機動戦士ガンダム00 C.E.71_第01話

Last-modified: 2011-04-05 (火) 00:21:48

異変を感じ取った刹那が外に飛び出すのと、ヘリオポリスに爆発の閃光が走ったのはほぼ同時だった。
「あれは、確か連合軍の秘密工廠がある・・・!」
ヘリオポリスの内外の構造は既に熟知している。
爆発による振動を体で感じながらも、刹那は家の前に止めてあるバイクに飛び乗った。
エンジンを掛け、思い切りアクセルを踏み込む。バイクは全速力で爆発地点へと走りだした。
爆発のあった辺りは、郊外ではあっても民間人が少なからず住居を構えている。
テロかとも考えたが、連合軍の存在と、刹那の脳量子波がそれを否定した。
「平然と民間人を巻き込むなど・・・」
爆発地点から少しでも遠くへ逃げようと逃げる人々を避けながらバイクを走らせる事3分。
未だに黒煙を上げる爆発地点、そこから最も近い橋の上で刹那はバイクを止める。
「やはりザフト軍か」
角度の問題で良く見えないが、下では連合軍兵士と、パイロットスーツに身を包んだザフト軍兵士が
銃撃戦を展開していた。
数はザフト軍の方が少数だったが、MSジンが援護に入っているのに加え、
連合軍はどうやら物資の運用中であったらしく、戦っているのは整備兵ばかりで苦戦している様だ。
刹那が状況を分析していると、視界の端に少年と少女を捉えた。
「くっ、まだ民間人がいたのか!?」
刹那はバイクから降りると、上着の下に隠していた拳銃を引き抜いた。
手すりを乗り越え、下の階にいた民間人の元に向かう。

 

「おい、そこの2人!」
「わっ!?」

 

急に降りてきた刹那に、黒い服の少年は驚きながらも少女を庇う素振りを見せる。
「危害は加えない。俺は修理工のカマル・マジリフだ」
「カマル・・・。じゃあトールが言っていた歌の先生?」
「そうなるな。それより、ここで何をしている」
「そっ、それは・・・」
良く見ると、少女の方は橋の下を見て泣いている。それに釣られて橋の下を見た刹那も目を見開く。

 

MSが5機、銃撃戦の最中静かに横たわっていた。
「これが、連合の新型・・・」
西暦の物とは大分異なるものの、そのMSの頭部はV字アンテナにデュアルアイの、
刹那の見知ったガンダムその物だ。

 

「兎に角その子を立たせろ。ここは危険だ」
「はっ、はい!」
少年が手を差し伸べると、少女は弱々しくもその手を握り立ち上がる。
「向こうにシェルターがある。そこまで走れるな」
「あっ当たり前だ!」
「よし、なら俺の合図で走れ」
先程まで泣いていた少女が、威勢良く答える。
この非常下でここまでしっかり声が出るなら大丈夫だと刹那は判断する。
眼下の銃撃戦を注視し、合図のタイミングを計った。
戦場を走り抜けるのに一番安全なタイミングは、より多くの兵士がマガジンを交換する瞬間だ。
単純に飛び交う弾が少なくなるし、兵士の注意が銃に向く。
「今だ!」
眼下の兵士の三分の一がリロードを開始した絶妙なタイミングで、刹那が合図と共に2人の背中を押した。
駆け出す2人の後を刹那も銃を構えながら走る。
走る3人に気付いて腰のサイドアームを抜くザフト兵もいたが、刹那に肩を撃ち抜かれる。
「走れ走れ!」
刹那が発砲した事に驚いて足が止まる2人を大声で急かす。
弾かれた様に再度走りだした2人が、無事シェルターの入り口に到着した。続いて刹那もそこに滑り込む。
「怪我は無いか?」
「はい」
「はぁ、はぁ・・・何とか」
2人の無事を確かめると、刹那はシェルターの端末をタッチする。
「登録番号CB57342、カマル・マジリフだ。俺を含めて3人の民間人がいる。シェルターに空きはあるか」
『・・・・・確認した。ただ・・・済まない、
 このシェルターには無理をしても後1人分しか空きが無いんだ』
中年男性の声が、申し訳無さそうに答える。一拍遅れて、シェルターに繋がるエレベーターのドアが開く。
「了解した」
答えるが早いか、刹那は少女の腕を掴んで強引にエレベーターに押し込んだ。
「なっ、何を!?」
少女が抗議の声を上げるが、それを無視してドアを閉める。

