リリカルクロスSEEDW_第16話

Last-modified: 2008-04-05 (土) 23:28:56

「!?」
キラは自分が段々プロヴィデンスに取り込まれていっていることに気が付いた。
抜け出そうともがくがどうにもならない。
『君に私が見てきた世界の闇を見せてあげよう』
「キラ!」
フェイトがキラの元へ向かい、手を伸ばす。キラも必死に手を伸ばしたが・・・・・・届かなかった。

 

(ここは?)
キラの周りは暗闇だった。自分の体さえ見えない闇。
意識を取り戻した途端、自分の意識すら闇に染めていきそうなほどの圧力が襲う。
強く意識を保たなければ自分が消えていきそうだ。
そのまま体に力を入れて辺りを見回すが、自分の体が見えるようになった。
(僕は・・・・どうしていたんだっけ?)
キラが思い出すのはフェイトたちと共にファントムと戦い、そしてクルーゼが現れた。
(そうだ、僕はクルーゼに取り込まれて・・・・・・)

 

・・・・い・・・・・ない・・・・・

 

(なんだ?)
何かの声が聞こえ耳を澄ませてみると声が大きくなってくる。

 

いらない・・・・いらない・・・・いらない

 

(これは?)

 

お前はいらない・・・・お前はいらない・・・・お前はいらない・・・・お前はいらない

 

(な、なんだ・・・これは・・・)

 

失敗作・・・・失敗作・・・・失敗作・・・・失敗作

 

(や・・・やめろ・・・・ぐっ!)
キラは何か黒いものが頭の中に入ってきて自分を蝕んでいくのが分かった。耳を塞ぐがその声は頭に響いてくる。

 

許さない・・・・許さない・・・・許さない・・・・許さない

 

死んでしまえ・・・・死んでしまえ・・・・死んでしまえ・・・・死んでしまえ

 

殺す・・・・殺す・・・・殺す・・・・殺す・・・・殺す

 

(僕に・・・・・入って・・・くるな・・・・クルーゼ・・・・)

 

父を許さない、コーディネーターを許さない、キラ・ヤマトを許さない、人を許さない、世界を許さない。

 

許せないなら殺せ!父を!コーディネーターを!キラ・ヤマトを!人を!世界を!

 

その権利が私にはある!

 

(やめろーーーーーっ!!)
キラは自分の意識が闇に飲み込まれないように抵抗するために叫ぶ。
クルーゼが今まで見てきた世界が頭の中で何度もリピートされる。クルーゼの考えが頭の中を埋め尽くしそうになる。
キラはそれを耐えていた、人はそんなものではないと考え続けた。
しかし、クルーゼの全てを憎む心にキラだけでは抵抗しきれていなかった。あと少しキラに力が足りなかった。
そんな時だった、誰かの声が聞こえた。
そちらを向くと闇の中にどこかの映像が現れていた。それはごく最近見たものだ。

 

「・・・・・・キラくんを返して!」
『Divine buster. Extension.』
怒りを露にしたなのはのディバインバスターはプロヴィデンスの易々とシールドに阻まれる。
ドラグーンがなのはたちの周りを飛びながら連射を始める。
ドラグーンが大きくなったことにより避けることは簡単だが、当たると死んでしまうほどの威力へと変わっていた。
それをどうにか避ける、余波だけでもダメージを受けてしまう。
「やがて彼は私の闇に取り込まれるだろう。そして、死ぬ!」
「キラは殺させない!絶対に殺させるもんか!」
『Haken Slash.』
フェイトの鎌がプロヴィデンスの肩を傷つけるが、硬いためダメージになっていない。
必死にクルーゼを見つめるフェイトの目には涙があった。
「いくで、リイン!」
「はいです!」
「「ユニゾン・イン!」」
はやてとリインⅡはユニゾンし、シュベルトクロイツをクルーゼへと向け魔方陣を展開する。
「感度良好、私とリインの相性はばっちりみたいやな」
(当然です、マイスターはやて)
「じゃあ、キラ君助けにいこうか!」
(はいです!)
はやては怒るでも泣くでもなく笑っていた。気持ちで負けぬように。
自分たちの周りを飛ぶドラグーン1つにシュベルトクロイツを向ける。はやての魔方陣が淡く光る。
「穿て!ブラッディダガー!」
一瞬にしてドラグーンの周りに血の色の短剣が現れ、それが直撃し爆発する。
さすがにこの攻撃は耐えられないのかドラグーンの1つが破壊される。
「彼はもう死ぬというのに何を必死に戦うというのだ」
クルーゼには考えは分かるが、理解は出来なかった。

