シロ ◆lxPQLMa/5c_外伝

Last-modified: 2008-06-11 (水) 12:15:32

「温泉に行こうと思うとるんや」

 

6課の長たる八神はやて、彼女はいつだって突然である。

 

「また唐突だね」「いったいどうしたの?」

 

長年付き合いのある2人でも前置きなく放たれる彼女の言葉の意図を掴みきれない時がある。

 

大きな事件が終わって事後処理も一区切りつきようやく落ち着きを取り戻した。それで事件解決に貢献してくれたみんなを労わる意味も込めての提案だった。

 

「それでさすがに6課全員が一度になんてのは不可能やからいくつかのグループに分けて時間差をつけて休んでもらおうと思うんや。」

 

提案を聞いた2人はみんなのことを考えた意見に反対などするはずがなくいつもおなじみのメンバーで温泉旅行に行く運びとなった。

 

 今日は出発日である。天気も晴れ素晴らしい旅行となるだろう。この日を晴天で迎えるため、はやては天気予報を専門に扱っている会社から情報提供を受けていた。
イベント事に関して抜かりはなかった。

 

バスの中にはライトニング、スターズのメンバーに加えてシャマル、ヴァイス・グランセニック、ヴィヴィオにマユ・アスカ。そしてレジアスのもとからシン・アスカ
がきていた。

 

「いやあ楽しみですね。こっちに呼んでもらってありがたいですね。」
「そう言ってもらえると助かるわ。男湯が寂しいことになるかと思ってな。」

 

よかったよかった・・・・・ほんとに・・楽しみだ。

 

あふれんばかりのパトス、脳髄を駆け巡るリビドー、熱い熱い情念をまき散らしながらバスは進んでいく。

 

 バスの中

 

「ママー、温泉ってどんな感じー?」

 

みんなそろってのお出かけとあってはしゃいでいる。
それはヴィヴィオに限らず程度の差はあれど全員に言える事だった。

 

 ヴィータがキャロやマユ、ヴィヴィオを交えてどんな面白グッズを持ってきたかを楽しげに話している。その中
にはオーソドックスなアヒルのおもちゃから水鉄砲、シャボン玉の素まである。フリードもアヒルを見て楽しげな声を上げた。

 

貸し切りだし大目に見てもらおう、とおもちゃを見たはやてらが苦笑する。

 

宿につき部屋割をして一息ついたところで

 

「さてのぞきに行くとするか。」

 

ヴァイス・グランセニック、男である。

 

「何を言ってるんですか!いけませんよ。」

 

エリオ・モンディアル、まだ少年である。そして少年らしい教えられた倫理観に従ってヴァイスをいさめる。

 

ヴァイスはこの一言を聞いた刹那スーパーコーディネーターをも置き去りにした速度ですぐさま計画に修正を加えた。

 

「なあエリオ、お前はまだ小さいから知らんかもしれんが女というものは見るなと言いつつもその奥底には見て欲しいという思いがある。偉大な先人の
言葉にも女は見られてきれいになるという素晴らしい言葉がある。だからお前も俺についてこい。これも人生経験なんだ。そもそもほとんどの男は大体
のぞきをやってるんだぞ。それにお前は小さいし怒られないって。」

 

曲解もいいところではあるがエリオにはその判断はつかないと思われた。

 

 エリオでも知っているであろう言葉をつかって昔からのことだと肯定し、そしてみんなもやっている
という事によって悪いことではないという印象を与え、とどめに身の安全を保障してやることで安っぽい倫理観を打ち砕く。

 

「そうなん・・ですか?わかりました・・。」

 

ちょろいぜ。ヴァイスの表情が喜悦に歪む、その表情はエリオからは見えない。所詮はまだお子様よ。
これで共犯者、一蓮托生、もう邪魔者はいない。だが思ったよりすぐ乗ってきたな? もっと手間取るかと思ったが。

 

