ナンバーズPLUS_03話

Last-modified: 2010-03-21 (日) 21:11:57

『今回の任務は山岳地帯を走る貨物用リニアレールからのレリックの回収です』
バリアジャケットに身を包んだキラは鬱蒼と茂る森の中にいた。
その一角で空間モニターに映るウーノから任務の詳細を聞いている。
もちろんながら、キラの周囲に人気はない。
山登りするには低く、整備もされてないので登山客もない。精々鳥のさえずりや微風に揺れて擦れ合う葉の音が聞こえるぐらいである。
今キラが歩いている方向に森を抜けると断崖を切り開いて造られた貨物用のリニアレールのレールが設置された絶壁の丁度真上にでることができる。
「ポイントには時期につくよ」
『そうですか、ところで今回の任務、断崖から飛び降りてリニアレールの上から侵入ですが、大丈夫ですか?
飛べないのでしょう?』
空間モニター越しのウーノの顔が少しだけ不安の色を帯びた。
「飛べるけど、飛ばないだけだよ。
それに、浮くことはできるから」
『恐らくは、先にレリックの反応を感知したガジェットも多数回収に向かってます。
邪魔になるようであれば破壊してもいいそうです』
「うん」
『確認しますが、他の妹たちを応援に派遣しましょうか?』
「大丈夫だよ、ウー姉ぇ」
心配してくれてありがとう。
そう微笑み、キラは通信を切った。
キラは飛翔魔法を使用することは可能だが、彼は極力飛ばないように心掛けている。
彼に魔法の師はいない。
原因はこれにある。
元々難易度の高い飛翔魔法は独学で飛べるようにはなったものの、制御に不安が残る出来となった。
そこで三番目の姉、トーレのライドインパルスをヒントに、エネルギー翼、キラで言うなら魔力翼を作り出し、その翼に飛翔のサポートをしてもらうことにした。

 

その翼は、キラの魔力光と同色で蒼色の翼である。
形は鳥類を連想させるようなそれでなく、機械的なものだ。
戦闘機の翼をイメージすると想像しやすいかもしれない。
最大片翼五枚の左右十枚羽。余程の事がない限りは片翼二枚の左右四枚羽でキラは飛翔する。
それは飛翔中のバランサー及び、衝撃吸収の役割もかねていて、さらに切り離して遠隔操作をすることで攻撃魔法としても使用が可能である。
攻撃魔法として使用した後はそのまま空気中に霧散するまで攻撃を続け、消滅する。
しかし、魔力が形を帯びて実体化するほど圧縮するため、一枚の翼に込める魔力量は決して少なくはない。
十枚作り出せばキラの魔力は半分以上もそれに費やされ、一度切り離して攻撃魔法として使用してしまえばその戦闘中に再度翼を精々するのは不可能。
よって片翼二枚の四枚羽以降、六、八、十枚はキラの切り札と言っても過言ではない。
「何とかしないとね……」
誰に言うでもなく、キラは自分の魔法の欠陥を呪うように呟いた。
草をかき分けて森をでると、険しくも雄大な断崖が視界に飛び込んでくる。
キラは左右を一望してから、耳に飛び込んでくる音を聞いた。
バラバラと音が聞こえる。
音源を探れば、青い空に点が見える。
しばらく様子を窺っていると点の正体がはっきりとした。
ヘリだ。
(ウー姉ぇ、ヘリが飛んできてるけど……)
念話でそう伝えると、キラの耳にしているイヤホンからすぐに応答があった。
『機動六課のようですね。管理局の遺失物管理部に新たに新設された部隊です。
こちらでデータを見る限りでは、隊長、副隊長を除いてキラの障害になることにはならないでしょう』
遠くに二つの光が見えた色は桜と金。
空を縦横無尽に駆け、何やら爆発を起こしている。
ガジェットを破壊しているようだ。
それから、リニアレールの上に四つの光。
青、橙の一組が先頭車両へ、金と桃が後部車両へと降り立つのが見えた。

 

