やがみけ育てる_0.5話

Last-modified: 2008-12-06 (土) 22:37:39

八神はやて、15歳の時。

 

「そう言えば、みんなが管理局のお仕事行くとき、たま~にラクスを連れて行ってるみたいやけど……、ラクスも皆みたいに戦えるんか?」
いつもの時間、いつもの夕食。
「それは……まぁ、あいつがいるといないとでは戦術的にもだいぶ変わってくるが……」
「そーなんか? レイ」
何だか言葉を濁すアスラン。話したくないのなら無理に話させるのは酷と言うもの。
なので、はやては黙々と魚の小骨を取り除いているレイに尋ねてみた。
「そうですね。ラクスが戦闘に参加することで私以外を覗いては相当な戦力アップが期待できます」
「レイ、駄目だ。それ以上話たら」
「何でぇ? アスランもシンも隠し事?
うちだけ仲間外れ?」
「そういう訳じゃないけど……、ちょっとね」
コップにお茶を足しながらキラ。その隣ではラクスが目をぱちくりさせながらご飯を頬ばっている。
「なんなら今度、はやてちゃんがラクスと行ってみれば?」
「そうだな。良いアイデアだキラ。俺もはやてなら見てみたい」
それきり、会話もなく無言で六人は箸を進める。
カチャカチャと響く食器と箸の擦れ合う音ともぐもぐと六人の咀嚼する音だけが食卓を支配する。
「ん~~気になるなぁ」
ポツリとはやて。
そんなはやてを見かねてかレイから溜め息が漏れた。
「あなたたちも往生際が悪いですね。
どうせいつかはその醜態を主はやての前で晒すことになるんです。
隠し通せる訳がないでしょう?」
そーや、そーやとはやて。
「しかしだな、レイ。お前はしてないからそんなことを言えるが、アレは物凄く恥ずかしいんだぞ?」
「ですが、アスランもキラもシンも主はやての友人のなのはとフェイトの前ではもう披露しているんでしょう?」
ギクッと名を呼ばれた三人の箸がとまった。
「べ、別に好き好んでやった訳じゃないんだぞ! あれは仕方なく……」
はやてが寂しそうな顔をした。
「「「うっ!」」」
そんな顔をされてしまうとどうしようもない三人。
「それとも、記録ファイルを管理局から引っ張り出してモニターで上映しますか?」
「それは、もっと恥ずかしいね。わかった」
とキラが席を立つ。
「本気なのか? あんた」
シンが背後に立つキラを振り返りみると、ポンっと肩を叩かれた。
「?」
「今からやってみせるから……シンが。 ね?」

 

「ふ、ふざけ……うっ!?」
反抗しようとしたシンの肩に痛みが走る。肩に置かれた手から腕、肩、顔と辿っていけばキラの鋭い眼光が『反抗すればダルマにする』と言っていた。
「い、いやだ。俺は……」
「このままでは拉致が空きません。いっそ全員でやればいいでしょう?」
我関せずと口にご飯を運ぶレイに、アスラン、シン、キラの恨めしげな三人の視線が突き刺さった。
取りあえず夕食を終え、片付けを済ませてから一同はリビングでお茶にしたづつみを打つ。
もちろんお茶を飲んでいるのははやてとレイでアスラン、シン、キラ、ラクスの四人はその二人を前にヒソヒソ話をしている。
誰が一番最初にアレをするかでもめているのである。
「で、誰からするんだよ」
「それは」
「もちろん」
「「シンからだ」」
ビシッとアスランとキラから指さされる。
「あんたらって人たちは!!」
「わかったよ。一番最初は君たちの将の僕がやるよ。
さっさと終わらせた方が楽だし……」
溜め息混じりにキラ。
「いや、お前にそんなことを一番最初にさせるわけには……わかった、俺がやろう」
アスランが何やら意味ありげに目を細めた。
「まっ最初の披露は次が控えてるから短くてすむからな」
「えっ? じゃあ俺が」
シンが立候補するとニヤリとアスランとキラが口の箸を吊り上げる。
「「どーぞ、どーぞ」」
「畜生! 図ったな、アスラン! キラ!」
以下アスランの思考
(すまん、シン。
だが、俺はどうしても一番最初にはできないんだ。
お前が散ったら、その後をすぐに追おう。)
以下キラの略
(シンがやったら次は優柔不断なアスランが覚悟を決めてやるに決まってる!
クスッ、僕は二人がしている間にトイレに行く振りをして寝ればアレは免れる。
二人ともごめんね。
骨は拾わないけど……)
「よし、はやて。やるぞ」
呼吸を調えながらシン。
「うん、楽しみやな~~」
はやてはニコニコしながら期待の眼差しを向けている。
「ラクス!」
シンが名を呼び、ラクスの手を握る。
そして二人は声を合わせ、
「「ユニゾン・イン!!」」
八神家の居間が赤とピンクの光が覆った。