ヴァイスの予想を超え少年はひと足早い性の目覚めを迎えていた。ぶっちゃけ行きたかったのだ。正直いい理由を作ってくれたヴァイスには感謝すらしていた。
自分が止めれば取り込むかうまく言いくるめて一人で行くかという2択だろうと判断し、そして…賭けに勝った。そんな計算が働いていた。そんな思いをまるで
表面に表すことなく少年はいかにも仕方ないなあ的な面持ちでヴァイスの後を追う。

 

「シン、お前も来るか?」

 

暗黒闘気を発しながらの会話に割って入るような無粋なことはせず黙って見守っていたシンにヴァイスが声をかける。

 

「いや、人数が多いと見つかる可能性が高くなるだろ。俺はいいから行って来いよ。」

 

その言葉を受けヴァイス&エリオは力強く駆けて行った。その後ろ姿はまるでプロジェクトⅩが一本丸々作れそうなほどかっこよかった。

 

その2人の様子を特に気にかけることもなくシンは部屋を出た。

 

「いい景色だね」

 

 フェイトが感嘆の声を上げる。その声に応える様に一緒に入ってきた女性陣も次々に感心した声を上げる。
当然浴場ではタオル一枚である。例外は認めない。
 よって入ってきた女性陣の半数は腰にタオルを巻いて上半身丸出しの状態、もう半数はタオルを片手に体の
前方を隠していた。誰がどちらの状態なのかは皆さんの想像力に期待する。

 

かけ湯をして各々が温泉へと足を踏み入れる。

 

 早速おもちゃをひろげるヴィータ。お子様メンバーズでアヒルのレースが始まる。フリードがスタートの鳴き
声を上げる。そのうち第2レーンのキャロのアヒルがまるで見当違いの方向に進みシャマルの胸にダイブすると
いうハプニングも起きたりした。

 

会話も盛り上がってきたころマユがフェイトの胸を見てつぶやく。

 

「マユも大きくなるかな?」

 

やはりそういう事が気になり始める年頃のようだ。

 

「大丈夫、きちんと食べて運動していればすぐだよ。」

 

明るい浴場に暗い影がさす。そしてどこからか「そう信じていた時期が私にもありました。」そんな不気味なつ
ぶやきが響いた・・。誰であったのかはあえて割愛させていただく。

 

 ここは幸いにも露天温泉。覗いてくれと言わんばかりだな。ヴァイスはその無防備さに喜びを隠しきることが
できなかった。

 

 そのテンションのままにエリオに話しかける。

 

「分かるな、男は皆おっぱいという重力に魂を引かれ、重い十字架を背負った戦士なんだ。戦うしかないんだよーーー!!」

 

「はいっ!!!!!!」

 

 熱いスピーチを行った後、いくつかの注意事項を告げ戦闘モードに入る。

 

気をつけるべきポイントポイントで注意を促し進む

 

「いいかエリオ、決して音を立てるなよ。」

 

「はいっ!」

 

 少年はもう完全に男の眼をしていた。ヴァイスは背中を任せられる頼もしい相棒を得た。 その少年の成長を見てどこか
喜ばしいものを感じていた。主に目的のために。

 

 女性陣が入っている温泉は少々高い位置にあり竹で作った柵でおおわれているオーソドックスなものである。その温泉の
下方は林になっている。そこに2人はいた。そして現在最終確認を終えたところであった。

 

 もう滾るものを押さえきることなどできなかった。

 

そして

 

トラップに引っかかった。

 

 トラップはヴァイスの足を軽くバインドしていた。どうやらこの小型のトラップが辺り一面に張り巡らされて
いたのだろう。おそらくトラップが発動したことはあちらで感知しているはずだ。ここからは時間の勝負!!

 

シャマル、そしてとっても堅そうな木刀を携えたシグナムの姿が見える。

 

“HA”“NA”“SE”
 その掛け声と共にヴァイスはバインドを引きちぎる。
見てないのに等しくぼこられるなら、特攻をかける、そして強引に見てやる!!