「うぉぉおお!!」
スバル・ナカジマは右手のリボルバーナックルをガジェットに叩き込んだ。
それは吸い込まれるように楕円形のガジェットにめり込む。
スバルは直ぐ様ナックルを引き抜き、次のガジェットへ。
その雄々しいとも言える姿から二年前の空港火災でただ泣いていた少女を想像するのは難しいだろう。
二年の間の凄まじい成長が窺える。
その成長の根幹には二人の人物への憧れがある。
一人は、今現在空戦を行っている管理局のエース・オブ・エース、高町なのは。
彼女に救い出されたあの日あの時をスバルは鮮明に覚えている。
災害現場に堂々乗り込む姿、力強い魔法、そして不安を和らげてくれる優しい笑顔。
そんななのはの優しく強い姿に憧れて、スバルは救われる側から救う側へとなるべく必死に努力をしてきた。
そしてもう一人、名も知らぬ少年。
こちらは未だに再会は叶っていないが、バリアジャケットが濃紺色だったことは覚えている。
閉じこめられた自分を救い出してくれた少年。
冷静な声と暖かい手の温もり。
涙で視界がぼやけていたのではっきりとした確証はないが涼しげな目をしていたような気がする。
最初にスバルを助け出してくれた人物だ。
「てやぁぁああ」
光線の雨をかいくぐり、ガジェットの後ろに回り込んで蹴りを見舞う。
ガジェットはくの字にひしゃげ、車両の壁にぶつかって爆発した。
それを見届け、スバルは思う。
後一度でいい。
あの少年に会いたい、と。
「スバル、ここは任せたわよ?
私はリイン曹長とレリックの回収に向かうから!」
「へ? あ、うん。気をつけてね、ティア」
スバルが声に我に帰れば、オレンジの髪を左右でツインテールにした少女が次の車両へと移って行くところだった。
名をティアナ・ランスターという。
そのティアナの傍らには小さな人間が浮いている。
リインフォース曹長である。実際は彼女は人間ではない。
ユニゾンデバイスである。
「じゃ、任せたわよ!」
「スバルも気をつけてくださいです!」
二人はスバルに背を向けてレリックの積まれた車両を目指す。

 

積み荷の陰から出てきた二機のガジェットを二発の魔力弾が正確に撃ち落とした。
魔力弾の色は橙。
その射撃魔法を放った当人のティアナは驚きの表情のまま、利き手に握るインテリジェントデバイス、クロスミラージュを見つめていた。
ガジェットドローンⅠ型にはアンチマギリンクフィールドを小規模範囲で展開する機能がついている。
その範囲に入った魔導師や、魔法は強制的に魔力結合を解かれ、魔法の使用が非常に困難になる。
こうして聞くと反則じみた魔法ではあるが、攻略法がないわけではない。
例えば、その辺に転がっているものをアンチマギリンクフィールドの外から発射体を用いて射出する方法。
魔力で付加した誘導性能や属性などはフィールド内で消滅するが、物体の加速は衰えることがないため、アンチマギリンクフィールドでは防げない。
しかし、ティアナが使用したのはそれではなく、魔力弾を魔力で作った外皮で覆うもので、外皮を纏った魔力弾はフィールドに接触した瞬間に外皮だけを消滅させ、本命である内側の魔力弾は消されないというものである。
魔法の難易度は高く、インテリジェントデバイスなしで放った時には一発撃つだけでティアナは疲労していたのだが、クロスミラージュのアシストのおかげか、ティアナの顔に疲労の色は見えない。
「さぁ、ティアナ。
驚くのは後にして、レリックの回収に向かうですよ」
そばにいたリインフォースは開発に携わったため嬉しいのか、表情には出さないものの、声色は嬉々としていた。
「はい。後にします」
ティアナは再び走り出した。
障害物を避け、途中に出てきたガジェットを撃ち落とし、目的の場所を目指して車両を跨ぐ。
その途中、別働隊のライトニングス、エリオとキャロの二人が新型ガジェットと交戦に入ったという旨の通信が入った。

 

