シンとヤマトの神隠し劇場版 第03話

Last-modified: 2015-10-26 (月) 17:58:43

管理局地上東部管轄施設周辺市街地。
シンとアスランは背中合わせになり、対峙する相手を見据えていた。
「不味いな……」
射撃に特化した敵が一人、増えていた。シャムス・コーザである。
両名の頬を汗が伝う。
シンは両手にアロンダイトを、アスランはハルバート形態のラケルタを右手に構え、状況を分析していた。
「(気はすすまないけど、協力しなきゃやられる!)」
「(あぁ、三対ニの状況、どうやって……。
早々にミーティアを使ってもいいが、ここで使えば、恐らくはレイたちの援護に行けなくなる)」
それはシンも同じだ。この魔道士たちを使って戦闘データをとっている可能性もある。奥の手を見せるにはまだ早い。
しかし、今のままでは魔力ばかりを消費するだけだ。
これがキラやなのはの場合は状況が楽だっただろう。
誘導攻撃が行えるし、前衛のミューディーをキラにまかせればスウェンとシャムスの攻撃をなのはがサポートできるし、アクセルシューターやドラグーンを使用することで三対ニの状況を打開できる。
何より、後衛が視野を広く取れるのが利点だ。
反面、シンとアスランでは少し分が悪いと言えよう。アスランは近接、中距離戦闘を混ぜて戦うのが得意で、シンは近接特化型。
どちらも遠距離砲撃も行えるが、一発一発の魔力消費が激しいし、遠距離用の砲撃、ケルべロス、アムフォルタス、スキュラ、ロングレンジキャノンは連射が利かない。
「(シン、交代だ、お前が女の方をやれ、俺が黒人の方を潰す。
銃型デバイスは無視だ)」
「(何であんた――)」
「(お前があの女を落とせれば、まだ勝期はある。
瞬発力はシン、お前の方があるからな)」
卑怯だと思う。魔法はシンの方が先輩だ。

 

指示するのは俺だ!

 

と言いたいところだが、妙に信頼されているので悪い気はしない。
「(3・2・1で行きますよ?)」
「(あぁ、頼むぞシン)」
「(3……)」
「(2……)」
「「(1……ッ――GO!!)」」
同時にシンとアスランが動き出す。
シンはミューディーへ、アスランはシャムスへ。
スウェンを無視したことにミューディーとシャムスは驚いたようだが当人は別段表情も変えず左右の銃をシンとアスランへと向けた。

 

管理局地上西部管轄施設周辺市街地。
戦闘中にも関わらずキラは一瞬動きを止めた。
「(何だ?)」
戦慄が背筋を駆け抜けたあとだった。
忘れたくても忘れられないこの感覚、世界を憎み、キラを憎み、そうして死んでいった男が持っていた気配。
「(まさか……ね……)」
「舐めてんのかぁ、ア゛ァ゛?」
「ッ!?」
注意の逸れたキラを狙うオルガの二射一対のトーデスブロック。
シールドで防いでもよかったが、慌てたキラは位置確認をせず回避した。
「っハァッ!!」
迫り来るシャニ。
「ッ!?何?」
冷たく光るニーズヘグの刃の直撃は避けたものの大きく体制を崩し、目の前にはクロトがツォーンの発射体制に入っていた。
「(――落とされる)」
距離は五メートルと離れていない。
キラはとっさに障壁を張ろうとするが、
『フレスベルグ』
「ッ!?」
デバイスの音声に振り向けば、シャニの姿があった。
光球を挟むようにして発生された環状魔法陣から紫電が走る。
急遽キラは両方向に障壁を張った。しかし、
『スキュラ』
動けなかった。
クロトのツォーン、シャニのフレスベルグに自由を奪われたキラ。
目前に迫り来る閃光。
「(まずい……)」
刹那――

 

「衝撃消化、炎熱加速、火竜一閃」

 

炎の落雷と言うべきか、猛烈な熱波を伴う炎の奔流がスキュラを飲み込んだ。
「あぁん?」
不機嫌な表情で突如降り注いだ炎の元を辿れば、目前にまで迫り来るシグナムの姿。
落下の加速に力をのせ、シグナムはオルガを叩き落とす。
「レヴァンティン!」
薬莢が剣から弾き出され、排熱機構から蒸気が噴射される。
分断される刃。魔力によるコントロールで鞭のようにしなる連結刃は宛ら鋼の蛇よう。
『シュランゲバイセンアングリフ』
鋼の蛇がうねりをあげ、クロトにその牙を向ける。
「うわっ!?」
クロトは間抜けな悲鳴をあげて失速。直撃を回避した。
「遅くなって済まなかったな……キラ・ヤマト」
『シュベートフォルム』
燃えたぎる焔のつばさ。
「シグナム……さん?」
「何だてめぇは!!!!」
声を荒げるクロトを無視してシグナムはカートリッジを補充した。

