ナンバーズPLUS_04話

Last-modified: 2010-05-09 (日) 20:59:37

以下、映像データ
記録日0064年1月~12月。

 

壁以外に何もない殺風景な部屋に鈍い音が響き渡る。
音源は二色の光、蒼と紫だ。
トーレの足がキラの腹を捉えた。
「くっ!?」
年の頃十歳前後の少年の小さな体はバランスを崩して宙で回転する。
飛翔魔法で何とか体制を立て直そうとするも、言うことを聞かない。
早く立て直さないと!
焦れば焦るほど制御は緩慢になり、うまくいかない。
その間に、トーレはキラへの間合いを詰める。
「随分とまぁ逞しくなったな、キラは」
銀糸をさらりと流したような長髪をもつ少女は素直な感想を漏らした。
彼女はキラの五人目の姉、チンクである。
「本当ですねぇ、あの変わりようったら何なのかしらねぇ、チンク姉様」
「さぁ」
クアットロの言葉にチンクは肩をすくめた。
その間にも模擬戦は続いている。
キラは壁に体を打ちつけて漸くとまった。それも束の間、目前に迫り来るトーレの拳。
模擬戦とは言え、当たれば撃墜は必至、すぐさまキラは壁を蹴って飛び退いた。
トーレの拳は壁をへこませる。
その隙にキラは一発の魔力弾をトーレ目掛けて、二発目をやや遅れて放つ。
一発目をトーレはキラと同じく壁を蹴って後退し回避した。
そこへ二発目が直撃、したかに思えたが、それさえもトーレは半身を捻るだけでやり過ごす。
「全く、飛べるようになったというから模擬戦してみれば」
キラの正面から素早く向かってくるトーレに魔力弾を放ちながら応戦するも当たらない。
銃口の向きから射線を読まれている。
そう気づいたときには背中から蹴り飛ばされていた。
飛翔の制御は叶わず、冷たい訓練室の床に背中から落ちた。
体はまるでボールのように弾み、尚も勢いは殺せず転がっていく。
「終わりか?」
トーレが空中から見下ろす形で口を開いた。
反応はない。それどころかピクリともしなかった。
「トーレ姉様、確認したいことがあるんですけどぉ……」
「奇遇だな、クアットロ。姉にも丁度訊きたいことがある」
模擬戦を観戦していたクアットロとチンクが揃って口を開き
「加減なさいましたぁ?」
「加減はしたのだろうか?」
その言葉の意味も同じだった。

 

「心配ない、軽い脳震盪だね。
あとは打撲と擦過傷、幸い、骨は折れてはいないよ」
ベッドで眠るキラに掛け布団を掛けながら博士は言った。
「しばらくすれば目を覚ますだろう」
「すみません、博士」
トーレが頭を下げた。
「いや、謝ることではないよ。これもキラが成長するためには必要なことだ」
博士はそう言ってはくれたものの、その後ろに控えている姉、ウーノは目を鋭くしてトーレを睨んでいる。
が、トーレがウーノに視線を向ければふいと視線を逸らしてしまった。
「もろいですわねぇ~」
と、クアットロ。
「しかしね、クアットロ。脆いからこそ、弱いからこそ彼は彼なりに力をつけようとしているんだよ。
分かるかい?
ウーノの話では、ドゥーエがいなくなってからは泣いていないそうじゃないか」
「そう言えばそうですね。今日も訓練中一度も泣いてませんね」
トーレは模擬戦を振り返って思う。
以前のキラなら、自分が拳を振り上げただけで怯え、当たれば泣いていた筈だ。
「泣く泣かないは兎も角、精神面は確かに成長しているな」
チンクはキラの小さな額に手を置いた。

 