 

あまりの眩しさに閉じていた瞼を開くと知らない人が立っていた。
茶髪の髪を肩に触れるギリギリまで伸ばし、赤い騎士服はフリルで豪華に飾り付けられ、背には白き魔力光による翼が激しく発光している。
彼女が閉じられた瞳を開くと淡い紫色の瞳が姿を現した。
説明を求めてはやてはレイを見るも隣ですまし顔でお茶をすすっている。
「どちらさんですか?」
はやての口をついて出たのはそんな言葉だった。
途端に彼女の瞳は潤みを帯び、ペタンと床に崩れ落ちた。
「俺……もぅ……生きていけない」
声はシンそのものである。合点のいったはやては何とかシンをフォローしようと言葉を紡ぐ。
「そんな……悲観する事はないよ。シン、かわええよ」
刹那、ポンッと間抜けな音を立て、ラクスと分離したシンは涙を袖で拭いながら居間から姿を消し、自分の部屋に閉じこもってしまった。
「あ……」
「次は、俺だな」
顔に冷や汗を浮かべながらアスランは一歩前に進み、ラクスの手を取った。
「ラクス、さぁ、逝こう!」
「はい、アスラン」
「「リリカル・マジカル!
ユニゾン・イーン!!」」
もうヤケクソだった。
朱色の閃光とピンクの閃光がうねりを上げて混じり合う。
幻想的な光の美しさに、はやてが見とれているとまたもや見知らぬ女性が現れた。
知的な雰囲気を纏い、タイトなワインレッドの騎士服を着用している。
膝上10センチのタイトスカートから覗く見事な脚線美。
紫色の腰まで伸びる髪をポニーテイルにしていて目は深緑だった。
「あー、ひょっとしてアスラン?」
コクリと彼女が頷く。頬が恥じらいの為か、仄かに朱色に染まっていた。
「えぇっと、シンとは違うて、美人さんやな」
ポンッと間抜けな音がしてアスランとラクスが分離する。
「シィィイイン!!」
叫びながら、アスランは居間を出て、二階へ続く階段を駆け上がっていった。
居間に残るのはポカーンとしているはやてと無言でお茶をすするレイ、苦笑しているラクスと感動して涙を流しているキラの四人だけだった。

 

