リリカルしーどS_第05話

Last-modified: 2007-11-18 (日) 16:09:41

2年の月日が流れた。
光陰矢の如しとはよく言ったものだ。
シンにとって、この二年間はまさにそれだった。
一年で士官学校を主席で卒業したシンは首都防衛の航空武装隊に配属された。
その一年で頭角を表していったシンは現在は副隊長の位置にいる。
今はというと廃棄都市にいた。
怪しげな影を見たという報告を受け、部下を率いて、見回りをしていた。
「アスカ三等空尉、パトロール終わりました。異常発見出来ませんでした」
部下の男が敬礼する。
「分かった。隊長には俺から報告しとく。もう下がって良いぞ」
「はっ!」
男は本部へと戻っていった。
「……さて、俺も一回りしてくるか」
辺りを飛んでいく。
近年凶悪な犯罪が増加していた。
治安が悪化している。シン達防衛部隊の仕事も増えてきていた。
現在管理局はどこも人手不足で悩んでいた。
シンは辺りを見回したが、何も発見出来なかった。
『さてと、こんなもんで良いかな…こちらアルファ2。異常はありません』
念話を送る。
『アルファ1了解。もう帰投して良いぞ。…そうそう、お前のところに客が来ているらしい。女の子らしいが…彼女か?ちゃんと会ってやれよ』
隊長はにやけたように笑う。
『ばっ…違いますよ。しかし、俺に客?誰でしょう』
『さあな、シン。だが、結構可愛い子だったらしいぜ』
『…可愛い子……とりあえず、お先に失礼させて頂きます』
念話を切ろうとする。
副隊長が隊長にする会話ではないが、この部隊では許されていた。
部隊の隊長…ハイネ・ヴィステンフルスは階級など気にしない男だった。
『待ってください…怪しげな何かを見つけました。帰投はなしですデータを送ります』
シンは慣れた作業で正体不明の何かのデータを送る。

『……今データ照合出来た。ガジェットドローン…気をつけろ。接触まで後10秒』
ハイネから送られてくる情報。
名前以外はほぼ不明だった。
「…ちっ……なんだか分からないけど、やってやる…行くぞインパルス…セットアップ!」
『ALL RIGHT』
シンの姿が白と青を基調としたバリアジャケットに変化する。
杖型のデバイス…インパルスから魔力刃が生じる。
向かってくるガジェットの数は6。
シンは一瞬で距離を零にした。
シンの高い身体能力と高い魔力が可能とするブーストダッシュの一種である。
並の使い手では反応さえ出来ずに撃破される。
急加速からの急ブレーキ…シンの得意技だった。
狙いを定め、斬撃を放った。
迷い無き斬撃……シンはガジェットの撃破を確信していた。
だが、それはかなわなかった。
「なっ!!」
ヴァジュラの刀身が消えたのである。
何が起こったか分からなかった。ガジェットの眼のような部分が怪しく光る。
シンに向かいレーザーが放たれた。
「こんなものプロテクションで……発動しない!?」
とっさに障壁を張ろうとしたが、発動しなかった。
バリアジャケットがシンを守るが、それでも体は吹き飛ばされた。
空中で回転して体制を整えると、追撃のミサイルはフォトンランサーが貫き、爆発を起こす。
「どうなってる……」
『すまん、今から最新のデータを送る。気をつけろ。そいつらはAMFを使える』
『AMF?』
ハイネからの通信に首を傾げる。
AMF…その名を聞いたのは初めてだった。
『アンチマギリングフィールド…その名の通り対魔法の防御機構だ。それを発動させると魔法の維持が困難になる。魔力を付与しない…もしくは、魔力を何かに付加させた攻撃を使え。後はデータを見ろ』
『………そういうことですか』
データを観覧する。
魔力を完全に遮断する防御機構。
シンはガジェットに向かい合う。
シンの方に向かってきていた。
シンはインパルスを見る。魔法が効かなくても、いくらでもやりようはあった。
「インパルス……ソードフォーム!!」

