戦後シン×ミーア_PHASE13

Last-modified: 2008-04-27 (日) 18:41:19

最高評議会議員室

 
 

「イザーク、これ見ろ」

 

疲れた様子でやって来たディアッカがうんざりとした様子でやって来た。
着替えてこれからZAFTに戻ろうとしていたイザークは、突然のディアッカの来訪に
眉間に皺を寄せた。

 

今日のディアッカの仕事は週に一度提出されるビデオの監査だ。
昨日シンからチップを渡され、今日の夜にかけて数人のスタッフで内容を確認され、
その結果が最高評議会に報告される。

 

その時間を割いてディアッカがイザークを訪問してきたという事はそれだけ重要な事件
が起きたのだろうかと、イザークは着替えの手を止め、ディアッカに向き直った。
イザークの無言の問い掛けには答えず、ディアッカはチップを議員室に設置されている
テレビに差込み、電源を入れるとチップの中の映像を流す。

 

とにかく観ろという事らしいと、イザークは己の執務机に腰掛け、映像を観る。

 

いつもは報告された内容と、重要な部分のみを抜粋した映像のみを観ている為、画面に
彼女が居る病室を映し出されても特に何も反応はしなかった。
が、適当に編集されている映像をイザークはじっと見つめている内に頬を染め、時には
顔の半分を手で覆い、腰を撫でて、居心地悪そうに足を組みかえる。

 

最初はシンがミーアに告白した時だ。

 

薄暗くてよく分からなかったが、それでも、二人がキスをしているのは分かる。
シンのぎこちない告白に、恥ずかしそうにしているミーアの様子は分かる。
それから二人の間に何があったのか分からないが、子供過ぎるキス。

 

当事者にしか分からない空気があったのだろうが、イザークにはそれが理解出来なかった。

 

「見た時は一瞬イザークが狙ってた通りになったかと思ったけど、ミーア嬢の方がシン
には返事しないまま、暫くキスと抱擁のみで朝3時くらいまで。それからシンは帰宅」

 

これが別れ際の様子。

 
 
 

次に流れた映像は、シンがミーアに何かを問い掛けていたようだった。
抱き締め合ったままシンが何かを言ったのだろう。
ミーアは目を大きく見開き、考え込むように目を伏せ、抱き寄せていた手を離れる為の
動きに変え、俯いた。

 

「何かを言っているな」
「悪い。拾えてないんだ」

 

シンはミーアを抱き寄せた手を緩めはしたが、完全に放す事はなくミーアの言葉を待っ
ているようだった。
ミーアは顔を上げ、更に何かを発した。

 

その音声もまた拾えては居なかったが、イザークは目を凝らしてその唇を読み取った。

 

「・・・・・・・・・アスランに会いたいだと?」
「微妙だろ?会いたいだけなのか、オーブに行きたいのか」

 

続いてシンがミーアをきつく抱き締める。
この行動を見る限り、シンはシンでミーアにアスランが接触してきた事を知っていると
いう事なのだろう。
これがミーアの真意を読み取っての行動なのか、ディアッカにもイザークにも分からな
かった。

 

「何にせよ初々しいだろ?この映像を見たスタッフの一人は喧嘩中の恋人と寄りを戻し
たぞ。『昔を思い出しました』ってな」
「知るか!」

 

更に映像は流れ翌日になると、シンは赤い薔薇の小さなブーケを持って病室を訪れた。
そろそろ花の替え時なのだろうが、それにしてもシンは今まで一度も赤い薔薇など買っ
て来はしなかった。
花言葉を知らないシンでも、赤い薔薇が愛の告白に用いられる花である事は知っている
のだろう。

 

その何気ないところでのシンの告白にミーアも気付いて恥ずかしそうにしていたり、
視線が合うと暫く時が止まったようにじっと見つめ合い、どちらからともなく身を寄せ
合ってキスをする。

 
 
 

ひたすらむず痒い恋愛映画を見せられている気分のイザークは居心地が悪くて仕方がない。
本当であれば今すぐにでも映像を切ってZAFTに戻りたかったが、辛抱強く映像を見
ていた。

 

気になる点があったのだ。

 

ミーア・キャンベルの護衛に関してはZAFTに、そしてイザークとディアッカに任さ
れていた。
最終的な結論は最高評議会議長代理のアイリーンにあったが、彼女がイザークとディアッカを
信じたのだ。
その為、イザークとディアッカはまずFAITHのメンバーを調べた。
ミーアの過去を調べ上げた資料を基にすると、彼女の学校での成績は中より少し上
だったが、歴史、政治経済についての成績がかなり低かった。
政治に対する基礎知識が殆ど皆無だったが、それでもFAITHのメンバーの中でも政
治経済の疎い人間を選んだ。
彼女が今回の件をきっかけに政治に対する興味が湧かないとも限らなかったからだ。
シンはオーブでの政治経済の成績は悪くなかったが、プラントの情勢に付いてはオーブ
に中々情報が降りなかった事もあり、今も然程詳しくなかった。
そして彼女に関して動く可能性のある人物の特定は、彼女の人気の広さから特定が難し
かったため、接近戦、MS戦、射撃の腕がFAITHの中でも平均以上の能力を有して
いる事。
地球に関して余り良い感情を持っていない事。
年齢が近い事を条件にシンを選んだのだ。

 

イザークにも、ディアッカにも予感があった。

 

シンがミーアに惹かれる予感が。

 

いや、正確には年齢が近い人物を条件に加えた時点である程度の期待をしていたのだ。

 

