機動戦士ガンダム00 C.E.71_第87話

Last-modified: 2013-03-25 (月) 22:08:36
 

海に落ちたイザークを母艦に任せ、アスラン達は展開された煙幕の中へ突入する。
スモークディスチャージャーが、戦艦が展開した大規模な物であるといっても、
投射されてからそう時間が経った訳では無い。
強引に突っ込めば、煙幕の部分は直ぐに抜けられる。アスランはそう踏んだのだ。
実際、その認識に間違いは無い。
想定外だったのは、視界の利かない煙幕の中でも敵が攻撃してくる事だった。
「っ!?散開!」
煙幕の向こう、アークエンジェルのいる方向が光る。
次の瞬間、アグニの砲撃がザラ隊に襲い掛かった。
煙幕が裂け一瞬見えた、巨砲を構えるストライクに顔を曇らせるアスラン。
その間にも一射二射と続き、ザラ隊は回避を強いられる。
『どういう事だ!?さっきの蒼い奴といい、なんで俺達の位置が分かる?』
『謎解きはいい、もうすぐ煙幕を抜けるぞ!』
ディアッカのもっともな疑問を遮りミゲルが言うと、
彼の言う通り煙幕は途切れ、白亜の船体が目の前に現れた。
甲板にはストライク、周囲にはイザークのグゥルを奪ったジンと、
スカイグラスパーが二機。
「ミゲルは蒼い奴、ディアッカとニコルは戦闘機を相手にしながら脚付きを攻撃。
ストライクは俺がやる!」
それらを瞬間的に把握したアスランは各員に指示を出し、イージスを先行させた。

 
 

こちらに狙いを定めたイージスがストライクへ迫る。
アークエンジェルとの接続で得たエネルギーと、
スカイグラスパーの観測を得たアグニの砲撃が余程脅威だったのだろう。
確かに接近されてしまえばアグニは無用の長物になる為、
接近戦を挑んできたイージスの判断は正しい。
だがキラも他の隊員もアグニに拘る気はサラサラ無かった。
「ムウさん、ストライカーを交換します!」
『了解だ。曹長、トールのフォロー頼む』
『了解』
ビームライフルとアグニ、コンボウェポンによる景気の良い弾幕を張ると、
その隙にスカイグラスパー一号機がストライクの後方へと回り込む。
『プレゼントを落とすなよ!』
「分かってます!」
ストライクはアグニとランチャーストライカーを排除すると、
スカイグラスパーと位置を合わせる為にスラスターを吹かした。
飛び上がったストライク目掛けて、
一号機が装備していたエールストライカーが投射される。
機械の補助があるとはいえ、ぶっつけ本番の空中換装の難易度は高い。
ストライクが無防備になるその隙をイージスが逃す筈も無く、
モニターにはビームライフルを構えた赤い機体が映った。
「くっ!」
エールにはシールドが付いているが、換装がギリギリ間に合わない。
一度中断して回避するか。
キラがそう判断しようとした時、引き金を引こうとするイージスにミサイルが着弾した。
『キラ!』
「トール!?」
キラが振り返ると、そこにはイージスへ攻撃を仕掛けるスカイグラスパー二号機がいた。
友人の危機に駆け付けたトールは、有りっ丈のミサイルと
ビームをイージスに叩き込み、一撃離脱を狙う。
しかし攻撃はシールドによって全て防がれ、イージスの照準がトールに向かう。
後方からもブリッツが迫った。
『うわわわわっ!?』
新型二機に挟まれる形となったトールは、碌な回避機動も取れない。
絶対絶命かと思われた時、無線から静かな刹那の声が響いた。
『ブリッツは俺がやる。キラはイージスを』
その言葉に促されるまま、装備したばかりのビームライフルがイージスに向けて火を吹く。
当たりこそしなかったものの、イージスに回避機動を取らせる事に成功した。
後方では、ブリッツにジンオーガーが襲い掛かっている。
「トール、早く離脱するんだ!」
『わっ分かった!』
追手がいなくなったトールは、そのままバスターに苦戦するムウの援護へ向かった。