 

エリオは漢の姿を見た、

 

 それははっきり言ってただの犯罪者の姿でしかないのだが、エリオにはまぶしく映ってしまったのだ、ヴァイスを
トカゲのしっぽ切りにして己だけ助かろうなど、そんな保身を考えた自分はなんて卑しいのだろう。

 

 そしてフリーになったヴァイスの脳内で「バインドが発動したのはひとつだけ?」またしても高速で思考が始まる!
「おそらくトラップを仕掛けたのはシャマルだろう、感知しているのはどこまでだ?トラップが一つしか発動していな
いことでここには一人しかいないと誤認してくれたなら・・・」

 

 そして、ヴァイスは浴場に特攻すると見せかけエリオをトカゲのしっぽ切りにした。

 

「エリオ・モンディアルを生贄にスケープゴートのトラップ発動!!」ちなみにこのセリフに特に意味はない。

 

 エリオは呆然としてクズ野郎の後ろ姿をみつめていた。

 

 だが呆然としていたのはそう長い時間ではない。エリオはヴァイスの裏切りを認識すると現在の状況を打破するため
思考が高速化する!ヴァイスが言っていたではないか。自分は小さいから大丈夫だと!自分の容姿をフルに利用させて
もらう。その名も「覗きじゃないよ、ぼく子供だよ大作戦!」演じきってみせる。

 

結果、すべての会話を把握していたシャマルの手により先程の会話の内容すべてが女性陣全員にさらされることとなる。

 

ちなみにヴァイスは大方の予想道理逃げ切れるはずもなくエリオを置いて逃げたクズっぷりを評価され滅多打ちにされることとなった。

 

 そしてこのときシンは一人入るのがやっとという小さなテントの中にいた。そのテントは旅館に近い山の中、旅館向きの
斜面の中程にあった。

 

 「馬鹿が。」その程度の作戦とも呼べない突発的な行動をするから、そんなことになるんだよ。口元が笑みに歪む。まあ
それでも目を引き付けるデコイ程度の役には立ったな。

 

「アリガトウ、ヴァイス・グランセニックそしてサヨウナラだ!」

 

特殊な作戦に使われる盗聴器がすべてを伝えていた。この場にいながらシン・アスカはすべてを把握していた。

 

「だいたいマユの裸を見るなんて俺以外の男に許されると思ってるのかよ。」
あの時、シンがヴァイスとエリオの話し合いに口を出さず、2人の誘いを断ったのは男の理解というわけではなく囮とするためだった。

 

あの時のセリフ、
「いや、人数が多いと見つかる可能性が高くなるだろ。俺はいいから行って来いよ。」
このセリフは決して嘘を言っていない、ただ自分のために向けられていただけで

 

やはり会話があると臨場感が違う。
「大丈夫だマユ、足りないなら俺がピーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」

 

不適切な表現があったことをお詫び申し上げます。続きをどうぞ。

 

 シンの言い分としてはこうだ。
「俺はただ兄として妹の成長を見守らなければいけない!!」

 

一部の人のためにここに記すがそんな理論は存在しない。それがどれだけ罪深いのかシンは理解していなかった
し理解する気もなかった。まごう事なきダメ人間だった。

 

(見守っている際もしその周辺がチラッと見えてしまってもそれは仕方のないことだろう。不可抗力なのだから。)
理論武装は完璧だった。いや、普通に穴だらけなのだが、自分を騙すには十分だった。・・・だって騙されたいのだから。

 

 話は飛ぶが説明せねばなるまい。実は八神はやては旅行の場所を公開しなかった。それは単純に驚かせるためだったの
か、それとも事前に公開してヴァイスの暴走を助長するのを防ぐためだったのかはわからない。

 

 だが場所が分からない、それはシンにとっても望ましいことではなかった。事前に準備をすることができないからだ。
今回の旅行はせっかくの機会という事でデバイスの総メンテナンスをすることになっている。デバイスは使用できない。いや
そもそも、魔法を使うのはご法度だった。
 なぜなら奴らは魔法のエキスパート、デバイスの起動のようなわずかなものでも感知される可能性は高いという判断に基づ
いている。あの顔ぶれにはシャマルもいるのだ、用心に越したことはない。
よって覗くためには魔法技術によらない手段が必要だった。そのためには金も時間も情報も多くが必要だった。

