

その言葉にすずかとはやてが顔を上げると、そこには”何か”を信じて前を向くロウの真っ直ぐな瞳があった。
はやては一度小さく頷くと寂しさを振り切ったかのように言う。

 

「そやな!こんなところで落ち込んでても何も変わらない。
とりあえずはパーッとこの仕事を終わらせて、ミッドチルダもちゃっちゃと平和にして、それからゆっくりするんや」
「がんばってね、はやてちゃん。
あ、頼まれてた車とクルーザーは外に出してあるから。今鍵とってくるね」
「あ、それなら私も一緒に行く。ほんなら皆は・・・」

 

はやての言葉を察したようにヴィータ、シャマルが応える。

 

「うん、いってらっしゃい」
「私たちは入り口の方に廻っています」

 

ロウと劾、シャマルをシグナムが目で促して5人は先に入り口の方へと歩いていった。
それを見送り屋敷の中へ鍵を取りに行こうとしたはやての元へ、なのはから通信が入る。

 

『ああ、はやてちゃん?
こっちは無事に到着して民間協力者・・、アリサちゃんと合流できたよ』
「了解や。こっちのシグナムも、もうすぐそっちに合流できると思うよ」
『うん、待ってるね。
ところで劾さん達は予定通りに現場へ向かうの?』
「そのつもりや。
まぁあの2人だけならともかく、ヴィータもついてるしなんとかなるやろ」
『そうだね。海側のロストロギアはあの3人に任せて、こっちはこっちの仕事をがんばろうか』
「そやね。それじゃぁ現地で」
『は~い』

 

はやてがなのはとの通信を終わらせると、すずかが何かを閃いた様にはやてに提案した。

 

「そうだ!皆はあのコテージに泊まる予定なんだよね?
なら今日の夕食は私とアリサちゃんで作りに行くよ」
「そんな、いいんか?」
「うん!って、私1人で決めちゃったらアリサちゃんに怒られちゃうね。
丁度今日はアリサちゃんとお出かけの約束だったから、その時にでも話してみるね」
「うん、すずかちゃんありがとうな」

 

【海鳴市 沖合】

 

 すずかに借りたクルーザーを劾が運転し、ロウ、劾、ヴィータの3人は海鳴の岬から1時間ほど沖にでた所にいた。

 

今回発見されたロストロギアは2つ。
1つは街中を移動し続けているもので、所々で確認されているものの未だに全容を掴みきれていない。
こちらのロストロギアは、なのはを現場指揮官として六課の前線メンバーが街中にサーチャーを取り付けることで対応しようとしている。

 

そしてもう1つのロストロギアは海中を移動するタイプである。
このロストロギアは何らかの要因で地球に飛ばされた後、海中の生物に寄生することで移動手段を得ていた。
一度聖王教会の騎士団が接触し発信機を取り付けたものの、海中を移動する極めて稀な相手に翻弄されて、結局逃してしまったということらしい。
基本的に海中のロストロギアは人が操縦する水中専用の機械を使って探索するのだが、
その機械自体が自動車ほどの大きさを持ち、目立たないように探索するのには不向きであった。
地球は管理外世界、つまり魔法文化が発展していない世界である。故に今はシーズン中ではなく人が少ないとはいえ、
万が一水中専用機でロストロギアなどという”異物”を探索しているところを目撃されてしまったら事である。
よって、この任務ではある程度小型で水中行動が可能、さらに相手がロストロギアであるので戦闘をこなせる”何か”が必要だった。

 

 目的のポイントにたどり着いた3人が通信ではやてにその旨を伝えると、はやてが作戦を再確認する。

 

『ほんなら作戦のおさらいするよ』
「おう」「ああ」
『まずヴィータは指揮、通信担当で逐一状況の報告な』
「うん」
『そんで劾さんは海中から、ロウは上空からの探索。
発信機の信号を辿っていけばすぐ見つかると思うよ。
そんでロストロギアを発見しだい捕獲作業に取り掛かってもらいます』
「おう」「了解だ」
『ただ、教会騎士団が発見した時点ではすでに水中の生物に寄生していたらしいから細かいことは解ってへん。
相手がロストロギアだって事を忘れないで慎重にな。
万が一のときは”最悪”撃墜してくれて構わないから』
「わかったぜ」
『それじゃ、ミッションスタートや!』
「・・・・・」

 

