ハッテンバのジャック◆HRKK0qFjoI氏_002話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 18:34:24

operation code : dual eyes





「お前の相手は俺だ!」



ミゲル・アイマンは気合を放ち、己の体の延長にあたるジンを操作する

小手調べなどという悠長な真似はしない。重突撃銃をフルオートに設定、無駄弾無視で引き金を引く



(元から噂のACとガチで張り合るつもりはないぜ)



彼に残された任務はこの場の人員撤退と工業区奥に潜入したチームの離脱時間を稼ぐことである

無論、予定時間になっても状況が変わらなければ、見捨ててもいいと許可は出てはいるが



(赤を着てるんだ、そんなトロい真似はしてほしくはないぜ)



ジンの機銃攻撃をACは横平行移動で回避しつつ、右腕に装備する大型マシンガンでジンのライフルと同等、いやそれ

以上の過密弾幕で反撃してくる。



「チッ、これがACってやつか…イカれてやがる!」



仮にも主兵装であるジンの突撃銃に比べ、あのマシンガンはスペック面全てにおいて勝っている――ミゲルは迫り来る

弾幕をいくつか被弾しつつも上空へと退避する。

だが、あれで"数ある兵装の一つ"なのだ。一見すると右肩にはミサイルポッド、左肩には大型ロケット弾発射機構を装備している。だが距離を離したこちらに対してそれを撃たないということはどういうことだ?



「そうか、コロニーの中だから・・・」



下手に大火力兵装を放てばヘリオポリスに深刻なダメージを与えかねないと推測する。

(ならまだ本気で戦う必要はないか)

それならばまだ戦いようはある、とばかりにミゲルはジンを、周囲に散在するビル群を盾代わりとすべく、

地上へと降ろさせた



隠れて動かない?惜しんでいるのに気づいたのか」



コロニーの中だからといって火力を惜しむような真似はするつもりはない

特殊兵装をわざわざ一機のジンに使うのが惜しい――この程度ならマシンガンだけで十分なのだ



ジンは移動しつつ、ビル群に身を隠しては出しての繰り返しを行う。あれで待ち構えているつもりらしい。

こうなると――彼の理屈では無理を強いることになるのだが――使う武器を変える必要がある

左手グリップレバーの中指部分を一度だけ押し込むモニターに広がるロックオンサイトが消え、入れ代わりにガイド

レールが画面に表示される。ガイドレールの進行方向をビル群に向けて…トリガーを押し込む。



瞬後、ACの左肩から放たれた大型弾頭3発がそれぞれビル群に直撃、大爆発を引き起こした。





(あの野郎、何を撃ちやがった!?)

攻撃を受けた瞬間にミゲルは瞬時に原因を推測したが、その思考はすぐに滅茶苦茶になる

衝撃、そして宇宙空間とは異なる乱暴な浮遊感を一瞬感じ、再び激しい衝撃と同時に機体が転げまわされる

三半規管が悲鳴を上げるが、訓練によって鍛え上げた甲斐あって意識を失うまでには至らない

歪む視界を頭を左右に振ることで吹き飛ばすと、すぐさま機体の状態を確認する



「ダメコンは・・・問題ない。まだ動けるならいい」



コンディションモニターに表示される警告を無視して、自分と愛機に空中浮遊を経験させた原因であるACを探す。

見失った今は非常に危険だ。周囲を見回すと、倒壊した建築物の粉塵で視界が悪化している。レーダーは…Nジャマー

効果範囲内によりただでさえ狭いスキャンレンジが、先ほどダメージで完全に死んでいる。

つまり今自分は目を殺されている…



(この場合…死角から攻めて確実に殺る!)



