リリカルオペレーションメテオ外伝

Last-modified: 2007-11-15 (木) 23:09:23
 
 

 地球圏統一連合はその成立から軍事色の強いモノであった。
 コロニー建造における各国の疲弊から起こる度重なる紛争を一気に解決する手段として
地球圏統一連合を創設したものの勢力拡大に伴い連合こそが巨大な支配組織に変貌してしまい、
主力MSリーオーの宇宙配備が完了した頃には スペースコロニーの軍事占領にまで至ってしまった。

 

 一方でプロトタイプリーオーの概念が提案された頃に連合傘下の深宇宙開発局では
 遅々として進まない火星開発を打開するために莫大な予算を投入し空間転移を可能せしむる
フォールドシステムの初実験に成功した。
 だが旧冥王星軌道からでも快調に地球へ通信出来る筈の小型探査機の幾つかが
未知の時空 に消えていた事に対して疑念を抱いた技術者はおらず、
問題も後におおむね解決されたため連合上層部は開発局の意見を少しは汲む形で
全長がMS輸送船に匹敵する実用型フォールドシステムを搭載した
深宇宙探査船ピースミリオンと超大型宇宙戦艦リーブラの建造を承認した。
 だが起工一年目に巨大過ぎるリーブラの推進系に致命的な欠陥が発見されたため予定が大幅に遅延し、
改修に三年もの歳月を要したため本来は2番艦のピースミリオンに人員と建造資材が優遇され
工期繰り上げであっさり進水してしまった。
 だがその頃の連合上層部は威信をかけて建造したピースミリオンが
破滅の引き金になるとは思いもしていなかった

 
 

アフターコロニー175年-新暦56年

 
 

 コロニーの管制室に匹敵するピースミリオン艦橋にセプテム大佐は居た。
 だが彼が特段優秀だったワケではなく、
地球圏統一連合宇宙方面司令部司令官クラレンス将軍の息子だったため
圧力以前に完全なコネで地球圏最大最強の戦闘艦の最高指揮官に就任した。
 外宇宙機動艦隊所属-深宇宙探査船ピースミリオン(当然ながら単艦である)の
リーオーと少数のトラゴスが約200機(艦内工廠でも生産されるため多少数が増減する)搭載の
格納庫の中では無重力状態の中、作業員が火星で運用試験を行うトールギスの収容作業に追われていた。
「固定手順3B完了」
 一つの作業手順が完了するごとに船内放送が流れる
「このデカいリーオーが大気圏を飛ぶのか?」
「いや常識的に考えて宇宙用だろ」
 作業員はトールギスを前にそんな会話を交わす。プロトタイプリーオー、
彼らは自分達が取り扱う機材についてそう聞かされていた。
 重装甲の機体を大推力で制御すると言うコンセプトで開発され、
完成すれば強力な機体に仕上がる筈であったがそれはパイロットの身体に15Gもの負荷をもたらし、
何人ものテストパイロットを再起不能にしたため通常の人間では扱えないとの結論に達し、
製作中の試作機の完成を以って計画は中断された。
「ジャジャ馬の積み込みは済んだかね?処女航海が遅れては査定に響く」
 長官席でふんぞり返っているセプテム大佐を見て艦長が侮蔑の表情を一瞬浮かべたが
無視しているのか気にも留めていないのかは定かではないがセプテムには何処吹く風である。
 艦長が命令を発令する。
「空間移動スタンバイ!フォールド目標、火星外縁。座標チェック!月軌道を離脱後フォールドする」
 女性通信士官がパネルを操作しながら最大音量でマイクに言う。
「フォールドシステムスタンバイ。全艦非常配置!動力システムチェック、オールグリーン。パワー収束」
 機関室でフォールドエンジンが作動を開始する。
 巨大な円柱形の金属――その周囲を様々なパイプが取り巻いている。鈍い音と共に運転を始めた。
 いよいよ秒読みが始まった。
「8,7,6」
 艦長から軍医までフォールド初体験の全乗員が緊張しながら掴まれるものにしがみついていたが、
 トールギスの御守りで乗り込んだドクターJ以下博士五人衆だけは意にも介さずに
ゼロシステムの有効性について論議していた。
「4,3,2」
 ピースミリオンの殆ど全電力を注ぎ込まれたフォールド機関が臨界点に達する。
「…ゼロ!」
 観測していた月基地視点ではピースミリオンが光に染まりながら自爆したようにしか見えず
瞬間的に更にまばゆく輝いて消滅した。
 だが24時間経っても火星圏から到着報告が送られてくる事はなかった。

 
 
 

 フォールドの白光に包まれ宇宙ですらない空間に放り込まれた直後から
ピースミリオンが傍受できるあらゆる周波数において意味不明の通信が湯水のように溢れている。
 何しろ受信できるモノも言語すら判読不能なのである。
 さらにいえばノイズにしか聞こえない凄まじい高出力雑音が全帯域に満ちている。
 確かに電波は出ているのだが、ピースミリオンのメインコンピューターの性能では
通信を解析できないのだ。
 困った事に実は親の七光りを凄く気にしていたセプテム大佐だけが渇を飛ばしていた
「早くフォールドシステムの修復と原因解明を急げ。地球への帰還方法を見付けねば我々は干上がる」
 フォールドシステム責任者が官僚的答弁を始める
「メインユニットは過負荷で爆発しましたが予備部品は多量にありますので、
 組み立てる時間さえあれば何とかなります。原因としては何の事はありません。
 単純にピースミリオンの巨大さを計算に入れ忘れていました。
 今居る現在地が判明すれば座標計算が行えますので地球圏帰還の目処が立ちます。
 なにぶんアラスカの実験施設ではリーオーを月軌道に転送するのが精一杯だったもので」

