やがみけ育てる_2話

Last-modified: 2022-06-02 (木) 22:39:41

模擬戦は三つの班に分かれて行われている。
ティアナ、スバル、エリオ、キャロ(フリード)の四人組。
スティング、アウル、ステラの三人組。
クロト、シャニ、オルガの三人組の三班である。
この10人の中で空戦可能とするのはウィングロードというスキルを持つスバル。これは空に魔力を用いた道を掛け、その上をスバルが疾走するというもの。自由に空を駆ることは出来ないがそれでも一応空戦が可能と言えなくもない。
スティングはもとから飛翔魔法を会得しているためなのはたちのように自由に空を飛ぶことができる。それはシャニ、クロトも同じだ。
つまり、空で戦えるのはこの四人だけである。 因みにこの情報を新人たちは知らない。
「(始まったみたいだな)」
「(そうだな)」
視界に空に掛かったウィングロードとスティング、クロト、シャニの三人の姿を捉えたレイが念話でキラとシンに告げる。
「(キラ?)」
「(……)」
「(もしかして寝てるんじゃないでしょうね?)」
一人だけ返事がないのでレイが疑いの含んだ声を上げた。
「(寝る訳ないでしょ、ちょっと調べものしてたんだよ)」
「(調べもの?)」
「(あんた、ちゃんと模擬戦観とかなくていいのかよ?)」
「(うん、それはもちろん観てるけど、やっぱりアスランの言ってたことは気になるでしょ?
地上本部が派遣した人材のことは)」
念話ごしにレイのため息が聞こえた。
「(調べものもいいですが、ちゃんと彼らの模擬戦も見てあげてくださいよ?
自分の部下になるかもしれないんですから)」
「(うん、わかってる)」
それを皮切りにレイもシンも観戦に意識を集中した。

 

「そりゃぁぁああ!!」
ウィングロードを疾走するスバルの耳に飛び込んできた声は今まで戦闘中に聞いたことのないような怒声だった。
背後に付かれ、急速接近しているのは破砕球型デバイス、レイダー操るクロトだ。
スバルのウィングロードは通常の空戦に比べ自由度が低い。とっさの方向転換がしづらいのもその一つだ。
「抹ッ殺!!!」
腰を勢いよく捻ってクロトの手から放たれた破砕球は一直線にスバルを狙う。
「(ティ、ティア~~!)」
半ベソかきながら必死扱いて疾走するスバルの前にもう一人の姿が下方から現れる。
片目を前髪で隠し、不適に笑みを浮かべて片手に鎌をもっている。
「嘘、挟まれた!?」
鎌の柄先をスバルに向け黄緑色の魔法陣が展開される。
「フレス……」
円形の魔法陣の中心に同色の光球が発生し、輝きを増す。

 

「ッ!?」
背後に迫りくるミョルニルを弾き飛ばすオレンジ色の魔力弾。正面のシャニは魔法を中断して、魔力弾を回避した。
「ったく、空戦は任せておいてって言ったくせに何やってんのよスバルの奴……」
ティアナがぶつぶつ文句を垂れながら走る後ろをエリオとキャロが続く。
「(スバル! 無理に相手する必要はないわ。あまり私たちから離れすぎないように立ち回って)」
「(は~い)」
前戦から距離を取り、ティアナたちの方まで下がってくるスバル。
その様子を確認し、一先ず態勢を立て直せたことに安堵するティアナたちの耳に妙な音が飛び込んでくる。
ザッザザッと、不規則な音だ。
やがて視界に飛び込んでくる影。
ネコ、イヌ科の動物を彷彿とさせるような動きで頭上から降ってくる。
『グリフォン』
黒色の魔力刃が一番後方にいたキャロを狙っていた。
さながら動物の爪とでも言えばいいのだろうか?
射程は短い。
「キャロ、伏せて!」
『ソニックムーヴ』
金色の光が影とキャロの間に割って入り、エリオがストラーダで魔力爪を受け止めた。
ステラだった。

 

「(あらら、何かティアナたちは狙われてるね)」
キラは上空でモニターしながら念話を飛ばす。
「(スティング班、オルガ班共に地上部隊からの派遣されたもの同士ですから、身内びいきと言う奴ですかね?)」
「(違うみたいだ、レイ。スティングとクロトが戦闘に入った。シャニはスバル)」
「(ほんとだ。オルガとアウルもはち合わせたみたいだよ)」

