シンとヤマトの神隠し劇場版 第04話

Last-modified: 2008-03-10 (月) 17:31:22

ミッドチルダを管理する管理局の北、西、東の地上施設は陥落した。
それはすぐに本局にも知れ、緊急対策本部が何らかの策をこうじる間の時間稼ぎとして機動六課が再び設立された。
数多くの陸上、航空魔導士を失い、残存部隊の士気が下がっている今、上層部が必要だと判断したからだ。
管理局のエースで構成された部隊を設置、その部隊が当該事件に積極的な対応を見せれば他隊員たちの士気の向上が図れる。
無論、その分代償も大きい。かなりの戦力を六課に持っていかれてしまうからだ。
今回の六課再設立はある意味賭けでもあった。
しかも、肝心のエースは入院中である。

 

管理局地上本部、機動六課臨時会議室。
バンっと勢いよく扉を開いて入ってきたのは部隊長の八神はやてである。
「地上本部から要請で緊急に六課を立ち上げることになったわけやけど、早速チーム編成を考えたよ」
なのは、アスラン、シンを除く旧六課の面々が上座のはやてへと視線を向ける。
「なんか意見があったら言うてな、リイン」
「はいです」
リインフォースが机の中心に浮遊していくとチーム編成一覧が空間に出現した。
「では、スターズ分隊から隊長は前回と同じくなのはさん。副隊長はシグナムさん。
そこに配属されるのは二人を同時にサポートできるレイとスピードに特化したエリオ、クロスレンジに特化したスバル。
次にライトニングですが、隊長はフェイトさん、副隊長はヴィータ、接近戦が主体となる二人をサポートするのは多くの射撃、砲撃魔法を持ち、二人を同時にサポートできるキラと強化魔法の使えるキャロとザフィーラ」
リインは一息ついてから続ける。
「六課部隊長兼シード分隊隊長ははやてちゃん、副隊長はシャマルさん。
隊長、副隊長の二人が長時間呪文永昌と癒し、補助が専門になるので、近距離、中距離のアスランとシン、ティアナの三人になります」
「不在のなのは隊長を除く、アスランとシンの二名はは二日後に合流する。
今は治療と検査入院中や、酷いやられ方したらしい。
よって、現在動かせるのはライトニング隊だけ、スターズとシードはまだ動けん」
スターズは隊長不在に加え、戦力が大幅にダウン、シードも近接主力二人を失い戦力ダウンである。
「厳しいけど、頼むで新・ライトニング」

 

でも、東と西が同時だったんですから、今度は南と中央(ここ)が同時に狙われるんじゃ?」
キャロが手を挙げ、発言した。
「それについては……レイ」
「はい」
短く返事をし、空間のモニターを切り替える。
「予測される南と中央の同時侵攻については、恐らくないでしょう」
「何故そうと言い切れる?」
シグナムが足を組み替える。
「100パーセント……とは言いきれませんが、敵は初め北の管理局施設を壊滅させました。
そのさいに侵攻してきた魔導士は三名、それに加えてガジェット二種類。ザムザザーとゲルズゲー合わせて5機です」
頷く一同。
「そして、二度目の侵攻では東と西を同時。
魔導士九名と旧式ガジェット一~三型、さらに新型二種と合わせて20機が投入されています。
二度目であれだけの戦火を発揮した。
しかし、北を攻める際には温存していた……あくまで推測ですが、北を攻めた時は何かを試していたか、戦力を測っていたのではないかと思われます」
「その何かを確信、または測り終えた敵は東と西を攻めるとき、かなりの戦力を投入してきたんやと私は考えてる」
レイを引き継いではやて。
「恐らく、南と中央の同時はない。中央の配備は地方よりもかなり多いし、敵側も主にガジェットやけど、かなりの戦力を消耗した。
それに、全力だすなら本陣を落とすときや。
地方の戦力はもう分かっとるはず、なら南と中央に戦力をばらさずに南を落として中央のはずや。けど……」
空間のモニターを消しながらレイが再び口を開いた。
「そう思わせることが敵の策かも知れません。ですから、保険をかけます。
主力が不在のスターズとシードは中央の警護。
ライトニングは南部管轄に出撃してもらいます」
『了解』
敬礼する新・ライトニング分隊、フェイト、ヴィータ、キラ、キャロ、ザフィーラが席を立ち、部屋を出ていった。
「はやて部隊長」
「なんや? レイ」
「少し時間をもらってもよろしいでしょうか? お話があります」
レイから話しかけてくるとは珍しいなと思いつつ、はやてはレイの話に耳を傾けた。

 

臨時会議室にははやてとレイの二人が残っていた。レイは相変わらずのポーカーフェイスで口を動かしているが、はやては内容が内容なので浮かない表情をしている。
「それで、レイはシンとステラって子が会うんはまずい、そう思うんやな?」
死んだはずの想い人が、実は生きてましたなんて状況になったら誰だって動揺するだろう。
それも再び敵として戦うのだ。
「レイ、このこと知っとるのはうちとレイだけか?」
「いえ、スバルのレポートを見るに恐らくはアスランも知っているでしょう」
「そうか、ほんなら休んでるとこ悪いけどアスランにも話をきいてみよか」
「そうしましょう」
臨時会議室を出る二人。そのまま二人で通路を歩く。
「ところでレイはお腹すいてない?」
「朝、昼食べる暇がありませんでしたからね。結構空いてますが」
「ほんなら食べてからアスランのとこ行こうか?
食べられる時に食べとかんと体もたんよ?」
「えぇ」
二人は食堂へと向かった。

