ナンバーズPLUS_07話

Last-modified: 2010-08-19 (木) 17:05:47

車の喧騒、賑やかな通り、無邪気な子供の声、雲一つない青空、心地よい暖かさの風。
優しい光量の日差しをバックに、公園に設置された噴水から水が空高く噴射された。
飛散した水気が、空に七色の光の橋をかける。
そんな公園のベンチに腰掛けて、スバルは思いつめた様子で空を見上げていた。
そこから少し離れたところでティアナがバイクに腰掛けて、缶ジュースを飲んでいる。
ホテルアグスタでの一件以来、スバルの様子がおかしいので、気晴らしになればと休日を利用して外に連れ出したものの、如何せん朝からずっとあの調子だ。
ティアナ、一つため息をつき
「スバル」
声をかけてみる。
「……」
反応はない。
「アイス奢ってあげよっかな~?」
ピクリとスバルが反応した。
してやったりと口元を緩めるティアナ。それに満足したのか
「奢ってあげるわ」
と、ティアナはバイクのシートから体も軽く飛び降りる。
「いいの?」
「いいわよ、別に。
けどさぁ、条件が一つあるわ」
「条……件?」
スバルは首を傾げた。
「アイス食べたら、もう、うじうじ悩まない。約束できる?」
「ごめん」
何故か謝られた。
ティアナとしてはスバルが謝る理由に心当たりがあったので、特に何を言うでもなく、
「アイス買ってきてあげるからそこで待ってなさい」
言い残してティアナはアイスの屋台へと歩いていった。
スバルは溜め息をついた。
ティアナの優しさが胸にしみる。
ホテルアグスタの一件以来、スバルは訓練に身が入らなかった。
それどころか、ティアナをも巻き込んでなのはとの模擬戦で大失敗をやらかし、挙げ句の果てに緊急に入った任務は出撃停止でティアナとスバルは待機を命じられた。
「向いてないのかなぁ~」
待機モードのマッハキャリバーを陽に翳し、そんなことを呟いてみる。
元々、戦うのは好きではなかったし。
などと思う一方で、本当にそれでいいんだろうか、とも思う。
ここで戦うのをやめれば死に物狂いで積み上げたものが崩れていく。
そんな気がするのだ。
スバルはマッハキャリバーをポケットにしまい、勢いよく水を噴射する噴水を眺める。
その水の壁の向こう側にスバルは見覚えのある姿を見た。

 

『出来ればもう少し時間をかけたかったのだがね』
「(まぁ、後は自分で追々調整していきますんで)」
キラは耳から入った通信を念話で返す。
『一応簡単に説明しておくが、君のフリーダムは破損が酷くてね。
修理は出来なかったよ。
今回君に持たせたのはフリーダムの後継機用に開発したものだから、データとシステムだけ移動させた』
「(追加の武装は?)」
『それは私が考えることではないだろう?』
笑いを含んだ博士の声。
「(そうですね)」
『まぁ、強いて言うなら、シングルモードとダブルモードを追加しておいた。
一対大多数戦を君が想定していた様だからね』
「(ありがとうございます)」
『なに、礼には及ばんよ。詳しいデータをそちらに送るから目を通すといい』
博士からの通信が切れた。
「で、君は僕に何の用かな?」
キラは歩みを止めて、背後に迫る人物へと体を向ける。
そこには見るからに活発そうな少女が立っていた。
「あ、あの……」
「君は……」
沈黙。
キラはホテルアグスタでの一件を思い出した。
「あの時の……」
「はい、二年前の空港火災の!」
沈黙。
二年前にこの少女にあっているらしい。
キラは思い出すために記憶を辿る。
二年前、記憶は炎に包まれている空港を脳裏に映し出した。
姉の胸に顔をうずめ、泣きじゃくる少女の姿。
その面影が細部の違いはあれどキラの目の前の少女に重なった。
「確か……」
「スバル、スバル・ナカジマです」
沈黙。
お互いに敵の立場の二人。
いかなスバルにとっての恩人と言えども、捕まえないわけにはいかない。
「……」
キラは後ろ手に待機状態のフリーダムを準備する。
しかし
「あの……今、ここで戦うつもりはないんです……。
少し話が……出来れば……なんて」
最後の方の言葉は尻すぼみに小さくなり、スバルは目を伏せた。
キラは罠ではないかと疑いながら、けれどもスバルの申し出を受けることにした。

