機動戦士ガンダム00 C.E.71_第03話

Last-modified: 2011-04-05 (火) 00:52:21
 

「君、大丈夫!?」
「う・・・ん、何とか」
キラは頭を軽く振って爆発で曇った意識を晴らす。
ジンの自爆によってコクピットが激しく揺さ振られたものの、キラにも女性士官にも目立った傷は無かった。
「・・・みんなは!?」
晴れた意識の中に生身だったサイ達の姿が蘇る。
モニターで彼らがいた場所を見ると、代わりに、損傷した白いジンが片膝を着いていた。
『心配するな。彼らは無事だ』
「カマルさん!」
「何故ジンに・・・」
白いジンから通信が入り、モニターに刹那の顔が表示される。
一拍置いて立ち上がった白いジンの影からサイ達が顔を出した。
咄嗟に刹那が爆風から盾になったお蔭で、擦過傷などはある様だったが、大きな怪我はしていない様だ。
「良かった・・・」
ホッと気を抜いたキラは、しかし突然響いた電子音に背中がピンッと張る。
見ると、モニターの1つが点滅していた。
「もうバッテリーが保たないわね。・・・あそこにある緑色のトレーラーの所まで行ってくれる?
 そこで一息つきましょう」
「分かりました。・・・カマルさん!」

 
 

「うっ、痛ぅ・・・」
撃たれた肩を庇いながら、トールに付き添われて女性士官が白いガンダムから降りてくる。
「大丈夫ですか?」
「ええ、有難う」
女性士官はトールに礼を言うと、運搬する筈だった資材に腰を下ろす。
「自己紹介がまだだったわね。私はマリュー・ラミアス、連合軍技術大尉です」
「・・・マリューさん、あれは何なんですか?」
連合軍のIDを見せながら自己紹介するマリューに、サイが怪訝そうに質問する。
あれとは、緑色のトレーラーからバッテリーパックを取り出そうとしている白いガンダムの事だ。
「・・・貴方達には悪いけど、それには答えられません。巻き込んでしまった事については謝罪します」
「・・・あの」
「はい?」
頭を下げるマリューに、カズイが懸念を口にする。
「あのMSって、俗に言う新兵器って奴ですよね。もしかして、見ちゃった僕達は・・・」
カズイの言葉に周りの仲間は不安そうな顔になる。言葉の意味を悟ったマリューが溜息を吐いた。
「そうしたいのは山々ですが・・・、まだシェルターに入っていない民間人を含めたら、
 目撃者の数は見当も付かないわ。ですから、今すぐどうという事はありません」
「やった!」
「良かった・・・」
ミリアリアやトールが安堵の表情を浮かべた。
「但し、ヘリオポリスの生存者は後々軽い尋問と誓約書を書く事になるでしょうね」
「そ、そんな・・・」
マリューの言葉にカズイは顔を青くする。
『・・・脅かしても仕方ないだろう。マリュー・ラミアス』
「貴方はそれだけでは済みませんよカマルさん。ジンを操縦出来る理由、しっかり聞かせてもらいます」
辺りを警戒している白いジンが、モノアイだけをマリュー達に向ける。
刹那の声が外部スピーカーから発せられる。
現在刹那のジンには、先程撃破したジンの重斬刀とマシンガンを装備していた。
マリューが言っている事は、あくまで『目撃しただけ』の人間の話だ。直接新兵器を操縦したキラや、
登録ではナチュラルとなっているのにジンを操縦している刹那は
もっと慎重且つ重い対応を取らざるを得ない。
流石のマリューも、サイ達の前でキラの処遇については触れなかった。

 

『マリューさーん、トレーラー開きましたけど、どれを装備すれば良いんですかー!?』
刹那のジンとは別の方向から、外部スピーカーを使ったキラの声が響いてくる。
サイ達が振り向くと、そこには宝箱に頭から突っ込んだ様な状態の白いガンダムがいた。
「その機体の背中と接続出来る小さい箱型の物があるでしょう?・・・そう、それよ。
 OSの指示通りに接続して!」
マリューの指示に、白いガンダムは緑色の箱を掴むと、ゆっくりと背中に接続した。
「OKよ!後は・・・」
彼女が次の指示を出そうとした瞬間、ヘリオポリスの地面に新たな爆炎が上がった。
濛々と広がる煙の中からMAとMSが飛び出してくる。
「あれはメビウス0!?」
『追われているな。追っている方はシグーか』
刹那は飛び出してきた2機をモニターに拡大表示する。メビウス0は殆どの装備を失って手負いの状態だった。
撃墜されるのも時間の問題だ。しかし、追っていたシグーはメビウス0への興味を失っていた様だ。
白いガンダムを視認するや、方向転換して刹那達の方へ向かってくる。
『こちらに来るぞ』
「貴方達は逃げなさい!近くにシェルターがあるわ。キラ君、PS装甲展開!」
マリューが鋭い指示を飛ばす。サイ達は言われた通りシェルターに走って行く。
一直線に向かってくるシグーに向けて、刹那のジンがマシンガンをセミオートで撃った。
換えのマガジンの無いマシンガンでは弾数が心許無い。
シグーはそれを急制動を掛けて躱すと、刹那のジンには構わず白いガンダムにマシンガンを斉射した。
「ああっ!」
まともに銃弾を浴びた白いガンダムを土煙が覆う。
しかし何とかPS装甲の展開が間に合った様で、土煙の中から無傷の機体が立ち上がった。