 

トールが離脱した事を見届けた刹那はブリッツのグレイプニールを躱し、
一瞬の内に格闘戦の間合いに入る。
肩にマウントしたグランドスラムを抜き、ブリッツに向けて一閃。
しかしそれは紙一重で回避されてしまう。反撃に移ろうとするブリッツ。
だがそれは叶わなかった。
ブリッツの股の下、グゥルのモノアイにアーマーシュナイダーが突き刺さっていたのだ。
グランドスラムはブラフ。本命は、それと同時に投擲されたアーマーシュナイダーだった。
制御を失ったグゥルがブリッツの重さに耐え切れず落下していった。

 

「くっ、ニコル・・・!」
墜落していくブリッツを横目に、ストライクの射撃を躱すアスラン。
イザークに続きニコルも脱落し、既に部隊の戦力は半減だ。
ディアッカが足止めをしてくれている分脚付きの足は遅くなったが、連合の勢力圏も近い。
ここは引いて立て直すべきか。ここで退けば、後一回分仕掛ける時間が残る筈だ。
脱落した二機も海に落ちただけなのだから復帰は容易い。
理性的に考えれば、妥当な判断の筈だ。だが―――
「キラ・・・!」
今相対しているストライクの射撃の精度は以前とは比べ物にならない。
躱し切れない物はシールドで防いでいるが、その尽くがコクピットを狙った物だ。
一発一発に込められた殺意が、オーブで対面したキラと重なる。
本当にお前は俺を殺すのか?本当に俺はお前を殺さなければならないのか?
現実的に考えれば既に答えの出ている問い。しかし認められない答え。
そんな永久に解けない思考が、アスランに撤退の指示を出させない。
『アスラン、このままじゃ埒が明かないぞ!』
ディアッカの苛立った声にハッとする。部隊の機体ステータスが出ている副モニターには、
バスターもディンも、残弾が残り少ない事を示していた。
「・・・・・・っ!」
局面を打開する為にも、自分の相手にしているストライクを戦闘不能に追い込まねば。
その焦燥が、アスランにいままで取るのを躊躇していた戦術を実行させる。
イージスをアークエンジェルに接近させ、ブリッジ目掛けて数発ビームライフルを撃つ。
勿論艦橋周辺は弾幕が濃く、照準を合わせる時間は無いので適当だ。
それでもその内の一発は艦橋の根本を掠る。
すると、アークエンジェル甲板上からイージスと射撃戦を演じていたストライクが、
スラスターを吹かして飛び上がってくきた。
あまりイージスに接近されてはアークエンジェルが危険と判断したのだ。
しかし、それこそがアスランの狙いだ。機動性が高いとは言っても、
これまでの戦いから予測されるエールの出力では、跳ぶ事は出来ても飛ぶ事は出来ない。
グゥルを履いているイージスよりも空中での自由度は下がる。
「かかったな」
先程より圧倒的に狙いやすいストライクの動きに、空かさずアスランは照準を合わせた。
健気にシールドを構えるストライクだが、
空中で機体を制御する関係上、どうしても防げない箇所がある。
それが頭部と右腕、そして脚部だ。
最初の一射でシールドの位置を誘導して、素早く三点射、それで終わりだ。
墜落した所を回収すれば、キラも殺さずに済む。まずゆっくりとコクピットに一射。
予測通りの位置にシールドが構えられる。
「これで終わりだ!」
最速の連射速度で、アスランはトリガーを引いた。

 

イージスの第一射をシールドで受けた瞬間、やられる、キラはそう直感した。
寸分の狂い無く、銃口を微調整するイージス。
自分のせいで、バスターにアークエンジェルのエンジンを撃ち抜かれた事が頭を過り、
アークエンジェルの被弾にならない様にと跳び上がったのが間違いだったか。
アスランの思考はある程度読めていた。それでも反射的に体は動き、
反応出来ない速度での早撃ちがキラを襲う。二射目は頭部―――。
そう覚悟した瞬間、ミニターに蒼い背中が大写しになった。
『下がれキラ』
「カッカマルさん!?」
ギリギリのタイミングで射線に割り込んで来たのは刹那だった。

