勇敢_第25話

Last-modified: 2008-09-03 (水) 15:03:13

・アッシュがカナード達のもとに現われる数十分前

 

「・・そこを・・・・左よ」
背中に背負っているクアットロの指示に、スバルは頷いたあと後ろを向き、
後方からバイクに乗ってついて来るティアナに大声で伝える。
「ティア~!!!この先の十字路を左ね~!!!」
「りょうか~い!!!なのはさんにヴィヴィオ、スピードは落とさずに曲がりますから、しっかり捕まっていてください」
「了解。ヴィヴィオ、落ちないようにママにしっかりつかまってね」
右腕でティアナの腰を抱えるように掴み、左腕でヴィヴィオを抱きしめる様に抱えるなのはに、
ヴィヴィオははっきりと頷いた後、彼女のバリアジャケットを力強く握り締めた。

 

なのは達の救出にゆりかご内部へ突入したスバルとティアナ、途中現われるガジェットやキューブ型の防衛装置という邪魔が入ったが、
それらを破壊し、順調に突き進む事が出来た。途中AMFの濃度が極端に濃くはなったが、戦闘機人モードのスバルが先行することで対応、
結果、それほど時間をかけずに聖王の間へとたどり着く事ができた。
到着した当初は、破壊しつくされた聖王の間、血の海に沈んでいるソキウス、負傷したはのはとクアットロの姿に
スバルは目に見えて慌てたが、ティアナは冷静に対処。先ずは慌てるスバルの頭を遠慮なく叩き無理矢理落ち着かせ、
周囲の警戒をしてもらうように頼む。
その間に、血だまりに沈んでいるソキウスの生死やなのは達の具合を見た後、簡潔に現状を聞く。そして
「・・・・スバル、なのはさんたちを連れて脱出、分かった?」
警戒を続けているスバルの元まで近づき、ティアナはなのは達を連れ脱出することを伝えた。
だが、このティアナの提案にスバルは納得がいかなかった。
「えっ・・・・でも、ヴィータ副隊長は!?ディエチって子もいるんでしょ!?それなのに・・・・」
「・・・・・あんたの気持ちもわかる。だけどね、なのはさん達の状態・・・・・かなりまずいわ。
なのはさんは大幅な魔力と体力の消費、彼方此方打撲だらけで肋骨も折れてる。特に右腕が酷いわ。
折れてはいないけどヒビだらけ・・・・・」
顔を顰めながら報告をするティアナ。その内容にスバルはただ唖然とする。確かに彼女から見ても、なのはは目に見えて疲労していた。
だが、彼女が感じたのはそれだけ。とても骨が折れてる程の怪我を負っているとは思えなかった。
「あの戦闘機人・・・・クアットロに関してもそうよ。怪我は背中だけだけど・・・その傷が半端じゃないわ。正直
戦闘機人でなければ死んでいたかもしれない。ヴィヴィオは異常は無いみたいだけれど・・・・・なのはさんの話を聞く限り
直にでも検査をしてもらったほうが良い・・・・だからね、スバル」
ティアナは拳を握り締め俯くスバルの胸を軽く打つ。
ビックリしたスバルが顔をあげると、其処にはいつも通りのティアナの表情が、仲間を思い、信頼する時に見せる笑顔があった。
「だからね、先ずは超特急でなのはさん達をゆりかごの外にいる局員に預ける、その後はまた超特急で二人の救出。
忙しくなるわよ・・・・・・・だけどね、私達になら必ず出来る・・・そう思わない?」
「ティア・・・・・・うん!!出来る!!私達なら・・・絶対に!!!」
「その意気よ、それじゃ、早速行動開始!!」

 

即座になのは達を外にいる局員に預けるため、彼女達は一目散に突入口へと突き進む。
幸い、ガジェットやキューブ型の自動防衛装置には出くわさなかった。
「よし、これなら・・・・・」
スバルは快調に進める事に顔を綻ばせ、つい鼻歌を口ずさむが、ティアナは彼女のような気分にはなれなかった。
「(・・・・おかしい・・・・・迎撃が無さ過ぎる・・・・・)」
なのは達の元へ向かう時に現われたガジェットや防衛装置、当然出くわすと思っていたのだが、
不思議と全く現れない事にティアナは不審感を募らせる。
今進んでいる道はクアットロが案内してくれている『一番防衛装置が少ない』ルート。だが、
『防衛装置が少ない』であり『迎撃が全く無い』とは違う。明らかに可笑しい。

 

そしてその不安は、直に現実の物となった。

 

