リリカルしーどS_第06話

Last-modified: 2010-09-05 (日) 20:13:20

廃墟と化した街…シンはそこで踊っていた。ダンスのパートナーはオートスフィア。
「はぁぁ!!」
ヴァジュラがターゲットを両断し、振り向きざまに放つフォトンランサーはターゲットを確実に撃ち抜いた。
オートスフィアは収縮砲を放つが、シンはギリギリまで引き寄せそれを避ける。
アクロバットに飛ぶシンに翻弄されながらヴァジュラを突き刺される。
オートスフィア達は次々と砲撃を放つが、シンにかすりもしない。
『ソードフォーム。フラッシュエッジ』
2対の大剣を持った姿に早変わりする。
光刃をブーメランのように投げる。
まるで、それ自体が意志を持っているかのようにオートスフィアを両断した。
シンの手元に戻った時には残り一体になっていた。
大型のオートスフィアだ。
堅い障壁を持っているため生半可な攻撃では傷さえつけられない。
『エクスカリバー』
弾丸の射出音とともに2発分のカートリッジが使用される。
シンから溢れんばかりの魔力が放出される。
2対の大剣が真の姿であるひとふりの連結剣と化す。
シンは大きく振りかぶり、隊長格の傀儡兵を障壁を叩き斬る。
手のスナップを効かせ、振り回すと反対の刃でオートスフィアを両断する。
『タイム5分14秒』
アナウンスとともに空間が歪む。
荒廃したビル群から何の変哲もない一つの訓練所となる。
シュミレーターで演習を行っていた。記録は彼の中でも悪い方である。
普段なら4分前後で全滅させることが出来る。
彼の能力からいって5分というのは遅すぎた。
「何か考えごとでもしてるのか?」
不意に聞こえた声に振り向くシン。
立っていたのはハイネだった。
最近、不調気味のシンを見に来たのである。
「……ハイネには関係ないですよ」
「関係ないなんてことはないだろ?俺はお前の部隊の隊長だぜ?」
シンは返答することが出来なかった。
彼には自分で抱え込んでしまう癖があった。
「あのなシン…もっと俺を信頼しろよ…。メンタル面の問題は人に言っちまった方が楽だぜ?…そんなに話したくないなら力づくで話して貰うぞ」

ハイネは自分のデバイスであるイグナイテッドを構える。
その目つきは真剣そのものだった。
しぶしぶと、シンは白状したように手を上げた。
それを見てハイネはイグナイテッドをしまう。
エンブレム姿のそれを胸賞のようにつけていた。
「実は…」
今自分が悩んでいることを話した。
今の部隊にいることを取るか、はやての部隊に行くか。
副隊長としての責任を取るか、以前の約束を取るか。
ハイネは真剣な表情でそれを聞いていた。
普段なら茶化すようなのろけ話を聞く時も真剣そのものだったのである。
シンが全て話し終えた時もハイネの表情は崩れなかった。
ハイネは厳しい表情でシンを見ていた。
「……何を迷う必要があるんだ?」
ハイネは静かに…だが、はっきりと口を開いた。
シンの瞳を覗き込むように見つめる。
赤い…朱い瞳。他人に恐怖を与えるようなその真紅も今は弱々しかった。
「どういうことですか?」
「お前の思った通り行動しろってことだ。もう決まっているんだろ?」
ハイネは見透かすような瞳で言う。
シンは拳を握り締める。
「それとも何か?お前はそんなことも自分で決められないのか?」
そう言って挑発的に笑う。
シンの頭の中でフェイトの姿が映る。シンの頭の中ではどうするかは決まっていた。
ただ、一歩を踏み出せない…それだけなのだ。
ハイネはその一歩を踏み出させようとしていた。
「…でも、良いんですか?副隊長の俺が抜けたら?」
「お前一人くらいの穴でどうにか成る程俺の隊はへまじゃない」
オレンジショルダーはエースの証だ。
ハイネを始め、精鋭が揃っていた。
将来性を買われてシンは副隊長を勤めていたが、シンと同等近くの力を持つものも少なくはなかった。
「それにな…お前みたいな甘ちゃんはもっと多くのことを見た方が良い。新しい部隊で自分が本当にしたいことを見つけるのも良いかもしれないぜ」
ハイネの言葉に頷くシン。
そして、何かを決意したように拳を握った。
シンの瞳に意志の光が灯る。