 

市街地の一角にあるファーストフード店でキラとスバルは向かい合って座っていた。
あの後、スバルはティアナに連絡し、アイスはまた今度でいいと断った。
幸いなことにティアナはまだ買っておらず、何とか事なきを得た。
「それで……、話っていうのは何?」
スバルは無理やり流し込むように、水を一気に飲み干すと、緊張で上擦りながらも口を開いた。
「何で、あなたはあのとき、私を助けたんですか?」
「君のお姉さんに頼まれたから」
「でも、それなら困ってるギン姉ぇをほっとけなかったってこと……ですよね」
「そうじゃないよ」
キラはコップの水を一口、口に含んだ。
舌で転がして、染み渡らせるようにして飲み下す。
「ほっとけなかったとか、そういうのじゃなくて、あの時はあぁした方がいいのかなって思っただけで」
困っている人を放っておけなかったから助けた訳じゃない。
その言葉はスバルの胸に深く突き刺さった。
しかし、それでもスバルは尚、すがった。
「自分で考えて、行動したっていうなら、あなたは悪い人じゃないです」
「そうなのかな?」
「そうだ……ですよ」
だから……
「だから、レリックを集めてるのにも何か理由があるんですよね?」
キラは無言でスバルを見つめている。
「訳を話してくれれば管理局の人たちだってわかってくれる。
なのはさんだって……」
「悪いけど、ワケを話すつもりは僕にはないよ」
勢いづいてまくしたてていたスバルの口が閉口する。
「訳を話したところで、管理局が僕たちのやってることに協力してくれるとは思えないし」
それに、と続けようとしたキラの言葉をスバルの拳を机に叩きつける音が遮った。
「……ですか?
何でですか?
レリックは危険なもので、それで被害に会ってる人もいて、そういう困ってる人たちを見て、あなたは……何とも思わないんですか?
レリックだけじゃなくて、人造魔導師も戦闘機人も、生まれたくて生まれたわけじゃないのに、勝手に造られて!」

 

息も荒く、気づけばスバルは立ち上がっていた。
そんなスバルの声は街並みの喧騒にかき消され、周囲にはカップルの痴話喧嘩として処理された。
「それが理由で管理局が世界を管理するの?」
静かにキラが口を開いた。
「それって、幸せなこと?
レリックは危険、人造魔導師はダメだ、戦闘機人もダメ、ジュエルシードも、夜天の魔導書だって……人造魔導師も戦闘機人も確かに倫理に反するかもしれない。
でも、使いようによっては君が所属する管理局の人員不足だって解消できる。
レリックやジュエルシードだって有効活用する道はあるはずだ。
君の上司、八神はやてがヴォルケンリッターを利用するようにね」
キラは続ける。
「最初から危険だと決めつけて、ロストロギアを研究もせずに封印したら、開ける道も開かない。
君だってその体で受けた恩恵は少なからずあるはずだ」
スバルはハッと息を飲んだ。

 

私のことを知っている?

 

スバルの顔色が変わったことを大して気にもとめず、キラは続けた。
「その体に感謝したことが一度や二度あるでしょ?
人造魔導師の僕だってそうだし」
スバルは力なく椅子に再び腰を下ろした。
キラの言っていることは正しいのだろうか?
確かに正しい部分もあるのだろう。
しかし、二年前の空港火災、あんな悲劇を繰り返してはいけないし、フェイトの話によれば人造魔導師実験の被害にあった子供たちがたくさんいると聞く。
スバルはキラの顔を見た。
特に表情はなく、先ほど連ねた言葉も実に淡々としたものだった。
表情がないのが逆に怖かったが、鼻で笑い飛ばされるのを覚悟でスバルは口を開いた。
「あなたが私を救ってくれて、なのはさんが私を助けてくれたから、今の私がいます。
あなたや、なのはさんに憧れたからがんばってこれた。
だから……戦いたくないです」
遠まわしに自首してくれと言っているようなものだった。
キラは相変わらずの無表情で今にも泣き出しそうなスバルをただじっと見つめていた。

