やがみけ_番外3

Last-modified: 2008-04-13 (日) 17:31:28

強制闇鍋編

 

「ただいま~、お、はやて、今日は鍋か?」
「そうやよ、シンもはよぅ手を洗ってきて食べよう」
はやてに促され、シンはすぐに手荒い場へ。
戻ってきて食卓につく。
そこにはすでにキラ、アスラン、レイの姿があった。
「ほんなら皆、食べよか、もうだいぶ煮詰まってきたやろうし」
はやてが上座に座る。
「前回の反省を踏まえて、今回は大きなお鍋に作っておきました」
「前回はね、鍋の食べ方わかんなかったし……」
とキラ。
「煮えてるのかそうでないのかも分からなかったな」
とアスラン。
「私たちのために……ありがとうございます。主はやて」
「そんな大層なことはしてへんよ」
「さて、たべよか」
一同合掌。
「「「「「いただきまッ…………」」」」」
不意に、部屋中の電気が消えた。
「……珍しいな、停電や」
「停電?」
顔は見えないが声から察するにシンだろう。
「うん、ごくたまになるんよ。外の天気はどうやったシン?」
「風がかなり強かったな」
「多分それが原因やね」
「それより、鍋はどうするんだ?」
腹を鳴らすアスラン。
「このままでは冷えてしまいますよ」
「そやなぁ、でもみんな取り皿とか位置はちゃんと見えるんか?」
「いや、さっぱり……今日は曇りだから月も出てないしね」
キッチンテーブルで食べようとしていた五人。残念ながら窓も近くになく、他の窓はカーテンを閉めているため光は一切入ってこない場所だった。
「まぁこんな機会も滅多にないし、闇鍋でもしよか?」
「主はやて、闇鍋とはなんですか?」
「本来は遊び間隔でいろんな食べ物を鍋の中に入れて、部屋を真っ暗にして鍋をつつくんよ」
「へぇ~面白そうだね」
「そうか? 俺は怖いと思うんだが」
「俺も賛成かな。アスラン、臆病風に吹かれたか?」
「で、一度箸をつけたら最後まで食べなあかん。ええな?」
一同賛成し、ふとした停電から闇鍋が始まった。

 

「ほんなら最初、キラから行ってみようか?」
「うん、わかった」
慎重に腕を伸ばし、箸で何かを掴む。
「あら?」
「どうかした? はやて」
はやてが妙な声をあげるので、シン。
「うぅん。何でもないよ?」
実はキラが摘まんだのははやての指だった。
それを指摘しようとしたのだが、このままどうなるか試したい好奇心に負け、キラの箸に全てを委ねている。
「(噛まれたら痛いやろなぁ)」
なんてことを考えているとスンッスンッと音がした。どうやら食べる前に匂いをかいでいるようだ。
マナー違反だが、この場合は仕方ないのではやては何も言わない。
「何か……ハンドソープの匂いがするんだけど……。
食べて大丈夫かな?」
顔は見えずとも不安げなキラの声が闇に響いた。
「キラ、掴んだものはちゃんと食べるんよ?」
「いきなりルール破ったら詰まんないからな」
早くしろよ、と言わんばかりに不機嫌そうなシンの声。
「分かってるよ」
キラは恐る恐る箸につまんだものを口に含んだ。

 

(長いな……。
それに何だろう?)

 

舌で転がしてみる。

 

(固いのがあるし、妙な肉感がある……
何だろう? 噛みきるの怖いな……)

 

なので、甘噛みしてみた。
「いっ……」
「どうしました? あるじはやて」
「うぅん、何でもないよ」
「そうですか……」
レイの心配をよそに、はやては笑いたいのを必死にこらえていた。
もし、このまま電気がついたらどんな反応をするか。想像が膨らんでゆく。
「キラ、一体何をそんなにてこずってるんだ?」
一行に進まないのでアスラン。
チュポンッ
と音をたて指を引き抜いたキラが答える。
「何て言えばいいか分からないんだけど……どこで噛み切ればいいかわからないんだ」
「普通に噛み切ればいいじゃないか」
アスランに促され、渋々、再度キラははやての人指し指を加えようとする。
「じゃあ、改めて頂きッ!?」
電気がついた。
「おいしかった? うちの指」
ニヤニヤ笑いながらはやて。
キラが固まった。
吹き出す他三名。
何で気付かないんだ?
気付けよ!
はぁ~…
と三者三様の反応を見せた後、噴き出す三人。
「いや、本当に……やめてよね。僕が噛みきってたらトラウマになっちゃうだろ?」
はやてを含め、笑っていたアスラン、シン、レイに氷の様な冷たい視線を浴びせかけるキラ。
室内には暖房、ヒーターがかかっているにも関わらず一瞬にして室温が氷点下まで下がったような錯覚を起こす四人。
「ご、ごめんなさい」
「すまない」
「悪かった」
「すみません」
凍てつくような空気を何とか打開するため、取り合えずはやて、アスラン、シン、レイは謝った。
鍋は再会されたものの、キラは終始無言だったという。