その夜。
「今日の講義はここまでにしますが、何か質問はありますか?」
キラはあの後暫くしてから目を覚まし、ウーノ担当の戦略と一般教養の講義を受けていた。
因みに、魔法に関しては独学である。
無論、参考資料などは博士やウーノに頼んで持ってきてもらってそれを頼りにではあるが。
「ウー姉ぇ、ちょっといいかな?
講義の質問とは違うんだけど……」
「えぇ、まぁいいでしょう」
キラが空間にモニターを表示すると今朝の模擬戦の映像記録が流れていた。
それからキラは暫くパネルを弄り、目的の場所で一時映像を停止させる。
「ここなんだけど、僕の射撃って避けやすいのかな」 画面の中ではトーレが軽々とキラの射撃を回避しているところだった。
「と、訊かれまして、戦闘に関しては私は何もアドバイスできないのですが」
「じゃあ、想像でいいんだけど、誘導してくる遅い弾と直線で飛んでくる速い弾、どっちが避けにくいと思う?」
「誘導でしょう?」
キラがきょとんとした顔になった。

 

「えっ? どうして?」
「誘導にも様々ありますが、遅い弾でも自身で操作して誘導させれば迎撃もされにくく、軌道も読み辛いでしょう?」
「でも、遅いんだよ?」
「速ければ速いに越したことはありませんが、弾速が遅くても複数の弾がそれぞれ違う軌道で飛んできたら避けるのは難しいでしょうね」
「あぁ、そうだね。
確かにそうかも……でも複数の弾に瞬時に誘導性能つけるのは無理だよ。
難しいし……」
難しい顔で考え込むキラ。
「銃口から射線を読まれるのなら、銃口が向けられてから回避行動に移っては間に合わない程速くしてみてはどうですか?」
それぐらいしかウーノに言えることはなかった。
「う~ん、そうだね。その方法、考えてみるよ」
「終わりですか?」
「うん」
「では今日はもう休んで下さい」
ウーノが部屋から出て行った後、自室のベッドに横たわりキラは今日の模擬戦の敗因について考える。
敗因は大きく分けて3つ。
一つ目は射撃魔法が全く通じないこと。
接近戦主体のトーレに射撃が通用しないのは正直きつい。
ウーノは「銃口が向けられてから避けたのでは回避は不可能」それほど早い弾速で射撃魔法を撃ち出してみればと言った。
問題はその方法だ。
キラ自身で魔力弾に加速をつけるのはもう限界だった。
二つ目はパワー不足を補うテクニック。
肉体的には十分鍛えられてはいるが、戦闘機人のトーレのパワーはキラを遥かに凌駕する。
これを補うためには手数とスピードが必要だ。
こちらも問題はその方法。
三つ目は、飛翔魔法の不完全さ。
これは二つ目の問題につながる。
どうすればもっと早く飛べるのか?
どうすればもっと安定した姿勢を空中でたもてるのか?
そしてやはりこれも問題はその方法だった。
「ドゥーエ姉ぇ……」
彼女がいれば一緒に考えてくれたかもしれない。
訓練中は厳しいが強くなる意志を見せれば、ドゥーエはどんなに面倒でも付き合ってくれる。
だが、そのドゥーエは聖王教会への潜入任務でいつ会えるかわからない。
キラは頭の中のドゥーエの姿を振り払うように乱暴な寝返りをうった。

 

ドゥーエが潜入任務に着く別れ際、約束した。
次に会うまでにはどのシスターズよりも強くなると。
やがて目覚めるキラにとっての妹達を守れるように強くなるとドゥーエと約束した。
ドゥーエは言った。
「もしキラがそうなったなら、合流するときはあなたが迎えにきてちょうだい」
悩んでる場合ではない。
強くなるんだ。
どんな強敵も一蹴してしまえるほどに。
速くなるんだ。
誰も追いつけないほどに。
そして守るんだ。
大切な人達を。
ベッドのシーツの上に握り拳を作る。
強く引っ張られ皺が拳に向かって引っ張られるようにしてできた。
キラは自分を追い詰める。
約束を果たすために、これから目覚める妹達を守るために。

 

翌日、キラが目を覚まし、朝食をとるために休息施設の扉を開けると先客がいた。
「おはよう、トーレ姉ぇ、チンク姉ぇ」
「あぁ、おはよう」
「うむ、おはよう」
トーレはもう食事を終えたのか、ほんのり湯気を漂わせるカップを前にリラックスしていて、チンクはまだ朝食の途中のようだった。
挨拶してからキラは朝食を取りに行く。
厨房にはウーノの姿はなかった。
博士に食事を持って行ったのだろう。
適当にあてをつけるとキラは自分の分をトレーに乗っけて近場の席に腰を落ち着けたところで
「キラ」
とチンクがちょいちょいと手招きをしながら
「たまには一緒に食べようではないか」
そう提案してきた。
特に断る理由もないのでキラはトーレとチンクが座っているテーブルに相席する事にした。
席に着いたキラの様子を見てチンクは
「うむ」
と頷き、カップを傾ける。
「体の調子はどうだ?」
昨日のことを案じてか表情や声音に出すことはないが心配しているトーレがカップを起きながら聞いてきた。
「大丈夫だよ。僕は……大丈夫だから」
そう微笑んだキラを見てトーレもチンクもドキリとした。