 

スバルが思いの丈を吐き出してからしばらくの沈黙が続いていた。
自首を考えてくれているのだろうか、などと甘い考えがスバルの頭によぎったときだった。
「戦いたくない……ね」
キラが変わらぬ口調で呟くように言う。
「僕だって、戦いたくないよ。君とは……もちろん他の人たちとだって」
「じゃ……じゃあ!」
一瞬スバルの表情が綻んだ。
しかし、キラはなお続ける。
「でも、仕方ないじゃない。
話し合いには限界があるし、譲れないものやそうしてでも守りたいものがあるから……だからスバル、僕と戦いたくないならその拳を僕に向けないで、僕の大切な家族に向けないで。
そうすれば僕は君を討たなくてすむ」
無理な要求だった。
スバルが機動六課に所属している以上、敵対は免れない。
「でも、君がその拳を僕に、僕の大切な姉や妹に向けるなら、その時は僕は迷わず君を討つ」
そう言い残してキラは席を立ち、スバルの前から去った。
「……」
スバルは頭を抱え、苦しそうに自身の髪の毛を掴んで握り拳を作った。
どうすればいいのかわからない。
思考は纏まらず、戦う気力さえ沸いてこない。
まだ心の整理が出来ないうちにティアナからの緊急通信が入った。

 

ティアナと合流したスバルはエリオとキャロに合流した。
廃棄都市街の一角、細い路地裏。
エリオの説明をティアナが聴いている間、スバルはキャロの膝で眠る汚らしい少女をぼうっと眺めながら考え事をしていた。

 

この子もロストロギアや人造魔導師、戦闘機人の実験体なのだろうか。 被害者なのだろうか。

 

右足首についた鎖が痛々しかった。
輪の部分がこすれて皮膚が捲れ、出血していた。
「スバル」
「何? ティア」
「もう直ぐなのは隊長とフェイト隊長が到着するって、あとギンガさんも合流してくれるそうよ」
「ギン姉ぇが? 何で?」
「詳しくはなのは隊長たちが到着してからね」

 

『キラ、管理局に聖王の器を先に発見されてしまったようです』
「(……そう。それで状況は?)」
イヤホン越しにウーノの説明を聞きながら、キラは早足で人混みを縫う。

 

『ルーテシアお嬢様とガリュー様、アギト様に対応してもらっています。
ですが』
キラは廃棄都市に検問がしかれているのを確認すると、すぐ側の路地に折れ身を潜める。
『機動六課の隊長二人が出動し、こちらの陽動に対応していますが、気づかれるのも時間の問題かと』
バリアジャケットを装着し、デバイスを起動させた。
「(そうだね。ガジェットⅡ型じゃ殲滅されるのも時間の問題だね……)」
両手に握るフリーダムを腰のホルスターに収め、キラは空間モニターとパネルを展開。
キーパネルを叩き、スクロールしていく画面の文字を左から右へ眼球だけを動かしながらフリーダムのデータに目を通す。
『取り合えずはクアットロに陽動の時間稼ぎを、移動力に不安があるディエチには本命を狙いに向かわせています。
また、手の空いている姉妹たちがそちらに向かっていますので』
「(わかった。それで僕はどう動けばいいの?)」
『ディエチとともに本命を狙いに向かってください』
「(了解)フリーダム」
『Alright, aile mode set up』
背に光る蒼い翼を背負い、キラは飛翔する。

 

「いきなり数が増えた……なのは」
「うん、恐らく陽動だね。本命が別に有るはず……」
空戦仕様のガジェットの対応をしている最中に異変は起きた。
数多くのガジェットⅡ型を相手にしていたなのはとフェイトだったが、エース級魔導師二人の前では雑魚同然。
しかし、あと一息と言うところでガジェットが突然、増えたのだ。
恐らく幻術の類だと二人は推測する。
しかし、本物が紛れている以上、油断は出来ない。
「プラズマランサー!
ファイア!」
フェイトが試しに一発、雷槍を発射。
放たれた雷槍はガジェットⅡ型を貫いた。
いや、正確には貫いたのではなく、すり抜けた 「なのは」
フェイトはガジェットⅡ型の攻撃を避けながら
「これが陽動だったら、ティアナたちが心配だ。
私の広域攻撃なら幻影も関係なく殲滅できる!
だから」
言わんとしていることはなのはにもわかった。
「わかった。
だから、無理だけはしないでね、フェイトちゃん」
なのははフェイトに背を向け、桜色の天使のような翼を羽ばたかせると戦線から離脱した。