 

「うぉらぁぁああ!!」
『ケーファーツヴァイ』
コバルトブルーの環状魔法陣がオルガを中心に左右に一つずつ発生。
中心部からやや太めの奔流二本がアウルを狙う。
「見飽きてんだよ! その魔法!!」
アウルが跳躍した直後下を流れていく二本の奔流。
滞空中にアウルは器用にランス型デバイス、アビスを操り、水色のベルカ式魔法陣を展開する。
回転中のアビスから二発のカートリッジロードと引き替えに
『カリドゥス』
ベルカ式魔法陣の中心をアビスの先端で突くと大出力の砲撃がオルガに押し寄せる。
「うおっ!?」
横っ飛びに建造物の影に隠れて砲撃をやり過ごし、回避したオルガは
「やるじゃねぇか、おい!」
『シュラーク』
五発の魔力弾を放つ。
『ホーミングトーピード』
対するアウルは一発を自身の障壁で防ぎ、他四発を誘導弾で迎撃。
距離をとろうと走るオルガをアウルが追いかける。

 

「随分と派手な魔法だな」
キラたちと同じくモニタリングしているアスラン、なのは、フェイトの三人。
「だね、さすがになのはのスターライトブレイカーには遠く及ばないけど……」
「でも本当に戦力としては申し分ないね」
「で、二人は誰が欲しいか決まったか?」
少し考えるようにしてからなのはが口を開いた。
「個人的にスバルは見てあげたいんだけどね。私に憧れて入局してくれたみたいだし……」
「とするとスバルを援護できる射撃、砲撃型が必要になってくるよね」
「出来れば地上専門じゃなく、空戦でも申し分なく援護できる射撃型……か」
アスランは呟くように言ってモニターを切り替え、スティングvsクロト、スバルvsシャニの映像を出す。

 

「うらぁ~~」
『フレスベルグ』
鎌形デバイス、フォビドゥンの柄先を中心にカーキ色の環状魔法陣から放たれる。
奔流を視認し、スバルはウィングロードに沿って射線上から回避しようとする。
しかし、
「げっ!? 何で?」
スバルの背を追うようにして追跡してくる奔流。
ウィングロードの方向を変えるも緩やかなカーブを描いて追いかけてくる。
『プロテクション』
回避を諦めて障壁を駆使して防ぐ。
「ぐっ、威力も高い上にこんな誘導っ!?」
卑怯だと言う前にスバルは自身の体勢を低くした。
頭上を鈍い音をたてフォビドゥンの刃先が通過する。
「へぇ~、やるじゃん」
自分の攻撃がかわされたにも関わらず、どこかシャニは嬉しそうに口の端を持ち上げた。
「そりゃどうも」
リボルバーナックルから消費されるカートリッジ。
「っ?」
「一撃必倒!」
左手の魔力の塊をシャニの腹部正面に据える。
「ディバイン……」
一方、シャニは障壁を展開した。別に避けてもよかったが、砲撃のあとの硬直をねらった方が確実だと踏んだからである。
『ゲシュマイディッヒパンツァー』
聞き慣れない単語を耳にし、一瞬の躊躇を見せるスバル。
が、もう中断するというわけにも行かず
「バスター」
障壁ごと破壊するつもりで渾身の一撃を放つ。
スバル唯一の砲撃魔法。射程は短いが、それでも威力は結構高い。
バヒュッ
妙な音と共に、スバルのディバインバスターは曲がった。
「へっ?」
曲がったディバインバスターは近くでスティングと戦っていたクロトへ一直線。
「いぃッ!?」
と慌てた声を上げてクロトはワザと失速した。
間一髪でディバインバスターの直撃を避け、息も荒くクロトがシャニとスバルを交互に睨む。

 

「わ、私のせいじゃないよ?」
とスバルは言い訳してみる。
「……」
対してシャニは我関せずといった感じで再びスバルに向き直った。
「シャニ! てめぇええ!! 抹・殺ッ!!!」
『ツォーン』
黒色の環状魔法陣が発生、増幅リングと圧縮リングが展開され、どす黒い奔流が溢れ出す。
『ゲシュマイディッヒパンツァー』
またか、とスバルは後退。距離をとってクロトの放った砲撃がどこに曲がるか軌道を確認する。
「えっ? 下?」

 

砲撃は下に向かって曲がっていった。

 