 

ヴァイスはそれほどの計画を立てずに突貫し失敗した。おまけにエリオも。

 

だがシン・アスカは違う。

 

 八神はやての最近の動向をつぶさに確認しその嗜好を調査した。そしてはやてが接触していた天候予測会社より情報を取得し
ていた。ちなみに自分の存在を悟らせないため多少非合法なやり方を使っている。はやての周到さがここであだとなった。
さらに6課で他のグループの行った温泉の場所を確認した。移動距離と旅行感覚のバランスに関するアンケートまで参照した。

 

 そして信じられないことに6課のうわさ話にまで耳をそばだて、その話に出てきた旅館の規模、温泉の種類
さらには限定イベントがないか、ありとあらゆる可能性を考慮して予想される場所を絞り込んだ。

 

 そして予想された旅館の温泉を覗く・・いや覗くのではない、確認するのに最も適したポイントを探り当て、
ベストプレイスに目立たぬよう前もって道具・装備を用意した。当日に重装備では疑いをもたれることは必至で
あったからだ。
 内訳はスナイパーライフル、当然光を反射しないよう特殊な加工をなされている。
そして本ミッションの要となる最重要アイテム、超高性能スコープは驚異の倍率・解像度を誇る。ちなみにシンは
このスコープの必要性を熱心に説いて一部の部隊には導入も決定していた。
さらに長時間同じ態勢でいても大丈夫なように銃を固定する台座に風雨をしのぎ姿を隠せる一人用小型迷彩テントも用意した。

 

補足しておこう。なぜスナイパーライフルであったのかというとこれはあくまで覗きではないからである。これはマユを覗こう
とする不埒な野郎を撃ち殺すための装備である。そして恐ろしいことに殺傷設定であった。シンが握る銃の引き金は恐ろしく軽い。

 

 もしあの2人の計画が成功していたらこの世に別れを告げることになっていたかもしれない。覗きをして撃ち殺されるという
家族も泣くに泣けない、世間の笑い話。いや一部では英雄として祭り上げられるかもしれないが、とにかくあまりにもみじめな屍を
さらし、きっと機動6課血煙温泉旅行と語り継がれることになっていただろう。

 

話はシンの独白に戻る。

 

 記録媒体に残す気はない。が正直惜しい、裏成長記録を取っておきたい!だが記録媒体があるという事は漏えいの危険性が出てく
る、足がつく可能性が生まれてしまう。マユの裸はおれだk・・・・・・。脱線したな。

 

 正直俺が一番危険視しているのはエリオだ!あの年頃の性に目覚めた少年の衝動、行動力はすさまじい。しかもエリオはフェイトと
いう保護者がいるため余計そういうものとは隔離されているだろう。奴はエロアイテムを求めて人の部屋を捜索することぐらいはする
とおれは睨んでいる。人はみな隠し場所には全精力を注ぐと思うが見たいという執念はたまにそれすら上回る。

 

 だから・・俺はおれの心に焼きつけよう。

 

 自分がコーディネーターで動体視力に優れていることを今日ほど感謝したことはない。だって揺れたのだ、
いや、現在進行形で揺れているのだ!!感涙したいところだがそれでは見えなくなってしまう、そんな罰
当たりなこと今だけは許されない・・・涙は引っ込んでな!!まばたきすら惜しいのだ、ついでにまばたきも
引っ込んでろ!

 

 死んだ父さんが歯ぎしりしている様子が目に浮かぶ。ざまぁ。

 

・・・この二人顔は似ていないが間違いなく血のつながった親子だった。

 

 そして誰にはばかることなくガン見は続く。

 

 マユ可愛いよマユ。フェイトがシグナムがシャマルがティアナがスバルがはやてがなのはが安心しきってはしゃ
いでいる。ヴィータにキャロ、ヴィヴィオはこれからに期待だな。あっ、そんなとこまで。・・・この部分アップする
ときにカットとかされないだろうな?!