「っ!!避けなさい!!」
突然のクアットロの叫びに、スバルは驚き何事かと聞こうとする。だがそれも一瞬、彼女は直にクアットロの声の意味を理解した。
もし普段の彼女だったら、クアットロの言葉の意味を理解できず、聞き返していただろう。
だが、今の彼女はAMF内での戦闘を考慮した戦闘機人モード、視覚に関しても通常以上の機能が備わっている。
その中の望遠機能とエネルギー探知機能が危険を感じ自然と発動、数十メートル先から迫り来る高エネルギー反応を彼女は感知した。
「(っ!!魔法じゃない・・・純粋なエネルギー兵器!!?)」
それなら自分達を含め、ティアナ達が感知できなかった事にも納得がいく。
戦闘機人が使うようなエネルギー攻撃は、魔力と違って魔力を全く使用しない。だからこそ機械や目視でもない限り察知する事はできない。
「(でも、まだよけられ・・・・・・っ、駄目だ!!)」
軸戦場の前にいる自分に着弾するのにはまだ数秒の余裕がある、避ける事は造作もない・・・・自分達だけなら。
「(ティア達が避けられない!!)」
今から声をかけても、自由があまり聞かない上に、かなりのスピードを出してるバイクに乗っているティア達が回避できる可能性はかなり低い。
防御をしようにも、濃密なAMF空間では満足な防御魔法も張れない筈。重傷を負っているなのはさんなら尚更。なら方法は一つ
「私が・・・防ぐしかない!!!」
計測からするに、自分が防御魔法を張っても完全に防げる可能性はほぼゼロ。なら攻撃には攻撃、彼女は直に実行に移す。
「悪いけど・・・・しっかりつかまってて・・・・・・」
クアットロに忠告した後、彼女はリボルバーナックルのカートリッジをフルロード、スピナーを激しく回転させ、拳を引く。
「(・・・・・・成程、防御が無理なら攻撃で相殺・・・・振動破砕でエネルギーを拡散させるつもりね・・・・無茶をする・・・・)」
内心『馬鹿なこと』と馬鹿にしてやろうと思ったが、後ろにいる3人を守るためにはこの方法しかないこと直に理解したクアットロは
黙ってスバルの体にしがみ付く。そして
「っ!!!攻撃!!?」
「スバル!!」
なのは達が迫り来るエネルギー砲の存在に築いた直後、
「振動・・・破砕!!!」
スバルは自身の拳を、エネルギー砲に殴りつけるようにして叩き込んだ。
激しい爆音が響き渡り、衝撃波がティアナ達を襲う。
「っ!あの馬鹿!!!」
悪態をつきながらもバランスを取りながらバイクを急停車させたティアナは、駆け足でスバルの元へと向かう。
スバルの様子からするに、彼女はエネルギー砲の存在に気付いていたはず。その証拠に、
自分達がエネルギー砲を目視で確認できた時には彼女は振動破砕を使える体制になっていた。
十中八九、避ける事ができない私達の為に攻撃を相殺したのだろう。
正直文句は言えない。確かにバイクに・・・・・しかも3人で乗っている上にかなりのスピードを出していた以上、避ける事は難しい。
防御も、このAMF空間では満足に出来ない。
「・・・くっ・・・スバル!!!無事!!!?」
悔しさに歯を食いしばりならも、スバルの名を呼びながら爆煙に包まれてる空間へと足を踏み入れる。すると
「はは・・・・・ティア~大丈夫~!!?」
近くから聞こえてくるいつもの声に、ティアナは心からホッとし、声がする方へと近づく。
其処にはクアットロを背負ったスバルが、『左手』を振り、いつもの笑みでティアナを迎えた。
「・・・・ふう、まったく、な・・・に・・・・・・・」
『何無茶してるの!?』ティアナはそう言い放とうとした。だが、彼女の右腕を見た瞬間、ティアナは言葉を詰まらせる。
何事も無く、いつも通りの笑顔を向けるスバル、だが、
彼女の腕は、人差し指と中指が無く、残りの指は機械フレームと筋肉組織がむき出しになっており、その周りを赤い血がコーティングしている。
母親の形見であるリボルバーナックルもスピナーが弾け飛んでおり、一目で使い物にならないと、直にわかった。

 

「・・・・・・ああ・・・・大丈夫、痛覚は遮断してるから・・・・」
「何が大丈夫よ馬鹿!!!こんなに・・・・(言い争いをしている暇はないわよ」
クアットロの声に二人は一瞬唖然とするも、直に反応。スバルは戦闘機人特有のアイカメラで周囲を索敵する。
「・・・・まずいな・・・・・前方と後方からガジェット・・・・・あと、前方から対人反応が二つ・・・・・」
彼女の説明を証明するかのように、ガジェットの足音が徐々に彼女達の耳に響き渡る。そして
「・・・・・・対象確認・・・・・・」
「・・・・・聖王と高町なのは以外は抹殺・・・・・二人に関しては死体でも構いとのこと・・・・・・」
前方から迫るガジェットⅣ型を先導するように、二つのランチャーを接合させた超高インパルス長射程狙撃ライフル
を構えたナイン・ソキウスと、両腕に魔力で形勢されたサーベルを構えたシックスティーン・ソキウスが
アッシュから与えられた任務を全うするため、近づいてきた。

 

「・・・・まずいな・・・・」
スバル達と同じ、戦闘機人特有の望遠機能で数十メートル先の様子を捉えたディエチは、目的であったなのは達を見つける。
だがガジェットに囲まれてるという、どう見ても無事ではい状態に、焦りと不安が入り混じった表情で呟く。
その呟きは、近くでヴィータを担いで飛んでいるプレア達にも聞こえたため、二人がこちらを振り向くと同時に、
簡潔に現状を報告した。
「ちっ、やべぇな・・・・」
この先は直線、だが目視で確認できない以上、数百メートルは離れている。
もし、自分がフルに魔法を使う事が出来たら、その程度の距離は問題ない。だが、今ゆりかご内部は今までとは桁違いのAMFが展開されているし
動力路の破壊で自分も体力、魔力共に消耗している。
正直、肉体強化や攻撃などの基礎的な魔法を使うので精一杯であり、飛行魔法で飛んでいく事はかなり難しい。
だが、そのハンデを背負うのは自分だけ、
「プレア!頼めるか!?」

 

この高濃度のAMF空間内でも、プレアは通常通りに魔法を使う事が出来た。
なんでも、装備してるデバイス『ガンバレルダガー』を含んだ『ダガー系』の効果らしい。
その効果を聞いたときは自分は勿論、ディエチさえ耳を疑った。
AMFを完全に無効できるデバイスや装置など、管理局は無論、スカリエッティでさえ、デバイスサイズまで小型化した物の製作は出来ていないからだ。
正直、出所が気になる品だが、今はそんな事を気にする余裕は無い。

 