 

同じころ。
レイはよく知る気配を感じていた。
アウルによる一斉射をかわし、その気配を探る。
近付いてくる気配は懐かしいとさえ感じられる。
「……なんだ?」
『Caution!』
レジェンドの警告に頷き、アウルの放った誘導弾をドラグーンで迎撃、破壊した。
「スティング、きりがない」
管理局西部管轄地区は未だ健在。
一時総崩れだった部隊も持ち直してきている。
レイのドラグーンを全身を覆うシールドで防ぎ、アウルは愚痴を漏らした。
「まだ予定の時間にもなっちゃいねぇ、もう時期来るさ。
ッ!? と危ねぇ!!」
ハーケンセイバーをシールドで弾き、三方向からフェイトに向けて同時に射撃を見舞う。
フェイトは上昇してかわした。

 

市街地低空に敷かれた道、ウィングロード。
店や民家が風のように飛んで行くなか、二人は戦っていた。
「うっ!!」
スバルは膝の力を抜いて体を沈ませた。
五本の魔力刃が空を切り、スバルの髪を数本切り裂いた。
反撃しようと拳を作り固めるが、既にステラの姿はない。
息をつく暇なく攻防が続く。
民家の壁に皹がはいり、砕け、破片が散る。
瞬間、スバルの目の前に現れるステラ。
「このッ!! リボルバー……シュート!!」
魔力が産む衝撃波が建物の外壁を破壊する。
『スバル、いいように誘われてるぞ!』
レイからの通信が入る。
「そんなこと言ったって!」
俊敏な猫のように動き回るステラ。壁面や、何もない空間を蹴って移動する故、動きが読めない。
さらに、張られたAMF結界のせいで魔力の消耗が早い。
最初は自殺行為だとスバルは思った。結界である限り、AMFは結界内の術者の魔力を無差別に消耗させる。
しかし、今は疑問を感じているスバル。
目の前の敵は息一つ乱さず攻撃の手も緩まる気配はない。
魔力刃、両手指十本、両足指十本。
一本一本が細いと言えど消耗は激しく維持は難しいはずだ。
なのに……。
スバルは一旦、街中から脱出するため上昇に転じた。

 

「アンカーッ!?」
シンとアスランが驚愕に声をあげたのは同時だった。
シンのアロンダイトの切っ先がミューディーに届くことはなく、目先三寸で停止していた。
アスランも同様である。
連結したラケルタハルバートは空を切っただけに終わっていた。
両腕の自由を奪われた二人を前に嘲笑うシャムスとミューディー。
「シャムス、ミューディー……退いてろ」
スウェンは抑揚なくそういうと両銃を握る手に力を込めた。
「なッ!?」
「にッ!?」
アスランとシンの体が空中を滑る。
「はぁぁぁあああ!!!」
飛翔魔法で妨害を試みるが、相手のアンカーを操る魔力が自分達の飛翔魔法に込める魔力より上回っているため、一時の抵抗を見せた後、シンとアスランが回転し始めた。
アスランはシンとは反対方向に引っ張られ、
「ぶつかる!!!」
二人がそう叫んだときには鈍い音を立てぶつかっていた。
うめき声をあげる二人の体を再びグンッと引っ張る力。
更にスウェンはアンカーを操り二人を高高度から地に向かって叩き付けた。
ビルの一角に突っ込み、粉塵まきあげる。
「……シン?」
立ち込める粉塵の中、アスランがシンに声をかける。しかし、返事はない。
「シン!?」
ミューディーの障壁を砕く攻撃とシャムスの射撃コンビーネションのせいで、防御力がほぼないインナーのままで戦っていたシン。
デスティニーが障壁で何とか致命傷は避けたようだが、殺しきれなかった衝撃で脳震盪を起こしているようだった。

 