 

まさにヘブン、俺はヘブンズドアーの向こう側を垣間見ているのだ。素晴らしい幸福感に包まれる。人生って素晴らしい。

 

さらに舐めるように見る

 

なっ、はやてがほかの女性陣の胸をもみ始める。顔を上気させあられもない声を上げる。いいぞ、もっとやれ!!手の動き
に合わせて形を変える双丘。(俺の目よカメラとなれ!!!)

 

女性陣が風呂からあがりそうな気配を見せる。

 

もう上がるのかよ。
追記しておくが彼女らは浴場に3時間は入っていた。

 

だからシンにとって、これは楽しい時間だったのだろう。少なくとも実際の時間3時間が、体感時間にして10分程度にしか
感じられないほどには。

 

 さあここからは時間との勝負だ、自転車にまたがりそして俺は急いで斜面を下っていく。
 旅館にたどり着いたら、おもむろに男湯に入り汗を流し髪を濡らす。そしていかにも今風呂からあがりましたよ
という雰囲気を醸し出して合流する。
 幸い走ってきたせいで頬には赤みがさしている、疑われることはないだろう。

 

 いやに芸が細かかった。気持ち悪いぐらいパーフェクトだった。

 

 浴衣姿のマユが俺の姿を見つけて駆けてくる。

 

 その後ろ側がふと目に入る、ヴァイスとエリオが「私は卑しい覗き野郎です」「いい年こいて覗きをしたブタ野郎
です」と書かれた看板をぶら下げロビーで正座している。

 

「ああはなりたくないもんだな・・。」さすがに男として多少の同情心がわいた。

 

「お兄ちゃん、温泉すっごく気持ち良かったよー。そっちはどうだった?」
「ああ、絶景だった。」嘘ではない・・・。

 

「フェイトさんの胸大きくてきれいだったねえ。」
「ああ、まったくだな。」
不意打ちだったためあの揺れる光景が目に浮かび普段無愛想なその顔はつい弛んでしまった。あまりにも悲しい、悲しい男の性だった・・・。

 

「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」
「//////////////////////////」

 

笑顔が場が凍りつく。

 

 ザ・○ールド 時よ止まれ! ごめんなさい。言ってみたかっただけなんです。

 

「へへっ、俺の・・・」
「僕は、僕はねーー」
「グレイトーーーーーーーーーー」

 

全く知らない男たちの死に様が浮かぶ、誰だこいつら?

 

「お、お、お兄ちゃんのエッチばかーーーーーー!!!裏切り者ーーー、信じてたのにーーーーー!!!」

 

嵐が巻き起こる、俺は嵐に飲み込まれる。

 

 温泉旅行にきた全女性メンバーが俺を取り囲む。

 

 (まるで魔女裁判だ。いや、おかしくないか?なんで魔女が裁く側なんだよ!魔法少女だからなんて言うなよ!
言われたらきっと突っ込んでしまう・・・。)

 

 この状況での突っ込みは自殺するのと変わらない。

 

 (くそう助けて成○堂さん・・魔女裁判か・・これがドキドキ魔女神判だったら・・・。)

 

辛いことから逃れるために思考が際限なくスライドしていく。シン・アスカの名誉のためここに記すがシン・アスカ
は断じてその手のゲームには手をつけていない。

 

裁判長高町なのは

 

 彼女は半眼でわずかに顔を赤らめ罪状を読み上げた。羞恥心によりいつもより不安定な様子を見せている。

 

 「シン・アスカ、被告人はみんなのは、はだ、裸を・・・」

 

 (((((((噛んだ・・・・)))))))

 

 それでも何とかみんながスルーした時点で

 

「 噛んじゃったね」フェイトが口に出してしまう。

 

 ((((((((空気読めーーー!!!!)))))))