「も、もうわかったでしょ? はやてちゃん」
「う、うん。要はラクスとユニゾンすると女装してしまうんやろ?」
と推測するはやてにレイが訂正を加えるため、お茶の入ったカップを置いた。
「女装かどうかは想像にお任せしますが、相性によって胸の大きさは変わるみたいですね。
これもパッドかどうかはご想像にお任せしますが……。
今のところアスランが一番のようですが……、さて次でどうなることやら……」
「ちょっと、僕トイレ行ってくるね」
居間を出ようとしたキラにレイの待ったがかかる。
「まさかとは思いますが、我らの将であるあなたがユニゾンしない何てことはありませんよね?」
「……」
「言っておきますが、主はやての期待を裏切るような行為、許しませんよ?」
「……」
逃げ場はなかった。
シンとアスランはやりきった。これでキラがやらなかったとなれば二人から何を言われるかわからない。
はやても三人には悪いと思いながらも楽しみにしているのが目に見えて伝わってきた。
「……ラクス……」
「はい、キラ」
「僕も……逝くよ」
二人は両の手のひらを合わせるようにして手を握った。
静かに囁くように、しかしはっきりと同時につぶやく。
「「ユニゾン……イン!」」
淡いブルーの閃光とピンクの閃光が互いを打ち消さんとぶつかり合い、風を起こす。
窓を覆っていたカーテンは風で舞い上がり、設置された家具がその影響で振動を始める。
未だによく理解できていないはやてでも、これはすごいのが来る! と理解できた。
やがて二色の光は混じり溶け合い。
そして……。
姿を現した。
しなやかな体つき。透き通るように真っ白でいて艶やかな肌。
露出の多いフリルのついた水色のドレス。
桃色がかった背中まで伸びる金髪がふわりと風で舞う。
露出の多い姿は装甲の脆さを指すが、それはキラの能力を最大限に引き出すため。
デメリットよりもメリットが上回っているからこそ選ばれた姿。
やがて瞼が開かれ、露わになるのは全てを見透かすかのようなブルーの瞳。
可愛さと美を備えた究極の少女、ラクス・イン・キラである。
「はやてちゃん、満足した」
はやては思わず立ち上がって少女の頬に触れていた。
「じゃあ、ユニゾン解除する――」
頬に触れるはやての手を取り、分離しようとしたところではやての待ったがかかった。
嫌な予感がした。
「お、お風呂! 一緒に入ろ!」

 

性別不明の正体を確かめるにはこれしかない!
と考え、たどり着いたはやての答え。
「ごめん、はやてちゃん。それは出来ないんだ」
「えぇやんか、キラも気になるやろ? 自分がどういう風になっとるか」
『わたくしも賛成ですわ』
「待った。ラクス、勝手に喋らないでよ! れ、レイ、助けて」
「すまない、キラ。だが一度燃え上がった主はやての好奇心はもう消せない」
レイは目を閉じ、見ぬ振りに徹する。
その間に、キラははやてに引きずられるようにして風呂場へと姿を消した。

 

「シン、お茶でも飲んで今日のことは水に流そう」
「アスラン……ありがとう」
そんな会話をしながら居間に入ってきた二人は、はやてとラクス、キラの姿がないことに気づいた。
「キラはどうしたんだ?」
「あいつはちゃんとユニゾンしたのか?」
と、レイに尋ねる。
「耳をすませてみるといい」
返事はそれだけだった。二人は言われたとおりに目を閉じて耳を済ませる。
カッポーン
と音がした。
『わは、すべすべや~~』
と声。
『あんまり触らないでくださいな。くすぐったくて……きゃっ、そ、そこは』
『えぇなぁ~、大きいなぁ~。うちもそんぐらいにならへんかな~~』
『二人とも僕が男だってことスルーしてるでしょ?』
『何言うてんねん、キラ。今は女の子やろ?』
『もうやめてくれ!! アスラン! シン! お願い、交代して! 管理局の仕事一年分肩代わりするから……だから!』
アスランとシンは耳を塞いだ。
胸元で十字を切る二人。そんな二人にレイがいつになく動揺しながら話しかけてきた。
「何だ? レイ」
「どうしたんだよ?」
「実は俺……できるんだ」
何が、と二人は聞き返す。
「ユニゾン……できるんだ」
「「……」」
「キラには黙っておいてくれないか?」
自虐的に笑いながら額に汗を浮かべるレイにアスランとシンの殺意のこもった視線が突き刺さる。
『僕の……性別は……』
キラはそんな言葉を残して無言になった。
長い沈黙の果て、アスランとシンはレイの肩を力強く握りしめた。
「そいつは」
「できない相談だ」
「やはりか……」
二人によってレイは風呂場へと連行された。
(完)