 

「さて、ディエチちゃぁん、サクッとやっちゃって、さっさと帰りましょう」
クアットロは廃ビルのてっぺんから茶髪の長髪を背後で束ね、重火器らしきものを持つ少女にそう言った。
「うん、だけど、博士の言ってた聖王の器……、あれも巻き込んでしまうかも」
そう言いつつ、肩に背負った重火器、イノーメスカノンの砲口を遥か向こうで空を飛んでいるヘリに向けた。

 

一方クアットロとディエチがヘリを狙っているのとは正反対に位置する廃ビルの屋上、そこにキラは立っていた。
「フリーダム」
『Ok』
左手に握るフリーダムの後部がスライドし、右手に持っているフリーダムの銃口を差し込んだ。
『CONNECT』
新型フリーダムは二機のフリーダムを連結させることにより、長距離砲撃が可能になる機構が組み込まれていた。
キラの顔正面に展開される空間モニター。
自身の体を固定するため、キラはスタンスを広く取り、空間モニターを参考に連結フリーダムの銃口をディエチと同じく、ヘリへと向けた。

 

機動六課、ロングアーチ。
遠く離れた地で事件現場となっている廃棄都市街の状況をモニターしていた局員に緊張が走る。
「物理破壊型の砲撃、推定ランクS、真っ直ぐストームレイダーに向かって発射されました!」
館内警報が鳴り響く。
部隊長のはやては付近に対応できる隊員がいないか確認するが、いないとのこと。
「なのは隊長が一番近い位置にはいますが、間に合うかどうか」
はやてはデスクに両肘をつき、ストームレイダーに乗っているシャマルに一縷の望みを託す。
恐らく、ストームレイダーの乗員で一番防御面に定評があるのは彼女だ。
「シャマル」
はやては祈りを込めて名を呟いた。

 

シャマルはストームレイダーの窓から迫り来る光を見つめていた。
気づいた時には、もう目の前まで光は迫ってきていた。
もう少し早く気づいていれば、と今更悔やんだところで手遅れ。
クラールヴィントを起動させ、障壁の展開をするには時間が足りない。
せめて保護した少女だけでもと無駄だと解りながらシャマルは少女に覆い被さった。

 

「直……撃……」
ロングアーチのスタッフは呆然とノイズの走るモニターを見つめていた。
モニターに映るのは黒煙。
音声は入ってこない。
黒煙が徐々に薄れ、モニターには桜色の翼を持つ少女の姿。
ツインテールを風に靡かせ、そして
「こちらスターズ1、ギリギリセーフで何とかヘリは無事だよ!」
音声が戻る。
ロングアーチに歓声が上がるのと同時、なのはは体勢を低く沈めると砲撃があった方向へと飛翔、加速する。
はやては
「フェイト隊長に連絡、ガジェットは私が対応するから、ヘリの護衛に向かわせて!
ロングアーチの皆さん、サポート頼むよ!」
そう言い残して管制室から退室。
その直後、再び館内に警戒アラームが鳴り響いた。
技術班、メカニック担当のシャリオ・フィニーノ、シャーリーは魔力反応を分析する。
「新たな魔力反応!
魔力の波長から電撃系の収束砲、物理破壊型!
魔法ランク予測中…
推定オーバーAA+!?」
安堵したのも束の間、ロングアーチは再び緊張に包まれた。

 

