メビウスの宇宙 第01話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 18:51:44

 …大きな隕石の近くで2機のMSが戦闘を行っている。
 一方は軽く緑がかった白に青のカラーでスマートな顔立ち。何か懐かしさを感じるMSだ。
 もう一方は威圧感を与えるように全身赤色の一つ目の機体。こちらも、懐かしさではないが浅からぬ因縁を感じる。

 

 「なんでこんな物を地球に落とす?これでは、地球が寒くなって人が住めなくなる。核の冬が来るぞ」
 「地球に住む者は自分達の事しか考えていない、だから抹殺すると宣言した」

 

 それぞれのパイロットが言い合いをしている。どこかで聞いたような…?

 

 「人が人に罰を与えるなどと」
 「私、シャア・アズナブルが粛清しようというのだ、アムロ」
 「エゴだよ、それは」

 

そこで目が覚めた。
最近、この夢ばかりを見る。
アムロ…俺の名前。自分はMSのパイロットでもないし、もちろんこのような記憶もない。

 

「…変な夢だ。何か意味でもあるのだろうか?
それに…シャア……」

 

そんな人物は知らない。
でも…知っている。
この嫌な感じは何なのだろう…?

 
 

C.E.71 1月25日 ザフトがヘリオポリスを襲撃した時、アムロはその場に居た。
というよりは、その事件に多少なりとも関係があった と言ってもそう間違いではないだろう。
GAT-Xシリーズの設計・開発にアムロは関わっていたからである。

 

ヘリオポリスを脱出してから、アムロはプラント本国へと身を寄せた。
本当は「もう二度と襲われるような出来事に関わりたくは無い」という思いから
オーブに戻り、街のジャンク屋でも営もうと思っていたのだが…運命がそれを許してはくれなかった。
アムロが乗り込んだ脱出艇を回収した艦がザフト軍所属だったからだ。
ザフト艦に助けられた乗客達はその艦が作戦行動中でなかったこともあってかプラントへと連れていかれた。
乗客の大半は一般人であった為、身元確認が終わればオーブ本国まで帰されたが、アムロの場合はそうはいかなかった。
GAT-Xシリーズの設計・開発に関わっていた事が知れた為である。
本来ならば殺されていたか、牢に入れられそのまま出てくることはないか、兎に角ロクな未来は無かっただろうが
技術協力を理由にザフトに帰属する事となった。
そして時は流れC.E.72 11月4日アムロ28歳の誕生日にそれは訪れる。

 
 

「新型機の設計図…。こんなものでいいのだろうか?上からの指示は全て入れてはいるが……」
「おい、アムロ!なにをそんなに悩んでるんだよ?」

 

アムロが軍上層部からの無茶苦茶な指示に悩んでいると、いつの間に近づいてきたのか、同僚のアレンから声がかかった。

 

「ん…いや、ちょっとな。指示通りのスペックで設計をすると、エネルギーの点で問題がでてきてしまって…」
「そんなの気にすんなよ。下手にスペック下げると何言われるかわかんないぞ。それよりも、お前今日誕生日だよな?仕事あがった

 

らみんなで奢ってやるよ。」
「それは嬉しいな。楽しみにしてお……く…あ、れ……」

 

アムロは突然、頭が霞みかかったように白くなるの感じて、そのまままどろみの底に落ちていった。

 

「お、おい。どうした?アムロ!ちょっと誰か!誰か来てくれ!!アムロが…」

 

アレンは即座に近くの電話を取ると、基地の救護室へと連絡を入れた。
直ぐに救護班が到着しアムロはタンカに乗せられて連れて行かれた。
簡単な検査が行われた所、特に異常はなくただの疲労だろうと診断された。

 

 「アムロ…アムロ…。そろそろ起きて。」

 

 真っ白い空間の中、褐色の女性がアムロに話しかける。

 

 「キミは…?」
 「ララァ。ララァ・スンよ。」
 「…ララァ?俺はキミの事を知っている。」
 「そうね。だから、早く起きて。」

 

 起きて。とはどういう事だろうか?
 訳が分からない。

 

 「キミは何を言って…」
 「直ぐに分かるわ。そう、直ぐに。そして、思い出すでしょう。」
 「思い出す?何を?」
 「…うふふ。起きたら分かるわ。アムロ。」

 
 

「ん…っん…」
軽い頭痛を感じてアムロは目覚めた。
倒れてから3時間ほど経っているだろうか。

 

「ここは…いったい?そうか、仕事の途中で倒れて……」

 

上半身を起こしつつ、夢の中での出来事を思い返す。
それにしてもあの女性は一体何を言っていたのだろうか。

 

「俺の事を知っている感じだった…。それに俺も彼女を…うっ……」

 

いきなり激しい頭痛が走り、何かが頭に流れ込んでくるのを感じた。

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

そして、彼は思い出す。
一年戦争。カラバでの活動。そして、第二次ネオジオン抗争。
彼が生まれる前の記憶。本当の彼の記憶。
ヘリオポリスで生まれコレまで生きてきた自分。地球で生まれガンダムと共に歩んできた自分。
2つの記憶が共存しているというのはどうも変な気分だった。

 

「とりあえず…今日は帰るか。」

 

いきなり記憶が戻り、混乱もしていたけれど、口をついて出た言葉は意外と冷静だった。
(そうだ、帰って整理しよう。そして、何故自分に記憶が戻ったのか。それを考えないと…)
そう決めるとアムロはベッド起き、部屋から出て、近くの医者にもう自分が大丈夫な事を告げた。
ついでに電話を借りると自分の部署に連絡を入れ、今日はもう帰ると伝えた。

 

家に着くと、直ぐに熱いシャワーを浴びた。
バスルームから出て軽く身体を拭き、ベッドに横になると精神を集中させて身体を楽にする。

 

「ララァ…ララァ…聞こえるか?聞こえたら応えてくれ…
どうして、俺は…」
「世界に混乱が起ころうとしている。だから、貴方の力が必要なの。私に言えるのは…それだけ。」
「だからといって…」
「アムロ…貴方は人のあたたかさを信じるのでしょう?」
「……。」

 

「また…戦いに身を投じる事になるのか…俺にできる事といえばそれぐらいしか…
パイロット志願したところで受け入れられるものだろうか…?
それにしても…散々な誕生日だ。」

 

そうつぶやいて笑った。
考えたところで仕方がない。何が起こるのかは分からないけれど、自分が力になれるのなら…。

 

「俺一人の力で何かを変えられるとは思わない。それでも、きっかけぐらいには成りえるだろう。
うん…そうだな。俺は人のあたたかさを信じる。きっと人は分かり合える。おやすみ、ララァ。」

 

明日からの忙しさを思い浮かべながらアムロは目を閉じた。

 
 
 

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