 

「・・・これで良いんだな」
「はい」
シェルターに降りていくエレベーターを見送る強い眼差しの少年が頷く。
刹那の脳量子派は、シェルターに1人しか入れないと知らされた瞬間の、
少年の決意に満ちた感情を見逃さなかった。
それに、この非常事態の最中で息一つ乱さない彼ならば残されたとしても何とかなるだろう。
シェルターに送った少女は、性格を考えると進んでシェルターに入ろうとはしなかった事は想像に難くない。
時間を掛ければ、それだけ危険が迫ってくる。
「キラ・ヤマトです」
「ん?」
「僕の名前です。名乗ってなかったですよね」
「ああ、・・・キラ、向こうにもう1つシェルターがあった筈だ。そこに行くぞ」
「分かりました」
緊張した面持ちでキラは頷く。
刹那の指す方向、ここから一番近い場所にあるシェルターに行くには、
再び銃口の前に身を晒さなければならない。
しかし、キラは緊張していても恐怖から来る逡巡は見受けられない。腹を括ったのかもしれない。
(トール・ケーニッヒの友人キラ・ヤマトか・・・中々度胸があるな)
2人がタイミングを見計らって走り出そうとした、その時だった。

 

「そこの2人、何をしている!」

 

銃撃戦の最中でも耳に届く程良く通った声で、連合軍の女性が声を掛けてきたのだ。
「僕達はヘリオポリスの民間人です!」
「シェルターには!?」
「向こうのシェルターに行きます!」
「あそこにはもうドアしか無い!」
声の通り方からして士官だろう連合軍の女性は、MS移動用ハンガーに身を隠したまま、
衝撃の一言をキラに告げる。
もしそこにキラの友達がいたら?家族がいたら?彼女はオーブの軍人では無いし、
この非常事態であるのだから仕方ない事だったが、配慮の足りない、キラが動揺するには十分な言葉だ。
「キラ・・・」
刹那は銃を油断無く構えながらも、キラが動揺に囚われてしまわない様に話しかける。
「だ・・・大丈夫です。みんな生きてる・・・大丈夫です」
自分に言い聞かせる様に、キラは深呼吸をする。しかし、彼らに落ち着きを取り戻す時間は与えられない。
刹那達から遠い方のMS移動用ハンガーから順に、ガンダムが起動、立ち上がったのだ。
「そんなっ・・・!」
女性士官が息を呑む中、青色、迷彩色、黒色のガンダム3機が双眸を光らせ動き出す。
それに反応して、装甲車などの歩兵に脅威になる標的を片付けていたジンが、刹那達の方に向き直る。
「跳ぶぞっ!」
「わっ!?」
銃口をこちらに向けたジンに、刹那はキラも突き落す形で橋から飛び降りた。
次の瞬間、彼らがいた橋は戦車砲並みの弾丸で木端微塵になる。

 

