機動戦士ガンダムSEED True Destiny Final Plus

Last-modified: 2007-11-17 (土) 19:16:20

 ドムッ



 歪んだ、アークエンジェルの発艦デッキのハッチが、爆破されて開放される。

 ノーマルスーツ姿のクルーは、一部が突撃銃を構え、残りは拳銃を手に飛び出してくる。単

なる避難ではない。ネオ・ジェネシスの発射機構を完全に破壊する事が目的だった。

 しかし、R.ZAFTの警備兵も負けてはいない。丸太のようなケーブルの這う櫓に立ちはだか

り、アサルトライフルで応戦してくる。員数はアークエンジェルクルーの方が多かったが、ライ

フルの数はR.ZAFT警備兵のほうが充実していた。

 破壊したアークエンジェルのハッチの残骸を盾代わりに、ライフルの応酬が始まる。

 いまだ隠されていたのか、だいぶ旧型のジンが、アプリリウス4の外板をこじ開けるようにし

て現れる。身動きの取れなくなったアークエンジェルに接近し、バルルス・ビームカノンを放っ

てくる。

 いまだ動力の停止していないアークエンジェルは2機のジンのビームカノンをラミネート装甲

で凌ぐ。しかし、回避することもかなわず、近接火器で牽制するのが精一杯の状況で、ダメー

ジは蓄積されていく。

「左メインスラスター付近で火災発生!」

 ミリアリアの声。アークエンジェルの状況は刻々と悪化して行った。

 推進剤が漏れ出し、火災の炎に炙られてさらに高熱を発し、それがさらに火災のエリアを広

げていく。

『お待たせしました!』

 真っ先に、ピンク色のグフ・イグナイテッドが駆けつけたかと思うと、ジンに振り返ることすら

許さず、1機をテンペストで貫き、もう1機をスレイヤーウィップで捉え、アプリリウス4の外壁に

叩きつける。

 さらに、コズミックと、シホ仕様のイングラムの姿が見える。コズミックは接近しながらシュワ

ルベと分離すると、イングラムとともに振り返りざまにビームライフルを射撃。後ろに迫ってい

たジグー2機が散華した。

 そしてその背後に、ミネルバの威容が目前に迫ってきていた。降伏勧告を発している。

「だめです、火災、消し止められません!」

 アークエンジェルの、左右のスラスター部から、赤い炎がちろちろと不気味に吹き出し始め

ていた。

「消火作業放棄! 総員退艦を下令します! ブリッジ切り離し準備!」

 ことここに至って、マリューはそれを下した。

「外で戦っている者も、急ぎ離脱するよう伝えなさい!」

 外では、ピンクグフがR.ZAFTの兵に向かってにらみを効かしている。降伏が伝えられてい

るのか、彼らは銃口を下ろし、アークエンジェルクルーの作業の妨害をしない。

 爆破されたハッチからランチが下ろされてくる。まだアークエンジェルに残っていた者、外で

銃撃戦を繰り広げていた者も、ランチにしがみつくように乗っていく。

 アークエンジェルは、既に断末魔の状況だった。火炎は後部全体を包み、さらには全部の

発艦デッキにまで伸び始めていた。

 最後のランチが飛び上がるのを見ると、マリューは幾分、悲しげな口調で下令する。

「ブリッジ、分離」

 ゴウン、と鈍い音がして、ブリッジはシャトルの形状に切り離される。

 さらに、ランチやブリッジを護衛するように、ピンクグフがアプリリウス4から飛び上がる。コズ

ミックや、シホのイングラム、さらにインパルスやミレッタのイングラムも駆けつけ、ミネルバへ

と向かうランチやブリッジの四方を固めた。

「ああ……」

 ミリアリア、ノイマン、チャンドラ。アークエンジェルと生死をともにし続けてきたブリッジクルー

たちが、ガラス窓からアークエンジェルを見下ろし、切なげな声を出す。

 堅牢に作られた、MS新機関用燃料──過酸化水素水タンク、サーバーからも、ついに漏出

が始まった。過酸化水素水はそれ自体は可燃性ではなく、濃度30%未満の薄いものをオキシ

ドールとも呼び消毒用として用いられる身近な存在だが、本来はお世辞にも安定した物質で

はない。非核・熱機関──低温ヴァルター・エンジンの反応剤として使われるそれは、濃度

80%以上であり、人がかぶれば解けてしまうような剣呑な代物だった。

 熱を浴びて大量の酸素と水蒸気に分離し、火勢を強め、また圧力で隔壁を吹き飛ばした。

