レイジング_第01話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 19:00:10

 最初は何が起きたか分からなかった。
 見たこともない部屋にいて、手足の感覚もなかった。
 動こうとしたら視界がぐるりと回り、自分がどこか高いところから落ちた感覚と共に全身に奔る衝撃。
 痛みは無かったが、訳が分からなかった。
 俺のおかれた状況を考えていると、視界の端で巨大な毛布がもぞもぞと動き出したのだ。
 俺は驚き、そして身構えたが、巨大な何者かはこちらの事などお構い無しにその姿を曝け出した。
 それは、いや、彼女は巨大な少女だった。
 恐らく可愛らしい容姿なのだろうが、如何せんサイズがでかい。
 そんな少女が笑顔でこちらに迫ってくる恐怖が分かるだろうか?
 物凄くシュールな怖さがあった。
「おはよう、レイジングハートってあれ?何で落ちてるんだろう?」
 何故か挨拶をされた。そして名前を間違えられた。
「……何なんだよ、お前は?」
 ついいつもの調子で言ってしまった。
「え?どうしたの、レイジングハート」
 少女の声色が変わった。
 まずい、何かに触れてしまったのだろうか?
「レイジングハート?」
「……」
 仕方が無いので無言を貫き通すことにした。
「うーん、どうしたんだろう?」
 巨大少女は首を捻りながら、こちらに背を向け箪笥へと向かった。
 そして巨大少女は服を取り出し、俺はそれをどうするのかと考えていたら、何と巨大少女は着ていたパジャマを脱ぎだしたのだ。
「おおい!」
 思わず大声を上げてしまった。
「へ!?」
 素っ頓狂な声を上げて少女が振り向いた。
 すると、体に隠されていた上半身前面の部分の下着が曝されることになった。
 可愛らしい桃色の下着だった。
「……うーん、人の気配はないし……うーん?」
 巨大少女は納得できない顔をしながらも着替えと戻った。

 そしてオープンされるあられもない姿。
 小学生ぐらいとはいえ、女性の下着姿を覗き見ることなど言語道断。
 俺はすぐさま薄目になった。
 視界はぼやけて巨大少女の姿も霞んだ。
 そして、こちらの方がドキドキした。
 巨大でもこういうことは関係ないのだろうか、などとくだらないことを考えている間に巨大少女は着替え終え、再びこちらに歩いて来る。
「じゃあ、行こうか」
 そう言い、俺を摘み上げる。
 内心恐慌状態だったが、これ以上不振に思われてはいけないと必死に我慢する。
 巨大少女はこれまた巨大な鏡の前に行き、自分の姿を映し見る。
 そして、俺はそれを見て絶句した。
「何なんだこれは!?」
 突然の大声に巨大少女も目を丸くしているが、今の俺にはそんなことは気にならなかった。
 とても信じられないことだが、俺の姿はどう見ても丸くて赤い石だった。
「そんな馬鹿な」
 俺はあまりの驚きに呆然としていたが、巨大少女の視線に気付き、意識をそちらへと向ける。
「……えっと、レイジングハート?」
「……いや、その」
 今や巨大少女の顔は不審一色に染まっていた。
「はじめまして?」
「…………」
 俺の渾身の挨拶も無視した巨大少女は、思案に明け暮れている真っ最中だ。
「大変、壊れちゃったのかなぁ」
「……そうかもしれないな」
 そう、こんな世界、壊れている。
「うーん、フェイトちゃんかはやてちゃん達に相談するしかないかなぁ」
 困り果てた様子の巨大少女は、携帯を取り出し何かを打ち込んでいる。
 俺は視線を窓へと向けると、まだ陽が昇りきっていない空を見る。
「何なんだこれは……」
 あまりにあり得ない状況に、不安、焦燥、その他諸々を感じながら俺はため息をついた。
「これからどうなるんだよ」
 この時、俺はまだこの先に待ち受けるいろいろな騒動の事など知る由もなかった。