 

「キラ君、トレーラーに入ってる装備を付けて!カマルさんはその間の援護を!」
『了解した』
再度向かってくるシグーに、弾丸を放つ。シグーはそれを躱そうとするが、肩に被弾する。
先程の動きで軌道を読んだ刹那の予測射撃だ。
この世界のMSは西暦のMSより時代が浅い為、回避機動も西暦と比べてパターンが限られている。
「浅いか」
外部スピーカーを切った刹那が冷静に敵を分析する。
このマシンガンの威力では駆動系にでも当てない限り単発では効果が薄い。
更に、先程肩に当たった弾丸は、本来メインスラスターを狙った物だった。
完全に動きを読んだ一撃だった筈である。
つまり、シグーのパイロットが肩の装甲で弾丸を防いだのだ。
「キラ、落ち着いて動け、俺が援護する」
『は、はい』
白いガンダムへ回線を開き、焦って間誤付いているキラを落ち着かせる。
OSの指示通り装備すれば良いとは言え、空からの攻撃というのは人の恐怖を増幅させ、混乱させる。
刹那はシグーのパイロットをエースパイロットと断定し、
撃墜では無く牽制に目的を切り換えて射撃を続行する。
弾を無駄にしない様に、シグーが攻撃に移ろうとした時だけ牽制射を浴びせた。
『マリューさん、カマルさん、準備出来ました!』
キラの通信に、モノアイだけ動かして白いガンダムを見る。
トレーラーから取り出した装備だろう長大な火砲を脇に抱える白いガンダムが映る。
『エネルギーは最少に絞って、でないと・・・』
『このぉ!』
焦りからか、キラはマリューの話を聞く前に引き金を引いた。
長大な砲塔から発射されたのは、MS1機を包んで余りある太さの光だった。
しかし、所詮は素人の照準である。あっさりとシグーに躱されてしまう。
『ああっ!?』
キラの叫びは、射撃がシグーに当たらなかった事に対してでは無い。
躱された灼熱の光芒が、ヘリオポリスの外壁を焼き、貫いたのだ。
『穴が・・・』
人工の大地に穿たれた穴は、周囲の空気と一緒に様々な物体を呑み込んでいく、差し詰めブラックホールだ。
『ああ・・・ああ・・・』
自らが仕出かした行為に頭が付いて行かないのか、白いガンダムの動きが止まる。
その間に、シグーが再度接近してくる。
「キラ・ヤマト!今は生き残る事を考えるんだ。後悔は死んでは出来ない」
『カマル・・さん・・・』
刹那が叱咤するが、震えた声のキラは反応が鈍い。
「くっ!」
刹那が牽制射を放とうと機体を操作するも、弾が発射されない。
「弾切れか!」
ジンに重斬刀を引き抜かせる。シグーが接近戦を挑んでくれるかは怪しかったが、無いよりはマシだ。
射撃体勢に入るシグーに、重斬刀を盾の様にして構えるジン。
シグーがジンに照準を合わせた、その時だった。
人工の大地が、今度は内側へと爆発する。巨大な爆発は、今までの物とは桁違いだ。
『今度は何っ!?』
トレーラーの中からノーマルスーツを引っ張り出していたマリューが悲鳴を上げる。
彼女以外のその場にいた全員がも呆気に取られた。
そんな一行の前に姿を現したのは巨大な白い戦艦だった。
『アークエンジェル!?』
爆炎の中から悠然と姿を現した巨体は、直ぐ様機関砲――イーゲルシュテルンを展開、
シグーに弾丸の嵐をお見舞いする。
シグーは形勢が不利だと判断したのか、あっさりと撤退した。

 

「コロニーの中に・・・戦艦?」

 

刹那はただ、この異常な状況に巻き込まれていく自分を感じていた。

 

これが、対話の始まりであるとも知らずに。

 
 

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