「ハイネ…いえ、ハイネ隊長、俺決めました。この部隊を離れます」
「そうか。よし、本日を持ってシン・アスカ三等空尉の除隊を認める」
返すようにシンはハイネに敬礼する。
その後堪えきれなかったかのようにハイネは笑い出した。
シンもつられるように笑う。
男二人の笑い声が訓練所で響いていた。
見るものが見たらさぞや、滑稽だろう。
「新しい部隊で頑張れよシン」
笑いを止め、シンに向かい合いつつ言う。
「でも、良いんですか?隊長にそのことを話したらまた文句言われますよ?」
この場合の隊長とはハイネのことではない。
ハイネ隊を含む全体の隊長だった。ただでさえハイネ隊の印象はあまりよくないのである。
このことをハイネが話したらどれだけなじられるか、シンには安易に想像がついた。
「何、心配すんな。割り切れよ…出ないと死ぬぜ」
「何で死ぬんですか。というかその台詞本当に言いたかったんですね」
シンは溜め息混じりに言う。
対するハイネは満足そうに笑っていた。
「そんなことより早く行ってあげた方が良いんじゃないか?」
「あっ、そうですね」
シンが手を振るとバリアジャケットが消え去る。
インパルスをしまい、外に向けて歩き出す。
出口付近で止まった。
「……ハイネ…あんたの歌…また聞かせてくれよ」
振り向くことなく言うシン。
それを見てハイネはニヤリと笑った。
「ああ、新曲が完成したら聞かせてやるよ」
それを聞いてシンは笑った。
ハイネからは背に隠れ見えなかったが、笑っているのははっきりと分かった。
根拠はない。ただ、笑っているような気がした…それだけだった。
シンは走り出す。
ハイネはそれを笑いながら見ていた。
シンの姿が見えなくなると歩きだした。
シンの除隊を申請しなければならない。
できる限りの愚痴を無くすためにちゃんと書類をまとめる必要があった。
「頑張れよ」
誰に聞かせるわけでもなくハイネは呟いた。
扉が閉まる音とともに訓練所からは誰もいなくなった。

「どうしたのシン?こんなところに呼び出して」
フェイトは公園のベンチに座る。
私服姿のシンは黙ったままだった。
ベンチに腰掛けてフェイトの隣に座る。
とても近かった。横を振り向けば、すぐ前に顔がある状況である。
「……俺は…部隊を止めました」
「えっ?」
唖然としていた。
シンが何を言っているのかまるで理解出来なかったからだ。
「入ります…機動六課に…いえ、入らせてください」
「それは良いけど…でも、どうして?」
「ハイネに言われて気づいたんです。俺が一番したいことは何かって…」
シンの目つきは真剣そのものだった。
「俺はあなたに恩返ししなければならないんです。この2年でやっと一人前になれた…だから、手伝いたい、そう思ったんです」
「…良いのにそんなこと気にしなくたって
「いえ、それでは俺の気持ちが収まりません。あなたには感謝しても感謝したりませんから」
シンは拳を握る。
力がないのが悔しかった。
ただ起こる事象に流されることしか出来ない自分が許せなかった。
だから、大切な人は自分の手で守りたかった。
もう二度と、そんな思いはしたくなかった。
フェイトを守ること…それが彼に思いつく最大の恩返しだったのである。
「シン…」
シンの瞳に吸い込まれるかのように彼の瞳を見つめていた。
鮮血のような朱い色。その瞳は炎の赤も内包していた。
意志の力…それを感じ取れるほどに…。
「うん、ありがとうシン」
フェイトはシンの頬に触れる。
「うっ…」
シンの頬は真っ赤に染まった。
とは言っても彼の瞳とは違いどちらかというと桃色の赤であるが。
「おかえりシン」
微笑みながら言う。
「ただいまフェイトさん」
運命が交差した。
フェイト…その名が文字通り皮肉な運命になるか…未だ知るものはいない。

その四日後、ハイネから除隊の受任状が送られてきた。
バラバラと飛ばし読みをしていくシン、裏を見ると、おまけのように一枚のディスクもついていた。
媒介にかけてみると彼が今までに歌った曲が流れ出した。
最初シンは驚いた顔をしたが、すぐに笑みが浮かんだ。
音楽を流しながら作業を続ける。
こことももうお別れだと思うとシンも感慨深かった。
荷物の整理が終わった時には曲も最後の一曲にさしかかっていた。
Nephilim…新曲だった。
シンは目を瞑り、曲に聞き入る。
曲が終わると媒介から取り出し、ケースにしまった。
もうここに戻ってくることはない、シンは最後に部屋を見回した。
来た時と同じ…生活に最低限必要なものしかない部屋だった。
名残惜しかったが何時までも見ているわけにもいかない。シンは荷物を手に取った。
「さて、行くか」
扉を開ける。事前に連絡を取っていたため、使いの者がいるはずだった。
見るとシンと同じくらいの年の女の子が二人立っていた。
シンは二人に近づいていく。
「こんにちは、シン・アスカ三等空尉ですか?」
笑いながら言うのは青髪の明るそうな少女。
隣のオレンジ髪の少女は品定めをするようにシンのことを見つめていた。
「そうだけど…あんたらは?」
「はい、スバル・ナカジマ三等空士です」
「ティアナ・ランスター二等陸士です。よろしくお願いしますアスカ三等空尉」
二人は同時に敬礼する。
「別に無理に敬語にする必要はないぞ。何か敬語で話されるのはむずがゆいっつーか何というか…俺のことはシンで良い」
「しかし、それでは…」
「別に良いじゃんティア。シンがそう言っているんだから、ね?」
スバルは宥めるように言う。
その様子から見て二人が長い付き合いなのは明白だった。
「ああ。別に気にしなくて良い。だから、俺からもあんたらのことは呼び捨てにさせて貰うから」
「あなたがそこまで言うのなら」