はやてに台詞を奪われた劾は、若干ムスッとしながらデバイスを機動させる。
この作戦では空、海の2ルートからの探索及び捕獲作業が必要とされていた。
空は最近ロウがコズミックイラでのデータを転用、鹵獲したガジェット2型を元にして開発したフライトユニットが使える。
残るは劾の担当である海中探査であったが、ミッドチルダの技術ではこれ以上海中探査機の小型が無理そうであった。
そこで劾が考え付いたのが、ブルーフレームの新装備”スケイルシステム”である。
これは元々六課が水中での戦闘にほぼ無力ということを悟った劾が申請したもので、
コズミックイラで一時的に劾が使用していたスケイルシステム装備型のブルーフレームを元として造られた。
ブルーフレームの装着が完了すると、ヴィータがその姿に感嘆の声をあげる。

 

「おぉ~、思ってたよりスゲーかっこいいな!それ!!」

 

スケイルシステムを装備したブルーフレームは、表面に極小のウロコ状のユニットが無数に並んでいるスケイルアーマーを四肢に、
バックパックには水中用大型のユニットを装備。
さらに頭部にはクリアーイエローの外装で覆われた水中用センサーを装備していた。
劾は早速各部のチェックを終わらせると、ヴィータに出撃許可を促した。

 

「どうやら各部に問題は無いようだ。
日が暮れる前に仕事を終わらせたい、出撃許可を・・・」
「おう、気をつけてな」
「了解した。サーペントテール、ナビを頼む」
『Consent』

 

劾は発信機の信号が表示されているパネルを表示させると、青く澄んだ海の中へと潜っていく。
海中に入るなりスケイルアーマーについている極小のウロコが一気に動き出し、数秒後には船から遠く離れていた。
一方、船の上でフライトユニットの最終点検を行っていたロウも準備ができたらしく、ヴィータに出撃の旨を伝える。

 

「こっちも準備完了だ。いつでも行けるぜ!」
「わかった。だけど気をつけろよ、魔力切れで落っこちましたじゃシャレになんねーからな」
『フライトユニットは着脱、遠隔制御可能だ。
イザという時は私1人で帰ってくるから安心しろ』
「・・・お前の相棒は薄情だな」
「なぁに、それでもギリギリになったら助けてくれるさ。
それじゃあ──、」
『レッドフレーム・フライトユニット、発進するぞ』

 

ロウが船から勢いよく飛び出すと、デバイスを起動させて光に包まれる。
現れたレッドフレームの背中には赤と黒を基調とした飛行ユニットが装備されていて、劾が向かった方向へと一気に加速していった。
レッドフレームを見送ったヴィータはその方向をボーっと眺めながら呟く。

 

「あっちも中々かっこいいな・・・」

 

 発信機の信号の元へと接近していくブルーフレームに、空路で先行したロウから通信が入る。
劾は一旦ブルーフレームの速度を落として通信を繋いだ。

 

「どうした、ロウ?」
『目標を発見したんだが、ちとまずいことになってるぞ』
「・・・どういうことだ?」
『今からそっちに画像を送る』
「了解した」

 

ロウから送られてきた画像には淡くオレンジ色に光る、巨大なクラゲが写っていた。
しかし問題はその大きさではない。

 

「これは・・・、すごい数だな」

 

巨大クラゲは一匹だけではなく、画面一面を覆うくらい大量にいたのだ。

 

『このクラゲ、カメラ越しなら見えるんだけど肉眼では見えないんだよ』
「なるほど、教会騎士団が見失ったのも頷ける」
『しかもこいつら、こっちの魔力弾を吸収しやがる!』
「ガーベラストレートの斬撃はどうだ?」
『ああ、真っ二つにしてやったよ!そしたら・・・』
「そしたら?」
『二匹に増えやがった』
「・・・・・・。 とりあえずキャビテーティング魚雷で仕掛けてみる」
『たのむぜ』

 

劾はロウのいる地点へと向かうと、クラゲの大群の中に六連装の専用銃についている小型の魚雷を放つ。
高速で発射された魚雷は10匹近いクラゲを巻き込んで爆発し、辺りを爆発による泡が覆った。
あの爆発なら倒せただろうと考えていた2人だが、泡の中から(は)予想だにしていなかった結果が現れた。

 

「「・・・・・」」
『おいロウ、劾、めちゃくちゃ増えたぞ』
「わかってるよ!」
「チッ」

 

8のツッコミにイラつきながらも2人は一旦その場を離れ、ヴィータに通信を送る。
通信に出たヴィータはかなり焦った様子で対応した。

 

『どうした、トラブルか?
今こっちも立て込んでるから、緊急じゃないなら後にしてくれ』
「あ、ああ分かった。それじゃ、後でまた連絡するぜ」
「──どうやら向こうもトラブルの様だな」
「ああ、俺達で何とかするしかないな」

 

ロウと劾は再びクラゲの攻略法を模索する。
しかし、現在の装備では敵の数を減らす事は難しそうだった。

 