大丈夫……だろうとティアナは思う。
ライトニングスの二人はティアナとスバル、スターズの二人に比べて年齢が幼いものの、それを補うスキルがあるし、何より今日、この時まで同じ量の訓練をぼろぼろになりながらも一緒に乗り越えてきたのだ。
「二人のことは心配ですが、直ぐそこが件の貨物車両なので先にレリックを回収するですよ」
「そうですね」
真剣な表情でティアナは頷く。
レリックを回収して封印処理してから援護に向かえばいい。
「そう言えばリインそ―――」
レリックの封印処理について訊こうとティアナが口を開いた瞬間、ロングアーチから通信が入った。
アンノウン接近!
それと一緒に告げられた座標位置は、ティアナとリインフォースの頭上。
慌てて二人が仰ぎ見ると同時。
バシュッと短い音がして屋根の一部が円形に溶けた。
溶解した金属は床に落ちて炎を揺らめかせる。
ティアナが緊張の為か、屋根に開いた穴を見てゴクリと唾を飲み下した。
青空が見える。
しかし、その穴から一向にアンノウンが姿を表す気配がない。
「ティアナは後ろを……です」
「……了解」
二人背中合わせになり、前後上を警戒する。
ティアナが警戒している方向から足音がした。 警戒するあまり忘れていたが、その方向、ティアナたちのいる車両の次の車両はレリックが積まれている車両だ。
「リイン曹長!」
二人の判断は早かった。
ティアナがクロスミラージュを構え、リインフォースが車両を仕切る扉をスライドさせる。
「動かないで!」
とティアナがアンノウンに銃口を突きつけたのと、クロスミラージュによって障壁が展開されたのはほぼ同時だった。
視界が真っ青に染まる。
「ッ!?」
「ティアナ! 凍てつく足枷、フリーレンフェッセルン!」
光が晴れると同時にリインフォースが放つは、対象を氷りづけにする魔法。
アンノウンは魔法が完成する前にその場から飛び退き、拘束を免れた。
「局員への攻撃、遺失物確保の妨害、ただではすまないですよ」
リインフォースがアンノウンに向けて警告する。
「これが最後通牒です!
大人しく武装を解除して投降するです!」
アンノウンは車両の陰に潜んでいる。
扉が開けっ放しになっていて、レリックを納めてあると思しきケースがティアナとリインフォースの目の前にあった。
しかし、それを前にして二人は動けなかった。

 

「こちら、ライトニング1、ロングアーチ」
空戦仕様のガジェットドローンⅡ型をフェイト・T・ハラオウンは切り裂きながら、ロングアーチスタッフにティアナとリインフォースの状況を確認する。
「状況は?」
『共に交戦中ですが、どちらも健在です』
「アンノウンのモニター、出せる?」
『それが、センサーで魔力反応は確認できるんですが、付近のサーチャーが破壊されたみたいでモニターに出せるほど鮮明に映っているものがないんです』
「そっか、わかった。
なのは!」
共に空戦中のなのはに視線をやれば、彼女は頷き、フェイトは白いマントを翻してティアナたちのもとへ向かった。

 

長い沈黙が続く。
ティアナはクロスミラージュを構えたまま、レリックが収納されているケースと睨めっこしている。
そして同じくリインフォースも片手に魔導書を開いたまま、アンノウンが潜んでいる車両を仕切る扉の影を警戒していた。
そして漸く、アンノウンに動きがあった。
アンノウンの持つデバイスが扉の陰から先端部の姿を現す。
ティアナの持つクロスミラージュがピクリと動いた。
リインフォースの体に僅かに力が入る。
そして、その銃口から放たれた蒼い魔力弾は、リニアレールの車両と車両を繋ぐ接続部を焼き切った。
「なっ!?」
「不味いです」
徐々に離れ始める先頭車両と後部車両。
だが、ティアナもリインフォースも飛び移ることが出来ない。
飛び移ればアンノウンが待っている。
かといって他に策もない。
レリックのケースを目前に二人が歯噛みしているとロングアーチから通信が入った。
曰わく、フェイト隊長が向かっていると。
二人はフェイトに通信を繋ぎ、
「お願いします」
と念話で告げ、スバルと合流すべく、もと来た道を再び辿る。

 

車両が離れたのを確認してからキラは目の前のレリックが収納されているケースに手を伸ばした。
『ディフェンサー+』
「ッ!?」
伸ばした手は金色の障壁によって拒絶され、弾かれた。
そして
「動くな」
背後から声。
「……」
キラは声に手を止めた。

 

