月に花 地には魔法_第09話

Last-modified: 2007-11-15 (木) 22:49:37
 

 平穏というものは文字通り穏やかにやって来るが、去る時は一瞬らしい。
 成人式の日にディアナ・カウンターのMSが空から降ってきたことを思い出しながら、
ロランはそんなことを考えていた。
 先ほどなのはとフェイトから彼女達のデバイスの修理が完了したと連絡を受けて、
少し明るくなった室内の雰囲気が、一変している。
 目の前ではエイミィが空中に浮かんだキーボードを忙しなく叩きながら、
外から見た状況を現場の魔導師達に伝えている。
 そんな彼女の後姿には普段の気楽さは微塵も無く、声をかけるような真似はできない。
 大型モニターには以前なのはを襲撃した鉄槌の少女と、
アルフと同じような特徴を持つ男性が管理局の魔導師と思われる人々に囲まれている姿が映っていた。
 少女の手に闇の書の存在を見つけた時、初めてそれを見た時と同様の悪寒がロランの全身を貫いたが、
だからといって倒れるわけにもいかずモニターを見つめるしかできることは無かった。
 モニターの向こうで繰り広げられる魔導師達の戦いの前に、ロランはただ無力でしかない。
(今の僕には何もできないのか…)

 
 

           「月に花 地には魔法」
from Called ∀ Gundam & Magical Girl Lyrical Nanoha A's
           第9話 12月12日 前編

 
 

 そのモニターに映し出されているヴィータとザフィーラは、
管理局の魔導師に包囲されている状況に焦りを感じていた。
 いつものようにリンカーコア蒐集にあたっていた二人は、
戻ってきた矢先に魔導師による包囲を受けたのだ。
「こいつらはただの壁役だ。恐らくエースが来るぞ、ヴィータ」
「わかってるよ!本命はどいつだ…」
 周囲の魔導師は恐れるに足りない。一点を集中突破すれば脱出は容易い。
 だが、管理局にも強力な魔導師は少数ながら存在する。
 こちらが仕掛ける瞬間に、そのようなエースに奇襲を受ければ拙い展開になることは明白だった。
 周囲をけん制しつつ、本命の攻撃を待ち構えるという二重の警戒は二人の、
特に防御を中心に受け持つザフィーラの集中力を削る。
 そしてその警戒はすぐに意味を成す。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」
 ザフィーラは上空に大きな魔力反応を感じたその瞬間に、
自分とヴィータを守るためのバリアを展開、同時に周囲の魔導師の動きを目と気配で追った。
「かなり強力な魔導師、こいつが本命か!」
 降り注ぐ無数の魔力刃。数で攻められようともバリアを抜かれる気はしなかったが、
何か特殊な効果を有している可能性もある。
 だが、バリアに魔力刃が着弾して、周囲が魔力刃爆散による煙に包まれて。
「ザフィーラ、ありがと。ダメージは無いか?」
「ああ、問題無い。だが…」
 何よりそれらに予想程の威力が無いことで彼は敵の真意に気づいた。

 

 目標付近の視界は煙によってゼロに近い状態だが、
一心にそこを見つめるクロノは相手のバリア出力に驚いていた。
「何本かは突破できたか。陽動とは言え、かなりの威力で撃ったんだが。」
 自分の攻撃をほぼ完璧に防御されたクロノだが、その顔に悲観的な色は無かった。
「予定通り、包囲用強壮結界の設置完了。これで中からは脱出できないはずだ」
 煙が晴れると、直前まで目標を包囲していた魔導師達が目標から距離をおいて強壮結界を展開していた。
 自分の攻撃を囮にして、脱出阻止用の強壮結界を張る。
これが作戦の第一段階であり、最も重要な段階でもあった。
 あとはなのはとフェイトが新たな力を得てこちらに合流するまで、目標の相手をすれば良い。
 だが。
(エクスキューションシフトでまともにダメージが与えられないとなると、少し骨が折れるな)
 1対2で長期戦をするわけにはいかないという判断を下すと共に、
不意に『ターンA』が復活すれば少しは戦況も楽になるかもしれないと思った。
「バカバカしい。ロランの助けを期待するなんて…」
 悪態を口に出しながら、クロノは目標に向かって身構えた。

 
 

「すごい…」
 ロランはモニター越しに映るクロノの攻撃に驚くと共に、
それを防ぎきった相手の能力の高さに感心していた。
「うちのクロノ君もああ見えてカッコイイでしょ。あの歳で伊達に執務官をしてるわけじゃないからね」
 目標の包囲が完了したからかエイミィにも若干の余裕が生まれたらしく、
ロランの独り言に軽い口調で返してくれたがその顔に笑みは無い。
「まあ、いくらクロノ君でもあれだけの魔導師の相手をするのは正直辛いだろうね。
 二人が転送されるまで何とか頑張って欲しいけど」
「二人ってなのはちゃんとフェイトちゃんですか。デバイスの修理は済んだといっても、すぐ現場に?」
「うん。正直、新しいシステムのテストとかしてあげたかったんだけど、今は少しでも人手が欲しいし」
 なのはとフェイト、それにユーノとアルフがクロノに合流すれば戦況は好転する。
 ロランにも簡単に予想できたことだが、さすがに彼女達へ負担が大きいのではと考えてしまう。
 その時、なのは達が最終中継地点に到着したことを告げるアラームが鳴り、
エイミィは軽い安堵と共にクロノへ伝えた。
「クロノ君。今、助っ人を転送するから。頑張って」
 なのは達を現場へ転送し終えて、ふいにエイミィはロランへ振り向いた。
「大丈夫、あの子達は強いよ。魔力がどうこうとかじゃなくて、心がね。
 色々あったけれど、それを乗り越えてきて得た強さがあるから」
 それだけを言うと、彼女は再びモニターへと姿勢を直した。
 9歳の女の子に宿る、強さ。それに期待する気持ちを感じたロランは自分自身に苦笑した。
 現状ではやむを得ないとは言え自分の不甲斐なさを感じてしまう辺りが、
ロランの性格を端的に現している。
 やがてモニターに少女達の姿が映り。そして闘いは始まる。

 
 
 

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