空を蹴ってスバルをおってくるステラ。
飛ばないところを飛べないのだろうか。スバルは迎え撃つため構えをとる。
「うぇぇええい!!!」
咆哮と共にステラから放たれる斬撃。
クロスレンジで衝突する二人の周囲には黒と水色、二色の光が尾を引き飛び散る。
頬を切られ、スバルの顎を伝う一筋の血が空を舞った。
「誰か、誰かいないのか!?」
通信を試みるアスラン。だが、緊急の対策に終われているのか、ノイズばかりで通信はかえってこない。
『Warrning』
「くそッ!!」
ジャスティスによる警告。アスランはシンを抱きかかえ、今にも崩れそうな建物から抜け出し
『アスラン――ヴィータだ!!――どうした――何が』爆炎から逃れた。

 

「ヴィータ、今何処だ?詳しい位置は分からないがこっちは東部管轄だ」
『悪い、今丁度、西部管轄に向かってる』
西部地方でも何かあったのだろうか。
シャムスの連結砲から放たれる大型砲撃をかわし、スウェンから放たれる射撃の雨をシールドで防ぎ、ミューディーには後ろをとられないよう注意しながら後退する。
どうする?
額に滲んでくる汗を感じながら、思案する。
盾型デバイス、ジャスティス。
中央のシールド発生装置から高出力の障壁を展開することができる。
その障壁の硬度はなのはのディバインバスター、シンのケルベロス、キラのカリドゥスを容易に防ぎきるほどである。
また、シンのパルマフィオキーナによる障壁破壊もジャスティスの前では意味をなさない。
障壁部分を破壊しても実体部分で弾かれるのだ。
しかし、一見鉄壁を誇る防御力にも欠点があり、キラ、シン、レイの用にニ方向同時及び、障壁の形状変化ができない。
障壁は一方方向にしか展開出来ない。
このままでは……。
撃墜は必至。
不意にシグナムからの通信が割り込んだ。
『ヴィータがこちらに到着次第、ヤマトを向かわせる。長年ヴィータとともに在ったのだからヤマトとの連携よりも相性はいいだろう』
「わかった」
とは言ったものの、キラの到着までの時間を稼がなければならない。
「ジャスティス!!」
『OK,ミーティアモード』盾内部で消費されるカートリッジ。
外気の寒さ故、いつもよりも濃い蒸気が吐き出された。

 

「キラッ!!」
ヴィータの呼び声と時を同じくしてフォビドゥンが警戒を促す。
『ゲシュマイディッヒパンツァー』
空間に歪みが発生し、ヴィータの放つ深紅の光弾がシャニの展開した障壁に接触。
しかし、ヴィータの放った光弾は空間の歪みを突き破り、魔力ははがれたものの鉄塊がシャニへと直撃した。
「うっ!? こいつ!!」「ヤマト、お前は東部管轄へ向かえ、ここ(西部)はヴィータと私で引き受ける」
「えっ?」
渋るキラ。
「私とヴィータなら大丈夫だ。それに、アギトもいてくれる。」
「早く行けよ、親友が待ってんだろ?」
グラーフアイゼンを肩に担ぎ、不適に笑ってみせるヴィータ。
「……ありがとう、二人とも気を付けて」
計十枚の魔力翼を勢いよく展開し、キラは西部管轄へと飛び去った。
「たくっ、気を付けろだってよ、シグナム」
「そのセリフ、そっくり返してやりたいものだな」
シグナムは鼻で笑い、レヴァンティンを構えた。

 

『ハーケンセイバー』
閃光の刃が空気を裂く音ともにスティングを狙う。
しかし、スティングの前に立ちはだかるアウルの一斉射により難無く破壊。
魔力の残子が散る。
相手も消耗しているが、フェイトとレイはさらに魔力を消費していた。
アンチマギリンクのせいである。
ここでレイは一つの仮説にたどり着いていた。
AMF結界内において、レイとアウル、フェイトとスティング、他は強制的に魔力を消費させられる。
ただ飛ぶだけで、結界内にいるだけで魔力を常に消耗し続けるのだから、相手側、味方側にとっても不利でつまるところ、プラスマイナスゼロで状況は変わらない。
しかし、何の策もなくAMFによる結界などはるだろうか?
万一、AMFの干渉を受けない方法があったら?
例えばC.Eで言うニュートロンジャマーキャンセラーのようなシステムがデバイスに搭載されていたら?
「……まずいな」
レイの呟きに、何故かフェイトも頷き、言った。
「このままだと……先にこっちの魔力が尽きる」

 