「それが何なのか、あなたは知っているの?」
低い声音で問うてくるフェイトにキラは背を向けたまま、尚無言。
無言をイエスと受け取ったのか、フェイトはバルディッシュを構え直す。
「大人しく我々に同行し、レリック回収の目的とその用途を説明してくれればあなたの罪は減刑できる。
だから、武装を解除して――ッ!?」
『ディフェンサー+』
言葉の途中で返答は返ってきた。
蒼色の魔力弾が障壁に阻まれ、紫電の尾を散らす。
電気変換資質?
フェイトの脳裏によぎるプロジェクトF.A.T.Eの負の遺産の影。
しかし、魔力光の色が異なる。
考えすぎだろうか?
キラから放たれた二発目をバルディッシュを駆使して切り裂く。
速いし、鋭い……けど……
誘導性はない。
操作弾ではない。
発射の際の向きに気をつけさえすれば問題はない。
フェイトは相手の動きを窺う。
レリックに張った障壁に向け、魔力弾を撃っていた。
砲撃魔法ならいざ知らず、射撃魔法で簡単に敗れる障壁ではない。
フェイトは大きく一歩踏み込み、バルディッシュから伸びた金色の魔力刃を横に払う。
が、狭い空間にも関わらず、キラはその狭さ一杯を利用してまるで猫のようにスルリと間合いから抜け出した。

 

『キラ』
「……」
耳に装備した受信機からの通信。
『もう一人の隊長がそちらに向かっているようです。
そろそろ引き際かと思いますが』
「(レリックの回収はまだ終わってないよ?)」
フェイトから放たれたブラズマランサーをデバイスで叩き落とす。
しかし、一度叩き落とし、弾き飛ばした筈のそれらは一旦制止してから、再び、キラを狙う。
「(ちっ、誘導か……厄介だな)」
弾速自体は大したことはないが、それでも一度の迎撃で破壊出来ないのは辛い。
そんなことを胸中で思いながら回避行動をとっていると背中をぶつけた。
次の車両への扉だ。
いつの間にか追いつめられていたようだ。
そこから逃げ出そうにも、扉をスライドさせなければならない。
「(そんな暇、与えてくれないよね、この人は)」
キラの足元に蒼色の環状魔法陣が展開された。

 

何だ?
フェイトは眉を顰める。
展開された魔法陣は形こそミッド式ではあるが、構築式は見たことがなかった。
正規の魔法教育を受けたものなら、その魔法式に違和感を覚えずにはいられない。
それほどにまで歪な魔法陣だった。
ベルカ式とミッド式が混在し、それらを正攻法ではなく強引に直結させている。
と、フェイトの視界の隅に、先程のバルディッシュの斬撃によって吹き飛んだ車両の残骸の一部が浮き上がるのが見えた。
割と大きめの鉄塊だ。フェイトの顔半分程もある。
それがキラの傍らへと移動を始める。
「(何をするつもりだ?)」
フェイトはレリックの収納されたケースを横目に、キラの動きを警戒する。
蒼色の環状魔法陣からは絶えず雷光が迸り、光の尾を撒き散らす。
目が眩むような強い光の明滅。
やがて不規則に飛び散っていった電流が無理矢理引っ張られるかのごとく、キラの持つ銃型デバイス、フリーダムの銃口に収束していく。
そしてキラは肥大した膨大な電流を鉄塊に向けて撃ち放つ。
放たれた電流が鉄塊に触れた瞬間、三重の蒼色のリングが発生し、
『クスィフィアスレールガン』
フェイトがフリーダムから発せられる音声を耳にしてから間髪入れず、リニアレールが大きく振動した。
耳をつんざく轟音。
放たれた魔法は射撃か砲撃か、判別がつかないほどの威力。
フェイトの視界を奪うのは黄色よりも白く、白よりも黄色い閃光。
キラが撃ち抜いたのは車両横の壁。
想定外の規模の衝撃を受けたリニアレールとそのレールは耐えきれず構造を歪ませてねじ切れ、脱線と崩壊、そして落下を始める。
体をしこたま車両内で打ちつけたフェイトだったが、それでもレリックだけは死守した。
『キラ』
ウーノとは違う男の声がした。
キラがその声を博士と断定するのにそう時間はかからなかった
『君の御披露目はもう十分だろう。
プロジェクトFの残滓とはまたいずれ、近いうちに再戦の機会もある。
戻ってきてくれないかい?
少し手伝って貰いたいことがあるのだが、いいかな?』
博士が充分だと言うのなら、キラにフェイトと戦う理由はない。
「(わかりました。
直ぐに戻ります)」
キラは再び魔法陣を展開する。
やがてうっすらと浮かび上がる光の翼。
フェイトのソニックセイルやなのはのフライヤーフィンとは全く異なる形と質。

