暇人A_第01話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:04:35

かねてより魔術を学んでいた少年は、空港から小旅行に出かける予定だったその日、ある少女に出会った。

「妹を探してる?」
「はい」
少年、シン・アスカは、なにやら慌てふためく少女を見つけ、なんとなく声をかけた。
「取り敢えず、呼び出してもらったほうがいいんじゃないか?」
「はい。
でも、見つからなくて…」
もう呼び出しは試したようだ。
「俺も妹を探しているんだ。
一緒に探さないか?」
この申し出に、少女、ギンガは多少の思考の後、首肯した。

「で、妹ってどんな子?」
「わたしによく似てますよ。
姉妹ですから」
「そうか…」
「それと、わたしとはぐれてからは喜んで走り回ってると思います。
あなたの妹さんは?」
ギンガは何気なく聞き返した。
「俺によく似た子だ。
兄妹だからな」
「ふふ
冗談ですか?」
シンとしては同じように返したつもりだったが、笑われてしまった。
「ま、確かに冗談の色は強かったけどな…」
そんな話をしていると、ふと、ギンガが立ち止まった。
「どうした?」
なにやら熱心に見つめる先には、休憩所。
そこに妹を見つけたのかと思ったが、どうやら単に自販機を探しているだけらしい。
「やすもうか?」
「俺が誘っただけだから、別に謝らなくてもいいさ」
「いえ、誘ってくれなかったら休まなかったと思いますし…」
なるほど、それはみた感じありえそうなことだった。
「そういえば、君はどこから?」
「あ、ミッドの西部のエルセアから」
地理に得意じゃないシンだったが、この言い方ならだいたいの位置の推測はできた。

「俺はこの近くに住んでるんだ。
まぁ近くって言っても、空港の地理に詳しいわけじゃないけど…」
てかこの歳で空港に詳しくなるほど旅行を繰り返したりはしないだろう。
「俺はシン、シン・アスカだ」
多少遅れた気もしたが、とりあえず名乗った。
「あ、私はギンガ・ナカジマです。
よろしくお願いしますね」
もう会うことは多分ないだろうが、バカ丁寧な口調は勘弁して欲しかった。
「こっちが勝手にやいた世話だ。別にそこまで堅い喋り方しなくても…」
見た感じ、年の頃もあまり変わらないのだ。
「そう…ですね。
なら、必要以上の丁寧口調は避けることにします」
あまり変わったように思えなかったが、シンは頷き返しておいた。

「あなたも陸士候補生なの?」
何気なく、そんな話になっていた。
「あぁ。
とは言っても、ゆくゆくは空戦できるようになって、妹と空を飛ぶのが夢なんだ」
「へぇ…いい夢ね。
なんだか暖かい感じ…」
「ギンガは?」
「わたしは父と母の後を継ぎたくて…」「その後は?」
「入ったら…
入ってからきめる、かな」
「そっか」

そうするうちに、なにやら辺りが騒がしくなってきた。
シンがギンガと顔を見合わせると同時に、放送がかかった。たった今爆発が起こり、火災が発生、広まり続けている、とのことを…

「スバルを探さないと…」
先ほど以上に慌てるギンガ。
「待て、当てが無いならあまり奥に行かないほうが…」
そんなシンの忠告を鑑みず、走りだした。
「ったく…」
シンも妹を探しに行きたいと思ったが、当ての無い以上、ギンガについて行く事にした。

「スバル~!」
ギンガは叫ぶ。
おそらくはスバルと言うのが妹の名前なのだろう。
シンも周りを見回すが、妹、マユの姿は見つからない。
(火の気が強くなってる…)
これだけ時間がかかっても鎮火、或いは消火できないあたり、何か魔術的な介入があるのだろう。
「ギンガ!もう戻ったほうがいい!
先に保護されてるかもしれないし…」
シンが叫ぶと、ギンガはだんだん落ち着いてきていたのか、頷き、シンの元へ駆け出して来た。
「さ、戻ろう」
シンはギンガに右手を差し出しつつ、辺りが赤くなっていることに気づいた。
要するに火は今すぐそこまで迫っていると言うことだ。
「急いだ方がいいのかもしれないな…」
ギンガも疲れてはいるものの、流石に候補生だけあって気力には衰えはない。
ただ瞳には心配の色が見て取れた。
(マユ…
無事でいてくれ…)
シンも妹を一瞬想い、歩き、或いは走りだした。

巨大な吹き抜けのフロア、シンはギンガを連れ立って到着したのだが、どうも火災の影響で行き止まり化していた。
後ろももう火の海だ。
「退路も進路もない、か…」
思い、見下ろしたら、そこには人影があった。
(ってあれは…)
良く見知った影。
「マユ!?」
「あ、お兄ちゃん!」
そう、シンの妹も階層は違えど、この吹き抜けのフロアまで逃げて来ていたらしい。
だが、そんな事を考えている隙は、すぐに消え失せた。
「火が…」
下の方から登ってくる。
「マユ!今行く!」
それを見て飛び出そうとするシンを、ギンガが引き止めた。
「なんで止める!?」
「あなたも飛べないなら、意味がないから…」
「それでも、俺は…」
マユを助けたい。
そう言おうとしたが、再度の爆発により下のフロアが完全に吹き飛んだため、言葉は宙に浮いてしまう。
「あ…あぁ…
うあぁぁぁぁぁ!!」
変わりに出たのは、嗚咽とも聞こえる悲しみの彷徨。

後の話である。
この火災の『唯一』の被害者は、やはりシンの妹だったらしい。
管理局のエースオブエースがたまたま居合わせた為に被害は最小限に食い止められ、さらに言えばギンガとシンの生還もそのエースが間一髪間に合ったからという奇跡の産物である。

そして、数年。
ギンガは管理局に入り、その所属部署に今日、新しく転属になった人物がくるらしい。
名はシン・アスカ。
この名に聞き覚えのあったギンガだったが、その評判はかつて出会った少年のものとは思えないほど悪く、転属の利用もギンガに違和感を与えていた。

その理由とは『制御不能』
どの部署の部長、隊長も口を揃えていったらしい。

ギンガがその理由をしるのは、また次のお話。