 

らしくない笑顔だった。
「ところでトーレ姉ぇ」
「……何だ?」
「ライドインパルスは高速移動能力であってるよね?」
「あぁそうだが、突然何だ?」
「ちょっと、新しい魔法の参考にと思って」
ほうっと、トーレは再びカップを手に取った。
「魔法に関しては姉やトーレではどうにもならんからな……
どんな魔法を編み出すのやら楽しみだ」
「う~ん、それなんだけどね……、ちょっと思いつかなくて。
だからこうしてトーレ姉ぇたちに聞いてるんだけど……」
魔法についての対処方は知っていても魔法を使うとなれば話は別なのだろう。
「何があったのかは知らないが、一人で何でもしようと思うのが間違いではないのか?」
チンクはフォークを片手でひらひらとさせながらキラへと顔を向ける。
「自分で考えて行動するのも大切だが、やれること、出来ないことは姉にもトーレにもある。
だからそれぞれ違うISもつ姉や妹たちが役割分担するのではないか?」
そう言ってウィンナーにフォークを刺すとその小さな口を開けて食事を再開。
その隣でトーレは無言で頷いていた。
「やれること……できないこと……」
チンクの言葉を繰り返し呟くとキラははっとして顔をあげると今し方腰を落ち着けたにも関わらず、朝食もとらずにその場を後にした。
キラはその足で博士の研究室へ向かう。
研究室にはウーノと博士が朝食を摂っていたがそちらには目もくれず、キラはフリーダムを取り出してケーブルに接続した。
モニターには複数のウィンドウが展開され、アルファベット、記号、数値の羅列が見て取れる。
そのモニターに視線を釘付けにしたまま、キラの両手の指はキーパネルの上を目まぐるしく走り始めた。
(できること、できないこと……。
何でも自分でやろうとするからうまく行かないんだ)
チンクの言葉をヒントにキラが閃いたのは、役割分担だった。
つまり、飛翔魔法を自分一人の制御ではなく、フリーダムにも協力してもらおうと言うものだ。

 

飛翔、加速、制動はキラが、その他の姿勢制御はフリーダムに任せることで自身にかかる負担を減らす。
(ただそれだけじゃ意味がないかな、いっそバリアジャケットの装甲も薄くしてスピードを……。
いや、それだと攻撃が当たったとき怖いよね)
動かしていた手が止まる。
(スピードを上げるためには防御力が下がる……か。
なら段階的に速くしていくのはどうだろう?
三段階ぐらいに分ければ一撃で落とされる事はなくなるはず)
尚、頭の中で自問自答が続く。
(そうだね。それがいい。そうしないと戦闘中一度も被弾しちゃいけなくなる。
一対一ならまだしも、一対大多数の場合は被弾率も上がるだろうし……。
大多数……大多数か。
そういう局面も想定しとかないとね)
止まっていた手が再び動き出す。
「……何かあったのでしょうか?」
画面とにらめっこしているキラを遠巻きに見ていたウーノは博士に困惑の眼差しを向ける。
「成長……とでも言えばいいのかな?
彼は最近、変わったとウーノ、君も言っていたじゃないか」
「えぇ」
「なら私たちは彼に協力してやろうじゃないか」
博士は席を立つ。
「何かアドバイスを?」
「彼は弾速を速くする方法で悩んでいる、と君は言っていたね」
博士はウーノに背を向け
「あるんだよ。キラが持つ魔力変換資質『電気』と相性のいい魔法、いや兵器が」
そう告げてキラの元へと向かった。

 