 

 「うん・・。」なのはがうつむく。

 

「ねえ、なのはは何であんなに感情的になってるのかな?」

 

「たぶん胸にコンプレックスがあったんやろなー。」

 

不思議そうな顔をするフェイトに、はやては持てる者に持たざる者の気持ちはわからんかと力なくつぶやく。

 

「しかしシン君に見られてもうたからには責任を取ってもらわんとあかんなあ。」

 

「あの皆見られたんですけど。」
半眼で頬を染めシンをにらみつけるティアナ。表情に照れが混じっているためいまいち迫力がない、むしろ可愛い。

 

「んーーー、ならみんなと結婚する?ハーレムやねー。」

 

スバルは実感がないのか、多少照れてる感はあるがとくに怒っている様子はなかった。

 

反応はそれぞれだ

 

「みんなの裸を見た感想はどうなのかな?」なのはが変なテンションで質問してくる。

 

一 とってもきれいでした

 

弐 マユしか見えない

 

参 俺が大きくしてあげましょうか

 

 俺の脳内にサ○ラ大戦のLIPSが浮かび上がりカウントダウンが始まる。

 

(最悪だよ!どう答えても死ぬだろ!特になんだよ参は、俺はそういうキャラじゃないだろ!・・・わかった!
これは沈黙が正解だ!!)

 

しばらく黙っているとなのはが正座する俺の前まで歩いてくる。光の消えた目で俺を見下ろしながら、その白魚
のごとき指で俺のあごを持ち上げ言った。

 

「黙秘権なんて・・与えてないの・・。」

 

こえええええええーーー。

 

のちの証言によるとエリオはこのときちびっていた。

 

ほかの隊員たちもそのあまりの剣幕に、風呂を覗かれた事による怒りと羞恥心は一時なりを潜めることとなった。

 

 (なんとか何とか気をそらす必要がある。でも聞いてくれそうにない。インパクトのあるセリフはないか!)
そうすると先程のLIPSのカウントダウンが半分になった時点で選択肢が切り替わる。

 

よしっ、神はいた!!

 

一 俺が大きくしてあげましょうか

 

弐 俺が大きくしてあげましょうか

 

参 あんたの胸は俺がもむんだ!今日ここでー!!

 

(どちくしょうううううううううううううう――――――――――!!)

 

神は神でも邪神だった。

 

(こんなところで俺はーーーーーー!)もうやけくそだった。

 

まさかの参を選択!誰がどう見てもデッドエンド一方通行。

 

「あんたの胸は俺がもむんだ!今日ここでー!!」

 

 あまりの剣幕に弾劾しているなのはの方が気圧される。えっ、まさかの正解?

 

 あたり一面が静まり返る。そんな中ティアナ・ランスターは特に顔を青くした。その心のうちは「あんた頭冷やされ
るわよ!」あの恐怖は味わったものにしかわからない。少し様子を見るとあれ?なんか違う、私の時は虫けらを見るよ
うな目つきだったのに・・。

 

 そしてなのははその言葉の意味がすぐには理解できず、その発言をゆっくりと噛み砕いていく。もむ、揉んでくれる
の?そして理解した瞬間、脳が気を利かせて映像化してくれた。

 

 そこは一言でいえばムーディーな部屋だった。部屋のなかは薄暗く部分的にしか光が灯っていない。そんな部屋にいる
自分の後ろから手が伸びてくる。

 

 その手の主は私を後ろからやさしく抱く。逃げようと思えば逃げられるのにそんな気は湧いてこず相手のなすがままだった。

 

 そして相手の胸にしなだれかかりわずかに見上げるとそこにはアカい瞳。フェイトの紅とは違うその緋に引き込まれる、まるで魔眼。

 

 もう逃げられない。逃げる気もない。私達の吐息が熱を帯びる。普段の自分からはまるで想像できない情熱的な声がシンを求める。
そしてシンはその声に応えるよう耳元で甘い言葉をささやく。

 

 私の耳をくすぐる心地よい音程が私をほどく。

 

