いつものあのステージ衣装にエプロンという、いささか異様な格好でキッチンに立つミーア。
それを不安そうに見守るシン。
シ「……ホントに大丈夫なのか、ミーア?」
ミ「バカにしないでよ。料理ぐらい余裕よ、余裕!」
シ「ぐらいって……ミーア、料理したことあるのか?」
ミ「無いわよ」
シ(……無いクセにどうして『余裕』なんだよ)
シンの内心も知らず、早速包丁で材料を切り始めるミーアだが、その手つきは危なっかしいの一言。
ミ「んぐっ……くく……っ……このぉっ!」
シ「ちょ、ちょっとミーア……」
ミ「今話し掛けないでっ!」
シ「……はい」
普段の甘い声からは想像もつかないミーアの厳しい声に、アッサリと引き下がるシン。
『切る』というよりも『砕く』といったほうがいいミーアの包丁さばきに、食材は原型を留めないまでに
なっていた。
シ「あっ、そんなに力を入れたらあぶな……」
ミ「っ!」
シンの不安は的中し、案の定、指を切ってしまうミーア。
ミ「いったぁ~……」
シ「何やってんだよ、バカッ! ほらっ、見せてみろって!」
焦ったシンはミーアの手を取ると、咄嗟に傷口を口に含む。
ミ「あ……」
シ「……」
突然のことに、呆気に取られるミーア。
自分の指を包む感触とシンの真剣な表情に、頬が微かに赤く染まる。
シ「……ん、もう血、止まったかな?」
ミ「う、うん……」
シ「慣れないことすんなよ、ったく……」
ミ「だってぇ……」
シ「ほら、あとは俺がやるから」
ミ「え?」
そういうと、シンがエプロンを身につける。
ザフトの赤服にエプロンという、これまたおかしな格好のシンは意外にも馴れた手つきで材料を
切り始める。
「うわぁ……」
「何だよ『うわぁ』って」
「だって、シンって料理するようなタイプに見えなかったから」
「ウチは両親とも働いてたから、妹に食べさせるためにも料理ぐらいはできなきゃダメだったんだよ」
「へぇ、そうだったんだ」
話しながらもシンの手は止まることはなく、料理は次第に完成していく。
「……よし、出来た!」
「さぁ、食べてみてくれよ」
シンの作った料理はごくありふれたビーフシチューだった。
『いただきます』と行儀よくお辞儀をすると、シンの料理を口に運ぶミーア。
「……!」
「どう?」
「美味しい……」
「だろ? 元が市販品でも一手間かけると結構違うんだぜ」
得意そうな笑顔を見せるシン。
一方のミーアは手にスプーンを握り締めたまま、複雑そうな表情を浮かべている。
「うぅ~……」
「? どうしたんだよ?」
「だって、シンがこんなに美味しいお料理出来るなんてぇ……」
「何だよ、それ。まるで俺が料理できちゃいけないみたいじゃないか」
「……だってだって、ホントは私がお料理してシンに食べさせてあげるつもりだったのにぃ……」
「あ……」
ようやくミーアの真意を悟ったシンは、いささか慌てながら彼女を慰める。
「そ、それはさ、もっと練習してからでいいよ、うん」
「でも……私、練習なんてしてる時間、無いし」
「う……だ、だったらさ、今度時間が出来たら俺が教えてあげるよ、料理」
「ホントッ!?」
「ああ」
ようやく晴れやかな顔をするミーアに、シンも胸を撫で下ろす。
「ねぇ、シン……」
「もう一つ、お願いしていい……?」
「ん? 何?」
そう尋ねるシンに、恥ずかしそうに空になった皿を差し出すミーア。
「おかわり……」
「はいはい」
クスリと笑って皿を受け取ると、さっきよりも多めによそってやるシンだった。
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