「・・・・アタシらは、後から行く・・・・・・なのは達を・・・・助けてくれ」
悔しかった・・・・・今すぐになのは達の元へ向かえ、何のハンデもなく戦う事が出来るのはプレアだけ。
ディエチの報告から、なのはは達はロクな応戦も出来ずに追い詰めれられてると聞く。
スバル達ならまだしも、なのはだったらこのAMF空間でも得意の砲撃を撃てる筈。それが出来ないとなると、考えられる可能性は限られてくる。

 

『魔力が底をついたのか』『攻撃を出来ないほど傷ついてるのか』『もしくはその両方か』

 

そうなれば事態は一刻を争う。あのガジェットは非殺傷設定なんて優しい装備を施してはいない。
ヴィータはもう見たくは無かった。血まみれになりながらも、自分を安心させるために無理矢理作った笑顔を向けるなのはを。
ヴィータは見たくは無かった。あの鎌でズタズタにされるスバル達の姿を。

 

だが、自分はそんな中にプレア一人を突っ込ませようとしている。
「・・・畜生・・・なんでだよ・・・・・」
情けなかった・・・・プレアに任せることしか出来ない自分が。
プレアだけに行かせる自分が。なのはを守ると誓ったのに何も出来ない自分が。
うな垂れ、悔しさを紛らわせるために拳を血が出るほど握り締める。

 

「・・・ヴィータちゃん・・・・」
後ろから聞こえる優しい声。自然と頭を後ろへと向ける。
「僕なら大丈夫、かならずなのはちゃん達を助ける・・・だからさ・・・・こう・・・『いってこい!!』とか
『殲滅させて来い!!』とか、言ってくれると・・・・・やる気が出るかな?ヴィータちゃん得意そうだし」
笑顔でそんな事を言うプレアに、ヴィータは一瞬言葉を詰まらせる。だが、先程まで悔しさを表していた表情は一瞬で笑顔になり、
同時に自分の中に渦巻いていた悔しさやさ情けなさも一瞬で吹き飛んだ。
「(・・・プレア・・・・お前・・・)へっ!上等!!プレア、行って来い!!なのはと新人達を頼んだぜ!!!」
「うん!!下ろすね!!」
プレアは力強く頷き短く断りを入れた後、プレアはヴィータの腰から両腕を話し、彼女を地面へと下ろす。
踵で床を削りながら着地するヴィータの姿を確認したプレアは、速度を上げ、なのは断ちの元へと向かった。

 

「・・・あの子・・・プレア、大丈夫?」
着地したヴィータを拾い上げた後、先行したプレアを追う為に、再びジャンプをしながらディエチは突き進む。
だが、その視線は先へ進んだプレアの方へと向けられ、口からは自然と彼を心配する言葉が漏れる。
決して、プレアの実力を疑うわけではない。自分を助けた事や、此処に来るまでに出て来た防衛装置も、彼の『ガンバレル』という
誘導操作兵器が殆ど倒してきた。
それでも、ディエチには先行するプレアのことが心配でならなかった。
いくら誘導操作魔法に長けてるとはいえ、自分が見る限りでは他は並みの魔道師と・・・いや、だたの優しい子にしか見えない。
「何、心配すんな」
ディエチの表情から、彼女考えを読み取ったのだろう。
ヴィータは抱えられながらも、先ほどプレアに向けた時と同じ表情でディエチを見据える。
「確かに・・・・・プレアは見た目じゃただの子供だ」
『君だって子供じゃん』と突っ込みたくなるディエチだが、その言葉をどうにか飲み込む。
「だけどな・・・あいつは・・・・つええんだぜ、なんたってカナードと2回戦って全勝したんだからな・・・・・」
それには素直にディエチは驚いた。『カナード・パルス』本気ではないとは言え自分の砲撃を正面から受け止め、オットーとディードを倒した相手。
実力からするに、今脇に抱えてるヴィータを含む機動六課の主戦力に数えても可笑しくない人物。
そんな人物相手に、あの子は2戦2勝している。
「・・・信じられないな・・・・あの子が」
「カナードが言ったんだ。間違いねぇよ。まぁ、見た目からじゃそんなの信じられねぇけどな」
歳相応の少女に相応しい笑みで、プレアの凄さを自慢するかのように語るヴィータに、
ディエチも自然と姉妹に向ける時と同じ笑みで返す。
「・・・そうえばさ・・・今こんな事を聞くのもどうかと思うんだけどさ・・・・・いいかな?」
「何だよ?」
「プレアって・・・・・・君の・・・彼氏?」
鼓動が早くなった、体に熱が走った。プレアに『ヴィータちゃんも女の子なんだから』そう言われた時も似たような感覚に陥ったが、
今回はその比ではない。おそらく自分は顔を真っ赤にしているだろう。

 

だが悟られるわけには行かない。いや、悟られたくない。だからこそ子供じみていると理解しながらも
「ちっ・・・・・ちげぇよ!!馬鹿!!友達だ!!さっさと進め!!!バーカ!バーカ!!バーカ!!!」
感情をさらけ出しながら罵倒し、否定する。そしてディエチを罵った後、目を合わせずに前方を見据えた。
だが、それでも、胸の鼓動は治まる事はなかった。
「(・・・友達・・・なんだよな・・・・プレアは・・・・・)」
心の中に残るモヤモヤ、それがなんなのかヴィータは考えようとしたが止めた。今はなのは達を助ける。そのことが大事なのだから。

 