フェイトはロングアーチスタッフから連絡を受け、ストームレイダーへと向かう。
ヘリにはシャマルがいるため、撃墜と言う事態は考えにくいが……
「シャマルはまだ、本調子じゃない、バルディッシュ!」
『トライデントスマッシャーget set』
フェイトは砲撃魔法の準備をしながら、ストームレイダーへと向かう。
シャマルが本調子でないのは事実だった。
ホテルアグスタの件で受けた傷がまだ癒えていない状態だ。
それでも、保護した少女の治療だけでもと現場に出動した。
それもヴィータと比べれば大したことはない。
ヴィータは未だに戦線復帰出来ていない。
何でもヴォルケンリッターの治癒力が低下しているのだとか。
フェイトは加速する。
ストームレイダーの姿を捉えた。
フェイトの視界の左隅に位置している。
その正反対の方向に蒼い閃光が瞬いた。
「バルディッシュ!」
『Yes, sir』
トライデントスマッシャーの待機を解除、迫り来る閃光に向けて金色の魔力を解放する。

 

「ちっ!」
キラは舌打ちして、フリーダムの連結を解除した。
「失敗だ」
呟きをそのまま念話に乗せてウーノに結果を伝える。
『クアットロとディエチが高町なのはに追われています。
捕まるのは時間の問題かと……
援護できますか?』
難しいだろうとキラは思う。
しばらく思案顔をした後、キラはウーノに策を伝えるべく、口を開いた。
「(ウー姉ぇ、援護に来る他の姉妹は誰?)」
『そちらに向かっているのはトーレです。
ルーお嬢様のもとにはセインが向かっています』
「(じゃあ、僕があの管理局の二人を引き受けるから、クア姉ぇとディエチはトーレ姉ぇに任せるよ?
ルーはセインに任せる。ガリューもアギトもついてるし……
いいね?)」
『そのようにお伝えします』
「(僕の方にも来た、通信、切るよ)」
キラの視界には追尾型の金色の雷槍が八発。
両手に持つフリーダムで迎撃し、背後からの斬撃を飛翔して回避する。
蒼き四枚の翼を左右に広げ、キラは背後から斬撃をくれたフェイトを見下ろした。
「大規模争乱罪で君を逮捕する。
武装を解除して……」
聞き飽きたとばかりにキラは左右のフリーダムから一発ずつフェイトに向けて発砲し、背を向けてなのはの元へ。
「ッ!?」
すぐ様フェイトも飛び立った。

 

はやてからの超長距離範囲攻撃の援護を受け、クアットロとディエチの逮捕まであと一歩と言うところでなのはは取り逃がした。
姿を見失ったのだ。
ディバインバスターの直撃は確定だったのだが、そんなことを考えている時だった。
「(なのは! 後ろ!)」
フェイトからの通信。
振り向けば、彼方に見える蒼天の翼。
「レイジングハート!」
『アクセルシューター』
12の桜色の光弾がなのはの周囲にポツポツと出現。レイジングハートを振るえば、ターゲットに各包囲に散開し、ランダムにキラを射抜かんと全方位から向かっていく。
キラはフリーダムのトリガーを引く。
放たれた魔力弾はなのはを狙ったもの。しかし、それは容易くなのはに回避された。
端から当てる気のなかったキラはアクセルシューターの弾幕をかいくぐる。
その数メートル後ろから、金色の雷槍が放たれ、さらに弾幕を色濃くした。
「フリーダム!」
『alright, STRIKE FREEDOM MODE』
左右のフリーダムから空になった薬莢が排出される。

 