「16歳だよ」
「へぇ、ティアと同い年か」
その言葉にティアナの耳がピクンと動いた。
顔を上げシンのことを観察するように見た。
「なっ、何だよ」
ティアナの視線に驚いていた。
「あんた…私と同じ年で…三等空尉なの?」
「そうだけど…何か問題あるのか?」
ムスッとした表情になるシン。
ティアナは落ち込んだような表情になる。
「私はまだ二等陸士なのに…同じ年の男の子が自分よりずっと階級が上だとそりゃ落ち込むわよ」
「まあ、俺は実戦経験積んで階級が上がっただけだから…ティアナもここで経験積めば、階級なんてすぐ上がるよ」
「ありがとうシン…」
そうは言っているが元気のない瞳だった。
「まっ、まあ、シンもそう言っているんだし、すぐ階級も上がるよ。頑張ろうティア、ね?」
落ち込むティアナを必死に慰めようとするスバル。
シンは罰が悪そうに手を後頭部に置いていた。
あたふたと手を動かすスバルのことをじっと見ている。
「それもそうか。他の人達も待ってるし、行こう」
そう言って歩き出すティアナ。
「待ってよティア~」
少し遅れるながらも駆け出すシスバル。
シンは二人の様子に自然と笑みを浮かべながらついていく。
微笑ましいな…シンはそう思っていた。

「着いたよ」
「えっ、あれ?ここだっけ?」
スバルは危うく通り過ぎそうになる。
ティアナはそんな彼女を見て盛大にため息を吐いた。
「あんたね…いつになったら道覚えるのよ」
「ごめんティア…明日までには覚えるから」
「ダメ、今日中に覚えなさい。あんた甘やかすとどうせ、覚えないでしょ?」
「うぅ……」
落ち込み顔のスバルに呆れ顔のティアナ。
「くくくっ…」
堪えられないように笑い出すシン。
スバルは不思議そうな表情でシンを見ていた。
「ほら、あんたのせいで笑われたじゃない」
「いや、そうじゃないんだ」

首を横に振りながらシンは言った。笑いを堪えながら言ったため微妙に咳き混じりになる。
「じゃあ、何で?」
「いや、昔妹とこんなやり取りしたなって。そう考えるとおかしくてさ」
「へぇ、妹さんがいるんですか」
「んっ、まあな」
シンの曖昧な返事をスバルは疑問に思ったが深く言及しないことにした。
「ほら、二人とも行くわよ」
ティアナの言葉と同時に二人はドアの方に振り向いた。
ティアナはそれを確認するとドアを叩いた。
「失礼します」
「入ってええよ」
扉が開かれる。
そこには椅子に腰掛ける女性…はやてがいた。
「アスカ三等空尉をお連れしました」
ティアナが敬礼すると遅れて、スバルも敬礼する。
「おおきに。二人はもう下がってええよ」
「はい!」
ティアナとスバルはその場で回れ右すると部屋から出ていった。
二人が出ていったのを確認すると、はやてはシンに向かい微笑んだ。
「ごっつ久しぶりやなシン。元気やったか?」
「はい、まあ、その…元気でやってました」
「フェイトちゃんから聞いたと思うけど、これが私の部隊や。設立まで2年もかかったんよ」
そう言ってクスクスと笑う。
「賭けは俺の勝ちですね」
「そやな、私が部隊創る前にA+ランクの副隊長やからな」
「賭けに勝ったら何かしてくれるんですか?」
挑戦的に笑いながらシンは言う。
「しゃあないなぁ…そんならシンの望むことをしてやってもええよ」
「えっ…?」
はやての妖艶な笑みにシンの顔は真っ赤になる。

「冗談や。シンは初やな。困った時の助けになるんでそれで大目に見てくれへんか?」
「…分かりました」
多少不機嫌な表情になりながらシンは言う。
「それでシンのポジションやけど…今のところは新人達の援護をしてくれへんか?」
「新人?」
首を傾げるシン。
「新人っていうのはさっきのティアナとスバルを含めた4人や。副隊長を勤めていたシンになら出来ないこともないと思うけど」
「はぁ…」
頷くしか出来ない。
シンはいまいち状況を飲み込めていないからだ。
「分類上はライトニング小隊…フェイトちゃんの部隊の5人目を勤めて貰うけど、さっきも言うた通りシンは新人達の面倒を見る限りや。それでええな?」
「はい!」
シンは敬礼を返す。
良い返事や、とはやては笑い返す。
「とりあえず、六課にようこそ、シン・アスカ三等空尉」
「こちらこそよろしくお願いします、八神はやて二等陸佐」
生真面目に敬礼を取った後二人は吹き出すように大笑いしていた。
シンは機動六課にやってきた。