リリカルSEED運命_プロローグ

Last-modified: 2007-11-17 (土) 18:17:03

力だけが、僕の全てじゃない!!

間違いなく僕の本音だ…った。

でも…僕は…結局のところ最後はいつも力で押し切ってしまっていたのかもしれない。

それを見抜いていたのだろうか?

サーベルの光に消えて行くあの人は…仮面の奥で、笑っていた…

その笑みはどんな攻撃よりも言葉よりも強く突き刺さった。

そうやって力に頼りきりだった僕の脆いココロは、そこで悲鳴を上げた。

アレから二年…

あの痛みは消えたわけじゃないけど、

求めていた答えが見つかったわけじゃないけど、

ただずっと立ち止まっているわけにはいかないから!

目の前に居るのは、かつてその彼が乗っていたのと酷似するMS。

そして…何をどうしたのか判らないけど、その中に感じるイメージもまた彼によく似ていて。

…メンデル、クローン、スーパーコーディネイター…

そんな言葉ばかりが蘇る。痛みとともに。

でも、ここでまたふさぎこむわけには行かないんだ!

今はまだ小さくてもいいから、いい加減に覚悟を決めろキラ・ヤマト!

過ちをもう繰り返さないために!

そして僕は自由の剣を抜き放つ―

力がないのが悔しかった。

父さん、母さん、マユ、ステラ…

俺はそのために全てを失ったのだから。

だから俺はこのデスティニーで、この力で、今度こそ運命を掴み取ってやる!!

今、目の前にはインフィニティット・ジャスティス…裏切り者のアスラン・ザラが立ち塞がる。

どんなに罵詈雑言を浴びせても許せない相手だが…パイロットとしてのその腕だけは確かだ。
操るジャスティスも超がつく高性能機、機体性能は…おそらく五分五分。
…悔しいが、腕前では向こうが上手。だから正直言って、状況は不利だ。
だからって! 負けるわけにも諦めるわけにも行かないんだよっ!!! 俺はぁッ!!
しかし、このままで行けばおそらく負ける…感情はともかく、脳の奥での警鐘はそう告げている。
なんとかしなければ…だがどうやって?

対艦用でもある大型剣・アロンダイトではこの機動力のあるジャスティスを捉えるのは不可能だ。
大降りで出来る隙をカウンターで狙われて…ジ・エンド。
ビームシ-ルドに対して通常の射撃では効果は薄く、背中の高エネルギー砲は構える暇がない上に相手を捉え切れないだろう。
PS装甲にCIWSは効かない。
このジャスティスとは本当に相性が悪い。
愛機であるデスティニーを咎めるつもりはないが、無意識に舌打ちが出た。
残された武器はビームブーメランと、腕の隠しビーム砲であるパルマ・フィオキーナ。
しかしこれも、ただ繰り出すだけでは当たるはずがない。

「…コイツに勝つには…一瞬の勝機に賭けるしかない!!」

そして俺は、勝負手にパルマ・フィオキーナを選んだ。
近距離で確実にぶち当てるように、ブーメランをフェイクにして隙を作ろうとデスティニーの腕を振るい――

頭に一瞬走った閃きに――無意識に俺の腕が応え――

光の刃は宙に踊った。

――その閃きは、全てを変える運命の輝きだった――

「シン!」
勝負を賭けてデスティニーが投擲したビームブーメラン。
…しかしアスラン・ザラはそれを待っていた。
―足のビームブレイドでブーメランを蹴り返し、それにより生まれた隙でデスティニーを機能停止させる―
それが彼の描いたシナリオ。

だが、幾人かの手によって改変されたシナリオ決定稿に、彼の記したページは存在しなかった。
これを、人は運命のいたずらと呼ぶのだろうか。

ジャスティスめがけて一直線に向かってくる光の刃は、目標に当たる直前-手前でUターンを開始!
それはジャスティスの振り上げた足の外側で。
「なんだと!!」
アスランがそう叫んだとき、すでにジャスティスの足は空を切っていた。

その最初で最後とも言える僅かなミスを、シン・アスカは見逃さなかった。
追撃で放ったビームが脚部を打ち抜き、破損したジャスティスのバランスはさらに崩れる。

「ここだぁ!!」
戻ってきたブーメランをショートサーベルとして左手で振るい、右はパルマを起動!
持ち前の加速力を最大限に生かし、赤い翼を閃かせてデスティニーはジャスティスに迫る!

