あの日、私はニュータイプと呼ばれることを捨てました。
でも、捨てたのはニュータイプという名前だけ。能力はそのまま。
何時までも、手を引いてもらってばかりの自分ではいられないから。
二人で並んで歩きたいから。
自分の『力』と向き合うチャンスをちゃんと生かそうと思います。
そして今が、今がきっとその時。
「まだ飛んでいられる?」
「Yes,ma'am」
背中の翼に魔力を込められるのを感じながら上昇。
一瞬前まで私がいた空間を青い閃光が貫いていきました。
回避が追いつかなくなるまで、多分あとちょっと。
素人と舐めてかかっては危険。
最初の攻撃を回避されたとき、その予想は確信に変わった。
直射型の魔法では撃つ前に射線からいなくなってしまう。
思考を読まれているというのは存外にやりにくいものだ。
彼女、ティファ・アディールはこの世界で拾った魔術師だ。
もっとも、彼女の世界では『ニュータイプ』と呼称するらしいが。
そこでは魔術師特有の技能である高度情報処理能力・意志伝達能力を
機械兵器の操作に用いる技術が発達していた。
魔法そのものの技術が発達した世界ではない。
そんな世界の住人にデバイスを持たせた結果がコレだ。
「Stinger Snipe」
死角から聞きなれたシステム音が流れてくる。
雑念が入った瞬間を見逃してくれる相手ではない。
そもそも雑念を持ったことを知覚できるのだ。
高速で突っ込んでくるのは、高速と操作性が売りの誘導弾。
彼女も自分の特性は理解しているのだろう。
「打ち落とせ、デュランダル!」
「OK,BOSS」
愛杖の返答は短い。
「Stinger Snipe」
同一の魔法で相殺。読まれているなら、対処できない処理速度で打ち落とす。
それだけのことだ。
砲撃や、広範囲攻撃まで絡めなければならない相手ではない。
「ティファちゃんも粘るね~」
アースラ管制室では、二人のクセ毛がモニターを見つめていた。
「クロノの野郎、半分も力出してないだろ?」
「おぉ~。さすがガロード君、くぐった修羅場の数が違うというかなんというか」
遅延発動のバインドや遠隔発生系の魔法は通じない。
これは彼女の能力を考えれば当然。
空中での機動力も高く、急な針路変更も恐れない。
戦闘状態の機動兵器に乗るというのだから、G耐性は推して知るべし。
空間認識も早くて正確。
そして、それ以上に戦闘慣れしている。
杖の方も、作りたてにしては良好だ。
インテリジェントの最大の問題点である使用者との相性も予想以上。
デバイスの素体に使った操縦桿に、何か特別な思い入れがあったのだろう。
内臓データはS2Uのコピーと、ガロードの戦闘記録。
どこぞの誰か達のような馬鹿けた魔力所持者でないなら自分が組んだ術式の方が向いている。
惜しむらくは魔法戦での経験不足。
ちょっと鍛えればまだまだ光る人材なのは理解した。
杖の方もデータ内容をAIが把握すれば、まだ伸びる。
本人にもこちらに協力する意志がある。
ついでに人手不足。
嘱託として迎えるのは問題ないだろう。
目下の問題は
「さて……どうやって終わらせたものか」
瞳に写る意志が強すぎる。
息はとっくにあがっているし、杖を構える腕も下がり気味だ。
なのに、目の強さだけが一向に衰えない。
正直、ちょっと攻撃するのは気が引ける。
「あーもう試験としては十分なんだが」
「すいません……、もう少しだけ」
確信した。これは絶対止められない。
目の前にいるのは求道者だ。
「ガロード」
『あいよ~?』
「すまない」
『はぁ?何言ってr』
通信切断。
許せガロード。アレを無傷で止めれるかは怪しい。
訓練室上部から白い翼が突っ込んでくる。
胸元にあしらわれた緑色の煌きも一緒だ。
魔力を注ぎ込むことによる動力降下。
動きは直線。あの速度では曲がれまい。
前言は撤回しよう。範囲を拡大すればバインドで捕獲できそうだ。
というか、止めないと逆に床に突っ込みそうな気がする。
「蒼穹を駆ける白銀の翼 疾れ風の剣……」
――同時刻 アースラモニタールーム
「あんのエロ野郎!」
「ガロード君落ち着けぇぇぇぇ!」
「流し目まで決めやがった!」
閑話休題。
「迎撃されるのをわかっていての突撃。少々無謀がすぎるな」
これで勝負は合ったはずだ。
だが、頭の中の警鐘が鳴りやまない。
おかしい。僕は何を見逃している?
何故、間合いの維持を優先していた彼女が、急に突撃を敢行した?
答えは上。彼女がいた場所。蒼い剣。
「デュランダル!」
「Round Shield」
未来予知を利用したスティンガーブレイドの遅延発動。
彼女の能力が思考を読み取るだけではないのを失念していた。
剣の消滅を待って、ラウンドシールドを解除。
撃った本人は気絶。彼女が求めた答えは見つかったのだろうか。
最後に、ティファを抱きかかえて訓練室を出たせいで
ガロードとエイミィに鉄拳制裁を貰った事を追記しておく。