「ちくしょう!せめて魔力の属性変化が出来れば・・・」
『無いものねだりしてもしょうがないぞ』
「・・・!いや、一概に”無い”とも言い切れないぞ」
『どういうことだ?』
「サーペントテール、力を貸してくれないか?」
『Here is a place where memories are deep for her.
It might be a fate of something that fought again here.
・・・Ok,requests it from her..
(ここは彼女にとって思い出深い場所です。ここで再び戦うことになったのも運命でしょう。
・・・分りました、彼女に依頼してみます)』

 

『wird vorübergehend Frost des Kontrollcharakters des Hauptkörpers abgesagt.
rufe dafür, über die Eigenschaftsänderungsmagie zu berichten.
Die Erlaubnis.
(本体及び管制人格の凍結を一時的に解除。属性変化魔法の情報提供を依頼。承諾)
The selection of the arms material begins.
Uniting and synchronization begin.
…Additional arms Completion.
(武器素材の選定を確認。同期化と結合を開始。・・・兵装の追加が完了しました)』

 

ミッドチルダでの初戦闘時と同じようにサーペントテールはどこかに通信を行い、
レッドフレームとブルーフレームに膨大な量のデータを流してゆく。
そしてブルーフレームの持っていた六連装魚雷銃が光を放ち、魚雷の形が変化した。
一方で、レッドフレームは両腕が光に包まれ、肘にカートリッジシステムが搭載される。

 

『It selected it from the combat record in C.E.
If it is you, it would be better to be able to master it.
(コズミックイラでの戦闘記録から選定しました。
2人なら使いこなせるはずです)』
「おうっ!任せとけ」
『And they are the messages.Please continue your favors toward the master.
(それと彼女からの伝言です。”主をたのむ”と) 』
「なんの事だ?」「サーペントテール、どういうことだ?」
『sorry,it is not possible to talk any further.(すみません、これ以上はお話できません) 』
「・・・解った。お前が話せる時がくるまでまで待とう」
「なんだかよくわかんねーけど・・・ま、いいか。それより今は──」
「ああ、こいつ等を片付ける!」

 

2人は気合を入れると、再びクラゲの大群に向かって加速する。
ブルーフレームは先程の様に魚雷発射用銃を構え、大群の真ん中に向けて引き金を引いた。
クラゲに直撃した魚雷は爆発ではなく広範囲に水色の魔力陣を展開し、そして

 

「凍てつけ!」
『Eternal Coffin』

 

劾の掛け声と共に殆どのクラゲが凍り付いてしまう。
何とか凍るのを逃れようとして海面へと上がってきた、体内に青く輝くひし形の宝石が埋め込まれているクラゲの本体に、今度はロウが攻撃を仕掛けた。

 

「いくぜっ、8!!」
『がってんだ!カートリッジロード』

 

レッドフレームの肘から空になった薬莢が飛び出し、レッドフレームの手のひらに膨大な魔力が集中する。
さらに、先程サーペントテールから送られてきたデータを基に集めた魔力に対して8が属性変化を行った。

 

「いっけぇぇ!光雷球っ!!」

 

ロウはレッドフレームの手のひらに現れた雷の球を、叩きつけるようにしてクラゲの本体に叩き込む。
光雷球をまともに喰らったクラゲの本体は、全体から光を放ちながら消滅してしまった。
凍り付いていたクラゲたちも次々に消滅していき、その場に残ったのは青く輝くひし形の宝石だけだった。
ロウはその宝石になのはに習った封印処理を施すと、収納空間へと格納する。

 

「ミッションコンプリートだ。
ヴィータの方もなにかトラブルがあるらしいから、急いで帰ろう」
「わかった。ブルーフレームは俺が抱えてった方が早く帰れるよな?」
「ああ、頼む」

 

ロウはブルーフレームを抱えると、全速力でクルーザーへと向かっていった。

 

 クルーザーへと到着した二人を、大分疲れたようなヴィータが出迎えた。
しかも服装は来るときに着ていたラフな外出着ではなく、赤を基調としたゴシックロリータなバリアジャケットに身を包んでいる。

 

「おかえり~、連絡してきたけどなんとかなったのか?」
「ああ、ばっちりだぜ!」
「それよりも・・・、なにかあったのか?」

 

ヴィータはわざとらしく溜息をつくと、船室の方を指差して言った。

 

「ったく、この時期に溺れてる奴見つけるとは思わなかったよ。
しかも本人は”火星に向かう途中で、気付いたらここで溺れていた”とか言ってるし、
しばらく何も食べてねぇって言ってたから、今はそこで簡単なモノを食べてるよ・・・」

 

ヴィータが簡単に説明をしていると船室のドアが開いて、溺れていた本人が現れる。

 

「あの~、危ない所を助けていただいてありがとうございます。
この御恩は一生忘れません」

 