「・・・・そっか・・・・・」
ヴィータの否定と罵倒の言葉を浴びたディエチは、特に不愉快間を表す事無く、短く答える。
むしろ、歳相応に慌てるヴィータの姿が可愛くて仕方が無かった。不快感など微塵も感じない。
それ所か、緊張を解してくれたため、お礼を言いたい位た。
「(まぁ、本当にお礼なんか言ったら、また騒ぎそうだから・・・やめよう)」
内心で自己解撤した後、ヴィータ同様、前方を見据える。
「・・・・始まった」
裸眼でも小さな光りが確認できており、嫌でも戦いが始まった事を理解させる。
ディエチは更にカメラアイのズーム機能で状況を確認、プレアがガンバレルを駆使して、ヴェイアとよく似た人物と戦っている姿が映し出される。
このヴェイアにそっくりの人物も気になる所だが、今は皆の安否が大事。
本当なら、得意の砲撃での精密射撃で狙い打ちたかった。だが、ガジェットⅣ型との戦闘で受けたダメージなのか、
自身の武器であるイノーメスカノンの機能の殆どが使用不可能となっていた。
実弾での射撃や特殊弾等は無論、出力調整も満足に出来なくなっており、
唯一撃てるのは射程が短い単発のエネルギー弾が、高出力の主砲のみ。
高出力の主砲なら今の距離でも十分届くのだが、発射後のエネルギー幅は今進んでいる通路をほぼ埋め尽くすほど、
ロクに防御も出来ない彼女達を巻き込む事は目に見えている。
「(・・・・頼るしかないんだよね・・・・・プレアに・・・・)」
これほど悔しいと思ったことは無かった。これほど無力感を感じた事はなかった。
だが、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。内から沸き起こる悔しさと無力感を歯を食いしばる事で、どうにか抑える。
感傷に浸ることなどいつでも出来る、だが今はそんな事をする時ではない。
今は皆を助ける、そのために足を動かせばいいのだから。

 

「(だけどこの子、プレアの事を『友達』っていってたな・・・・)」
ふと、盗み見るように脇に抱えてるヴィータを見ながら、彼女が言い放った言葉を思い出す。
そして目線を再び前方に戻した後、顔を少しほころばせ、小さく呟いた。

 

                  「なら、まだチャンスはあるよね」

 

「・・・・・ナイン」
「確認、退避」
ガジェットと一緒に、満身創痍のなのは達に攻撃を仕掛けようとした二人のソキウス。だが、二人が武器を構えた瞬間、
砲撃音と共に彼らの後ろにいたガジェットが次々と爆発、ほぼ同時に彼女達を囲っていたガジェットも爆散する。
魔力反応から魔力による攻撃だと理解した二人は、即座にその場から離れ、一旦距離を取り様子をうかがう。
一方、襲い掛かってくるであろうガジェットに迎撃態勢を取っていたティアナは、突然の事態に警戒心を強めると同時に
小声で隣にいるスバルに話しかける。
「スバル、何が起きたかわかる?」
「待って・・・なんか・・小さなドラム缶みたいなのが・・・4つ・・・、それがガジェットを攻撃してる・・・・・味方かな?」
「・・・うん、どうにか目視で確認できた。味方かどうかはわからない。でも、もし敵だったら今頃私達はお陀仏よ。もしかしたら救援隊がきてくれ(待って!」
スバルの突然の制止の声に、ティアナは律義に途中で話を止め、スバルの言葉を待つ。
「・・・ううん・・・一人・・・・・子供・・・・こっちに近づいてくる・・・えっ・・・・まさか・・・・・そんな・・・・」
戦闘機人特有の望遠機能で、こちらに近づいてくる人物の姿を捉えたのだろう。『一人』と言ったからには、おそらくこの攻撃を行っている人物。
だが、近づいてくるであろう人物を確認したスバルの様子がどうにもおかしい。
彼女との付き合いは腐れ縁と言っても良いほど長い。だからこそ、もし救援隊が来たら彼女がどんなアクションをするかなど、大体予想できる。
『ティア!!救援隊だよ!!助かった~』のような事を言いながら自分に笑顔を向けるはず。
だが、今の彼女は呆然と・・・・・いや信じられない物を見るかのような瞳で前を見つめていた。
「(一体、誰が来るの?)」
自分達を助けてくれたとは言え、スバルの態度からして完全に油断をするわけにはいかない。最悪敵となるかもしれない。
もし戦闘になったらと考えると欝な気持ちになる。唯でさえ分が悪い状況なのに更に相手が増えると思うと、もう何も考えたくも無い。
濃いAMFの中だ、ロクに戦闘など出来ないだろう。だが、何もしないでただやられるつもりは無い。
「(そうよ、私達は生きている、生きているうちは負けじゃない。救援に来た私達がやらえるなんて、洒落にもならないわ)」
クロスミラージュのグリップを強く握り、覚悟を決める。
確かに今の状況は最悪だ。だが、六課で味わった訓練の日々に比べたら生ぬるい。
「(まったく、思い出しただけでも吐き気を催すなんてね・・・・・)」
出撃前のなのはさんとの会話で吐きそうになったのを思い出し、小さく笑う。
同時に確信する。自分になら、いや自分とスバルなら、なのはさんの扱きに耐えた自分達にならこの場を乗り切る斬る事が出来ると。
決意を新たにしたティアナは、未だ存在する周囲のガジェットを警戒しながらも、クロスミラージュを前方に構え目を凝らす。
近づいてくる人物が、少しでも怪しい行動をした瞬間、撃てるようにトリガーに指を添えたティアナは、向かってくる異邦人を呼吸を落ち着かせながら待ちかまえた。

 

「えっ・・・」
いくらエースオブエースと言われる高町なのはでも、戦闘機人の様に遠くの対象を見る事は出来ない。
だが、魔力や体力を大幅に消費し、消費や体の負傷を負いながらも、彼女はこの高密度のAMF空間内でティアナ以上に魔法を使う事が出来た。
さすがにエクセリオンバスターなど砲撃魔法を撃つ事はできないが、アクセルシュータやーブラスタービットを操り、
ガジェットを倒す事は出来る。
このように魔法が使えるのだから、当然相手の魔力反応を・・・・先ほどガジェットを倒した人物の魔力を感知する事も出来だ。
だからこそ言葉を失う。この魔力反応には覚えがあった。間違えるはずがない、いや、それ以前に存在する筈がない。
「・・・・まさか・・・・ありえない・・・・」
自分は今どんな表情をしているのだろう。自分の顔を心配そうに覗き込むヴィヴィオの表情から、あまり良い表情はしていないだろう。

