もしもアーサーがミネルバの艦長だったら_第14話

Last-modified: 2007-11-06 (火) 17:03:12

―タンホイザーが撃ち抜かれる少し前―

~アークエンジェル、ブリッジ~

「ラクスさん、もうすぐダーダネルス海峡よ。」
マリューが艦長席から言う。
「様子はどうですか?」
「どうやら、もう戦闘が始まってるみたいね。」
「・・・そうですか、急いで下さい。」

「ラクス!ストライクルージュ、問題なしだ!」
格納庫のカガリから通信が入る。
「・・・ラクス、僕も出なきゃいけないの?」
キラからめんどくさそうな通信も入った。
「・・・(怒)当たり前ですわ!カガリさん一人では危険でしょう!
 あなたにはカガリさんを無事にオーブ艦隊へ送り届けてもらいますわ。」

「・・・一応俺も出るんだけどねえ。」
ムラサメに乗ったバルトフェルドが呟く。

「それと、キラ。もし戦闘に巻き込まれても、ザフトやオーブの艦やMSを
 攻撃してはいけません。回避に専念して下さい。無闇にMSを撃墜するなんて
 もっての他ですわ。どうしても無理な場合は極力コクピットは避けてください。これは命令ですわ。」
「はいはいワロスワロス。」
「・・・何か言いましたか?」
「いや別に。」

「艦長!発進準備OKですぜ!」
マードックが叫ぶ。
「キラ君達発進して!」
「ストライクルージュ、カガリ出るぞ!今まで世話になったな!」
「アンドリュー・バルトフェルド、ムラサメ出るぞ!」
「キラ・ヤマト・・・フリーダム行きまっす・・・。」

3機が向かった戦闘空域では、ミネルバとオーブ軍のMSの攻防が始まっていた。

「あれは・・・タケミカズチか?」
カガリが言う。
そんな時、キラはミネルバが陽電子砲の発射体勢に入っているのに気づいた。

「めんどくさいなあもう・・・ん?あれは・・・陽電子砲?発射先はオーブ艦隊か・・・
 マズイな、カガリが帰る前に艦隊が全滅しちゃうよ。ラクスはあんな事言ってたけどしょうがないよね。」
キラは一気にブーストを吹かしてミネルバの上に飛び、陽電子砲に向けてビームライフルを放った。

直後、ミネルバの艦首が大爆発を起こすのを、アークエンジェルの艦橋で
マリューやラクス達が唖然としながら眺めていた。

「ちょ、おま、キラ!何やってるんだ!!」
カガリが叫ぶ。
「カガリ、そんなことより、オーブに帰るんだろ?ほら、早く言わないと。」
キラはそう言ってカガリを促した。

「あれは、あの機体はまさか・・・。」
トダカが呟く。

「あ、ああ・・・。オーブ艦隊に告ぐ!私はカガリ・ユラ・アスハだ!
 私がいない間、長らく迷惑をかけた!今からそちらに着艦をしたい!」
「カ、カガリ!?」
「カガリ様!」
ユウナやオーブの兵が驚いた。

「き、君は誘拐されていたんじゃないのか?」
「ユウナ様!連合のネオ大佐から通信です!」
「ええい、なんだよこんな時に!」

「こちらはネオだ。ユウナ殿、まさか戦闘をやめるつもりではないでしょうね。」
「え、いや、しかし、あれはカガリ・・・。」
「あれが本物のあなたの国の元首とは限らないでしょう、しかもあの機体は
 指名手配されているアークエンジェルから発進してきた。怪しすぎます。
 それに、こんな事で戦闘を中止させられてはこちらも困るのですよ。」
「あ、ああ。」

「トダカ!悪いが着艦させるわけにはいかない。僕らの敵はミネルバだ。
 カガリンには悪いが、この際・・・無視してくれ。ただし、弾は当てないように。」
「ユウナ様!?くっ・・・分かりました。」

「オーブ艦隊!聞こえないのか!私はカガリ・・・!」
カガリの声を無視するように、オーブ艦隊はミサイルをミネルバ目掛けて撃ち上げ、
ストライクルージュの横をミネルバへ向かってムラサメが飛んでいく。

「カガリ、残念だったね。まあそんなもんだよ。」
キラがどこ吹く風、といった風に答えた。

その時だった。向こうからインパルスがフリーダム目掛けて突っ込んできたのは。
「よくもミネルバを・・・あんたは一体なんなんだぁー!!!!!!」

~ミネルバ、ブリッジ~

「み、みんな大丈夫かい?被害報告は!?」
衝撃から立ち直ったアーサーが聞いた。
「艦首部及びタンホイザー大破!完全に使用不能です!
 死傷者もかなりの数が出ている模様です!」
バートが叫ぶ。タンホイザーがあった艦首からは膨大な黒煙が上がっていた。

「フォンドヴァオゥ・・・なんてこった。レイやルナマリアたんは!?」
「お姉ちゃん達は主翼の方にいるので無事です!」
ルナマリア達はミネルバの艦上で敵機を迎え撃っていた。

