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やがみけ_短編3

Last-modified: 2014-08-06 (水) 11:50:31

「スティングー、ステラー、エリオー」
アウルが隊舎の中、仲間を探しながら歩いていると、遠目に子供を胸に抱き抱えたフェイトの姿が目についた。
誰かを探しているようで廊下に立ち止まり、きょろきょろと辺りを見回している。
それからアウルと目があうと一直線に駆けよってきた。
「な、何だ?」
「アウル、丁度いいところに……」
近くまでやってくると胸に抱き抱えていた子供、ヴィヴィオを下ろし、立たせると
「しばらくヴィヴィオをお願い! 急な呼び出しがかかっちゃってすぐに行かなきゃいけないから、え~と1、2時間したら戻るから、じゃ」
まくし立てるようにそれだけいうと直ぐに走っていってしまった。
「おい! 待てよ! 僕は面倒看るなんて一言も……」
最後の方は尻すぼみに小さくなり、諦めたようにアウルは嘆息した。
視線をさげるとヴィヴィオが不安げな表情で見上げていた。

 

「つーわけでどーすりゃいいの? こいつ」
とりあえず一人ではどうにもならないのでヴィヴィオを自室まで連れて行き、 スティングに助けを求めてみる。
「……」
スティングを見るなり、アウルの背中にしがみつくようにして隠れてしまうヴィヴィオ。
「おっ?」
見た目、正直スティングは無愛想である。目つきもよくない。その為だろう。
「どうするつってもな~、ティアナたちに頼んだらどうだ?」
ヴィヴィオに警戒されていることに少々ショックを受けつつ、スティングは伸ばしかけた手を引っ込めた。
「せめてエリオが居てくれりゃあな」
「肝心なときにキャロとどっか行ってんもんな……マジ使えねぇ~~」
「取りあえず、もう昼だ。飯に連れてこうぜアウル。ヴィヴィオ……腹は減ってるか?」
スティングの言葉に頷いたヴィヴィオを取りあえずアウルと二人で食堂に連れて行った。

 

「何……その子?」
食堂に向かうなり出会ったのはステラだった。
今まで海を見に行っていたのか、ほんのりと肌が日に焼けて赤みを差している。
「フェイトから預かってんだよ」
「この間の事件で保護された子供だな」
「……ふ~ん」
ポフっとステラはヴィヴィオの頭に手を置いた。特におびえている様子もない。それは普段ステラの持つ、のほほんとした雰囲気のお陰だろう。

 

昼食を終えてスティングたちが寮に戻る途中、隣室の住人、クロト、オルガ、シャニと鉢合わせた。
ヴィヴィオ、再びアウルの背に隠れる。
「あん? 何だ、お前の後ろにいるガキ」
目ざとくも見つけたオルガと
「ガキ?」
クロト。シャニはといえば音楽を聴きながら興味ないと言わんばかりに素通りし、部屋へと入ってしまった。
「いいから、ほっとけ」
相手にするだけ時間の無駄とスティングは部屋に入る。
続いてアウルとヴィヴィオ、ステラ、オルガ、クロト。
「何でお前等まで入ってくるんだよ?」
未だに背中にしがみついているヴィヴィオを鬱陶しく思いながらアウル。
「いいじぇねぇか」
「そうそう、僕らのことは気にしなくていいんで」
「で、このちっこいのはなんて名前なんだ?」
ヴィヴィオの目線に合わせてオルガとクロトが腰を折り、顔を近づける。
「ふぇ……」
今にも泣き出しそうなヴィヴィオ。
「お前ら鏡で自分の面見て来いよなぁ、こぇーんだよ」
「こう見えて僕は子供に対する接し方は心得てるんだ」
どこか得意げにクロトが言うので黙って様子を見ることにした。
にやりと邪悪な笑みを浮かべてヴィヴィオに顔を近づける。
「ふぇ……」
ヴィヴィオの目からは今にも涙が零れそうで、鼻水も出てきてしまっている。そんな彼女を無視してクロトは顔を自分の両手で覆うようにして隠す。
いないいないばぁ~でもするつもりだろうか。
その場にいる一同、そう思った。
「そぉりゃゃゃややや゛!!」
耳を塞ぎたくなるような大声量。腰を抜かしたヴィヴィオが掴んでいたアウルの服を離してしまいぺたんと座り込んでしまった。
そこへ追い討ちをかけるかのようにクロトが顔を近づけてゆく。
「抹☆殺ッ!!!!」
飛び出さんばかりに見開かれ、血走った目。
おっかなびっくりヴィヴィオは泣き出してしまった。
「どこが得意なんだよ……ボケ。泣いてんじゃないか、どーすんだよ」
アウルが冷めた目をクロトに向ける。
「……そ、そんなこと僕は知らないねぇ……」
ぷいっとクロトは視線を逸らした。
「ハッ、クロトがダメなら俺の出番か?」
「だから、言ってんだろ?
オルガもクロトも顔が怖いんだよ」