 

                       同時にフラッシュバックする十年前の記憶。

 

                       闇の書事件の時に共に戦った異世界の少年。

 

                         他者を労る優しい心を持った少年

 

                       そして、10年前に息を引き取った少年。

 

自分が始めて触れた親しい者の・・・いや、人の死。その記憶は今でも鮮明に憶えている。
壁に拳を打ちつけ、叫ぶカナード。
はやてに抱きつき、泣き叫ぶヴィータ。
死人となった少年に縋り付き泣き叫ぶリンディ提督。
自分も涙を流した事、どうしようもない悲しみに襲われた事を憶えている。
それほど、この少年は皆に愛されていた。この少年の死を皆が悲しんだ。

 

『死んだ者は生き返らない』どこかで聞いたことがある台詞。
ドラマのワンシーンか?アニメや漫画で主人公が吐いた台詞か?知り合いの言葉か?正直どうでも良い。
だが、その言葉が事実なのは確か、認めざるを得ない。
だがどうだ?今目の前にゆっくりと下りてくる少年はその言葉を真っ向から否定してる。

 

「・・・プレア・・・君・・・・」
10年前に確かに亡くなった少年、プレア・レヴェリーがゆっくりとなのは達の下へと降り立った。

 

「止まりなさい!!!」
見た目はエリオやキャロと同じ歳、まさに人畜無害を絵に描いたような大人しそうな少年。
正直、そんな少年に険しい顔で銃を向ける自分に自己嫌悪したくなる。
だが、この子が瞬く間にガジェットを破壊したとなると、そういう考えを捨てなければならない。
『自分達を助けてくれた』という楽観的な考えを持つ事は容易い。だが
『自分達を襲うために、邪魔だったがジェットを蹴散らしただけ』という考えを持つ事も必要である。
いや、後の考えの方が濃厚かもしれない。現にこの少年が現われてから、自分たちに攻撃を仕掛けようとした双子と思われる男が様子を見るのみで留まっている。だが、
「・・・・・当然ですよね。いきなり現われたのですから、警戒するのは当然です」
心から申し訳なさを表す表情で自分を見据える少年に、ティアナは真っ先に後者の考えを捨てたくなる。
それでも、警戒心を完全に捨て去るわけには行かない。
「・・・・・わかったわ。とりあえず名前(ティア!銃を下ろして!!」
名前と目的を聞こうと尋ねようとした瞬間、横からのスバルの声にティアナは体を一瞬ビクつかせる。
聞かずとも分かる。彼女の正確は熟知しているつもりだ。おそらく
『こんな子が敵のはず無いよ!!』そう思っているに違いない。それは自分も大いに賛成だが、正体を確かめるまでは銃を降ろすつもりは無い。
だが、彼女の考えは今回は違っていた。
「あの子・・・プレアさんは・・・・・・敵じゃない!!だから銃を降ろして!!」
一番最初に驚いたのはティアナではなくプレアだった。
自分に銃を向けている女性の隣にいる人物。自分はこの人を知らない。ならなぜ自分の名を知っているのか?
いや、考える必要はない・・・・彼女が・・・なのはちゃんが教えたと思って間違いない。
「・・・・・お久しぶりです・・・なのはちゃん・・・・・」
銃を向けてる女性の後ろで、自分を信じられない者でも見るかのような瞳で見つめているなのはに、
あの時と、10年前と変わらない姿と声で、プレアは言葉を投げかけた。
10年前の少女と違って、今では美しい女性へと成長したなのはへと。
「・・・・プレア君・・・・なの・・・・・?」
「はい。驚きますよね?」
「そうだよ!!だって・・・・・・君は・・・・・・」
『死んだ筈』そう言おうとした瞬間、今まで様子をうかがっていた二人のソキウスが突然動き出し、プレア目掛けて攻撃を開始した。

 