杖が変形し、連結剣となる。
それとあわせるようにバリアジャケットも真紅に染まった。
魔力変換資質光…シンはそのスキルを持っている。魔力を媒介にエネルギー光に変えることが出来た。
連結剣……エクスカリバーから光剣が生じる。
シンは一気に接近し、エクスカリバーでなぎ払った。
一太刀で2体のガジェットを両断する。
残ったガジェット達はビームを放つ。
遅かった。シンには遅すぎた。
当たるはずもなく、返す刃はガジェットの胴体を貫いた。
流れるようなその動き。二年前とは明らかに違っていた。
逃げるように離れるガジェット達、シンはそれを見つめる。
目くらましにミサイルを放つが、シンの体に触れる前にエクスカリバーにより叩き落とされた。
「フォースフォーム」
元の杖型に戻る。
「試してみるか」
残ったガジェットドローンと同じ数…丁度三つのフォトンスフィアが精製される。
「ファイヤ!!」
ガジェットドローンに向かい、真っ直ぐに飛んでいく。
当然AMFにより遮られる。フォトンランサーは最初から無かったかのように消えた。
直後真後ろからフォトンランサーが放たれた。
正面からの攻撃に気を取られていたガジェットは不意に放たれた攻撃になすすべもなく破壊された。
沈黙する。付近に反応はなかった。
「……やっぱり、防げなかったか」
正面からの攻撃にしか対応出来ないと踏んだシンは多方面からの射撃を試してみた。
案の定、シンの攻撃に対応出来ず、ガジェットは撃墜された。
『こちらアルファ2…全機撃墜しました』
『こちらからも反応を確認出来ない。もう戻ってきて良いぞ』
『了解』
シンのバリアジャケットが解け、そのまま地面に着地する。
インパルスはエンブレムのような姿でシンの胸元で輝いていた。
首都に入ったらよほどのことがない限り飛ぶことは許されない。
歩いて管理局本部へと戻っていく。途中で部下が車で迎えに来て、シンはそれに乗った。

本部の入り口には待ち構えていたようにオレンジ髪の男が立っていた。
ハイネ・ヴィステンフルス一等空尉…シンの上司だ。
「いや、流石だなシン。見事な手際だ。流石は副隊長だな」
微笑むように笑う。
ハイネは陽気な男だった。
「報告ですかハイネ」
「いや、そうじゃない。ちょっとな……ほら、出てきて良いですよ」
そう言って出てきたのは金髪の女性…フェイト・T・ハラオウンだった。
「久しぶりだねシン」
にこやかに笑う。
シンは心底驚いた表情だった。
「どうしてこんなところにフェイトさんが…」
「少し話があるんだ…向こうで話そう」
フェイトは手で食堂を指差す。
シンは困惑したような表情だった。
それをニヤニヤと笑ってみているのはハイネ…興味津々だった。
シンはそんなハイネを睨みつける。素知らぬ顔で口笛を吹いていた。
「…じゃ、行こうかシン」
そう言って手を差し伸べるフェイト。
「あっ、ちょっと待ってください。少しこいつと話があるんです。さっきの任務のことです」
「そういうことなら…私はこっちで待っています」
「ありがとうございます。じゃちょっと話そうかシン」
ハイネはシンの肩に手をかけた。
シンの抵抗も虚しく、そのまま引っ張られていくように物陰に連れ込まれた。
「じゃ、話して貰おうかシン」
良い笑顔だった。
シンはハイネの笑顔に身震いしながらも口を開く。
「別に大した関係じゃないですよ…」
「嘘つくな、どう見ても彼女と彼氏の関係だったぞ。あれか?オレに自慢したいのか?そうなんだな?恋だから萎えちゃう日もあるってか?」
段々笑顔に余裕がなくなっていく。
美人な…しかも、年上の彼女を持つシンが羨ましかったのである。
「いや、そうじゃなくて……」
「じゃあ、どういう関係なんだ?」
「以前言ったでしょ?俺はこの世界に飛ばされてよくして貰った人がいるって…それがあの人です」
うんざりしたようにシンは言う。
「つまり、あの人と一緒に暮らしていたと?…やっぱり、羨ましいじゃないかおい」
「………ハイネ」
「何だ…?その哀れむような目…?」