 

「キラは主はやてをそして私でさえ助けてくれた。次は私がお前の闇から助ける番だ」

 

「あいつは弱いからな、はやてと一緒であたしらが守ってやらないといけねぇんだ!」

 

「私たちはキラを守ると誓った。騎士は誓いを違えることはしない!」

 

「そして、キラ君は私たちの大切な仲間だから!」

 

「それが我らの戦う理由だ!」

 

「「「「「我らヴォルケンリッターは友との誓いを破りはしない!」」」」」

 

リインフォース、ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラはそう言ってプロヴィデンアスに向かっていく。
「よし、彼らにドラグーンの相手をしてもらう。その内に本体を僕らが叩く!」
クロノの言葉になのはたちは強く頷いた。全員が戦っている命を懸けてキラを助けるために。
「ふん、理解できんな!」
「それはあなたが1人ぼっちだったから!」
「そうだ、私は1人だ!だが、それの何が悪い!」
「1人じゃ出来ないことがある、私はそれをなのはとキラに教えてもらった!」
「あなたにだっていつか理解できるはずだ!そして、あなたを助けてくれる人が現れる!」
「そんなものいらぬさ!私が欲しいのは世界の終わりだけだ!」
「クルーゼさん・・・・・あなたは・・・・」
(この人も被害者なんだ)
自分の意志とは関係なく生み出され、失敗作と言われながら命が短いことに恐怖した。
そんな世界を、人を、彼は憎むことしかなくなった。
憎むことでしか己の存在意義が確かめられなくなった、可哀相な人。
そう考えるが、フェイトはバルディッシュを構える手の力を強める。
だからといってこんなことをして良いわけじゃない。
「もうすぐ最後の扉が開く!私が開く!そしてこの世界は終わる!」
「そんなこと絶対にさせない!」
そう言ってフェイトたちは魔方陣を展開させた。

 

(みん・・・・な?)
そこにはクルーゼと必死に戦う全員の姿があった。
しかし、その力の差は圧倒的だった。全員が傷つきながらも倒れようとせず、クルーゼと戦っている。
(何故ここまでして戦うんだろう)
キラは何故かそんな疑問が浮かんできてしまっていた。
クルーゼの闇を垣間見たキラには何がなのはたちを勝ち目の全くない戦いに駆り立てるのか分からなくなっていた。

 

『私は魔法を使って皆を助けたい。そんな私をキラくんは一緒に戦ってくれた。守ってくれた。
 悲しいときに励ましてくれた大事な友達なの・・・・・だから、返して!』

 

『キラに教えてもらった・・・・・友達が、大事な人が傷つくのは悲しいことだって!
 だから、私はキラを・・・・・キラを助けなくちゃいけないんだ!』

 

『私はキラ君に助けてもらった・・・・・でも、これは借りを返すとかそんなんやない!
 助けたいから、助けるんや!いくで、リイン!』

 

3人の言葉がキラはハッと我に返る。
クルーゼはそんな3人を嘲笑うように攻撃をしている。
絶望的な戦い、帰ってこないかもしれない友達。
それを意識するたびに全員の顔から悲しみの色が濃くなっていく。
どれだけの魔法を使い、反撃に苦しんでもなのはたちはクルーゼへと向かっていく。
自分が戻ってくる確証もないのに戦い続けている。