「あ、あれはまさかフリーダム?・・・なんでこんなところに?そ、それよりも
 ま、またこっちを撃ってくるかもしれない!みんな気をつけるんだ!」
アーサーは皆に言った。

「艦長!シンがフリーダムに向かってt行きます!!」
メイリンの声にアーサーは振り返った。
「な、なんだって!?」

戦場は混乱していた。突然現れたフリーダム、ストライクルージュに驚き、その場で
機体を止めるオーブ兵も多かった。バルトフェルドの乗るムラサメは自分やカガリの
ルージュに銃を向ける機体のライフルを打ち落としていた。一度、カガリに向けミサイルを
放った艦隊も沈黙している。ザフト側も黒煙を上げるミネルバ以外は沈黙していた。

そんな中、フォースインパルスに乗ったシンは
ビームサーベルを抜いて、フリーダムに向かっていた。

「やめろシン!無闇に突っ込むんじゃない!
 そんな奴は相手にするな!」
ハイネが叫ぶ。
「うるさい!ミネルバの仇は俺がとる!このおぉぉぉ!!!」
シンは聞く耳を持たず、一気にフリーダムに斬りかかった。

「やめてよね、誰だか知らないけど、僕にかなうはずないだろ。」
キラはシンのサーベル攻撃を軽くかわした。

「なっ!よけた!?くっそぉぉぉおお!」
シンは再度斬りかかるが、またしてもフリーダムは簡単に避けてしまった。
「・・・なんなんだい一体。あの艦を撃ち抜いた事なら謝るよ。でもあの時は
 あれしか方法がなかったんだ。・・・ならしょうがないよね?」

シンはビームライフルを連発するも、キラはアンチビームシールドでそれを防いだ。
「何がしょうがないだ、こいつ!このっ!このぉっ!」
「だから謝ってるじゃないか・・・これ以上邪魔をするなら容赦はしないよ?」

「お前、ふざけるなぁっ!!!!!!!!」
「・・・しょうがない。僕だってほんとはこんな事したくないんだけど・・・さよなら。」
キラは直後、SEEDを発動させた。
突然、機動と反応が上がったフリーダムに、シンは身動きが取れなかった。
「え・・・?」

直後、フリーダムが突き出したビームサーベルが、インパルスを庇って
飛び込んできたセイバーガンダムのコクピットに突き刺さった。
「・・・あ、ごめん。」
キラが呟く。

「ハ、ハイネ隊長!?」
「シン・・・無闇に突っ込むなって言っただろ?・・・まったく・・・世話が焼けるぜ・・・。」
セイバーの胸部から火花が上がる。

「た、隊長!な、なんで・・・!?」
「部下を守るのは・・・隊長の仕事・・・だろ?い、いいか・・・シン・・・ここは・・・引くんだ。
 いいな・・・。アーサー艦長にも伝えてくれ・・・。ここは・・・一旦、撤退・・・するんだ。」
「・・・あ・・・あ。」
「分かったか?シン・・・。もう・・・無鉄砲な・・・行動は・・・するな・・・よ?」
「は、はい・・・ハイネ・・・隊長・・・。」
「へっ・・・すまねえな・・・シン・・・こんな・・・と・・・こで・・・やられ・・・ちまっ・・・て・・・・・。」

次の瞬間、キラがビームサーベルを引き抜くと同時に、セイバーガンダムが爆発した。
「ハイネ隊長ぉぉぉぉーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「・・・カガリ、バルトフェルドさん、戻りましょう。・・・もうここにいてもしょうがないですから。」
「お、おい!キラ!」
「・・・ああ、了解だ。」
フリーダムはストライクルージュの腕をとると、バルトフェルドのムラサメと一緒に、
アークエンジェルの方へ帰還していった。

「・・・ユウナ様。」
「・・・ああ。僕らも一旦引こう。体勢を立て直すんだ。・・・全軍に戦闘中止命令を出してくれ。」

オーブ艦隊も撤退を開始し、後には放心状態のシンとミネルバらザフト軍が残された。

~ディオキア港、湾岸ドック~

ディオキアに帰還したミネルバ。艦首部分は無残にも大破し、
ささくれだった鉄板がめくれあがっていた。
そのミネルバの隣で、クルー達が整列していた。
彼らの目の前には死体袋が並び、搬送車が何台も止まっていた。

「それで・・・最終的な人員被害は・・・?」
アーサーがメイリンに聞いていた。
「死者が・・・ハイネ隊長を含め11名、重軽傷者が28名です・・・。」

「そうか・・・。皆、先の戦闘で亡くなった11名に・・・敬礼!」
アーサーの声とともに、シンやレイ、クルー達が敬礼をする。
その後、亡くなった人達の遺体を車が運んでいった。

「シン・・・ハイネ隊長が亡くなったなんて・・・。」
ルナマリアが涙ぐみながら話しかけてきた。
「ああ・・・だけど、隊長が死んだ原因の半分は俺のせいなんだ・・・。
 俺が、がむしゃらに飛び込んでったりしなけりゃ隊長は・・・!」

