ヒイロはリンディに言われた場所へ向かっていた。
「はやてちゃんの家から最寄の公園に転送するから、そこからは渡した地図を見て行けばわかるわ」
現在ヒイロがいる場所は公園から少し歩いた場所だ。
地図によればもうすぐのはずだ。
ヒイロは黙々と歩き、数分でそれらしき家の前に到着する。
念のため標札を確認する。
「八神……、ここか。」
確認も済み、インターホンを押す。
すると八神家の玄関の扉が開いた。
「はぁい」
ヒイロを出迎えたのは小学生くらいの少女だった。
「あ、デュオ君やね?話は聞いとるよ。うちの名前は八神はやてや。よろしゅうな。さ、上がってええよ」
はやては自己紹介をし、笑顔でヒイロを出迎える。
ヒイロは初対面の男をいきなり家へ上がらせるのもどうかと思ったが、
せっかくだから上がらせてもらうことにした。
少女はリビングと思われる部屋へとヒイロを誘う。
(これは……鍋の匂いか?)
ヒイロはリビングから漂う美味しそうな鍋の匂いに気付く。
「今日デュオ君が来るって聞いたから、うちらで急いで鍋の用意してんよ」
はやては嬉しそうに言う。
「感謝する。これからしばらく居候することになるデュオ・マックスウェルだ。よろしく頼む。」
ヒイロははやての言葉に感謝の気持ちを表し、自己紹介も済ませる。
だがヒイロの自己紹介に八神家の空気は固まっていた……。
「な、なんか固ぇ奴だなぁ」
「そう緊張するな。私達の事は家族だと思えばいい」
「そうよ、デュオ君。あなた悪い人じゃ無さそうだし。」
席に座り鍋を取り囲む三人に言われる。
やはりエージェントとしての教育を受けたヒイロは普通の家庭の空気には合わないのか。
「了解した。」
ヒイロは返事を返す。
この返事も何かおかしいが……
一通りの自己紹介も終え、鍋パーティーもお開きとなりヒイロはリビングのソファに座っていた。
(リリーナ……。)
ヒイロはリリーナが心配だった。
デュオと共にリリーナの救出に向かったはずがこんな世界にきてしまったのだ。
今頃リリーナはどうしているのだろうか……。
「考え事か?」
「…?シグナムか。たいしたことじゃない。気にするな。」
ソファで一人悩むヒイロに話かけたのはシグナムだった。
「そうか。主に聞いたが、お前、異世界から来たらしいな。」
「そうだ。」
「お前、何者だ?明らかにただの少年の体格では無い。」
この世界の住人は恐らくヒイロの敵では無いだろう。
だから隠す理由など無いが、べらべらと何でも喋る必要も無い。
そう思ったヒイロはかなりはしょって答えた。
「俺は……幼い頃から鍛えていたから、だ。」
ここで幼い頃からエージェントとしての訓練を受けて育った破壊工作員と答えても構わないのだが、
やはり平和な生活を送る人々にそれを言うのは流石のヒイロでも気が引ける。
「そうか……。あえて詳しくは聞くまい。お前が話したくなれば話せばいい。マックスウェル。」
シグナムはあまり触れられたくない過去であることを悟った。
「了解した」
ヒイロもシグナムに返事を返す。
「デュオの部屋用意できたで。ついてきい」
はやては笑顔でヒイロをヒイロの部屋へと連れていく。
元々納戸部屋だったらしいが、ヒイロが来ると聞いて片付けたらしい。
ヒイロは有り難く部屋を使わせてもらうことにする。
数時間後、ヒイロも久々に熟睡し、はやてとヴィータも就寝していた。
今起きているのはシグナムとシャマル、ザフィーラくらいである。
「シグナムが初対面の人とあんなに親しげに話すなんて、珍しいわね」
「……そうか?」
「ええ。彼のこと、気に入ったの?」
「いや、ただいい目をしていると思っただけだ。」
「へぇ、そうなんだ…あ、そうだ!明日はデュオ君の服を買いに行かなきゃ。」
「む、そうだな……。」