シンの目に怯えるハイネ。
あぁ…この人負け組なんだな…ハイネはそんな暗喩を読み取ったのである。
「割り切れよ……でないと死ぬぞ」
「それはオレの台詞だぁぁ!!」
そんなこんなでハイネと話をつけた。
家族代わりの存在で特に恋愛感情は抱いてない…それを何度も何度も説明して何とか納得した。

「話は終わりましたよ」
シンが物陰からひょっこり現れる。隣にはハイネもいた。
「あっ、そうなんだ。それじゃシンを連れて行きますが、良いですか?」
「ああ、良いですよ。どうぞ、連れていってください」
ハイネはにこやかに笑う。
白い歯がキラリと光っていた。
フェイトはシンに手を伸ばす。が、シンはその手を取ろうとはしなかった。
流石に人前で手を繋ぐほどシンの心は子供ではなかった。
フェイトが何かを訴えるような目でシンを見つめる。
根負けしたシンは渋々と手を伸ばす。フェイトはシンの手を取り、笑みを浮かべていた。
シンの顔は恥ずかしさで真っ赤だった。それを楽しそうに見つめるハイネ。
シンは後でハイネに口止めするのを心の中で誓い、誘われるようにフェイトについていった。

食堂のテーブル…シンとフェイトは向かい合いながら腰かけていた。
「で、俺に何の用ですか?」
そう言ってコーヒーを口にする。
ミルクやシロップが入っていないブラックコーヒーだった。
「今副隊長やってるんだってね。直接言うのは遅れたけど、おめでとうシン」
「ありがとうございます」
シンは軽く頭を下げる。
「…それだけですか?まさか、それだけのために本部に来たってわけでもないですよね」
「………」
フェイトは黙り込む。
シンは困ったようにしていた。
自分に会いに来てくれたのは嬉しいが、それだけのために会えるほど暇ではない…それがシンの心境だった。
「えっとね…はやての部隊…出来たんだ」
静かに切り出していく。
「……はやてさんの部隊が?」

以前、約束していたことを思い出す。
シンは一人前の魔導師になる、はやては自分の部隊を創る。
賭けは結果としてシンが勝ったことになる。航空部隊の副隊長…俗に言うエリートコースをシンは進んでいるからだ。
「………」
シンは閉口する。
確かに約束はした。一人前になったらはやての部隊に入る…シンははやての前でそう言ったのである。
だが、今シンは航空部隊を率いる立場に立っている。
個人の事情がどうこうするような状況ではないのだ。
シンには隊をまとめるものとしての責任もあった。
「具体的にどんな仕事をするんですか?」
決めかねていたシンは中身を聞いて判断することにした。
「名前は機動六課っていうんだけど…」
確かに新しい部隊だった。
シンの知る限りは、機動五課までしかない。機動六課などという部隊は存在しなかった。
フェイトの説明が始まる。
ロストロギアの探索とそれの確保を主とする部隊。
受けてに周りがちだった今までの部隊とは違い、攻めに出る部隊だという。
ロストロギア…シンも名前だけは知っていた。
古代文明の遺産…オーバーツとも呼べるものだ。
今の技術では解析出来ないような高エネルギー体や所有者のに絶大な力を与えるものまで様々だ。
首都防衛部隊の副隊長であるシンが関わったことがあるはずもなかった。
「名前はレリック…詳しいことはこれを見て」
シンに資料が手渡される。
レリックが表の舞台に登場したのは2回。
そのどちらも大惨事を引き起こしたという。
それだけ、危険な代物だという。
「こいつらは…」
資料を捲っていくと、先ほど戦ったばかりの機械が映っていた。