戦士としての直感がその結論を無工程ではじき出す。

ジンを背後に振り向かせ――モニターを通じて確認したのは赤く輝くモノアイと、それより更に禍々しい赤を放つ

レーザー刃だった。



ロケット発射と同時にブースト最大出力でジャンプ、上から見下ろすと丁度ジンが爆発で吹き飛んでいた。そいつのおお

よそ背後へ――着地寸前にターンブースターとブースターを吹かし、機体方向を180度入れ替えると同時に着地衝撃を可能な限り相殺する。こちらに気づかぬまま立ち上がるジンの背中を視界に納め――気づかれている

なら振り向かれる前に左腕レーザーブレードを左下から右上へと薙ぐ



赤色の一閃がジンの上半身を走り、その左上腕・頭部・左上半身を断ち切られ、地面へと轟音を立てて落ちる。

ジンは切断面からスパークをのぞかせながら、完全に沈黙した





ジンの完全沈黙を確認し、工場区の方へと視線をやると一機のMSが飛び立とうとしている

既存のMSとはまったく異なる形状の――先ほど強奪されてコロニー外へと消えていった3機と共有する外見を持つ――MS



「IFFも作動させずに動く――あれも奪われたか」



仮に連合兵の操縦によって大天使に運び込むのだとしたらIFF(敵味方識別信号)を出すはずだ。もし出さなければ

友軍に撃たれる可能性がある



(奪われるくらいなら、ここで眠らせてやる。イージス、その名を裏切るような真似はしたくないだろ)



連合に対して護国の想いなど欠片もない。されど、身を示す名と逆の行為を行うあのMSをどこと無く悲しく感じる



だから――潰す。自分勝手ではあるが依頼でもある。遠慮なく潰す



――?



レーダーが新しい反応を示した。そちらに機体を向ける。

上方の、中央シャフトが内側から一つの爆発を起こす。開いた大穴から一機のMS、少し遅れてMA

――形状からしてメビウス・ゼロだ。だが最大の特徴である遠隔誘導兵装ポッドが一つも装着されていない――

がコロニー内へ突入してきた

頭部AIが警告を発する



『新たなMSを確認しました、シグーです。敵は機動力と中距離火力に優れています。左腕のガトリング砲に注意してください』



新たな敵MS、シグーに対しマシンガンの銃口を向ける

が、シグーはこちらの姿を認識するとこちらに威嚇射撃、そしてイージスの進行をバックアップしつつ先ほどの穴へと

後退を始めた。さすがに、直接シャフトへと銃口を向けるわけにはいかない。ジャンプして追いかけることも出来るが、

この場を離れるべきかと一瞬、躊躇する



シグーの動きを見たメビウスはなんとか機首をシグーへと向けるが、低推力故の緩慢なその動きをシグーは見逃さない

腕だけをメビウスに向けて右腕突撃銃を乱射、回避もままならずにメビウスは幾発か被弾、薄い黒煙を上げながら

ヘリオポリスの大地へと墜落…はせずになんとか不時着をする

今のやり取りで追撃のチャンスを逃した俺は、銃口をシャフトに向けたままシグーとイージスの離脱を見逃すしかなかった





数少ない生き残りの警備兵はまず不時着したメビウス・ゼロの救助、並びに回収へと向かう

それとは別に、俺は爆発が続くモルゲンレーテ工場の中へと進もうとしていた



持ち出された機体は4機―デュエル、バスター、ブリッツ、イージス――



ならばまだ工場内には奪取されていない、もしくは破壊された"G"が残っている可能性がある

俺にはそれの確認をしてほしい、と生き残りの中でもっとも階級の高い――軍曹の階級だが――連合兵士に頼まれる。

この状況で、それを拒否する理由はない。"未だに依頼受理中"であるためそれを承諾する

だが、軍曹の嘆願は必要の無いものだった



――それは工場区から現れた



白、青、赤のトリコロールカラーに彩られている



ジンやシグー、俺のACのモノアイとは一線を画するデュアルアイフェイス



手持ち武装こそ所有していないが、両腕のマニュピレーターで多種多様な武装を装備することで高い汎用性を示すだろう



強奪された四機によく似たフレーム構造をしている。





MSは落ち着いた歩き方で、爆発が続く工場区画を背にしてこちらに来た。

安全圏まで到達すると、ACを一直線に見つめる形で足を止める



黄色のデュアルアイを持つMSと緑のデュアルアイを持つMS――これも連合の開発した"G"のようだ。



片方のMS,差異を敢えて言うなら機体色のアクセントが強い方から通信が入る――受信ON

若さという脂の乗り切った女の声が、明瞭に聞こえてきた



『こちらストライク、マリュー・ラミアス大尉です。レイヴン、護衛をお願いします』





この二機のGとそのパイロット達との関わりはここから始まった