頭上から襲い来るアクセルシューターを紙一重でかわし、さらに上昇。
背後にはなのはの制御により螺旋を描きながらアクセルシューターが、フェイトの制御により、直射型の誘導弾が迫り来る。
『バラエーナプラズマランサー』
六槍の雷の槍がキラの周囲に生成され、そして一斉射。
フェイトのプラズマランサーを迎撃する。
その間にフェイトは再びキラの背後に接近。
そして見た。
片翼二枚の翼がそれぞれスライドし、新たに二枚の翼が現れたのを。
フェイトの振るったバルディッシュは空を切る。
キラはフェイトの背後に回り込み、蹴り飛ばした。
「ぐっ!」
フェイトの呻き声。
そして、フェイトの動きに合わせて停滞させていたアクセルシューターが再びキラを囲む。
左右のフリーダムから放たれる四発の魔力弾が四発のアクセルシューターを迎撃し、包囲網から抜け出たキラは猛然となのはに迫る。
なのは残った八発のアクセルシューターを待機。そして
「ディバインバスター!」
桜色の奔流がなのはから放たれた。それを前に真っ向から迫りながらキラはフリーダムを連結。
連結したフリーダムから放たれたのはディバインバスターと同様の太さの蒼き奔流。
紫電を撒き散らしながら放たれたその砲撃はディバインバスターを相殺した。
桜と蒼の閃光が瞬いた。
眩しさに顔をしかめるなのはの目前に影。
キラだと認識した時には右のフリーダムを振りかぶっていた。
(直撃!?)
なのはが身構えた。しかし、
「させない!」
横合いからフェイトがバルディッシュを一閃。
キラは左のフリーダムで対処。
バルディッシュの魔力刃とフリーダムを覆う魔力フィールドが反発しあう。
「はあぁぁ」
フェイトは強引にバルディッシュを払い、キラの濃紺色のコートを引き裂き
「ッ!?」
フェイトの頬を蒼き魔力弾が掠めた。
なのはがアクセルシューターの操作を再開。
キラはバランスを立て直すとアクセルシューターからの追撃を逃れるべく、左右のフリーダムで相殺を狙う。
視界が上下反転、空に足を地に頭を向けた状態でアクセルシューターを二発迎撃。
「ハーケン・セイバー」
「後ろ!?」
金色の刃が音を立て回転しつつ、キラを狙う。

 

キラはそのまま地上に向かって急降下して回避。
「ッ!?」
そこには待ってましたとばかりになのはがレイジングハートを構えていた。
溢れ出す桜色の奔流。
「この二人ッ!?」

 

急上昇しつつ後退し、ディバインバスターを回避したところへフェイトの斬撃。
左右のフリーダムをクロスさせ、つばぜり合い。
なのはとフェイト、二人の巧みな連携にキラは翻弄されていた。
『キラ! 無事か!』
トーレからの通信。
『必要ならばいつでも援護に』
「(必要ないよ)」
そう、必要ない。
キラは自分に言い聞かせた。
相手が連携を得意とするならば連携を取れなくすればいい。
むざむざ姉を危険などにさらさせるものか!
「そうだ……」
つばぜり合い中、キラが口を開いた。
フェイトが眉を潜める。
「僕は……守ってみせる!」
後頭部に刺すような痛みが駆け抜けた。
表情にはださないが、その冷徹な眼が闘争心を剥き出しにしている。
「な……に!?」
フェイトが力負けし、弾き飛ばされた。
失速中のフェイトの眼には、フリーダムを連結させディバインバスター級の砲撃を討ち放つキラの姿。
「フェイトちゃん!」
待機中の残弾六発のアクセルシューターを再び操作。
キラへと向かわせる。
「フリーダム、サーベルモード」
フリーダムのグリップがスライドし、機構を変革する。
銃口から伸びる蒼き魔力刃。
鍔が異常に長い不格好なサーベルを振るい、アクセルシューターを破壊してなのはへと迫る。
間合いを詰められたなのはもキラに向かってレイジングハートを構え、迎え撃つ。
キラが右手のサーベルで、なのはは左手にラウンドシールドを展開し迎え撃つ。
互いに繰り出した攻撃と障壁がぶつかり合い、結果キラの右腕が弾かれた。
「レイジングハート!」
右手に握るレイジングハートの機構が変革する。
『ストライクフレームオープン』
濃密な魔力により実体化した鋭い刃が槍のように姿を変えたレイジングハートの先端から飛び出した。

 

