シンとヤマトの神隠し 誰かかまって 短編

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:16:14

午前。
「エリオく~ん!」
とパタパタ廊下を走ってくるのは同じライトニング分隊のキャロ・ル・ルシエだ。
「あっ、キャロ…。どうしたの?」
「今から、用事とかある?」
キャロは肩で息をしながらエリオに聞いてくる。
「ごめんキャロ、今ちょっとフェイトさんに呼ばれてていつここに戻れるか…また今度…。」
ごめんねっと言ってエリオはその場を去ってしまった。
クキュ~
と寂しそうな表情をし、エリオを見送るキャロを見て傍らを飛んでいるフリードが鳴いた。

「キラさ~ん!」
パタパタ廊下を走ってくるのはキャロ。
「うぁ、どうしたのキャロ?」
びっくりした表情でキラが歩を止める。
「キラさん、これからお暇ですか?」
「え~っと、ごめんね、これからスバルとティアナと出かけることになってるんだ…。」
「そうですか…わかりました…。」
元気無さそうにうつ向くキャロ。
「ごめんね、また次の機会に…。」
申し訳なさそうにキラはその場を去っていった。
またしても寂しそうにキラの背中を見送るキャロ。
その傍らでクーとフリードが鳴いた。

「ったく、シグナム副隊長も…酷いよなぁ~…。
何も休日に暇だからって模擬戦に付き合えだなんて…。
まっ、暇だったからいいけど…。」
ボロボロになった訓練着をそのままに、重い体を引きずる様に歩くシン。
そこへ
「シンさ~ん!」
かまって、かまって~とパタパタ廊下を走ってやって来るキャロ。
「あ…キャロか…。」
「シンさん、これから予定とかありますか?」
考えるシン。
予定とえるほどのものはない。
ただシャワーを浴びて、昼食をとってから寝ようと思っていた。
「あぁ、キャロ…。」
シンを見上げる目。
ほどよくうるんでいる瞳。
「俺…朝から…、その…。」
元気よく上がっていた眉が少しずつ八の字へと変わる。
「シグナム副隊長の…訓練に…付き合わされて……。」
瞳の潤いが増した。
「疲れてないから、シャワー浴びて、それから要件聞くから…。」
パッとキャロの表情が早変わりした。
「あっ、それなら…。私も入ります。」

シャァァアアア…。
「髪流すぞ…。」
「はい!」
キャロのピンク色の髪を流すシン。
綺麗に泡おとしてやり、それからシャワー室からでると体を拭き、キャロの髪を乾かしてやる。

昼食をとって、外を散歩する。
歩幅が違い、キャロの歩くスピードが遅れがちなので、シンがてを差し出すと、少しだけ頬を赤らめてキャロは差し出されたシンの手を取った。

一方、キラ、女性服売り場試着室前。
試着室は二つあり、右にスバル、左にティアナが入っている。
シュッとか、パサッとか絹ずれする音が聞こえるところをみると、今二人は着替えているところなのだろう。
そんな二つの試着室の前で待っているのはキラだが、決して変態ではないので安心してほしい。
左右のカーテンが同時に開かれ、スバルとティアナがそれぞれポーズをとって感想を求めてくる。
「「どう?」」
「うん、いいんじゃないかな?」
一旦カーテンがひかれ、再び開く。
「これは?」
「うん、いいね。」
もう一度。
「似合ってるよ…。」
仏の顔も三度まで、スバルに首を羽交い締めにされ、ティアナに
「何かどーでもいいみたいに聞こえるんだけど…。」
と言われる。
「いや、そんなつもりじゃ…。」

サァァア…。
「雨…降ってきちゃいましたね…。」
ポツポツ降ってきていた雨に気付き、シンとキャロは散歩を切り上げていた。
「まぁ、ニュースでやってたしな。」
今はシンとキラ、エリオの自室だ。シンは二段ベッドの一段目に寝転がって雑誌を開いている。
ベッドの縁に足をかけてぶらぶらさせているのはキャロだ。
そうしながら、しばらく二人は会話をしていたが、次第に話題がなくなり、沈黙が続いた。
シンがあくびを噛み殺しながら雑誌を眺めていると、もそもそとベッドが揺れ始め、シンの頭のすぐ横にキャロがひょこっと頭をだした。
「シンさん、それ、なんの雑誌なんですか?」

「あぁ、洋服の雑誌をな…。つっても買うかは分かんないけどな…。」
次のページを捲るシン。
「これなんか似合うんじゃないですか?」
キャロが指を差していう。
「…う~ん、微妙だな…。」
「かわいいと思いますよ?」
「どっちかって言うと、可愛いよりカッコいいがいいなぁ~。」
何て会話をするのであった。

サァァア……。
「雨かぁ…。」
スバルはテーブルの上に頬杖をつきながらアイスを食べている。
「それを覚悟で来たんだしね…、仕方ないじゃない。」
サクッとコーンをかじりながらティアナが言った。
「ねぇ、スバル…これ食べない?」
キラが五段積みになったアイスをスバルに差し出す。ちなみに最初は八段だった。スバルが買ってくると言ったので同じやつでいいといったらこうなった。
「エッ!?いいの?」
「…うん、ちょっと僕には多かったよ。」
キラの手からアイスを受けとるスバル。ワーイっと喜びながら頬張っていく。
「よくそんなに入るわね~…。」
ティアナはあきれたような顔をした。
「いや、でも逆にこれだけ食べてくれると気持いいね…。」
「そうね、まぁ見てる分にはね…。」
違いないと笑うキラだった。

雑誌を閉じるシン。
いつのまに集中していたのか、キャロは隣で寝息を立てていた。
「キャロ~…、寝るなら部屋に戻ってから寝ろ~…。」
と耳元で声を出すと、グズって寝返りをうつだけだ。
「お~い…。」
頬をぷにぷにつつく。反応は…ない。しばらくシンは考えるようにしていたが、
「ま…いっか。」
そういって自分とキャロに布団をかけて眠りに着いた。

午後四時。
「あれ、エリオも今帰り?」
「キラさんもですか?」
自分たちの部屋へ向かう途中の通路で遭遇するキラとエリオ。
今日あった事を話ながら自室へと向かい、キラがドアを開け、室内電気をつけるが、すぐに消し、ドアをそっと閉めようとする。
「入らないんですか?」
エリオが言うと部屋の中を指差し、そのさし示す方向を覗くと、シンの胸の中で蹲るようにして寝ているキャロと、そのキャロを包み込むように寝ているシン。
声をあげそうになるエリオの口を塞ぎ、キラは口許に人指し指をたて、静かにというジェスチャーをする。そのままそっとドアを閉め鍵をかけるキラ。
「寝かせてあげよう、夕食まではまだ時間あるんだし…ね?」
「…そうですね…。」
二人は自室から立ち去り、部屋にはシンとキャロの寝息だけが響いていた。
(種死&リリカルなのはさん) (神隠しへ戻る)