 

イージスの射撃をシールドで防ぎ、イージスに斬りかかる。
グランドスラムの一撃を紙一重で回避したイージスだが、
返す二刀目で突き出していたビームライフルを破壊される。
『バスターもディンも、積極的な攻撃をしてこなくなってきている。残弾が少ない証拠だ』
「なら、イージスも・・・!」
僚機の継戦能力が落ちているのなら、イージスのバッテリー残量も少ない筈だ。
しかもビームライフルを失った今、戦闘力は大幅に下がっている。
イージスは、アスランは最も危険な敵だ。ここで仕留めなければ。
キラはそう判断し、エールのスラスターを更に吹かした。
『キラ!』
「カマルさんはディンを、コイツは僕が!」
刹那の制止も耳に入らない。限界出力に達したエールが悲鳴を上げた。
しかしその空中での二段ジャンプは、イージスにとっても予想外だった。
「今度は僕の番だ!」
しっかり機体はガードしているイージスだが、足元のグゥルがお留守だ。
キラはビームライフルを二射、二本の光がグゥルを射ぬいた。
空中に放り出されたイージスは、それでも諦めず変形、
スキュラでストライクを狙ってくる。
しかし元々宇宙用の形態である為、砲撃はまるで当たらない。
「トール、ソードストライカー!」
『おっおう!』
落下して行くイージスを追う様にストライクも降下していく。
先程無理矢理スラスターを吹かしたせいで完全に死んだエールを切り離し、
トールにソードを要請。
降ってきたストライカーを受け取ると、海面に突き出た岩礁に着地した。
綺麗に着地したストライクに対して、
無理に変形して姿勢制御を怠ったイージスは激しく岩盤に叩き付けられた。
普通なら大破している所だが、PS装甲のお蔭で機体は無傷だ。
しかし、その衝撃でPS装甲がダウンしたのか、機体の色が赤から灰色に変わって行く。
「・・・アスラン」
他の敵は刹那とムウが相手をしている。加えてイージスはバッテリー切れ。
この上なく有利な一対一だ。
キラは拒絶する様に強張った指を無視し、シュベルトゲベールをイージスに向ける。
「これで!」
昔親友だったとしても、今目の前にいる男は
故郷を破壊し、フレイの父親を殺し、尚友人の命を狙う者だ。生かしてはおけない。
チリチリと頭を走る鈍痛を無視して、キラはシュベルトゲベールを振り被った。
その直後、キラの脳量子波が狭い岩礁内に新しい思惟を捉えた。
「なに・・・!」
それは眩い光の様な強く純粋な意志。
しかし、戦場ではこの上無く見つけ易い恰好の標的だった。
姿が見えなくとも、それを辿ればどこにいるかなど手に取る様に分かる。
「ブリッツか!」
ミラージュコロイドを展開し、真後ろで
ビームライフルを構えるブリッツの動きが手に取る様に分かった。
予想通り、ビームが真後ろから発射される。
キラはそれを紙一重で躱すと、その勢いのままパンツァーアイゼンを射出。
姿の見えないブリッツを見事に捉えた。
「捕まえた・・・」
素早く動く物体に取付かれて、ブリッツが纏っていたミラージュコロイドが霧散する。
姿を現したブリッツを睨み、キラは地の底から響く様な声で呟いた。
シュベルトゲベールを構え直し、
身動きの取れないブリッツに向かってストライクが走り出す。
モニターの中で急速に大きくなるブリッツにキラの目が見開かれた。
「まずは・・・一機!」
キラの怒りが乗り移ったストライクが、ブリッツの懐に入る。
頭痛が酷くなるのを感じながらも、キラは操縦を狂わせない。
疾駆する勢いをそのまま、ストライクの両手でしっかりと握られたシュベルトゲベールが
苛立たしく光る思惟に向けて振り抜かれた。

 
 

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