油断は禁物。
この敵は魔力ダメージでノックダウンを狙うにはあまりに難しい。
そう考えたなのははキラのデバイス、フリーダムの破壊を狙うため、突きを繰り出す姿勢をとった。
キラは右半身が大きく仰け反っている。
次の攻撃にはまだ移れないはずだ。
なのはがキラの左手に握られたフリーダム目掛け、右手に握るレイジングハートを突きだした。
刹那。
キラが左手に握るフリーダムを回転させ器用に逆手に持ち替えた。
「ッ!?」
レイジングハートの矛先はキラの脇腹をすり抜け、虚空を突く。
そして振り抜かれたフリーダムのサーベルによってレイジングハートの先端部が斬り飛ばされた。
「レイジングハート!?」
思わず叫ぶなのはを冷徹な目で睨み据えるキラ。
斬りとばされたレイジングハートの先端が宙を舞う。
「はぁっ!!」
最早どちらの手がどう動いたのかその軌跡はなのはの目には追えなかった。
ただ、最後の斬撃だけは自分に向け放たれたと知る。
バリアジャケットがパージされ、なのはは後方に大きく後退した。
さらに細かく斬り飛ばされたレイジングハートの残骸が地上へと散っていく。
「なのは!」
連結したフリーダムによる砲撃の直撃を免れたフェイトはなのはを庇うようにしてキラの前に立ちはだかった。
「なのは、この敵はリミッターがかけられてる状態で勝てるほど甘くない」
フェイトは頬から顎に伝う汗を拭う。
「そう……みたいだね」
制限がかかっているとは言え、二人はオーバーAランク。
二人がかりでも勝てない。
なのはとフェイトは頭の中で思い出す。
『自分より強い相手に勝つためには相手より強くなければいけないのか?』
かつて二人が勝てなかった格下の相手にして大先輩の問い。
一つの例としての答えは自分が相手より勝る部分で勝負をする。
だが、目の前の敵はどうだ?
スピードは現時点でのフェイトを凌駕し、砲撃は現時点でのなのはと互角。
射撃にいたっては正確無比。

 

一部に特化していれば戦いようでは格上に勝てるかもしれない。
しかし、自分が特化している部分に差が無く、他、総合力で凌駕されていれば勝ちようがない。
そしてその原因は機動六課隊長格に付与されたリミッター。
解除しようにも軽々しく許可がおりる様なものではなかった。
「なのはは下がって!
今のままじゃ危険だ。
だから、レイジングハートをリカバリして態勢を立て直して」
フェイトはキラを見据える。隙ができればいつでも攻撃に移れるようバルディッシュを構えなおした。
対するキラは銃口から伸びる魔力刃の切っ先をフェイトに向け、フリーダムのトリガーを引いた。
サーベルが発射され、フェイトが庇うなのはを狙うが、
「はぁっ!!」
フェイト操るバルディッシュが妨害。
「行って!」
「わかった」
レイジングハートの残骸が落ちた場所に向け、なのはは飛翔する。
その背に向けキラは銃口を向けた。
「プラズマランサー! ファイア!」
「ッ!?」
八発の雷槍の一斉射。
キラは後退、フリーダムで弾き飛ばし、迎撃し、破壊する。
「君の相手は私」
『サードフォーム』
バルディッシュの機構が変貌する。鎌から一刀の大剣へ。
フェイトは態勢を低く沈め、呟く。
「ソニックムーヴ」
電光石火。
金色の光がキラの側を駆け抜けた。
キラは動じず、右のフリーダムを正確にフェイトへと向けた。
しかし、距離はクロスレンジ、加えてフェイトはバルディッシュを振るっている。
両手で振り下ろされた威力に片手では耐えきれず、キラは地上に向けて叩き落とされた。
「バルディッシュ!」
『ジェット・ザンバー』
カートリッジ二発を引き換えにバルディッシュの刃がその間合いを延長する。
切っ先が一直線にキラ目掛けて急迫する。
キラは左右のフリーダムをクロスし、その刃を受け止めた。
しかし、
「ッ!?」
フェイトから発射された斬撃はフリーダムを保護するフィールド障壁を破砕。
瞬時にキラは判断し、右のフリーダムを手放して身をよじり、射線から抜け出した。
バルディッシュの刀身は地を砕く。
「……フリーダム、ドラグーンシステム起動」
『OK』
キラの背の蒼き翼八枚が一斉に八方に散る。
(あれだ……ヴィータとシグナムを追い込んだ魔法……)
「プラズマランサー!」
八槍の雷の槍をそれぞれの翼に狙いを定め発射。

 