「(ゲシュマイディッヒパンツァー、障壁に魔力の流れを変える小規模空間結界を作って相手の砲撃を逸らす防御魔法の一種。
これもレアスキルだね)」
キラはパネルを叩き、データを入力する。
「(ですね。ただ、任意の方向にのみ展開可能なスキルですから、背後を取れればスバルでも勝ち目はありますね)」
冷静に弱点を分析するレイと
「(がんばれよ、スバル!)」
応援するシン。

 

『ブーストアップ・バレットパワー』
キャロのインテリジェントデバイスから、ティアナの持つ銃型デバイス、クロスミラージュに魔力が送られる。
「クロスファイヤー、シュート」
強化された八発の魔力弾が前方のターゲット、ステラを狙い撃つ。
が、狭い路地が彼女に地の利を与えていた。
手を地について、両手両足から魔力の爪を生やしている姿はまるで獣。
放たれた魔力弾の一発を地を蹴ってかわし、二発目、三発目を建造物の壁を使って交わす。
四発目をかわしたところで、ステラはティアナたちの上を飛び越え、五発、六発目をかわし、七、八発目を魔力爪で弾き、三人の下へ急速接近。
「嘘でしょッ!?」
驚くティアナの前にエリオが迎撃のために飛び出す。
振り下ろされた魔力爪をストラーダで受け、鍔迫り合いに持ち込む。
そのエリオの背後ではクロスミラージュを構え、ステラに照準を合わせるティアナの姿。
「フッ!!」
と短く吐かれたステラの吐息と同時に、脚部魔力爪により、エリオの腹に蹴りがたたき込まれる。
一瞬怯んだエリオの背後から放たれる魔力弾をストラーダの柄を蹴って宙返りしてかわし、ベルカ式魔法陣を展開。
「はぁぁああ」
法陣を結ぶ三つの小型の円から三本の奔流が放たれる。
エリオが障壁を展開。奔流の一本が障壁に衝突し、幾ばくかの抵抗の後、破裂。爆煙をあげる。
「……」
ステラは無言で沸き立つ煙を見据える。
「竜魂召喚!! フリード、ブラストレイ!!!」
粉塵を払いのけるピンクの閃光と共に炎のブレスがステラを襲う。
「何だ?……こいつ」

 

障壁を展開して防御に徹するステラ。
それでも熱を完璧に防ぐには至らず、嫌がって跳躍し、炎の海から脱すると、白竜の背を足場にステラを狙うティアナの姿が目に留まった。
「くっ!!」
『transformation』
再びステラの両手両足に魔力爪が発生。
およそ人間では不可能な身のよじり方をして近場の壁に捕まろうとする。
「そうなんどもさせるわけないでしょ!
クロスファイヤーシュート」
ティアナが放つ多数の魔力弾。しかし、そのどれもがステラを狙ったものではなく、ステラが足場にしようとしていた壁面だった。
「エリオ!」
ティアナは詰めの為の指示をだす。
足場を奪われたステラのとる行動は着地か、飛翔。しかし、ステラは飛翔を使えない。
とすれば前者の行動を選択するしかない。
無論ティアナは地上から派遣された六名のデータを見たわけではない。
飛翔が使えるならば恐らくはフリードのブラストレイから抜け出す際に使ったはずだ。
「つまり、あいつは飛べない」
エリオはティアナの指示を受け、ステラの着地点を予測する。
「きゃあっ!!!」
愛らしい声を立てステラが破片から身を守るため、身を丸くした。
「今だ!」
『ソニックムーヴ』
刹那のうちにステラへと間合いを詰めるエリオ。それから思いっきり跳躍する。
ステラが目を見開いた。
「舐めるなぁ!!!」
クロスファイヤーが砕いた建造物の破片を足場にエリオに突進する。
「ッ!? 負けるかぁ!!!」
エリオの背後でティアナとキャロが叫ぶのが聞こえた。
最初は声援かと思った。が
「エリオ! 上!」
「エリオ君! 上!」
実際は警告だった。
エリオが上を見る。
ステラがエリオの気の取られ方を疑問に思ったのか、同じく上を見た。
真っ黒だった。
「え?」
「……何?」
障壁すら展開出来ないままエリオとステラの二人は黒い奔流に巻き込まれた。
ぽかんと大ダメージを受けたエリオとステラはその場にぺたんと座り込んで惚けている。
「エリオ、ステラ。もういい、お疲れさん」
二人の側に舞い降りたのはシンだった。
「え、まだ僕戦えますよ?」
「……私も」
慌て立ち上がるエリオとは対照的にのっそり立ち上がるステラ。
「いや、いいんだ。もう二人とも分隊分け済んだから、結果は全員終了してから伝えるから先にシャワーと昼飯いっとけ」
「は、はぁ……」
困惑気味に訓練場を後にするエリオ。
「……納得……いかない」 ステラはシンに抗議を含んだ眼差しで訴える。