ナイン・ソキウスのデバイス『バスターダガー』の必殺武器の一つである結合ライフル『超高インパルス長射程狙撃ライフル』を
プレア目掛けて放つ。
抜き打ちと言っても過言ではない素早い射撃。だが、放たれた高エネルギーは、プレアを焼き尽くす事無く床に大穴を空けるだけに終る。
上空へと飛び、砲撃を回避したプレア。即座にガンバレルを展開しようとするが、その考えを直に中断、右手に魔力刃で構成されたサーベルを持ち
後ろを振り向く。其処にはプレアの脳天目掛けて同じく魔力で構成されたサーベルを振り下ろそうとするシックスティーン・ソキウスの姿があり、
彼は表情を変えずにサーベルを振り下ろす。
迫り来る斬撃を自身のサーベルで受け止める事でどうにか回避、だが力の差は埋められず、徐々に押されていく。
「・・・・・成程・・・判断力・・・・回避力・・・・・・空間認識能力は脅威に値する。だが、純粋な戦闘に関しては・・・・・問題外」
自身の予測を証明するかのように、シックスティーン・ソキウスは力任せに切り払い、プレアを吹き飛ばした。
かなりの力を入れたきり払いだったため、プレアの小さな体は豪快に吹き飛ばされ、床に叩きつけられようとする。だが、
彼と床の間に、一部始終を見ていたスバルが突如として割り込み、床に激突しそうになったプレアの体を抱きとめる。
唯一使える左手でプレアの腰をがっちりと掴み、体全体で衝撃を緩和させ受け止めた。スバルは、直に再び斬るかかってくるであろうソキウスに備え
無事な左腕でシールドを張ろうとするが、
「っ!後ろです!!」
抱きかかえているプレアから聞こえる叫び、同時に戦闘機人モードである彼女の瞳に高エネルギー反応の警告表示が映し出される。
それはあの時、自分の右腕を吹き飛ばした時と同じエネルギー反応
「っ!しまっ」
自然とエネルギー反応のする真後ろを振り向く。其処には無表情で自分達を狙うソキウスの姿。
「(撃たれる!!?)」
避ける暇もない、十中八九直撃コース。当たれば間違いなく命を落とす破壊の光。
だが、その光りがスバル達に届くより先に、数にして10個の桃色の弾『アクセルシューター』がナイン・ソキウスに振り注いだ。
雨の様に上空から降り注ぐなのはの誘導弾。その内の二つがスバル達目掛けて放たれようと溜め込んでい砲撃のエネルギー球に直撃
その衝撃でエネルギー球は大爆発を起こし、結合ライフルの砲身を破壊すると同時に、ナイン・ソキウスを吹き飛ばした。
続けてティアナが、スバル達に斬りかかろうとするシックスティーン・ソキウス目掛けて射撃による攻撃を開始する。
この高濃度なAMF空間、一発撃つたびに体力が、魔力が、精神力が面白いように削ぎとられていく。
そのうえ、自分が狙う相手は全身にアーマーのような物を身にまとい、露出している生身の部分は多重のフィールドで覆われている。
「(・・・なら、一発きりの特注フィールド貫通弾で・・・・頭を)」
クロスミラージュのカートリッジをロード、狙いをシックスティーン・ソキウスの額に合わせ、躊躇無く引き金を引く。
放たれた一発の弾丸は、スバル達の横を通り過ぎ、真っ直ぐにシックスティーン・ソキウスに直撃、多重展開していたフィールを破壊し、
彼の額に直撃した。
直撃した衝撃で面白いように首が真後ろに90度に曲がり、そのまま地面に激突・・・・ティアナはそう思っていた。
いや、弾丸が直撃した時点でティアナだけでなく、ここにいる全員がそう思った・・・・・・いや、確信した。
魔力弾による頭部への攻撃。非殺傷設定といえども、直撃すれば脳を揺さぶられ、強烈な脳震盪を起こす。
だからこそ倒れある筈。だが、それは『ソキウス』という人物を知らないからこそ出来る楽観的な考え。
ティアナのフィールド貫通弾を受けて尚、ソキウスは進撃をやめずに接近、後ろに曲がった首を戻し、額から血を流しながらも
一切表情を変えずに、スバル達に斬りかかる。
「ひっ!!」
スバルは純粋に恐怖を感じた。ティアナの弾丸を受けて尚、表情を変えずに斬りかかるソキウスの姿に。
確かに直撃はした。現に彼あの額には大きな痣が出来ており、そこから出る血が彼の色白の顔を赤く染めている。
だが、彼は痛みに表情を険しくする所か、一切表情を変える事無く斬りかかる。
内から湧き出る恐怖心を紛らわすため、自然と抱きかかえているプレアを強く抱きしめる。
なのはは咄嗟に展開しているブラスタービットを向かわせようとするが、肋骨が折れた事による激痛が彼女の集中力を奪い、むなしく床に落下する。
ティアナもまた、先ほどの攻撃の疲労が抜け切れておらず、クロスミラージュを構えるだけで精一杯。

 

                         「おらぁ!!」

 

そんな絶望的な空気を吹き飛ばす勇ましい声が突然響き渡る。
プレアは無論、この場にいる機動六課メンバーなら聞き覚えのある声。
スバルは自然とその声がする方向、シックスティーン・ソキウスの後ろへと目を向ける。そこには
「・・・ヴィータ・・・副隊長・・・・」
自分達の副隊長であるヴィータがアイゼンをギガントフォルムに変化させ、大きく振りかぶる姿。
スバルと目が合った瞬間、ヴィータは彼女を安心させるかのように、子供っぽい笑みを浮かべる。そして
「ギガント版即席!!!ラケーテン!!ハンマァアアアアアアアア!!!!!!!!!」
キガントフォルムとなったアイゼンを、力の限り振り被り、シックスティーン・ソキウスの背中に叩きつける。
その破壊力は、背中を覆っていたアーマーを粉々に粉砕、勢いを殺さずにソキウスの腰へと叩きつけられたアイゼンは、彼の体を弓の様にそらせた後、
「ふっ・・・とべぇえええ!!!」
吹き飛ばし、床へと容赦なく叩きつけた。
一度豪快にバウンドしたシックスティーン・ソキウスは、床をかなりの速さで転がった後、プレアが破壊したガジェットの残骸に突っ込んだ。

 