 シンの手がおもむろに私の胸へと向かってくる。その手をやんわりと拒む、自分の胸ではあなたをがっかりさせて
しまう。親友のようだったら・・・。

 

 シンは私を安心させるように唇を吸い上げた。・・・いいよ。震えた声で伝える。その手は服という壁を取り去る、
そしてその壁が守り続けてきた今まで誰にも許したことのない白い肌に・・・胸に////////// 

 

 これが俺のパルマフィオキーナだ・・。

 

 6課のみんなが静かに見守っている中

 

 「アァ・・ン・・・ダメ・なの」

 

 艶っぽい声が響く、その瞬間なのはは脳内より帰還を果たす。そして集まっている視線・・・

 

 「あ、あ、あ・・・あぅ・・・・」

 

 沸騰・・いやもはや水蒸気爆発。(イメージ映像-宇宙から観測できるゼオライマーの冥王攻撃)

 

 もともとそういう事に関する免疫の低さが災いした。羞恥心のあまりなのはの頭のなかはホワイトアウトしていた。
目じりには涙が浮かび、声もあうあうと意味のないものしか出てきていない。
 だがそれでもなお、いやそんな状態だからだろうか、通常の状態をはるかに超える、リミッター?何それ?ってな感
じの膨大な魔力の奔流が起こっていた。魔力は風を生み風は暴風となり荒れ狂う。

 

あたり一面騒然となる。

 

 シグナムがはやてを守るためはやての前に飛び出る。

 

 「私より旅館を守ってーーーーー!!・・・ああ・・ひなびた宿にすればよかった。」
被害の金額を思ってはやてのあたまもホワイトアウトする。

 

 フェイトとヴィータ、シャマルがヴィヴィオやキャロ、マユを暴威から守る。

 

 そんな修羅場の最中、裁判の時にされたバインドがいまだに俺を縛る。
逃走経路も用意してはいたが今の状態ではもう詰みだ。

 

 「アリガトウシン・アスカ、そしてサヨウナラだ!」

 

ヴァイスとエリオが不敵な笑みを浮かべ混乱に乗じて逃げ出した。

 

 「チョベリバー。」
 「誰だ!!今古代語使ったやつ!!!!6課の誰かじゃないよね!!」

 

 「お兄ちゃん!!」俺を心配してマユの声が震えている。「生まれ変わってもまた兄妹になろうね」涙ながらに必死に思いを伝えてくる。

 

 「えっ、なにそれ!!今生の別れ!俺は来世より現世でマユと一緒にいたい!!」

 

俺の背後で凶悪な気配が臨界に達する・・。

 

振り向きたくはなかったが意を決して振り向いた。

 

 (めっちゃテンパってる・・・。あの状態では手加減を期待するどころか非殺傷設定切れてたりするんじゃないか・・・。)

 

 「ディバ・・・ディヴァインバスターーーーーーーーーー」

 

 「「「「「「「かんだ・・・・・・・・」」」」」」」」

 

一 都合よく仲間が助けに来る

 

弐 カッコいいシン・アスカは突如反撃のアイデアを思いつく

 

参 死亡。現実は非情である

 

 (ちょっと一は選択肢にも上らないだろ!仲間に殺されそうなんだよ、他の奴らは・・逃げやがった!)

 

 まともな術式を組んだわけでもないそれは、ディヴァインバスターと銘打たれてはいるものの集束する気配を見せず、
この場を円の中心とした超大規模な爆発にその姿を変えた。

 

 世界がピンク一色に染め上げられる、そして光の中に人影が消えた(複数)。

 

エピローグ

 

バスの中

 

 バスに乗っている面々をみると行きの時はしゃいでいた面影はどこにもない、というか生気がない。特にはやては
白目をむいて涎を垂らして気絶。その事情を知る者にはあまりにも悲しいその姿には、まるで色気というものが存在
していなかった。だが彼女はいま幸せな夢の世界にいた。「せやけどそれは夢や。」あの時の名ゼリフが本人の意識に
上ることはついぞなかった。大人はね、辛いことが多いんだよ・・・。