 

「俺に言われてもな……。なのは隊長からの連絡だったし、スバル、ステラ、エリオの三人は決めやすかったんじゃないか?
前戦で戦うようなスタイルだし」
「……そう」
とぼとぼと名残惜しそうに訓練場を後にするステラ。そんな彼女を見送っていると
「(シン)」
念話が届いた。声の主から察するにアスランだ。
「(アスラン?)」
「(ティアナも決まった。戦闘中ではないようだからあがらせてくれ。
スバルはスティングとタッグ組んで戦っているからしばらく様子をみる)」
「(了解)ティアナ」
「はい」
「お前ももうあがっていいそうだ」
「はぁ……」
ティアナも訓練場を後にした。
さて、とシンが持ち場に戻ろうと膝を曲げ、腰を落としたところで
「あの……シン副隊長」
若干心細い声が聞こえてきた。
「何だよ? キャロ」
「私は……まだ決まってないんでしょうか?」
「あぁ、まだ決まってないみたいだから戦闘続行。がんばれよ」
飛翔魔法を発動し、シンは持ち場へと戻っていく。

 

ぜぇはぁと息を切らしながらひた走る二人の少年。
「うぜぇんだよ! てめぇ!!!」
追われているオルガが一瞬立ち止まり、環状魔法陣を展開。
『トーデスブロック』
でっかい魔力球を背後から走って追っかけてくるアウルに向けて放つ。
「あんたこそ、いい加減諦めろよなぁ!!!」
対するアウルもオルガに合わせ立ち止まりベルカ式の魔法陣を展開。
『カリドゥス』
トーデスブロックを迎撃する。
二つの魔法は混じり合うように反応したあと爆ぜた。
「ちっくしょぅう!!」
煙が晴れ、相手の姿を確認したあとオルガはまた背を向けて走り出す。
「逃げんなっつーの!」
アウルも走り出した。
オルガとアウルの二人は完全陸戦型。ただし、アウルは水中時のみ特殊な移動スキルを持つ。
ただ、今回のフィールドには海など無いため、二人はこうして走っているのである。
どちらも移動系魔法の持ち合わせは無く、究極的には体力と精神力、この二つのガチンコ勝負となる。
「あぁ、もぅマジめんどくせぇー!!!」
苛立ちを含んだ声とともにアウルは手に持つランス型デバイス、アビスをホップ、ステップ、ジャンプのリズムで投げつける。
「てめぇ、卑怯だろ!?」
横っ飛びに転がってアビスを避け、ターゲットをしとめられなかったアビスは地面に突き刺さった。

 

「逃げるあんたが悪いんだろー? いいからさっさと降参しろよ!!」

 

