暗闇の宇宙。その中で花が散るような光の輝きと、揺さぶるような衝撃が響き渡る。それも一つや二つではなく、絶えまなく続いていた。
本来なら静かな宇宙も、その輝きだけが満たしている。
その光景の中で聞こえる筈のない音がする。爆発の輝きに劣らぬそれは、ただ激しく、終わりない二つのぶつかり合いだった。
「シン───ッ!!」
片方が激しい動きと共に叫ぶ。振り上げたビームサーベルを敵対する一つへと肉薄する。
「裏切り者が───ッ!!」
対するもう片方はそれに呼応する様に叫び、片腕を上げて光の粒子を帯た盾で食い止める。二つは争い続く宇宙の中でも、特に激しさを巻き散らしていた。
片方が下がれば追い、片方が追えば下がる。しかし、どちらも決定打はなく膠着状態となっている。だからこそなのか、両者は己の叫びを武器として互いを追い詰める。
「止めろ、シン!こんな事をしても何もならない!!」
「うるさい!そうやって高い所から見下ろして!」
「お前も分かっている筈だ!議長の言う世界は───ぐうっ!?」
片方が動く。運命の名を司る機体は、正義を名に持つ機体を力押しとも言える行動で押していく。だが、それだけで終わらずに、空いた腕を己の剣に手を掛ける。
「クッ……!」
このままでは危ないのを悟ったのか、レバーを操作して脚を振り上げ、隙が出来た腹部に蹴りを見舞う。
アロンダイトを抜こうとした瞬間にそれを受けたデスティニーは、堪らず身をくねらせて動きが止まる。それをインフィニットジャスティスは見逃さず、態勢を立て直す為に距離を取る。
「クソッ、このよくも……!」
同じくデスティニーも態勢を立て直したが、蹴りが入った衝撃はコクピットにも伝わったのか目を回す。シンは横に頭を振り、眼前の敵を睨む。
「もう止めろ!同じ事をお前は繰り返すつもりか!?オーブを撃ってそれで世界が守れるのか!!」
アスランはデスティニーを見据えたまま叫ぶ。その後ろではザフト、オーブのMSが潰し合い、壊し、爆発する。
「こんな事がお前の望んだ事か!?」
アスランは叫ぶ。違う筈だと。
「それで本当に守れると思っているのか!?」
アスランは叫ぶ。意味はないと。
「その後に築かれた世界が正しいのか!?」
アスランは叫ぶ。間違っていると。
「どうなんだ!?シン!!」
アスランは叫ぶ。答えはなんだと。アスランはただそれだけ声にする。だ
「───黙れ!!」
「───ッ!?」
シンは心の底から叫ぶ。憎悪すら生温い怒りのままに。アスランはその重く響く声に思わず声を詰まらせる。
「アンタに…アンタに何が分かるんだ!!裏切ったアンタが!!」
「違う!!俺は───」
「うるさい!アンタはいつだってそうだ!そうやって俺に問い続けて、自分の答えは誤魔化して!!」
そう、いつだってアスランはシンに問い続けた。守りたいものはなんなのかと、道を間違えるなと聞かせた。だが、それは違う。所詮それは己の歩んだ道をシンに重ねた感傷だ。
「俺だって悩んださ!!間違ってるかもしれないって、正しい事なのかって!!そうやって俺に問い続けたのはアンタだろ!?」
「───」
「だから答えを出したんだ!!間違っていても守りたいものがあるから!もう失いたくないから!
それが、それがアンタは間違ってるって言うのかよ!?」
デスティニーはアロンダイトを引き抜き、両手に握り締めて構える。背後には光の粒子を巻き散らした紅き翼が広がり、ジャスティスへと迫る。
しかし、アスランはその光景をモニター越しに見ながらも、シンの言葉が心の中で反響する。
(俺は間違っていたのか?シンに問う事で解った気になっていたのか?……いや、シンに問う事で答えを探していたのか?)
自分の心に問うが答えは返って来ない。キラと共に居て得た答えにも疑念を覚える。それは本当に俺が出した答えなのか、と。
「うおおおおぉぉぉぉっ!!」
「俺は……グッ!?」
アスランの迷った心は動きを鈍くした。見切れた筈の動きは避けきれずにジャスティスの左腕が、アロンダイトによって切断される。
デスティニーはそのまま下から振り被り、ジャスティスを断ち切ろうとする。だが、アスランもすぐに気を持ち直し、スロットルを全開にして下がって距離を取る。
「クッ、このままでは……」
状況が悪いと判断する。メサイヤやレクイエムもそうだが、自分の心が不安定だと感じている。アスランはジャスティスをデスティニーに後ろを向けて逃げるように離れる。それをシンが逃す筈もなく、ジャスティスを追い掛ける。
「逃げるな!!」
今のシンの言葉は、アスランにとっては痛い。答えを出す事が出来ずに逃げる。そして何より、
(俺は…お前を追い詰めていたのか、シン)
混迷に走る宇宙。一つの戦いは終わりが見えぬままに争いあう。