「どうしたの?」
「こいつらと今さっき戦ったんです。任務で怪しげな影が出たって聞いて見回りをしてた時に六体に遭遇したんですが」
「……倒したの?」
フェイトは興味津々といった表情で質問する。
「はい」
フェイトはシンの体を見回す。
目立った外傷はない。至って健康体だった。
六体ものガジェットを苦もなく倒したという報告に言葉を失っていた。
一般的な武装局員では2体も相手にしたら苦戦は必須だ。
ガジェットもその程度の力をもっていた。つまるところ、シンはその程度の実力は持っているということだ。
「シン…今ランクいくつだっけ?」
「そういえば、話してませんでしたね。今は空戦A+です」
「A+か…」
リィンフォースⅡと同じランクだった。
「それで…こいつらは何なんですか?」
「ガジェットドローン…レリックを狙う謎の兵器ってところかな。私も調査中なんだけど、詳しいところはまだ分かっていないの」
「どちらにしろ俺も無関係ではいられませんね。首都を襲ってくるようなら俺らの部隊も招集させられますから」
そう言ってシンは資料を返した。
フェイトは資料を受け取ると、鞄の中にしまった。
「答えはまだ出せません…俺にも副隊長としての責任がありますから」
「…そっか。話聞いてくれてありがとうシン」
頭を下げるフェイト。
シンは何か考えるような目でフェイトを見る。
「……そういえば、エリオはどうしたんですか?前に管理局入りしたって聞きましたが」
「エリオは機動六課…つまり、私達の部隊に入ることになったよ」
「……そっか」
シンは嬉しそうに笑った。

まだ子供のエリオを遠いところに置いておくのは彼にとって不安の種であった。
だが、フェイトのところに行くというなら別だ。シンはフェイトのことを信頼していた。
それを皮切りに互いの近況を語り出す。
シンは士官学校に入ってからの状況を…フェイトは聞き手に回っていた。
士官学校の教官はこうだの同期にはこんなやつがいただの。
そして、話は現在の状況にシフトする。
上司…主にハイネについての愚痴を連ねていく。
シンの表情は生き生きとしていた。
「それでハイネが歌い出して……」
ハイネは歌うことが趣味らしい。
だが、趣味にしては抜群の歌唱力を持っており、歌手も真っ青なレベルである。
よく、シン達の前で新曲を披露していた。
シン達の部隊ではそれが名物となっている。
この間披露したHOWLINGという曲はシンのお気に入りにもなった。
フェイトは楽しそうに聞いていた。
「私も聞いてみたいかなぁ」
「はははっ、ハイネなら頼めば、いつでも歌ってくれますよ」
それからも会話が続いていく。
シンは話し手、フェイトは聞き手…たまに入れ替わることはあったが、そのスタンスは殆ど崩れなかった。
「……もうこんな時間か」
時計は4時を指していた。都合2時間も話していたことになる。
自分から暇ではないと言っておきながらこれだけ長い間話し込んでしまったことになったのが恥ずかしいのか後頭部に手を置いた。
「すいません、話長くなってしまって」
シンは申し訳なさそうに謝る。
話していたのは自分ばかりだったからというわけもあった。

「気にしないで。シンが元気そうで安心したよ私は……シンの話が聞けて良かったって」
笑顔で言うフェイトにシンは恥ずかしそうに笑い返した。
「それじゃ失礼します。部隊については考えておきます……」
「…そうだね。シンの未来を大きく変えかねないことだから…私はもうしばらく本部にいるからその時までに答えを出してくれれば良いよ」
「いえ、エリオによろしく言っておいてください」
そう言って立ち上がる。
「お金なら俺が払っておきますよ」
「あっ、良いのに」
「いえ、今までお世話になったんですからこれくらいのことはお返しさせてください。失礼します」
カウンターでドリンク代を払うとそのまま食堂を出ていった。
フェイトは氷が入ったリンゴジュースをかき回す。
シンがどこか遠くに行ってしまった…そんな気がしていた。
立ち上がり、食堂を出ていく。
その表情は少し悲しそうなものだった。