シグナムは思った。恐らく彼にとって明日は厄日だろうな…と。
少し時間を遡ってアースラ。
「じゃあシン君はフェイトちゃんとアルフと先に帰ってて」
リンディは自分は忙しいからと先にフェイト達に帰らせようとする。
一日に違う世界から二人も来たのだ。リンディとクロノの仕事はどっと増えたのだろう。
「ここが、私達のお家です。」
「あぁ、うん。おじゃまします」
「アンタは今日からしばらくここで過ごすんだ。そんなよそよそしくしなくていいんだよ」
「は、はぁ。わかりました。」
ここはハラオウン家。フェイト、シン、アルフは三人(二人と一匹)で帰宅した。
ちなみに喋る犬についてはシンは先ほど十分驚いた。魔法がある世界なんだ。
犬が喋るくらいどうってことない。そう考えることにした
(やっぱ家は普通なんだなぁ)
シンはそんな感想を抱いていた。ハラオウン家はどこにでもありそうな普通のマンションだ。
-まぁ一部普通では無いが。
「えと、とりあえずシンはこの部屋を使って。」
シンはフェイトに空き部屋を使う用言われる。
「あぁ、わかったよ。ありがとう。」
シンは礼を言い早速部屋のベッドに寝そべる。
フェイトは晩御飯の支度をするそうだ。
シンもヒイロと同じように考えていた。
プラントは、議長は、ミネルバはどうなったんだろう……。
突然こんな訳のわからない世界へ飛ばされて、異世界のMSだの魔法だの……夢なら覚めて欲しい。
だがあのウイングとかいうMS…アレの戦闘力は明らかにCEの技術を越えている。
大出力のビーム兵器…天使のような翼…あの機動性…そしてそれだけの性能であの小型化…。
もしもあんなものがCEに来たら間違いなくとんでもないことになる…。
そうこう悩んでるうちに晩御飯ができたらしい。シンはリビングへ向かう。
今晩はカレーライスだった。
シンはまぁ小学生一人じゃそんなところだろうと思った。
難しすぎず、簡単すぎず、これくらいでちょうどいいのだろう。
「うん、うまい!」
シンはフェイトの作るカレーのあまりのうまさに二杯目に突入していた。
「うん、うまいよフェイト!にしてもアンタ、よく食うねぇ」
アルフも呆れ気味だ。
数時間後。
「じゃあシン、明日は朝からアースラに呼び出されると思うから、昼からはシンの服とか買いに行こう」
「あぁ、わかった。」
「それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言いシンとフェイトはお互いの部屋へ入ってゆく。
(はぁ…今日はいろいろあったな…。こんなCEも平和な世界ならよかったのに…)
そう思いながらシンは眠りに落ちる。
その日、リンディとクロノは徹夜だった…。
ヒイロとシンは眠っていた。
久々に戦争の世界から離れた二人にとってこれだけ熟睡することなど無かったからだ。
明日は朝からアースラへの出頭命令が出ている。
恐らく彼らにもっと詳しい情報を聞くためだろう。
AC196
「ヒイロとデュオが行方不明だって!?」
「ええ……。彼らなら大丈夫だとは思うけど……」
「…わかった……。」
レディ・アンはいらついていた。
ただでさえマリーメイア軍の決起やリリーナの誘拐により慌ただしいというのに、
さらにそこへプリベンターが二人も行方不明ときたのだ。
まともに連絡がとれるガンダムパイロットはカトルのみとなってしまった。
そのカトルもこれからガンダムの回収へ向かう為、地球圏からはいなくなるのだが……。
(何故こう次から次へと…!)
その時、レディの手元の電話が鳴り響いた。
レディは今度は何だと思いながらも電話に応対する。
「私にもコードネームが欲しいのです。さしずめ火消しの風……ウインドとでも名乗らせてもらいましょう」