しかし、八発の雷槍が八枚の翼を捉えることはなかった。
その間にフェイトを取り囲み、代わる代わる別方向から魔力弾が蒼き翼より発射される。
フェイトはプラズマランサーを操作して迎撃を試みるも
「動きが早い!」
焦りのこもった声。
ドラグーンとプラズマランサーとの違い。それは誘導性能と攻撃方法にある。
プラズマランサーはターゲットに向かって直進し、ターゲットが進路から外れたら静止、ターンして再追撃というプロセスを踏む。
一方、ドラグーンはそもそもターゲットに向かって直進しない。
規則性のない動きでターゲットの付近まで接近することはあるが周囲を移動しながらターゲットに向けて魔力弾を放つだけだ。
確実にターゲットに向かっていく、という点だけを考えれば、プラズマランサーの方が優秀である。
しかし、ターゲットを直接攻撃しなければならず加えて静止というプロセスを持つプラズマランサーではドラグーンはとらえきれない。
フェイトは避ける。
背後から放たれた射撃を身を捩ってかわし、直後頭上から降り注ぐ蒼き光を簡易障壁で防ぐ。
『背後を警戒』
バルディッシュからの警告。
素直にフェイトは従い、大きく飛び退いた。
『Sir!』
バルディッシュが再び警戒を促す。
振り返るフェイトの視界を斜め下から横切るようにキラの顔がぬっと飛び込んできた。
フリーダムの銃口から蒼い光が溢れ出した。
『バラエーナプラズマランサー』
まず放たれたのは通常の射撃。そしてそれを合図にキラの周囲に停滞していた四本の雷の槍が一斉射される。
「うっ!」
これにはたまらずフェイトも障壁をはる。
『ディフェンサー+』
そしてついにフェイトの動きが止まった。
バギンッと不吉な音がフェイトの耳に飛び込んできた。
障壁を叩くドラグーンによる射撃の嵐の隙間からフェイトは見た。

 

陽光を反射して何かが地上へと落ちて行くのが見えた。
続いてやってきたのは目もくらむような蒼の明滅。
無数に飛び交う電光がフリーダムへと一斉供給され、障壁を展開していたフェイトの周囲が静寂に包まれる。
「攻撃が……止んだ?
まさか!」
『Sir!』
バルディッシュからの警告と同時に衝撃はやって来た。
障壁はビリビリと音を立て、フェイトの腕が震える。
やがて肘が曲がり、障壁に亀裂が入った。
「うぁ……」
岩を投擲されたガラスのように甲高い音を立て障壁は砕けて散った。

 

機動六課部隊長室。
そのデスクではやては目を閉じ、額に手を当て悩んでいた。
廃棄都市でのアンノウンとの戦闘。
恐らくはジェイル・スカリエッティが絡んでいる事件。
相手の戦力がどれほどのものか、皆目見当もつかない。
「はやてちゃん……報告書です」
トーンの低い声でリインフォースⅡははやての眼前に空間モニターを展開した。
「身元不明の少女、一名を保護。
レリックの回収、完了……。
争乱を起こした犯人は取り逃がし……か。
次は被害状況」
記されていたのは二名の名前。
「……高町なのは一等空尉所有インテリジェントデバイス、レイジングハートの大破!?」
「それだけじゃないですよ、はやてちゃん」
リインフォースⅡがなのはの名前の下に記されている文字を指差した。
そこには、フェイト・T・ハラオウン執務官撃墜、そう記されていた。

 

医務室。
「フェイトちゃん……」
清潔感漂う白いシーツとベッドマットの上にフェイトは座っていた。
「大丈夫だよ。ちょっと右腕が痛いけど、そんなに酷い怪我じゃないから……」
フェイトは立ち上がり、なのはと見つめ合う。
「それよりレイジングハートは?」
「大丈夫、リカバリーかけて修復できたから……細かいメンテナンスはシャーリーに任せた」
沈黙。
「あの子、危険だ」
フェイトは言う。
「だね。リミッター外して戦わないとたぶん……」
「命を落とすことになると思う」
フェイトの言葉になのはは頷いた。
「はやてちゃんと限定解除について相談の必要があるね」
「そうだね。
それから、シャーリーにあの子の魔法データをとってもらおう」
今後の方針を取り決め、二人は互いに背を向け歩き出した。