「大丈夫っ!?」
着地した刹那達に、女性士官が咄嗟に声を上げる。
「ああ、問題無い」
「たっ助かりました」
「・・・なんとも無いのか?」
五点接地着地法を用いて着地時の衝撃を逃がした刹那は、
普通に飛び降りて平気な顔をしているキラを怪訝そうに見る。
橋からここまで5、6メートルの落差がある。
死ぬぐらいなら足の骨折の方がマシだろうくらいのつもりで落としたのに、
この線の細い少年は驚いたくらいで無傷だ。明らかに普通の人間の強度ではない。
「・・・・・・」
「早くこちらへ!」
女性士官の叫びにハッとなった刹那は、キラを促しながら女性士官が隠れるハンガーまで移動する。
「緊急時だから挨拶は抜きよ。色黒の方の貴方、訓練を受けている様だから協力して」
「どうするつもりだ」
民間人に協力を仰ぐとは何事かと考えるも、彼女の感情の必死さを察した刹那は素直に応答する。
「このMSだけでも、渡す訳にはいかないわ。
 最終手段だけど・・・私がコクピットに乗り込んでこれを操縦します。
 貴方には、私が乗り込むまでの援護射撃をお願いしたいの。奴らの狙いはこのMSだから、
 起動させた隙に貴方達は逃げられる。悪い話では無い筈よ」
「・・・了解した」
無茶のある話ではあったが、余程このMSに愛着があるのだろう。
彼女の瞳にも脳量子派にも、迷いは無かった。
「あの、僕は・・・?」
「君はここに隠れていて、このMSが起動したら・・・」
「合図を送る。俺と同じ方向に走れ。連中がMSに気を取られている内にこの場を離れてシェルターに向かう」
「分かりました。カマルさん、気を付けて」
女性士官の説明を引き継いだ刹那が、キラに力強く頷いてみせる。
刹那としては、争いの当事者の片方に肩入れするのは避けたかった。
しかし、中立のコロニーでMSを開発していた連合と、
それを巻き込む形で攻撃したザフトでは後者の方が非が大きい。
何より、今は民間人の犠牲を減らすのが優先事項である。
その為には、ザフトが撃退するのが手っ取り早かった。

 

「援護、お願いします」
「了解した」
女性士官がハンガーに取り付けられた梯子を使って、横たわったMSの上に登りはじめた。
刹那は反対側にある梯子を体が露出しない程度に登り、銃を構えて彼女の周辺を警戒する。
その2人を、キラがハラハラしながら見上げている。
「もう少し・・・」
「待て!」
女性士官が梯子から顔を出そうとした瞬間、刹那がそれを鋭く制止した。
何事かと女性士官が刹那を見たと同時に、爆発的な暴風が女性士官の真上を通過。
遅れて先程起動した3機のガンダムがコロニーの空を飛翔する。
刹那が制止しなければ、女性士官は暴風に煽られて梯子から落ちていただろう。
「助かったわ」
「ジンもさっき程こちらに注意を向けていない、急げ」
まだ生きている装甲車がいたのか、ジンはこちらから視点を外していた。
コクピットに乗り込むなら今しか無い。
今度こそ、女性士官は横たわるMSの上部、正面装甲の上に身を乗り出す。
刹那も上半身を露出させ、油断無く銃を構える。
女性士官は整備士官らしく、MSの上を難無く移動する。
ザフト兵が姿を見せる事も無く、女性士官はコクピットまで辿り着いた。
しかし、彼女がコクピットを開こうと端末を開いたと同時に、刹那達のいた場所と反対側、
MSの足の方からラウンドムーバーを装備したザフト兵が飛び上がってきた。
赤いパイロットスーツのザフト兵は直ぐ様小銃を構え、端末を操作しようとする女性士官に狙いを定める。
「くっ!」
突然飛び上がってきたザフト兵に、刹那の反応が一瞬遅れる。それがザフト兵の生死を分けた。
初め肩を狙おうとした刹那はしかし、ザフト兵の引き金に掛かっている指に力が入っている事を知る。
その状態では、仮に肩を撃ったとしても銃口が逸れる前に銃弾が発射されてしまう。
一瞬の逡巡の末、刹那の放った銃弾はザフト兵の額を貫いた。
空中で大きく反れた死体は、力の入ったまま引き金を引き絞り、上空に無数の弾丸をばら撒いた。

 
 

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