 

「頼むから帰ってくれ、いや、帰れ!」
これ以上事態が酷くならないうちに何とかお引き取り願いますと懇願するスティングに見かねて、オルガとクロトは渋々と部屋を出て行った。

 

ヴィヴィオの泣き声が支配する室内。
「どーすんのさ、スティング」
「どうするもなにも引き受けたのはお前だろうが、責任もって何とかしろ」
泣いているヴィヴィオを不思議そうに見ていたステラが寄っていき、頭をよしよしと撫でる。
「怖くない、怖くない」
この行動でなのはママとフェイトママのことを思い出したのか、一層泣き止む声が大きさを増した。
「うわぁ~ん!!!! ママぁー、ママぁー」
とヴィヴィオ、連呼する。
恐らくは純粋に恋しく、寂しくなってそう叫んだのだろう。
スティングはやれやれとため息をつく。
ステラは困惑顔でオロオロ、そしてアウルはフリーズしていた。
「ま……ま?(ママって確か子供がお母さんを呼ぶ時に使う言葉)」
「取りあえずアウル、保育施設に預け―――」
「かあさん……」
「ッ!?」
「母さ……んが死んじゃうじゃないかぁぁああ!!!!」
「よせ、アウル。このバカ!」
「死ぬ……?」
「ステラ、大丈夫だ。お前はなにも聴いてない!
アウルは何も言ってない!」
「死んじゃうはダメ……死ぬは嫌……嫌ぁぁああ!!」
「うわぁぁああん、ママぁー、ママぁー!!!!」
「止めろ、このガ……ヴィヴィオ、落ち着け!」
「母さん……母さん……放せ、スティング!
母さんが……母さんが……」
「死ぬのは嫌ぁぁあ!!!!」
「お前らぁぁあ!!!! おちつけぇぇええ!」
スティングの絶叫が一際大きく室内に木霊した。

 

機動六課食堂
「クロト」
フェイトが呼び駆け寄っていく。
やっていたゲームから目を逸らすことなく、
「あぁ?」
と乱暴な返事を返す。
「アウルとヴィヴィオ見なかった?」
「ヴィヴィオ~?」
クリア出来なかったのか乱暴にゲーム機の電源を落とし、テーブルの上に置いた。
「うん、これぐらいのちっちゃい子供何だけど……」
しばらく考えるような仕草を見せた後、
「あぁ、あのガキね。アウルの部屋に居るんじゃねぇ?」
「そっか、ありがとう」
フェイトは急ぎ足でアウル、エリオ、スティングの共同部屋に向かった。
部屋の前まで来ると、フェイトはノックする。
しかし、何の返事もなく、少し心苦しいが勝手に中に入ろうとドアノブを回してみた。
鍵はかかっておらず、室内には明かりも灯っていなかった。
「アウル?」
呼びかけてみる。
返事はない。
フェイトは電気をつけた。

 

最初に飛び込んで来た光景は床に横たわるステラだった。
腕や頬に引っかき傷や痣がある。
「え……、どうしたの……コレ」
思わず疑問が口をついて出た。
それから少し視線を上にやると白目を剥いているアウルの姿。
「ひっ!」
さらに視線を上にやると顔中痣だらけのスティングとその膝で眠るヴィヴィオの姿。
ヴィヴィオは無傷なようだ。
フェイトは安堵のため息をつく。
それと同時に今まで眠って、気絶していた四人が身じろぎし目を覚ます。
「あれ、何で?」
寝ぼけ眼で周囲を見回すアウル。その手前で大きく伸びをするステラ。
「うっ」
寝違えたのか首を鳴らしながらスティングが痣だらけの顔でフェイトを見た。
「あ?」
そのスティングの様子を不思議に思ったヴィヴィオがスティングの視線の先をたどり、表情が綻ぶ。
その後ろでスティングの顔がひきつっていた。
ヴィヴィオは立ち上がり、大きく息を吸い込む。
スティングは立ち上がり、ヴィヴィオの背後から手を伸ばす。
「ヴィヴィオ、ただいま」
「フェイトマモガッ!?」
スティングに口をふさがれ、そのまま羽交い締めにして廊下にでる。
「スティング! ちょっと乱暴だよ」
非難がましい目で抗議するフェイトをスティングは思い切り睨みつけた。そしてヴィヴィオを解放し
「おかえりー、フェイトマモガッ!!!!」
再び拘束。
フェイトの前からヴィヴィオを連れて逃走する。フェイト、後を追いかける。
「何やってんだ? スティングの奴」
玄関口から顔だけ出してスティングの不審な行動を見ていたアウルは、同じく顔だけ出しているステラに聞いてみた。
「……知らない……」
スティングの苦労など知るはずもなく、二人は食堂へと向かっていくのだった。
ちなみに、ヴィヴィオを散々羽交い締めにしたスティングはフェイトとなのはにこっぴどく叱られたという。

 

~スティングの大変な子守~完~