現れたのはピンク色の髪をした、10代前半に見える可愛らしい女の子だった。
その女の子を見た瞬間ロウと劾、8の動きが、劾が先程使ったエターナルコフィンでも喰らったかのように固まってしまう。
それを心配そうに見ているヴィータとは対照的に、女の子はパァっと明るい表情になる。
数瞬の後に再び動き出したロウが、岸まで聞こえるくらいの声量で少女の名前を叫んだ。

 

「──セ・・セトナァァァーッ!!お前こんな所でなにやってんだよ!!!」
『なぜ地球に・・・、ありえない』
「わぁ、お久しぶりですロウ様、劾様。
火星に向かうシャトルに乗っていたんですが、気がついたら海で溺れていました」
「なんだロウ、知り合いか?」

 

ヴィータが最もな質問をすると、ロウは大きく頷いてセトナの説明をした。
説明を受けたヴィータは、眉間に皺を寄せながら状況を整理する。

 

「えーと・・・、つまりコイツはお前達の世界の、火星のコロニーの重要人物と」
「はいっ、そうなりますね」

 

セトナは微笑みながら答えると、ヴィータはさらに溜息をついて言った。

 

「はぁ、こんな状況じゃ、とりあえずウチの部隊で保護するしかなさそうだな。
はやてにはあたしから連絡しとくよ」
「おうっ!」「ああ、頼む」
「よろしくお願いしますね。ヴィータ様」

 

トラブルはあったものの、無事に任務を終わらせたロウ達はなのは達との合流場所である山中のコテージへと向かう。
夕日を背にして4人を乗せたクルーザーが、ゆっくりと岸へと(岸へ向けて)加速していった。

 

【山中 コテージ】

 

 ロウ達がコテージに到着した頃には日も暮れていて、辺りを静寂と暗闇が包んでいた。
馴れていない任務に新人達は休憩中、隊長たちは昼に会ったすずかともう1人、金髪の女性と一緒に夕食を作っている。
なぜかシャマルだけが少し離れた所でカレーらしいもの(らしきもの)を作っていたが、気にせずロウとヴィータははやての元へとやってきた。
近づいてきた2人に気付いたはやては、一旦食事を作る手を止めて話しかける。

 

「お帰りロウ。もうすぐ晩御飯できるからまっててな」
「おうっ!もう腹ペコだぜ」
「はやてー、今日の晩御飯なに?」

 

はやての前で子供の様にはしゃぐヴィータの頭をなでながら、はやてはキョロキョロと誰かを探している。

 

「ん?どうした」
「ん~、ヴィータが保護したって子は・・・」
「ああ、セトナならほらそこ」

 

ヴィータが指差した先には、せっせと皿を運んでいるセトナの姿があった。
はやてはその光景に口元を緩めると、自己紹介は後でいいかと調理に戻る。
暫くして晩御飯の支度が整うと、それを見計らったようにやってきたなのはとフェイトの姉達、そしてフェイトの使い魔アルフを交えての夕食となった。
ミッドチルダ、地球、C.E.それぞれの世界の人間が交じり合い、初見の人間も多かったため食事の最中に軽く自己紹介をする。
そして食事が終わった頃、夜の予定までにまだ時間があるとの事で、はやてが1つ提案をした。

 

「さぁて、サーチャーの様子を監視しつつ、お風呂済ましとこか」
「「「「はいっ」」」」
「監視って言っても、デバイスを身に着けとけばわかるしな!便利なもんだ」

 

ロウの言葉に、なのはが地球での作業の為に小学生位の大きさになっているリィンを撫でながら感心したように同意する。

 

「最近はほんとに便利だね~」
「技術の進歩ですぅ」

 

流しで片付けの作業を終えたシャマルとフェイトが帰ってくるのを確認したはやては、「それでは」ときりだした。

 

「よっし総員、銭湯準備や!」
「おうっ!」
「っとごめん、はやてちゃん。私とロウさんは少し遅れていくね。
家でお父さんが待ってるって・・・」
『不破士郎の件だな』
「うん。ロウさんもごめんね」
「いや、時間がある内に会っとかないと、次はいつ会えるか分んねーしな」

 

話を聞いていたフェイトの姉”エイミィ”が話に参加する。

 

「ほほう、なのはちゃんが男を親に紹介ね・・・。大きくなったもんだ」
『違う違う、話を聞きに行くだけだぞ』
「まったく、終いには本当にユーノが泣くぞ・・・」
「ふぇ?なんでユーノ君が出てくるの?」
「「『・・・・・』」」

 

話の落ちが付いたところで、エイミィの車にロウ、高町姉妹、アルフが乗り込む。
車は街灯が少ない山の道を下っていく。
ロウは不破士郎への道のりを少しづつ進んでいる実感があった。
その心に蘊・奥との約束を抱きながら・・・。

 

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