 

『『『私たちは友達だから!!』』』

 

大切な友達を取り戻す・・・・・ただそれだけのために・・・・・・。
「・・・・・・フリーダム・・・・セットアップ」
『All・・・rig・・・ht. Drive・・・・ig・・・・nition.』
白いバリアジャケットと蒼い翼が現れる。
それだけで闇に取り込まれそうな圧力に屈してしまいそうになる。
そのまま魔力刃を取り出す。その刃の光は弱々しく光るほどしかなかった。

 

「確かに今の僕じゃクルーゼを倒すほどの力はないかもしれない」

 

クルーゼの闇に抗うだけで全身の力が持っていかれそうになる。
それでも歯を食いしばり、魔力刃へと魔力を注ぎ込む。

 

「僕の力は・・・・・まだ残ってる。残っているんだ!」

 

闇を切り裂くように蒼い光が線を作る。
しかし、そこには何もない・・・・・・ただの闇。
クルーゼの闇がさらに自分の力を奪っていくのが分かる。

 

「僕だって・・・・・みんなの友達なんだ!だから、助けたいんだ!」

 

手に持った魔力刃の蒼はクルーゼの闇にキラの力が奪われようとも輝きを失わない。
それどころかキラがそれを振るう度に輝き始める。

 

「みんなが僕を助けようとしてくれるなら、僕はみんなを助ける!戦い続ける!」

 

外にいる3人の声とキラの声が重なる。

 

「『『『だから、負けない!!』』』」

 

その瞬間、キラを眩い光が包み込んだ。

 

(プレシア・・・・・テスタロッサ?)
その光の中心にはプレシアだった。キラは彼女が自分の前に現れたことに驚いてしまう。
プレシアはそんなキラに微笑んだ。それはキラが見たことない表情だった。
それと同時にキラを襲っていた闇の力を感じなかった。
(あなたは負けないわ)
(え?)
(あの子たちが・・・・フェイトたちがいるわ)
(・・・・・)
キラはそれにゆっくりと頷いた。体の中がとても温かくなってきた。
(あなたに頼みがあるの)
そう言ってプレシアは後ろに隠れていたアリシアをキラの前に立たせた。
(アリシアをお願い、私はもう無理だから)
(母様)
アリシアは泣きそうになりながらプレシアを見上げる。プレシアは優しく笑いながらアリシアの頭を撫でた。
そして、アリシアの手をキラの手に重ねさせる。
(あなたは生きて、私の分まで幸せになりなさい)
(母様!)
アリシアがプレシアの元へと行こうとしたが、キラは手を離さなかった。
(あなたには色々と迷惑をかけてしまって、ごめんなさいね)
(そんな・・・・)
キラは思った。これが本来のプレシアの姿だったのだろう。
(お願いできる立場じゃないのだけどアリシアを・・・・・・そして)
プレシアは微笑みながらも目には一筋の涙が流れていた。
(あの子に・・・・・フェイトにごめんね・・・と)
(はい・・・・伝えます、必ず!)
しっかりと頷くキラ。キラにしがみついて泣きじゃくるアリシア。それを見てプレシアは優しく微笑んでいた。
「いくよ、アリシアちゃん」
キラはそう言って右手の魔力刃を強く握る。
『Load Cartridge.』
フリーダムの両翼からカートリッジが2発ずつ消費される。両翼と魔力刃の輝きが増していく。
キラはアリシアを見る。彼女はもう泣かず、キラにしっかりと頷き返してきた。
それを見てキラは後ろの闇へと向かい合う。アリシアとしっかり手を繋ぐ。
「帰るんだ、皆のところへ」
蒼く輝き続ける魔力刃を大きく振りかぶる。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
蒼の一線が闇を・・・・・・切り裂いた。