(飛翔といったら翼だよね。取りあえず、羽なしのノーマルモード、空戦時のエールモード、これが四枚羽。それの発展系のフリーダムモード、これは八枚羽。
それから一対大多数における高速機動砲撃戦モードのストライクフリーダムモード、十枚羽。
これで補助魔法効果をつければ)
閃いたことを夢中になってデバイスにプログラミングしているキラの肩に博士は手を置いた。

 

「レールガン?」
博士の口から出た言葉をキラは繰り返した。
「そう、レールガン。
魔法で再現出来るかはわからないがね」
「どんな……もの何ですか?
レールガンって」
「まぁ……理論は私が組んだので、今から君に説明しよう」
博士は空間モニターを展開した。
「実際に兵器として使われていたものを私なりに魔法を用いて使用する方法にアレンジしてみた。
まず、必要なのは君のデバイス、フリーダムに特殊なベルカ式カートリッジシステムを追加しなければならない」
「はい」
真剣な眼差しでキラは頷き、博士は続ける。
「レールガンを放つ為には瞬間的に膨大な電力を必要とする。
この『膨大な電力が必要』という問題点をカートリッジシステムでクリアしよう。
磁場のプラス、マイナスはフリーダムにサポートスペルを導入。
そしてキラ、君がレールガンを正確に素早く発射できるように制御リング、増幅リングを作り上げクリアする」
「でも、博士、魔法レールガンの理論は解りましたけど、レールガンに使う弾丸はどうするんですか?
この理論を見る限りでは専用の弾丸が必要ですよね?」
「そうだね。
だから、特殊なカートリッジシステムを用意する」
博士はフリーダムの設計図を画面上に表示した。
ピストル程度のサイズだったフリーダムはライフルサイズにまで変更されていた。
グリップにカートリッジを装填するのは同じだが、装填段数が6発から10発へと増加、加えて重量も今までよりも数倍に増えている。
その設計図の上に博士は新たにウィンドウを展開した。
中央に表示されているのは博士の言う特殊な弾丸である。
その横に、一般的にベルカ式カートリッジシステムに使用される弾丸が比較対象として表示された。

 

「太くて大きいですね」
博士とキラの様子を見に来たウーノは素直にそう言葉を漏らした。
実際、博士が特殊な弾丸と言うだけあって、その直径は一般的なものと比べると二回りほど大きい。
また、長さにしても1.5倍はあった。
「これならば、通常よりも多量の魔力供給が可能になるだろう。
あくまでシュミューレトの映像だが」
博士がいくつかキーを叩くと、画面上にキラをデフォルメした映像が映し出され、そのキラが新たなフリーダムと新たなカートリッジシステムを用いて新魔法『クスィフィアスレールガン』を放った時の分析映像が流れ始めた。
「カートリッジ内の圧縮魔力を解放し、君の魔力と結びつけて変換し、瞬間的に莫大な電力を得る」
画面にはフリーダムの構造内部が映し出されている。
装填された弾丸に撃鉄が撃ち込まれ、空になった薬莢が排出された。
しかし、弾頭部分は残る。
「その電力を逃がさないよう君が制御リングを、充分な威力を得られるよう増幅リングを展開」
デフォルメキラが持つフリーダムの先端に二つの蒼いリングが形成される。
「ここで、フリーダムが弾道を作るため先行放電を開始、確認後にトリガーを引いて、充分な電力を弾頭にぶつける」
簡略化されているとは言え、画面を観ているキラたちの目に映るのは儚く瞬間的に瞬く薄黄色のラインだけだった。
「と、まぁこんな具合だがね」
薄く笑みを浮かべ、キラを見下ろす博士に
「ありがとうございます」
キラは礼を言った。
純粋に強くなれることが嬉しかったから。
約束を守るために新たに手に入れた力は非殺傷設定は適わない。
フリーダムの改良が終わったのはそれから一ヶ月後だった。

 