「お~お~、豪快に吹き飛んだ吹き飛んだ~!!」
ガジェットの残骸に埋もれるシックスティーン・ソキウスの姿を確認したヴィータは、ゆっくりとスバルの元へと降り立つ。
その後ろからはディエチが送れて到着し、早速壁にもたれかかっているクアットロの元へと駆け寄る。
「ヴィータ副隊長~~」
自分でも情けないと思い名ながらも、スバルはプレアを下ろし、ヴィータの元へと駆け寄る。
「ったく、情けねぇ声だすんじゃねぇよ。アタシらを助けに来たんだろ?もっとしゃきっとしろ」
アイゼンの柄で肩をたたきながらも、普段の訓練の様にヴィータはスバルに話しかける。
「・・・はい!でも、結局たすけられちゃいました。ヴィータ副隊長に・・・・・プレアさんに・・・・・ヴィータ副隊長・・あの」
プレアを軽く見た後、再びヴィータを見据えるスバル。
ヴィータはその様子から彼女が何を聞きたいのか直に理解できた。そしてなのはも同様の瞳で自分を見つめている。
「・・・なのはは当然として、スバルがプレアの事を知ってるなんてな・・・・・・」
「はい。以前ギン姉と一緒にマリーさんに教えてもらいました。プレア・レヴェリーさん・・・10年前の闇の書事件で活躍なされた
カナードと同じ異世界の人物。そして・・・・同年に・・・息を引き取った・・・・・・・」
「そこまで知ってるんだったら、もう何もいわねぇ・・・・・詳しい説明は此処を出てから・・・ってわけにもいかねぇようだ・・・・・」
会話の途中で、急にこれから戦闘を始めるかのような獰猛な笑みを見せ付けるヴィータに、スバルとティアナ、
そしてクアットロの具合を見ていたディエチは自然と後ろを振り向く。聞き覚えがあり、二度と聞きたくは無い機械の軍勢の足音
そして、ダメージを負い、体を自身の血で汚しても尚、表情を変えずに立ち上がる二人のソキウス。
「・・・・・損傷軽微・・・・・」
「・・・・フォルテストラパージ・・・攻撃再開」
砲身が吹き飛んだ『高エネルギー収束火線ライフル』を投げ捨て、唯一残ったガンランチャーを構えるナイン・ソキウス。
身にまとっていたアーマー『フォルテストラ』をパージし、両腕に魔力刃で形成されたサーベルを持つシックスティーン・ソキウス。
怪我など関係なかった。彼らはアッシュの為に行動する。命ある限り。
「・・・・もう・・やめてください!!!なぜ戦う必要があるのですか!!?無意味ですよ!!!こんな事は!!だだ悲しみを増やすだけです!!」
彼らの姿は見ているだけでも、あまりの痛々しさに胸が締め付けられる。
プレアは彼らとは戦いたくは無かった。
それは彼の性格ゆえの思い。言葉が通じる相手なら、話し会うことが出来る。互いに理解しあうことが出来る。
彼はそれを信じて疑わなかった。常にそれを心がけていた。
正直自分でも甘い考えだと思うし、甘い考えと指摘された事も一度や二度ではない。
だが信じたい。人はだれでも互いを思いやる心を持っている。それは偽りの無い・・・いや、偽る事ができない確かな思い。
だからこそ、互いを知り、理解する事も出来る筈。
プレア・レヴェリーはそういう考えを持った少年である。

 

その言葉を聞き入れたかのように、二人のソキウスは動きを止め、プレアを見据える。そして
「・・・・・・プレア・レヴェリー・・・・・君が『僕達が動ける時』に投降勧告・・・もしくはそれに準じた発言をした場合、
次の発言をする様に言われている・・・・・・」
二人のソキウスは声を揃えて言い放つ。

 

           「「平和主義に酔いしれる出来損ないのガキの戯言など・・・聞く耳は持たない」」

 

二人のソキウスは床を蹴り加速、一気に間合いを詰めようとする。
「っ!」
悔しかった。話を聞いてもらえない事が。分かり合えなかった事が。
だが、感傷に浸っている暇はない。彼らは自分を、自分達を傷つけようとしてる。
「(戦うしか・・・ないのか)」
自分を守るために、皆を守るためには戦うしかない。だが、プレアはまだ諦めるつもりは無かった。

 

     『だが力を使わない口だけの話し合いでもまた、解決は出来んぞ』

 

心の中に響く力強い声。その言葉に間違いはないと思う。
あの人も最初は自分の言葉に耳を貸さなかった。だからこそぶつかった・・・・・・戦った。
心の底から話し合うために。思いをぶつけるために。
なら同じ事をするまで。全力でぶつかって、戦って、自分の思いを知ってもらう。
「ガンバレル展開!!」
四つの小さなドラム缶の様な武装『ガンバレル』がプレアの真上に出現、真正面から突撃してくる
二人のソキウス目掛けて突き進む。
はのはもまた、アクセルシューターやブラスタービットを形勢し、ソキウス目掛けて放ち
ディエチはイノーメスカノンを単発で連射。
迫り来る三つの違った攻撃。イノーメスカノンのエネルギー弾は後方にいるガジェットではなく真っ直ぐにソキウスに迫り、
なのはとプレアの誘導攻撃は不規則に動きながらも同じく真っ直ぐにソキウスに迫る。
場所が広いとは言え、所詮はゆりかご内の通路、避ける空間も限られてくる。仮に防御魔法を張ったとしても、
なのはとプレアの誘導攻撃が後ろに回り込めば問題は無い。だが、その不利な状況は攻撃を行うプレア達にも当てはまった。

 

当初二人並んで接近していたソキウス。だが、プレアたちが攻撃を開始した直後、ナイン・ソキウスがスピードを上げ前へとでる。
そして唯一残った武装『ガンランチャー』を、前方の空間の中心に狙いを定め放った。
このガンランチャーは、通常の魔力弾やエネルギー弾を撃つライフルとは違い、拡散するエネルギー弾、俗に言う『散弾』しか撃つ事ができない。
だからこそ一発の破壊力は既に破壊された高エネルギー収束火線ライフルに劣るが、命中率に関しては散弾という特性から比較にならないほど大きい。
そのため、相手の誘導魔法を破壊するのにはもってこいの武装である。
だが、自分達に襲いっかる誘導攻撃は、そこらの術者が操る物とは比較にならないほど動きが素早く、目で追うことすら難しい。
このガンランチャーから放たれたエネルギー散弾を交わすことも出来ただろう・・・・・・此処が外だったなら。
ナイン・ソキウスが放ったエネルギー散弾は瞬く間に通路全体を埋め尽くし、なのは達に襲い掛かる。
対してなのはとプレアの誘導攻撃は、通路全体を埋め尽くされたため、逃げ場を失い無残に破壊される。
だが、プレアが操るガンバレルだけは、咄嗟に縦一列に並ばせ、一番前のガンバレルを盾にする事で破壊を一つに抑える事に成功する。
それでも尚、残ったエネルギー散弾はプレア達に襲い掛かり、容赦ない洗礼を浴びせようとする。