「あまり自分を責めるな、シン。」
「レイ・・・。」
レイがシンの肩に手を掛けて言った。
「俺がシンの立場だったら、恐らく同じ事をしただろう。ミネルバを
 あんな風にされて、黙っているわけにはいかなかっただろうしな。」
「でも・・・俺は冷静さを失ってたんだ、あの時・・・。」

「いや、悪いのはフリーダムだ。あの時、あの連中が乱入してこなければ
 あのような事にはならなかっただろう。」
「そもそも、なんであいつらは急に戦場に・・・?」
シンが聞く。
「オーブの元首が何やら叫んでいたらしいと聞いた。恐らくだが、戦闘を
 止めろ、とかそんな事を言いにきたのだろう。」
「馬鹿だよ、そんなの。そんな事で急に戦闘が止まるわけないのに。」

「いずれにせよ、もう今となっては真相はどうでもいい事だ。ただ一つ、
 分かっているのは、フリーダムがミネルバを攻撃し、ハイネ隊長を
 殺したという事実だ。」
「ああ・・・。」

「オーブや連合の艦隊も同時に引いたが、また仕掛けてくるだろうな。
 もしかしたら・・・またフリーダムも現れるかもしれん。」
「今度あいつらが現れたら・・・俺は・・・。俺は、絶対にフリーダムを撃つよ、レイ。
 ハイネ隊長の仇を取る。」
「ああ・・・。だが、シン。気をつけるんだ。相手は「あの」フリーダムだからな。」
「分かったよ、レイ。」

戦死者を送る式が終わった後、シンやアーサー達は一旦、基地へと戻った。

~J.P.ジョーンズ、艦橋内~

「・・・分かりました、ユウナ殿。」
「どうです?」
ユウナとの通信を終えたネオは、電話を置いた。

「ああ。先の戦闘での被害修復と、戦力の建て直し。やはりまだオーブはすぐには動けないらしい。
 いずれにせよ、ミネルバへの再度の攻撃は、まだ少し先になるだろうな。」

「そうですか・・・あの時、乱入してきた連中の事もありますしね。」
「あの乱入で少なくない兵が動揺したようだからな。無理も無いだろう。
 誘拐されていたはずの国家元首がいきなり出てきたのだからな。」

「それで、次は何を・・・?」
「まずは基地に戻るさ。俺達も休まなきゃな。それと・・・次、今度またミネルバと
 戦う時は、あいつらも出すつもりだ。」
「『あいつら?』・・・ああ、スティング達の事ですか。」
「彼らも出撃させ、一気に勝負をつける。もし、また例の連中が乱入して来たとしても、
 それまでにはミネルバを沈めるつもりだ。・・・まあそううまくいくとは思えんがな。」
「・・・そうですね。」

「よし、では基地に帰還するぞ。」
「了解。」
連合の艦隊が動き出した。

~空母タケミカズチ、艦橋内~

「ユウナ様。」
ネオとの電話を終え、ユウナは立ち上がった。
「トダカ、まずは部隊の再編成だな。それから後は連合の基地へ寄港するよ。
 同盟国だからと、わざわざ補給と修理をしてくれるそうだ。」
「それは・・・ありがたいですな。」

「それとユウナ様、あの時の・・・。」
トダカはあの「乱入騒ぎ」の話を持ち出した。
「ああ、分かってるよ。・・・あれは、あそこにいたのは間違いなくカガリだ。」
「やはり・・・。」
「あの時、カガリが言った、『戻りたい』って言葉、あれは本当なんじゃないかな。
 我がオーブは、アークエンジェル側にかなりの身代金を支払ったし、カガリが
 誘拐されてからだいぶ時間が経った。だから、カガリがアークエンジェルの
 連中を説得して、そろそろオーブに戻らして欲しい、とでも言ったんだろう。」

「カガリ様・・・。私としては、ぜひ着艦させてあげたかったのですが・・・。」
「連合の目がある以上、そううまくはいかないさ・・・。それに戦闘中だったんだ。急に
 戦闘を止めて着艦させる時間もなかったろう。仕方ないよ。」

「恐らく、また我々は連合軍と一緒に、再度ザフト艦の攻撃をする事になるでしょう。
 ですが、もしもまたカガリ様が現れたら・・・?」
「その時は・・・この僕がなんとかするさ。連合に逆らってでもカガリをこっちに着艦させる。
 彼女をオーブに帰してあげたいからね。だけど、ミネルバへの攻撃の手も休めるわけには
 いかないだろうな。うまく着艦させられるタインミングがあればいいんだけど・・・。」

「また、来るでしょうか・・・?」
「来るよ。きっと。カガリはそういう子さ。ま、それが可愛いんだけど。」
そう言ってユウナはウインクをした。
「ユウナ様、キモイです。」
「ちょw」

その時、隣の艦から通信が入った。タケミカズチにも、最後のMSが着艦した。
「・・・まあいいさ、艦隊の集結、MSの収容も終わったみたいだし、そろそろ行こうか。
 後の補給や編成の事は移動しながら考えよう。」
「ハッ!」

オーブ艦隊もゆっくりと動き出した。

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