フリーダムの改良が終了し、調整が終わったのも束の間、キラはいつかの訓練施設でトーレと対峙していた。
「いやに自信ありげだな」
無感情な声でそう言いつつ、トーレは構えを取った。両手両足にはエネルギー翼が展開されている。
「今日は負けるわけにはいかない」
『エールモード』
無機質なフリーダムの音声と共にキラの足元に展開された環状魔法陣から勢いよく音を立て迸る蒼色の光が無数の乱曲線を生む。
やがてそれらは不可視の腕に力ずくで束ねられ、キラの背に左右合わせて四枚の羽を形作る。
「はぁ~い、それじゃあ始めちゃってくださぁい」
緊張に張り詰める糸を撓ませるような号令、しかしキラとトーレは集中を切らすことなく相手に向かって踏み込んでいった。
号令を出したクワットロは直ぐに退室し、チンクとウーノ、博士がモニターしているであろう別室へと向かう。

 

トーレの頬を掠めるフリーダムの銃口。
相手の昏倒を狙った打撃だったがそれは適わない。
「(動きが前回とは全く違うな)」
冷静にキラの動きを分析するトーレ。
前回は空戦でのバランスが悪かったはずである。しかし、今はその面影すら垣間見ることができない。
トーレに分があったはずの空戦は最早互角。
手数は射撃型の分、キラが多い。
「(勝っているのはパワーだけというわけか……ならば)」
拳を握り、キラへと間合いをつめるため急接近。
対するキラはフリーダムを握る手に力を込め、迎え撃つ。
トーレとキラ、二人が交錯するまで後わずかというところで、キラが急減速した。
「っ!?」
トーレの視界がふわりとキラが後退したかのように錯覚を起こす。

 

タイミングを逸したトーレの拳は目測を誤り、虚しく空を切り、一瞬間の隙ができる。
キラは右腕をしならせて横ひねりに半回転。
フリーダムによる打撃がトーレの突き出した右腕を襲った。
しかし、それだけでは終わらない。半回転した体を元に戻すべくキラは先程とは逆に半回転する。
一秒にも満たない僅かな時間のフリーダムによる高速二連打撃。

 

トーレが痛みで顔を歪めている間にキラは切り抜けするかのように横を通り抜けて背後へ回り、背中を蹴り飛ばした。
床に衝突する前に何とか態勢を立て直したトーレ。
しかし、衝突ギリギリだったために床に片膝をついて後方に滑っていく。
「ぐっ、やるな」
とキラを仰ぎ見ればガコンと音がし、一拍置いてから金属片が落下した際に生じる甲高い音が耳に飛び込んでくる。
キラの足元に展開された環状魔法陣から閃光が溢れ出し、銃口先端に二重のリングが発生。
フリーダムのトリガーに掛かるキラの指が僅かに動いた。
銃口からトーレに向けて放たれる電流の尾がトーレの目前で弾けて散る。
大技がくる。
そう直感したトーレは
「ライドインパルス!」
高速移動能力発動の合図にやや遅れて
『クスィフィアスレールカノン』
フリーダムのトリガーが完全に引かれた。
制御リングの内側から瞬時にフリーダムに向けて供給される膨大な電力。
爆発的な光量が瞬間的に視界を奪う。
「っ!?」
銃口から光線が放たれると同時、想定外の反動を受けたキラの体が大きく後退した。
反動により、クスィフィアスレールガンはトーレを外れ、床に突き刺さる。
訓練施設と言うだけあって頑丈には出来てはいたが、それでもレールガンは床を砕き、その軌跡は瓦礫に塞がれて見ることは出来ない。
床に伏せていたトーレが立ち上がり、破壊された床を見る。
「(短期間でこの成長……
毎回驚かされるな)」
それからキラへと視線を向けると顔を歪めていた。
「どうした?」
「いや、その……か、か」
「肩が……」
フリーダムは床に転がっていて、キラは両腕をだらんと垂れていた。

 

「脱臼だね」
医務室にて博士は一言。
「しかし、反動抑制の効果はフリーダムのシステムに組み込んでなかったのかい?」
博士はウーノを呼びつけ、キラの右腕に布を巻く。
「く、組み込んではいたんですけど……想定が甘かったみたいです」
ウーノが持ってきた タオルを口に加え、関節をはめる痛みに耐える。
「高速機動砲撃戦……ストライクフリーダムモード。これじゃあ、まだ実用出来ませんね」
痛みのせいか目に涙を浮かべ、歪んだ笑みをキラは浮かべた。

 

映像データ
記録0064年1月~12月
終了。

 

次回 第五話 ホテルアグスタ/エンカウト