 

「やらせるものか!!」
その破壊の洗礼に抗ったのはディエチだった。
彼女は咄嗟に前へと出て、第二波として放つ筈だった高出力の砲撃を放とうとトリガーに指を掛ける。

 

         その瞬間だった、二人のソキウスが自分を無視して通り過ぎたのは

 

「えっ!?」
『無視された?』彼女がそう思った瞬間、彼女の指はトリガーを引き、通路を埋め尽くすほどの高エネルギー砲を放つ。、
通路を埋め尽くすほどの強大なエネルギー波は、迫り来るエネルギー散弾とガジェットを全てかき消した。

 

「しまった!?」
なのはは近づいてくる二人のソキウスにレイジングハートを向けようとする。だが、再び激痛が体を襲い、レイジングハートを落としてしまう。
彼らから見れば絶好のチャンス、なのはから見れば絶体絶命のピンチ。
だが、ソキウス達はそんななのはを一瞥もせずに素通りする。まるで元から興味が無いかのように。

 

そう、彼らはなのは達には関心がなかった。彼らの目的は一つ。任務優先順位上位に該当する『プレア・レヴェリーの確保、もしくは遺体の回収』のみ。

 

先ず攻撃を仕掛けたのはシックスティーン・ソキウスだった。
両腕のサーベルを振り被り、プレアの脳天目掛けて振り下ろす。
彼は咄嗟に同じサーベルで受けようとしたが、その考えを直に捨てバックステップで回避する。
「(接近戦・・・・力じゃ絶対に勝てない、避けきるしか!!)」
プレアは距離を開け様と後方に退避しようとする。だが、ソキウスはそれを許さないと言わんばかりに喰らいつき、連続してザーベルの斬撃を繰り出す。
直撃を受けるまでにはいたらないが、人間離れしたシックスティーン・ソキウスの動きに完全に避けきる事が出来ず、
プレアのバリアジャケットには小さな切り傷が徐々に増えていく。

 

ヴィータ達もまた、ナイン・ソキウスの砲撃に防御で手一杯だった。
無表情で、至近距離から放たれるエネルギー散弾。非殺傷設定などという生ぬるい物ではない。
もし当たれば大怪我ではすまない、体の肉を削ぎとられ、苦しみながら死ぬだろう。
「っ・・ちっくしょう・・・・・」
この高濃度なAMF空間内、防御をするのさえ辛い。もし、後方にいるスバル達が強力してくれなかったら破られていただろう。
それでも限界が近いのは確か、自分やスバル達を囲むパンツァーヒンダネスにヒビが入る。
一瞬の隙を突こうにも、相手は休む事無く撃ち続けている。
仮に自分だけだったら、多少どころでないにしろ、負傷を無視してアイゼンをたたきつけることが出来る。
だが、後ろにいるスバル達はそうも行かない。彼女達は自分のような体ではない。間違いなく致命傷になる。

 

「っ、ヴィータちゃん!!」
ヴィータの状況を見たプレアは咄嗟に残ったガンバレルをヴィータ達の元へと向かわせ、ナイン・ソキウスに攻撃を仕掛ける。
ガンバレルから放たれた魔力弾はナイン・ソキウスに直撃、その隙にヴィータはパンツァーヒンダネスを解除、
「今までの礼だ!!纏めて受取れ!!!」
先ほどのお返しといわんばかりにギガントフォルムをバットを振るかのようなスイングで、ナイン・ソキウスに叩き付けた。
体をくの字に曲げながら吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

「・・・・よかった。間に合った」
ヴィータが危機を脱した事に心からほっとする。だが、プレアは気付かなかった、隙を作ってしまった事に。
「愚かですね」
シックスティーン・ソキウスの右のサーベルが、プレアのサーベルの柄を斬り破壊。
「弱いくせに・・・自身を守らず・・・・相手を助けるなど・・・・・・」
残った左のサーベルを瞬時に回転させ、刃の変わりに剣頭を突き出し
「愚か・・・いえ、滑稽ですね」
プレアの鳩尾にねじり込むように叩き付けた。
「げほっ!!」
口から胃液を空気を吐き出し、吹き飛ぶプレア。
鳩尾を両腕で押さえ蹲り、今まで経験した事のない痛みに耐える。

 

「プレア!!!!」
ヴィータは目の色を変え、アイゼンを振り被りシックスティーン・ソキウスに飛び掛る。

 

「プレア君!!!!」
痛みなど関係ない、いや、怒りで痛みを感じない。なのははプラスタービットをシックスティーン・ソキウス目掛けて放つ。

 

「プレア!!!!!」
相手はヴィエアに似ている・・・だが、彼はあんな冷たい人間ではない。
だから遠慮はいらない、イノーメスカノンのエネルギー弾を容赦なく放つ。

 

シックスティーン・ソキウスに迫る3つの攻撃。だが

 

上空から降下してきたガジェットⅣ型がヴィータの進路を妨害し

 

上空から降下してきたガジェットⅣ型がなのははプラスタービットを踏み砕き

 

上空から降下してきたガジェットⅣ型が自らを盾にし、イノーメスカノンのエネルギー弾を防ぎ

 

上空から降下してきたガジェットⅣ型が瞬く間になのは達を包囲し

 

「無様だなぁ・・・・プレア・レヴェリー・・・・・」

 

蹲るプレアの前に、アッシュ・グレイが突如姿を表した。