二機は刹那交差し―位置を入れ替えて再び距離をとる。ただし背中を向けたままで。

「クソっ!」
コクピット内に響くアラート。アスランはモニターを走るダメージ表記を覗き込んで言葉に詰まる。
『頭部破損、右腕欠損、右脚大破』
爆発の危険性はないものの、戦闘続行は正直不可能に近い。
武器やシールドはまだ健在だが、この状況でデスティニーとの戦闘はまず無理だ。
さらにこの体勢では離脱できるかも疑問だ。
「どうする!?」

―左腕のビームシールド発生器に損傷、右肩のブーメラン損失。
横目でデスティニーのダメージを確認してシンはすぐに向き直る。
正面に映るのは、頭部と四肢の半分を失ったジャスティス。
「俺の勝ちだな! アスラン・ザラ!!」
―レジェ…ド大…フリーダムが…メサ…―
それは止めを刺すべくライフルを構えたときに耳に届いた、味方の回線。
「レイ!? フリーダム!!」
―レイがやられた?
―フリーダムに?
―メサイヤが狙われている?
これでも軍人の端くれであることをまだ心のどこかに残していたのか、シンはすぐに行動を起こしていた。
中破したジャスティスに最後の一撃を放ち、メサイアへと向かうべくデスティニーを飛び立たせた。

「…シン」
通信を繋いでいるはずもないので、アスランの呟きはシンの耳には届かない。
―デスティニーが最後に放ったビームはジャスティスの左足を打ち抜いただけ―
…何故撃破を確認しない?
…それとも最初からこうするつもりだったのか?
解なき答えを探しながら、アスランを乗せたジャスティスは宇宙を流れていく…

自分に向かってくるビームを察知して、咄嗟に機体に制動をかけるように回避行動を取るキラ。
だがそのおかげでここまでの加速は失われる。
「あれは!?」
「フリーダム!!」
メサイアを目前にした時に、キラのストライク・フリーダムはシンのデスティニーの迎撃を受けた。
デスティニーのライフルをシールドで防ぎまたはかわし、フリーダムもまた反撃でビームを放つが、
まるでその射線を読んでいるかのようにデスティニーは回避する。
「アスランは倒した! 後はお前だけだ、フリーダムっ!!!」
「邪魔をしないでくれ! 僕を行かせてくれ!!」

赤い翼と青い翼が漆黒の宇宙で幾度も交差。
射撃が決定打にならないと見たのか、お互いに近接武装のサーベルを振り抜いている。
思い返せばこの二人の戦いは基本的に、サーベルの距離…クロスレンジがゴールだった。
操縦技術が高いキラ、高い性能を持つフリーダムだったが、総合能力を見れば近接攻撃能力はそれほど高くない。
基本的にフリーダムは砲撃型のMSなのだ。
対したインパルスは装備換装型の汎用MS。
回避能力の高い砲撃型に勝つには懐に飛び込むのが最も効果的なのは自明の理。
しかしフリーダムの性能とキラの操縦技能は、並みの相手ならサーベルでも相手を戦闘不能にすることなど容易いのだが。
かつてインパルスと無印のフリーダムで幾度となくぶつかり合った二人。
ファーストコンタクトはキラの圧勝。シンは、まるで戦闘員Aの扱いのごとく一蹴された。
しかしセカンドコンタクトで、シンは驚くほどの猛追を見せた。
一度目には気づくまもなく一瞬で右腕を奪われた攻撃を回避し、反撃までしてみせたのだ。

