ジ・アストレイ_第01話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 18:21:24

<第三十三管理外世界・ティターン遺跡群>

「大丈夫か?」

「ん……平気」

カナードの心配を他所にルーテシアは深呼吸をし、気合を入れなおす。
4人同時の長距離転送魔法はさすがに堪えた
やっぱりアギトは置いてくるべき――

「ルールー! 今変なこと考えたろ!?」

「……」

失態。ちらりとアギトを見ただけでばれてしまうとは
もう少しポーカーフェイスというものを学ばなければ
紫髪の美少女――ルーテシアはそう固く誓う

「実際、当てになるのか?――この情報」

「俺も半信半疑だがな――かといって無視するわけにもいかん」

ゼストはこの情報の主――ジェイル・スカリエッティをあまり信用していない
まぁ気持ちもわからなくもない
自己を最優先し、他を排除する研究者なんて誰が――

『ふん、失敗作が――』

黙れ……黙れ!
脳裏に響く声を否定する。

「お二人さん、見えてきたよ?」

赤き妖精――アギトの言葉にゼストとカナードは視点を一致させる。
草原の中にぽつんと岩の塊が存在する
なるほど――視覚的錯覚<ビジョン・エラー>が掛けられているのか
スカリエッティからの正確な座標情報がなければ完全に見落としていた

ルーテシアは右手をかざし、岩の擬態に向かって詠唱する

「我らに真理と真実を見せよ――強制解除<スペル・アウト>」

瞬間、岩を紫紺の膜が包み込み――真相を実体化させる。
解除膜は偽装膜と化学反応を起こし――大気へと融解する。
暴かれたのは、遺跡の入り口

***

「――っ!ルールー、向かってきてるよ!」

「転移魔法はなるべくこっそりしたのに……」

「ルーテシアのせいじゃないさ」

カナードの慰めに少女はこくりと小さく頷く
ルーテシアは即座に自身の"虫"で映像を確認する
白い服装の人間が10――管理局の人たち……

「俺が足止めしておく、先に行け」

「でも……」

「お前らはこんな所で捕まるわけにはいかないんだろう?」

「すまないな、カナード」

進み出るは黒髪の少年。
渋る少女をゼストとアギトが連れて行く。

『カナード……気をつけて……』

「お前も上手くやれよ……即席仮面<インスタント・フェイス>!」

少年の顔には――漆黒の顔が張り付く。
変身魔法の初歩――今、面が割れるとまずいからな
入り口は俺が死守する
空いた左手で"片方"の剣を抜く。

「おい、貴様、何者だ!?」

降り立つは次元世界の審判者にして絶対なる組織――時空管理局
問いかける白き制服は絶対正義の象徴
対峙するは全身が黒の仮面の男
ふん、随分と対比的だな

「そうだな――X<エックス>とでも名乗っておこうか」

それが戦いの合図だった。

リンカーコアとの直列接続<ダイレクト・シフト>を確認
弐式兵装、起動スタンバイ――
起きろ――

(刻み込む鎖狗<チェイン・オルトロス>――戦闘起動)

瞬間、カナードの持つ剣に亀裂が入り――鎖状連動剣<チェインブレード>としての
機能をその身に灯す。
全部で十一の連結独立ユニットから成る範囲攻撃型特殊デバイス。

「た、隊長、あの武装は……」

「怯むな! 全員距離を取り、火力を集中させよ!」

合図と共に、局員たちは黒髪の少年から距離を置いたまま、杖状デバイスで
一斉に砲撃を加える。
少年の身体は集中照射された光熱により焼け爛れる。
次々と照射される熱線魔法に身体は耐え切れなくなり――溶解する

「ば、馬鹿な……悲鳴すら上げないだと……!?」

誰もが焦っていたのだ
冷静に考え対処すれば気づいたであろう――偽装具現化<イミテーション>であることに

(お話的には間を持たせるべきなんだろうがな――)

生憎遊んでやるほどこちらには時間に余裕がない
ついでに言えば作者にも余裕がない――失礼
一撃で終わらせる

(少数を撃破するには、包囲殲滅が最適だが――くくっ、この陣形は――)

オルトロスの餌食だ。
隊員たちからは"見えない"位置で鎖状連動剣をそっと横に構える
多対一を想定したマルチレンジアクション
内臓されたリボルバー型カートリッジシステムが薬莢を三つほど噴出する
外部からの強制的な魔力強化――カートリッジシステムの真髄

「喰らい尽くせ――業火戦乱<インフェルノ>!」

叫び声に局員たちは一斉に振り向く――遅かった
十一に半分離機動したチェイン・オルトロスは赤熱しながら全ての対象に絡みつき――焼き尽くす。
ある者は炎に包まれ、ある者は灼熱に耐えかねて意識を手放す。
――安心しろ、殺してはいない……"一応"な
慈愛や容赦など一切ない、ただの蹂躙
だからこそふさわしい――地獄の番犬"オルトロス"の名に

この日、陸士129部隊は壊滅した

***

【ティターン遺跡・内部】

「心配すんなって、アイツも十分強いからよ」

「……うん」

妖精アギトに答えるはどこか神秘的な少女――ルーテシア。

「なぁ、ルールー」

「……何?」

「どうして、アイツを拾ったんだ?」

「それは……」

彼を拾った――というよりは彼と出会ったのは一年ほど前の冬の出来事。
博士からの依頼を終えた帰り道のことだった。
道端に倒れていた黒髪の少年、カナード・パルスを介抱した。
たぶん、気まぐれだったのかもしれない。
この世界の実情と――自分の目的を彼に話した。
誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれない。
彼は借りは返すと言った。
私は――それを受け入れた。

その日から私は依頼の合間を縫って、彼に魔法の概念と知識を教えることにした。
最初は馬鹿にしていたけれど、目の前で小型魔道虫"インゼクト"を召還してみせると
呆気にとられていた。ふふ……あれは少し痛快だった。
元々才能があったのかもしれない。
三ヶ月もすると基礎的な魔法は既に修得しつつあった。
ただし、問題があった――彼の魔力資質はお世辞にも高いとは言えなかった。
本人もそれを承知で身体への負担の大きさに見合うだけの強力な対なるデバイス
"――――・―――――"と"チェイン・オルトロス"を愛機とした。
私は――止められなかった。

「ルーテシア、アギト、あったぞ」

「お、さすが旦那、仕事が早いねー」

ルーテシアは「ん……」と意識を戻しながら、赤き魔道宝石"レリック"に目を向ける。
真紅に輝く遺産――それはまるで人の過ちを具現化したようなもの
視るものに力と欲望を与え、理性と概念を打ち崩す魔性の宝石

私が求めるのは、唯一つの願い

この時はまだ、適うと――信じていた
それがどんなに儚く、空しいものだったとしても。