「はっ! 誰が降参なんかすっかよ!!!」
転がった状態から器用に受け身を取り再び走り出すオルガ。
アウルもアビスを引っ掴んで追走する。
「待てよ! この」
『ホーミングトーピード』
カートリッジ一発と引き換えに、誘導型の魔力弾四発発射。
誘導型の分速度は劣るが、それでも移動系のスキルを持たないものにとっては十分なプレッシャーを与えられる。
「やべぇっ!」
オルガは立ち止まり迎撃を考えたが、砲撃時の硬直を考えるとアウルに追いつかれる可能性がある。
しかもアウルは近接時でも長い間合いを持つジャベリンを持つが、オルガには近接武装がない。
アウルに追いつかれるイコール敗北を意味する。
「ちっ!!」
舌打ちしつつ距離を取る算段を考える。
直線的に走っていてはいずれ誘導魚雷(ホーミングトーピード)に追いつかれ、足を止める羽目になる。
ならばと、オルガは走りながら曲がれる場所を探し、角を右折した。数瞬遅れで魔力弾がオルガを追う。
その際二発が建物を爆砕し、爆煙を伴う。
その煙の中に飛び込むアウル。
「まだ二発もありやがる!」
背後から迫る二発の魔力弾。さらに煙の中からアウルが転がり出てきた。
「うぜぇ」
悪態をつきながらさらに右へ、左へと方向を変え、ホーミングトーピードの数を減らす。
あと一発。
しかし、この一発がなかなか振り切れない。
つかず離れず一定の距離を保って追跡してくる。
「いい加減に……」
うんざりしながらさらにその後ろを追走するアウル。
二人して全身汗に塗れ、横っ腹を抑えて走る姿は、見るものに『どんなにつらくても諦めない』というメッセージのようなものを感じさせる。
アウルは腹痛に片目を閉じ、残る片目で次の道を右に曲がろうとしているオルガを確認するが、そのオルガは踏鞴を踏んで後ろに転がっていった。
慌ててアウルはトーピードの操作を行うが、どうやらどこかに当たって爆破してしまったらしい。
煙が上がっていた。
「こんなの予定にないぜ!!」
と自嘲し、オルガが転がっていった十字路にさしかかろうとした刹那、にゅっと白竜の顔が出てきた。
「何だよ、これ!?」
とふらつく体を急停止。巨大な白竜を見上げる。
オルガが転がっていった方を見れば、彼も巨大な竜に目を奪われている。
「フリード! ブラストレイ!」
竜に跨る少女から発せられる声に反応し、巨大な白竜が後ろに大きく跳躍。
足元にピンク色の魔法陣が発生し、その場に停止した。

 

ガパッと口を大きく開き、魔法陣と同色の光が収束してゆく。
「冗談じゃねぇぞ、おい!? カラミティ」
「嘘だろぉ!? アビス!」
二人して同時に障壁を展開する。
一瞬にして上昇する温度。二人の視界に映る景色が揺らめいた瞬間、灼熱の炎が吐き出された。

 

一方、上空。
「スバル、ここは共同戦線と行こうじゃねぇか」
仲間割れを始めたクロトとシャニを呆然と眺めていると横から声がかかった。
「えっと、確か……」
「スティングだ。スティング・オークレー」
「共同戦線って、何で?」
スティングの意図が読み取れず、スバルはその真意を問う。
もちろんスティングが本当の狙いを話してくれるかはわからないが、取りあえず聞いてみることにした。
「あいつら今仲間割れしてんだろ?」
「そうだね」
クロトが放つ魔力という魔力が全て曲げられ、四方八方へと飛んでいく。
「俺とお前が組めばあわよくば三対一に持っていける。最悪でも二対二、まさかの二対一対一ってのも考えられる。
案としちゃ悪くはないだろ?」
「確かに、それなら私たちのが有利かも」
「だろう? 俺としちゃお前にシャニを撃墜してもらいたいんだが……」
「オーケー、じゃああの二人を倒してから、私たちは1対1でどうかな?」
「悪くねぇ、それでいいぜ」
スティングの見た目に喋りづらさを感じたが、話してみると結構親しみやすい人だとスバルは思った。

 

「あっちぃぃいい!! ふざけんなよ、このガキがぁ!! カラミティ!!」
『トーデスブロック、スキュラ、ケーファーツヴァイstart up』
大型環状魔法陣三つを展開。

 

「……この!! アビス!!」
残りのカートリッジ四発と引き換えに2つの中型魔法陣、一つの大型魔法陣、そして六つの魔力弾を展開する。
『バラーエナアルター、カリドゥス、トリプルシュート×2』
二人の目標はフリードである。
「落ちろぉぉおお!!!!」
「もらったぁぁああ!!!!」
手数の多い砲撃にキャロはフリードに回避を任せる。
フリードは主人の指示に鳴いて応え、一旦上昇し、旋回。
放たれた射撃、砲撃魔法の隙間を見つけ、フリードが急速降下。
「そんなのありかよ!?」
「おぃおいおい!!!!」
突進する竜の背から供給される魔力。
フリードの口から漏れ出す熱を孕んだ赤い光。
そして、真下にいる二人に向けて炎は吐き出された。

 

