和傘 氏_運命の歯車、再び

Last-modified: 2009-04-12 (日) 00:04:36
 

――――こんなはずではなかった。

 

日が差す公園に一人の女性がいた。
人工の自然に囲まれた公園だ。本来ならこの時間になると子供や主婦たちの溜り場となるのだが、
今は人気もなく、たった一人の女性がベンチに座っている。
余りにも静かな空間だった。

 

新しい議長が決まり、そして世界の支配者が決まった祭典を人々は見入ってるのだろう。

 

女性は美しかった。
ウェーブのかかった亜麻色の髪は腰まで伸ばし、整った顔立ちと良く似合っていた。
カーディガンをはおった服装は年寄り染みていたが、
服装から表される肢体は女性の豊かな体付きを想像させた。
20代前半だと言われても納得出来ただろう。
ただその表情はひどく疲れていた。

 
 

“全てはプラントの為に……”

 

プラントの名家に生まれた彼女はそう言われながら育てられた。
それをわずわらしく思った事は無い。
ただ認めて欲しかった。

 

それは父にだろうか?
それは母にだろうか?
それは人々にだろうか?

 

あるいはその全てだろうか?

 

今考えても分からなくなってしまった。

 

ただ、必死だった。
そのために努力もしてきた。
最年少で議員にも当選した。

 

ただ、ただ必死だったからだ。

 

そして全て終わってしまった。

 

地球とプラントの関係がこじれれば、プラントの立場は悪くなる一方だ。
だから、人々に受け入れられなくてもあの条約を結んだ。
自分はプラントの為にそうしたつもりだった。
だから、人々が私を責めた時でも、“プラントの為にやったんだ”と胸を張ることが出来た。
それを認めてくれた人もいた。
応援してくれたデュランダル議員、争ってばかりだったエザリアも、だから……!

 

それが、まさか、こんなことになるとは………。

 

フゥ…。と彼女は深い、深いため息をはいた。

 

「………疲れちゃった」
瞳が潤む、知らず知らずのうちに鼻声が出た。ひどく疲れた、そう思った。

ただ、泣きたかった。

 
 

カツカツ……。
ふっと誰もいない筈の公園に足音が聞こえた。
潤んだ目線を上げるとそこには年若い青年が立っていた。

 

「……アイリーン・カナーバさんですね?」
自分の名前を言う青年に驚きながら

 

「そうですが、あなたは?」

 

黒いスーツと白いYシャツを着て、ダークレッドのネクタイを絞めたその人物は
年若いのに随分と疲れた顔をしていた。
コーディネイターには珍しい黒髪や紅い瞳よりもまずそれが目についた。

 

彼はハンカチを差し出しつつ、

 

「シン・アスカと言います。貴女にお願いがあって来ました」

 
 

彼女は知らなかった。まだ自分の運命の歯車は回り続けていたことに…。