 

それが片翼二枚、両翼四枚がキラの背後に形成された。
そして、スライドするように動き出す翼。その下に新たに現れた二枚の翼。
八枚羽。
「(なんだ?)」
フェイトの胸中に疑問が浮かんだ刹那、車両から蒼い光が掻き消えた。

 

一件落着、とは行かずとも、レリックを無事に回収した機動六課の面々は初任務で心身共に疲れているスバル、ティアナ、エリオ、キャロの四名を解散させ、休ませることにした。
そして機動六課の部隊長、八神はやてのオフィス、つまりは部隊長室に副隊長を含めた隊長陣とロングアーチのスタッフが集まっている。
何やら重苦しい雰囲気で、真剣な表情を各々がしていた。
「お待たせしました。
フェイト隊長とバルディッシュのお陰でアンノウンの鮮明な映像データが抽出できました」
いつもよりもいくらか低い調子でメカニックのシャリオ・フィニーノが入ってくるやいなや、なれた手つきで空間にモニターを表示していく。
「これが、お前が遭遇したアンノウンか?」
映像は丁度、フェイトが警告している場面である。
「はい。たぶん、強いですよ、彼」
ライトニング副隊長、シグナムは腕組みし、憮然とした表情のまま画面に魅入っている。
「何やろ、この魔法……」
部隊長のはやてが疑問を口にする。
「見た目は射撃、威力は砲撃……、魔法体型も基本がミッド式なのかベルカ式なのかようわからへんね。
滅茶苦茶や」
「はやてちゃんもそう思うんだ?」
となのは。
どちらも神妙な面もちで考え込んでいる。
「物質に魔力を付与して攻撃させる……、か。
ヴィータ、お前から見てあれは――」
「……だ」
シグナムは顔をしかめた。
ヴィータは思い出したくないないもの思い出し、苦しそうに胸元に握り拳を作っていた。
「あいつだ!」
と吐き出すように吐露する。
「あいつが、あいつがなのはを撃墜したアンノウンだよ!!」
ヴィータの目に焼き付いた忌まわしき濃紺色のロングコート、忌まわしき蒼き魔力弾。
耳に残るは不快な電気のはぜる音。
呼吸も荒げ、目を有らん限りに見開いてモニターに見入っている。今にも暴れ出しそうなヴィータだったが、何とか自制しているようだ。

 

なのははヴィータを宥めるかのように
「大丈夫だよ、ヴィータちゃん」
そう言いつつ、柔和な表情をしながらも目だけは次は負けないとばかりにアンノウンをしっかりと見据えている。
「スバルたちにも警戒させた方がいいね」
「うん、きっと知らない方が危険だ」
なのはにフェイトは同意する。
結局、姿と魔法以外には何もわからなかった。

 

「ねぇ、スバル」
就寝時間を過ぎてから珍しくティアナがスバルに声を掛けた。
因みにベッドは二段ベッド、上がスバルで下がティアナだ。
「なぁ~に~……ティア」
滅茶苦茶眠たげな返事が返ってきた。
いつもはあんたがうるさいくせに……
思わず口を突いて出そうになったが、ぐっとこらえて、本題に入る。
「あんたさ、空港火災でさなのはさんと誰に助けられたんだっけ?」
「名前は知らないよ~……紺色だったことは覚えてる」
恩人の印象がそれだけってどうなのだろう?
ティアナは思うが、助けられた直後は、安堵していて注意できなかったのかもしれない。
そう思うことにした。
「その人、茶髪だった?」
「う~ん、わかんない。そうだったかも……」
「私と同じで射撃型の魔導師?」
「わかんない、魔法使ったとこ観てないし……あ、でもギン姉ぇは銃の形をしたデバイス持ってたって言ってたかも」
「……」
「もう寝よう、ティア。明日も訓練だよ」
ものの数秒で寝息が聞こえ始めた。
「(まさか……ね)」
そっけないスバルに不満を抱きつつ、ティアナは布団にくるまると瞼を閉じた。

 

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