シンに身寄りがない事。
ミーアにも身寄りがない事。
戦争が終わり、虚無感がある事。
これからの人生に迷いがある事。

 
 

戦士が戦いの場に出る時、心の拠り所というのが必要だ。
そして、戦いの場から戻った時にも、その心の拠り所は必要なのだ。

 

今の彼にそれが無い、もしくは不透明である時点で、ミーアの人を惹き付ける力に吸い
寄せられるだろうと考えたのだ。
ミーアもまた、その優しい心からシンを放っておけないだろうと。

 

ディアッカはこの実験的な人選に興味をもって了承した。そこまで上手く行く筈がない
というのが彼の考えだった。
イザークは大いに期待していた。自らも戦場に向かう時、そして戦場から帰る時、母が
生きているという事が何より大事であったから。

 

結果として本当であればもう少し時間が掛かるだろうと思っていたが、予想以上に短期
間で二人の気持ちが近付いた。
それに関してはディアッカもイザークも問題ないと思っていた。

 

ミーアがプラントに居る。
その時点でパパラッチが動くか、隠れたデュランダル議長の支持派が動くか、市民が動くか。

 

必ずミーアにアクセスしてくる人間は居るだろうと思って居たが、それがまさかアスラン
だとは思わなかった。
もう少し言えば、堂々と自分たちにそれを告げてくると思わなかった。
アスランの考えは思慮深いように思えて一方で思いつきや、天然な思い込みだったりす
る事もある。
戦略を考えるのは得意でも、それ以外の通常の考え方はぼんやりとしていて明確ではな
いというのがアスラン・ザラという人間で、だからこそ面倒で油断がならない。

 

その彼がミーアをオーブに連れて行きたいと言った。

 

ディアッカもイザークも、アスランであれば余計な親切心からそんな事を言う可能性は
十分に感じられた。
しかし、アスランが一人でそんな計画を実行出来る訳がないとイザークは考える。
キラが協力する可能性は考えられたが、おおっぴらに戦場に立ち向かうばかりの彼に、
潜入活動が出来るとは思えなかった。(そんな事が出来ていれば、もう少し前回の戦争
でも彼の行動範囲は広がっていただろうと思う)
アスランはミーアを連れて帰りたいのだと告げてきたが、明確な計画は明かさなかった。
ミーアの返事によってその計画を伝えると言うのだ。

 
 

イザークがこの話に乗ったのは、彼の後ろに誰かが居ると踏んだからだ。
アスランとは何度も競い合った仲で、アカデミーやヴェサリウスでは戦略に付いて喧嘩
をしながら何度も意見をぶつけ合った事がある。
その為、アスランの考えそうな事は大体読めるのだが、今回ばかりはアスランらしくな
いと感じ取ったのだ。

 

アスランであれば、正々堂々真正面から予告無しでミーアを迎えに行く。

 

己の思い込みが正しいのだと信じて、取り敢えず彼女を攫う事から計画し、肝心の彼女
の意志を無視するような男だ。
ミーアの意志を確認し、そしてそれから行動するなど、スピード感のない計画はアスラン
の物ではない。

 

では、誰が。

 

ラクスではない。
彼女であれば、自分の名前を出す事だろう。
カガリでもない。
戦後処理で駆け回っている彼女が、少女一人助ける計画を立てていたとしたらそれこそ
愚かでしかない。

 

「最近のオーブは閉鎖的になってきたからなぁ。戦後の復興に関して積極的に活動して
いるように見せちゃぁいるが、国内の事はさっぱりだ。まるでカガリ・ユラ・アスハが
全ての指揮を執っているように伝えているが・・・・。悪いが彼女にそこまでの決断力
と力があるとは思えない」
「同感だな」
「でも、ラクス・クラインを利用しようとはしていない。どっちかっていうと、ラクス・
クラインが居る事を隠そうとしている。だから俺は彼女がオーブに行ったとしても危
険はないと思うんだが」
「・・・・・」

 

イザークはそれに関してはコメントを避けた。

 
 
 

そしてらしくない行動をしている人物をじっと見つめていた。

 
 

シンだ。

 
 

ミーアはシンに「アスランに会いたい」と告げてからリハビリの時間を増やしている。
リハビリ室の利用時間が過ぎれば、病室内でシンの手を借りて懸命に歩く練習をしていた。
シンはそんなミーアに協力的で、必要があれば手を差し伸べ、そしてじっと見守っていた。
そしてミーアに対して告白の返事も強要せず、頬に触れ、抱き寄せ、触れるだけのキス
を何度も繰り返す。

 

告白までして、ミーアがアスランに会いたいと言う。
これまでビデオで確認してきた彼の性格から考えると、もっと拒否して、絶対にミーア
のオーブ行きを反対するかと思ったが、そんな事はしていない。

 
 

「ディアッカ」
「あぁ?」
「シンは、ミーアと共にオーブに行くと思うか?」
「それは・・・・」

 
 

シンのオーブに対する嫌悪感は本物だ。
しかし、故郷を完全に憎む事が出来る人間が居るだろうか。

 
 

「・・・・・・・俺は、フェブラリウスを忘れる事なんて出来ないな。親父にはZAFT
に入るのは反対されてたし、喧嘩なんてしょっちゅうでいい思い出なんて無いって思った
時期はあっても・・・・・やっぱり嫌いにはなれないさ」
「そうか。・・・・・・・そうだな」

 
 
 

人の心を予測する事は難しい。

 
 
 
 

イザークは、シンの行動が分からなかった。
しかし、彼は彼なりに考えている事があるのではないかと、ミーアを見つめる真剣な
視線を観ていると、そう感じずには居られなかった。