「(意外とてこずっているな)」
声に反応したアウルがスティングへ視線を向ける。
「スティング、時間」
「わかってる」
「このままだと俺たち……」
「わかってると言ったろう!とにかく、撤退だ」
「待てッ!!」
二人を追おうとフェイトが身を乗り出すが、レイが制止した。
「今は追うのはやめましょう。今の私たちの魔力では追っても無駄だ」
「……そうだね」
落ち着きを取り戻し、フェイトが気を緩めた刹那――
『Warrning』
「これはッ!?」
「ドラグーンッ!?」
ダークグレーの光弾が二人を囲んでいた。

 

「ちぃッ!!」
「そんな、これは!?」
驚愕する二人。
「スティング、アウル。時間だ、撤退するぞ」
目の前に現れたのは仮面の男。
レイと同じく金髪で、レイと同じく灰色を基にデザインされたバリアジャケット。
「やはりあなたですか? ラウ」
「おや、君は……? 面影を見るにレイか?」
「レイ、知ってるの?」
フェイトの答えにレイは頷く。
「彼がラウ・ル・クルーゼだ」
「こう言い換えてもいいな、私がもう一人の君で、君がもう一人の私。
理解できたかな?
フェイト・テスタロッサ、いや、フェイト・T・ハラオウンというべきか」
驚愕に目を見開くフェイト。
「なんで……」
「さて、ゆっくり語らっていたいが、残念ながら私達には時間がなくてね。
スティング、アウル、ステラはどこかね?」
「知らねぇ、スティングは?」
「戦闘中にどっか移動したんじゃねぇか?」
二人の会話を聞いていたクルーゼはやれやれといった感じで指示をだした。
「ステラは私が連れて帰る、君達は戻るといい」
「りょーかい!!」
「了解!」
瞬間、光となって姿が消えてしまう。
「待て!」
「おっと、動くのはやめたまえ、魔力を消費した今の君達では相手にならんよ」
フェイトとレイの周囲を飛び回る灰色の光弾。
「それとも、ライオットを使うかね?」
二人は市街地に着地、部装を解除し、飛んでいってしまうクルーゼの姿を見送った。

 

「こいつ!何故落ちない!」
「うわっ!!」
斬撃が頬をかすめる。間髪入れずスバルは反撃に出る。
しかし、空間に黒いウィングロードの断片が発生。それを足場に獣のごとく俊敏に動くステラを捕えることが出来ない。
『Caution、後方に敵反応が3つ。
味方が二人います』
スバルは戦闘中にレイ、フェイトの元から離れていった。
つまり必然的に、後方にいるのはシンとアスランということになる。
「まずいな……」
そう呟いたのはアスランである。
後方から伸びる水色の空の道。
スバルが近付いてきている。
『エリケナウス』
マルチロックウィンドウに表示されるターゲットが赤枠に囲まれる。
シンを片手に放たれる光弾が敵三人の目をくらます。その間にアスランはスバルと合流すべく向かっていた。
「スバル!!」
「アスランさん!?」
「馬鹿、よそ見するな!!」
『サーベル・ミーティアシフト』
ジャスティスから伸びる魔力の長刀がステラのグリフォンを受け止める。
「シンを頼む!!」
担いでいたシンをスバルへと引き渡し、
『ハイパーフォルティス』
朱色の閃光が二発、ステラへと放たれ、それはステラの障壁によって防がれるも、体勢を崩すには十分な一撃だった。
アスランは後方を確認する。
スウェン達からの追撃はひとまずないようだ。
――やるしかない!!
右手でラケルタを抜刀、風を切る音共に両者同時に斬撃を放つ。
黒と朱、二色の残滓が空を散る。
その間にスバルはシンと共に戦線離脱。
烈しく明滅する魔力光。至近距離で目がどうにかなってしまいそうだが、アスランは目を閉じられずにいた。
「――君はッ!?」
ベルリン市街の戦闘で死んだはず……。
『包囲されました』
「何っ!?」
唐突なジャスティスによる警告に、一瞬、アスランが怯む。
ステラはそれを見逃さない、両指から発生する十本の魔力刃で弾き飛ばす。
「追撃は厄介なのでね、プロヴィデンス」
『Yes, my load』
「ッ!? 後ろか?」
シールドを展開、背後から放たれる灰色の光弾を振り向き様に防ぐ。
「ステラ、撤退だ」
「逃がすか!!」
声の主を探して、アスランの視線が上方を向く。
しかし、アスランの視界が捉えたのは灰色の閃光の嵐だった。