 

「……」
重い瞼を開いたアスランの視界に飛込んできたのはシャマルだった。
「シャマル……さん」
「もう大丈夫ですか?」
「えぇ、痛みはそんなにはありません……シンは?」
「まだ眠っています」
アスランは大きく息を吐くと体を起こした。
「はやてちゃんから話があるみたいなんで、お茶でも飲んで待ちますか?」
言われてから喉がかわいていることに気付いたアスラン。
「はい、そうします」
シャマルはカップに暖かいお茶を注ぎ、アスランへと手渡した。
「シンはフェイトちゃんの下で連日出撃、事務をこなしてたからね。疲れがたまってたんだと思うわ。
ただ眠ってるだけだから心配しないで」
アスランはカップを受取り、それを口に運びながら力なく頷いた

 

管理局地上本部施設転送ポート
「みんな、集まったね?」
フェイトは自分の部下が揃っているのを確認するため、他のものたちよりも高い位置に立つ。
「じゃあ、今から南に向かうわけだけど、私たちの役割を確認するよ?
私たち、ライトニングは南部管轄を予想される襲撃から防衛すること。
もちろん相手を逮捕出来ればいいんだけど……知っての通り、相手は強い。
だから、個人で逮捕が無理だと判断したら撃墜を許可します。ここまではいい?」
一同、力強く頷いた。
「私とフェイト隊長は南に着いたらそこの上司と話がある。
だからキラとキャロ、それからザフィーラは現地に到着次第、施設周辺の警護に当たってくれ。
気ィしっかり引き締めろよ。行くぞ」
ライトニング五人の姿は転送ポート内から溢れ出す光に飲まれ、消えた。

 

同じ頃。
アスラン、はやて、レイの三人は休憩室の一角に陣取り、円形テーブルを囲んでいた。
「レイはこう思っとるわけや。もちろん私も少なからずそう思ってる。
せやから、アスランにも確認しときたいんや」
アスランはティーカップに視線を落とし、考え込む。
シンにステラの存在を教えないとする。
その間になんらかの方法でステラを保護し、戦いとは無関係な場所で二人を再会させる。
成功すればこれがベスト。
しかし、敵の情報が少ないため、どこで、どのタイミングで二人が再会するかわからない。
街中で、或いは戦場で。
街中でならばまだしも、戦場ならば最悪だ。
ならば予めステラの存在を教えるとして、シンは戦うことができるかが問題となる。
アスランとシンでは意味合いが異なるが、大切な人と戦う、それが想い人でも親友であっても一撃を放つ事は難しい。
アスランはその難しさを知っている。
しかし……。
「だが、デバイスには非殺傷設定があるじゃないか、死なないと、そう分かっていればシンだって取り乱しは……」
「それが、どうやらそうもいかないんです、アスラン」
レイが言った。

 

「どういうことだ? デバイスを非殺傷設定にしていればあの娘は死なずに済むんじゃないのか?」
「アスラン、これはさっきわかったことなんやけどな」
怪訝な表情をするアスランにレイに変わって今度ははやてが口を開いた。
「ロストロギア、再転生の書」
テーブルの中心に開かれるモニター。
そこに写るのは一冊の真っ白なノートだった。
「これは?」
「アルハザードの遺産……」
アスランに視線を戻し、胸の前で手を組むはやて。
「実は会議の前にな、ユーノ君に調べてもらってたんよ。
死んだ人を生き返らせることのできるロストロギアがないかを……」
「これが、その?」
「いや、無限書庫で調べた結果、そんなものはないとのことや。
けどな、完全な蘇生は無理やけどエネルギー体としてなら蘇生は可能らしい」
「必要なのは正式な名前とその者に関係する記憶だそうです。
つまり、あの九人以外、C.E.で死んだとされる何者かが絡んでいると推測できます」
はやてとレイは話終え、アスランは辛辣な表情のまま言葉をつむぐ。
「つまり……、相手が魔力の塊である以上、魔力ダメージしか受けつけないし、撃墜しようものなら消えてしまう……と?」
「まぁ、そうなってしまうわな……。
そやから、アスランの意見も聞いとこ思うてな、シンにステラって子がおるのを伝えるべきか、否かを」
「……言わない方がいいかもしれないな。こんなこと言いたくはないが、どの道彼女は消えてしまう。なら……」
そうか、と頷き、はやては椅子から立ち上がる。
「ライトニングには私が伝えるから、レイはスターズの皆に事情を説明してな」
「はい」
レイも椅子から立ち上がり、その足で食堂から姿を消した。
「シードはあの三人がおるときは出来るだけ遭遇せんように指示を出すつもりや。
もちろん、絶対とは行かんけどな」
はやては食堂出口へと歩きだし、アスランはティーカップに視線を落とす。
それからカップを手にとり、少しだけ口に含んだ。
いつもはなんともないはずのコーヒーが酷く苦く感じた。