「お疲れ様、二人とも大丈夫?」
若干焦げ臭いオルガとアウルにキラが手を貸し立ち上がらせる。
「歩けねぇ」
「いや、まぁ二人ともあんだけ走り回ればねぇ……」
とキラ。
「あんたが逃げるからだろー?」
「あ゛ぁん?」
三白眼をアウルに向けるオルガ。
「また模擬戦あるから、決着はその時にでもね」
二人を宥めつつ、肩を貸しながら訓練場から退場する。
「おっと、キャロ?」
思い出したかのようにキラが立ち止まり後を振り返る。
「はい、何でしょうか?」
オルガとアウルがじろりと睨む視線にオロオロしながらもしっかりと返事をした。
「キャロもお疲れ様。分隊決まったから、シャワー浴びてお昼ご飯にしていいよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
キャロはぺこりと一礼するとフリードの召喚を解除する。
ピンク色の閃光に包まれて再び姿を現した時には肩に乗る程度まで小さくなっていた。
「僕らあんなちっこいのに負けたのかよ~」
アウルがガックリと肩を落とす。
「ダッセーな、俺ら……」
同じくオルガも脱力する。先程のテンションはどこに行ったのやらとキラはため息をついた。
余程キャロとフリードにやられたのが答えたらしい。
「二人とも、ちゃんと歩いてくれない?
重いんだけど……」
そんな二人の気持ちなど察することなくキラは冷淡な言葉をかけ、二人を連れて退場した。

 

「邪魔」
『エクツァーン』
「邪魔すんな! てめぇぇ!!!!」
『アフラマズダ』
「うわっとと……」
シャニ、クロトと両者から放たれる弾幕をかいくぐり、
「でぇえい」
リボルバーナックルをシャニに向けて叩き込む。
「この!」
フォビドゥンの柄を用いてナックルを弾くと、返す刀で上段から鎌を振り下ろす。
が、クロスレンジではスバルのシューティングアーツの方が手数と攻撃の発生速度が上回り、何とも戦いづらそうにシャニは表情を歪めている。
「ざまぁみやがれ!!!! シャニ」
味方がやられているにも関わらず嬉々とした笑みを浮かべるクロト。
「よそ見とはいいご身分だ」
『カリドゥスアルター』

死角から放たれる奔流を反応してかわし、クロトはスティングと対峙する。

そのスティングは二つの大型魔力スフィアを二方向に飛散させた。
「!?」
攻撃を警戒したクロトが視線を巡らせる。だが、スフィアの姿は窺えない。

 

「何しやがった?」
「味方でもないお前に手の内を喋るわけないだろう?」
スティングがクロトに接近する。
「てめぇえ、瞬殺!」
「遅い!」
放たれるミョルニルを右つま先から発生する魔力爪で受け止め、左足で蹴りを放つ。
「うわっ!?」
首を引っ込めた最中に頭上を魔力爪が通過する。その脹ら脛に当たる部分を覆う機械から薬莢が弾け飛ぶ。
『ファイヤーフライ』
四発の誘導型魔力弾を放つ。
こちらはアウルのものよりも数段弾速がすぐれている。
クロトは距離をとるため後退しつつ、魔法陣なしで小粒の魔力弾を周辺に停滞させ、追跡してくるファイヤーフライを迎撃した。

 

「リボルバー、シュート」
スバルの振り抜く拳から不可視の衝撃波が放たれる。
「この!」
ラウンドシールドを用いて衝撃波を防ぎ、反撃のための環状魔法陣を展開しようとしたところで視界の両隅にグリーンの球体を捉えた。
「何!?」
球体が破裂し、一本の奔流と数発の魔力弾が放たれる。
「う……うぅ……」
二方向同時にラウンドシールドを展開。
「一撃必倒!」
声はシャニの頭上から聞こえてきた。
「ディヴァイィーン!!」
目を見開くシャニ。至近距離で急速に集まるエネルギーに風が巻き起こり、髪を揺らす。
左右で色の違う目が確認できた。
「お前! お前ぇー!!」
「バスター!!!!」
爆音が轟き煙が沸き立つ。
「シャニー!!」
「おっとお前の相手は俺だって言ったろうが!」
スバルを狙うクロトの進路をスティングがブロックする。
「こんのぉー! 抹・殺!!」
『ツォーン』
環状魔法陣が展開され、魔法が発動する刹那、クロトが灰色のクリスタルケージに閉じこめられた。
「あん?」
疑問の声を上げ、スティングとクロトの間に割って入ってきた人物を見る。
「終わりだ。分隊分けは済んだ。二人とも速やかに武装を解除してシャワー、昼食へ向かえ」
ライトニングス分隊副隊長、レイだった。
「スバルとシャニもな」
こうして分隊分けの為の模擬戦は終了した。