地球には、『二度あることは三度ある』という言葉と、それと真っ向から対立する『三度目の正直』という言葉がある。

三度目、自由の翼はその全身を破壊の衝撃で打ち砕かれた。
あの時、気まぐれな女神は後者を選択した。

先日のオーブ戦は互いに新型に機種転換後の初ファイトで、結果としては水入りの引き分け。
そして、この通産五度目のぶつかり合いは、お互いの全てを賭けた最終戦になる―はずだった。

戦場に散る情報の全てが介されているだろう、メサイアの司令室。
両軍のフラッグシップMSが激しい戦いを繰り広げるその光景を、どこまでも冷ややかな視線で見つめるものが居た。
ザフトの白服によく似た衣装を纏い、優雅に佇んでいる。
「…結局は少々先延ばしになっただけでしかない、か」
呟きではなくはっきりとした肉声であるのだが、誰もその戦闘中に似つかわしくない言葉を発している彼に気づくことはない。
「私が手を下すまでもなく勝手に滅びの階段を駆け上がってくれるとは、まったくご苦労なことだよ」
それははっきりとした嘲笑でしかなく、そして完全な悪意に満ちていた。
しかしそれでも、彼の発した声は誰にも届かない。

なぜなら―
彼は死者であるべき人物だから。

彼の周りに生きた人間は存在しないから。

周囲に犇いている血の匂いに気を止めることもなく、彼は一人語り続ける。

「しかし、血の涙を流すMSとは…いくらか粋のあるモノもザフトにはいたわけか」
画面に映るフリーダムの発展型のパイロットは考えるまでもなくわかる。
だから今更何も感じることはない。
全て2年前に、それこそ根こそぎ叩きつけてやったのだから。
自分が今ここに居るのは、それ以外に遣り残したことを完遂するために過ぎない。
そんな彼の興味はその新型フリーダムとサシでやりっあている赤いMSに注がれていた。
「だが、君には感謝しているよ」
そのMSのおかげで、彼は間に合ったのだから。

「だが、幕引きは私の手で、とさせて頂こう。コレばかりは誰にも譲る気はないのでな」

ニヤリと口先で笑いながら周囲で一番物々しいコンソールへと歩み寄り、同時に懐から小さな端末を取り出す。

「…今の私にはこの世界の誰にもない『力』があるが…」

そう、彼はその『力』を使い、たった一人でこのメサイアともう一箇所を制圧しているのだ。

「このセレモニーを締めくくるのにもっとも相応しいのは、やはりこの世界の人間が自ら作り出したものだろう」

今も激戦を繰り広げる2機も、全て自分の演出する舞台の上に居ることを確認した直後、司令室に彼の高笑いがどこまでも響いた。

「全てはその終焉の為に …ジェネシスよ、私は帰ってきた!」

コンソールにある赤いボタンと、手にした機械のエンターキーを同時に押し込む。

全てを包む輝きが、開放された―

「何だ!?」
「何!?」
幾度となくぶつかり続けた二機が、最後の一撃を繰り出そうとしたその瞬間――

――二人の視界全ては、眩いばかりの閃光に包まれた。

その光にゆっくりと自分の全てが溶かされていくのを感じている中、

キラはかつて聞いた事のあるその笑い声に嫌悪と悪寒を思い出して震え、
同じ声を聞いたシンは、親友によく似た声色で世界の全てを壊して歓喜しているような声に背筋が底冷えした。

けれど最後に耳に届いた声はまた異なって…

二人はどこか穏やかな気持ちで意識を手放した―

月面のあるクレーターから放たれた輝きと、
ザフト移動要塞から放たれた輝きは、

戦場にある全てを巻き込みながら、

宇宙にある、青い水の星に突き刺さった。

今ここに、ひとつの幕は下りた。
しかしまた、新しい幕は上がる。
二転三転する運命の歯車はまだ最初のギアをかみ合わせたばかりであることを、誰も知らない。

運命は、まだ目覚めていない。