 

 ………………10秒後。
 血管を額に浮き上がらせて絶叫しようとしたセプテム大佐を艦長が宥めるように発言する。
「お願いですから大佐落ち着いて下さい。備蓄物資は使い込んでも
 半年は持ちますし艦内工廠でリーオーの部品と弾薬も供給できます」
 だが少々落ち着いたセプテム大佐が危なげな発言をし始めた。
「そうか、それならばリーオーの警戒機数を今の倍に増やしたまえ。
 トラゴスの反応弾頭の使用も許可する」
 会議室に通信士官から絶叫に近い報告が届いたのはその時である。
「敵艦発見!単艦で接近中です!」
 皆とうとう来る時が来たと覚悟を決めた。
「動けるリーオーは全部出せ! トラゴスも甲板に上げろ!」

 
 

 その頃ピースミリオンの出現を探知して警告通信を送ったが、
無視されたため接近していた時空管理局巡洋艦ルクレシオンは目の前の巨艦に呆然としていた。
 何故なら所属不明の全長1500㍍以上の超大型艦など見た事も噂も聞いた事が無かったからだ。
 当然ながら非管理世界の蛮族のフネだとは思いもしていない。
 一方ピースミリオンも光学観測で確認していたので通信は送っていた。
 だが地球圏統一連合と時空管理局の通信技術は狼煙とデジタル暗号通信ほどの
格差があるためにお互いこれっぽっちも伝わらない。
「彼等は何者でしょうか?艦載機が持っているのは幻の質量兵器のようにも見えますが?」
 創設時の実体弾兵器禁止規定に基づきミサイル銃砲の類を時空管理局は全て放棄したため、
製造能力は既に失われていた。
 トドメとして概念すら抹消しようとしたため現在では博物館にすら現物は残されてはいない。
「やはり直接乗り込んで話し合うしかないな」
 そんなこんなで魔術師一人が臨検に向かったが、
魔法の存在を否定して憚らない連合の兵士にはそれがまずかった。
 たまたま出撃していたピースミリオン第24哨戒小隊に所属する一人は
宇宙服無しで平然としている魔術師を見て発狂した。
「アストロスーツを着ていない人間が生きている筈が無い……ブツブツブツ」
 リーオーはパイロットの意思通りにドーバーガンの照準を調整してゆく。
「止めろ!早く押さえるんだ!」
 だが小隊長がそう叫んだ直後にリーオーは発砲した。
―――ゴッ!
 デバイスの防御魔法のおかげで分厚いコロニー外壁を一撃で貫通する破壊力にしては
随分とショボい威力を発揮したがそれでも人間を殺すには十分だった。
「リーオー発砲!敵兵は戦死した模様…」
 あまりに異常な事態が続いていたためにセプテム大佐は疲れていた。
「何をバカな事を!全機攻撃用意!!集中砲火で撃沈する!」
 即座にリーオー部隊が発砲を開始し間を置いて甲板上に展開したトラゴスと
ピースミリオン主砲も攻撃を始めた。

 
 

 ルクレシオン艦橋
「騙し討ちか!返り討ちにしろ!」
 接近していたリーオーの半数ほどが腹立ち紛れの対空砲火で破壊され、
残りも半壊してあらぬ方向に流されていった。
 ルクレシオンはピースミリオンを時空魔導砲アルカンシェルで殲滅するために
最大出力でチャージを始める。
 その間にも無数の砲弾や大小のビームが山ほど着弾していたが、
ディストーションシールドを持つ艦船には効く筈が無い。
 バリアを張っているため攻撃の密度は下がったが次第に数を減らしてゆく。
 リーオーのパイロットが絶叫する。
「これだけ命中して効かぬ筈が無い!フネならば沈む筈だ!」
「隊長!直接仕留めます!」
 血気盛んな新米が興奮してルクレシオンに突っ込んでいった。
 だがその時ルクレシオンのバリアは主砲チャージの影響で出力が低下していたため
 リーオーが粉砕される事も無く光の壁が浮き上がって突破するのに成功し船に取り付いた。
「やったやったぞ!」
 トリガーハッピーと化して興奮しながらマシンガンを装甲の薄いアルカンシェル本体や
艦橋に向かって乱射している最中に追い付いた20機以上のリーオーが
推進部にゼロ距離射撃を敢行しルクレシオンは沈黙した。

 

 事の一部始終をハッキングした端末から見ていた博士5人衆は
大破漂流しているルクレシオンへの興味とコロニーへの先行き不安に思いを巡らせていた。
「所詮は弱肉強食じゃのう。」(ドクターJ)
「コロニーを占領した連合ならばこうなるのも必然か」(プロフェッサーG)

 

 この戦闘から2ヵ月後に中破しパイロットが餓死した漂流中のリーオーが拿捕され、
記録されていた航路データによって地球圏統一連合はフォールドシステムの存在を
察知した時空管理局に宣戦布告をする事となる。