 

 そんな中さらなる爆弾発言が響く。

 

 それはヴィヴィオのかわいらしい口から発せられた。

 

 「ワンワンと一緒に入りたかった。」

 

 その場の全員の表情が驚愕に染まる。みんなナチュラルに忘れていた。それはあんまりな仕打ちだった。これを読んで
くれていて気付いてくれたあなたは驚嘆すべき人材です。ぶっちゃけ作者忘れてました。

 

 どうしよう・・・この場のみんなが頭を抱えた。(作者シロ含む)

 

 鬱だ・・絶望感を漂わせこの上なく陰気なバスは走っていく。運転手もさぞ辛かったことだろう。

 

 「きれいな花畑、ベタだな。臨死体験にいつも花畑を使うなんて面白味も何もない。」

 

 景色が姿を変え地獄の門が開き始める。

 

 「なんてきれいな花畑なんだ。いくら俺でもこれほどのものを見せられたら10分はこの花畑について語らなくては
罪だな。持って帰ってマユにも見せてやりたいな。」

 

景色が戻ったことに安堵し不用意な発言はよそうと心に誓った。

 

 しばらくして、おそらく三途の川であろうものの前で佇んでいると向こう側に父さんがいた。そしておもむろにレトロ
なカセットデッキを取り出したかと思うと、マユの「お兄ちゃんのエッチ馬鹿――――」をループ再生してニヤニヤした
後に、俺を指をさして大爆笑していた。

 

 ・・・この野郎!!!!死者であることを忘れぶっ殺してやるという思いで踏み出した瞬間意識が遠のいた。視界が消え
る瞬間、父さんが母さんに頭をはたかれているのが見えて俺の胸はスッとした。

 

 通常、通常というのも変だがとにかく死の挟間を漂って戻ってくる場合ひとつは生者に呼ばれる、もうひとつは死者に追い
返される、というものだろう。だがシンは死者に嘲笑され怒りのままに帰還した。おそらく世界初であろう。残念ながらこの
偉大な記録はギネスに乗ることはない。

 

 夕日が部屋を照らしている。頭がはっきりしないせいで、ここがどこかすぐにはわからなかった。ぼうっとしているとオーリス
さんが入ってくる。そして災難だったなと労わってくれたあと事情を説明してくれた。

 

 俺はどうやら爆心地から200メートルほど離れた地点の瓦礫の中から発見されたらしい。発見された後
丸1日眠っていたという事だ。
 その頑丈さには戦闘機人も真っ青だと驚くよりもあきれられた。俺は無事なことをもっと喜んでくれと伝え
ると、最初から心配していないという。やれやれ喜んでいいやら、悲しんでいいやら。

 

 生死の間を漂ったその経験は俺を一回り大きくした。心が強くなったと思う。だってこれほどの目にあったの
に後悔がまるでないのだ!この事件をもう一度最初からやり直せるとしても俺は同じ選択をするだろう。

 

 体をほぐしてから身なりを整えてレジアス中将のもとへ向かう。何やら起きたらすぐ来いとの事だ。けが人に何
たる仕打ち、常識を疑う。

 

 レジアス中将のもとに出頭するとやはり怒られた。とっても怒られた。何せ旅館を爆破した原因の一つなのだから。
「おまえには常識があるのか?」とまで言われた。(あれ?俺のセリフじゃなかったっけ?)

 

 この事件は魔導士の信用を下げる事になりかねないため徹底的隠ぺいされ、捏造され少なくともそのままの形でニュース
に上ることはなかった。

 

 レジアスはシンにさんざん小言を言った後

 

 「・・・・・・・・・・今度はもっとうまくやれ・・。」そう小さくつぶやいた。

 

 ハッと顔を上げる。胸からこみ上げてきた熱いものを無理やり飲み込む。

 

 「・・サー、イエッサー!!!!!」

 

 それは誰が見てもほれぼれするような、シン・アスカ生涯最高の敬礼だった。

 

           「嬉し恥ずかし温泉旅行」         FIN