あるいは、熱でコートのはがれた内部構造剤に被り、酸化させて熱を発しながらボロボロにし

ていく。

 天使湯も爆発によって内装が崩れ落ち、そこへ炎が回ってきた。この時には、アークエンジ

ェルの構造自体が、もはや強度を保っておられず、加速度的に崩壊していく。

「ああ……アークエンジェルが、沈む……」

 全身を爆発と炎に絡めとられながら、2つの戦争を終結に導いた武勲艦、アークエンジェル

は、鋼の残骸となり、ついにその生涯を終えた。

 まるでそれは、殺戮劇に彩られた、このひとつの時代の終結を予期しているようであった。





機動戦士ガンダムSEED True Destiny

 Final Plus ~作っていく未来~





『今回のプラントにおける、R.ZAFTと呼ばれる勢力におけるクーデターは、“正規の”ZAFTが、

わが軍の協力の下に鎮圧したことを確認、ここに発表する』

 テレビ画面の中。

 カガリが宣言するように言った。そして、カガリはカメラの前で身体を横にするように、その

場を空ける。そのカガリに、軽く礼をして、現れた。

『先に“ラクス・クライン”氏によって宣言されましたとおり、わたくし、ギルバート・デュランダル、

プラント最高評議会議長は、ただいまを以って職務に復帰することを宣言いたします。そして

まず、その最初の仕事として、R.ZAFTとの激しい戦闘を乗り越え、プラントと地球に再び平和

を取り戻してくれた我がZAFTの諸君と、ともに戦っていただきましたオーブ軍の将兵の方々

に、ここに感謝の言葉を述べるしだいであります』

 デュランダルはにこやかだった口元を、引き締める。

『コーディネィターには未来がない、確かにそう言った説も流れてはおります。それから生じる

強迫観念が、かれらR.ZAFTをこのような凶行に走らせたのでしょう。本音を言えば、わたくし

本人も、その懸念を拭えずにはいられない。しかし、皆さん、よく考えていただきたい。コーデ

ィネィターと、ナチュラルとに、どれだけの差があるというのでしょうか。コーディネィターといえ

ども適切な訓練を受けずには優秀な人材足りえず、またナチュラルであっても才能を遺憾なく

発揮し非凡な功績を残す者もいます。私たちは、コーディネィター、ナチュラルという以前に、

人間なのです。地球に生まれた人類なのです。全ての人がナチュラルに帰するのか、それと

もコーディネィターの存在は続くのか、それは未来になってみないと解りません。しかし、ただ

ひとつだけ言えることがある。今この時、これ以上の戦いは、人の未来そのものを消す愚行

であると。またこの先、人間が永久に戦争のない世界をつかみ取れるかは、解りません。わ

たくしのデスティニー・プランも、絶対ではないでしょう。しかし、ここで人間の時代をとめてしま

うわけには行きません。いかなる試行錯誤を繰り返してでも、我々は平和を維持する努力を、

未来を繋ぐ為の努力をしなければならないのです』







Jan.1.CE74



 月面都市コペルニクスにおいて主要各国の政府首脳が集い、エイプリル・フール・クライシ

ス以降継続していた各戦闘行為を漸次停止し、国境線を画定、和平へのプロセスを取り決め

た“コペルニクス条約”を制定。

 ユニウス条約の反省から、和平に関する協定と、軍事に関する協定は、おのおの独立した

条文とされた。

 これにより、西ユーラシア連邦は正式に独立が確定。大西洋連邦の軍事力が大きく後退し

た今、オーブとプラントの後押しに、旧ユーラシア連邦はその条件を呑まざるを得なくなった。



 しかし、デュランダル達の願いむなしく、激動の時代はまだ続くことになる…………









 2年後



「たっだいまー、キラー、遅くなっちゃってごめん」

 底抜けに明るいミーアの声。

 アプリリウス1の、政府中枢部からは離れた、マンションの立ち並ぶ住居区画。

 高級マンションの1室が、ミーアの住居なのだが────

「腹減ったー、早くメシー」

 と、これはキラの声ではない。

「あのねぇ、ちょっとは自分で準備したらどう」

 ミーアの、あまり怒っていないような怒り顔に、悪びれもせず言い返す。

「私がやるとさあ、その後が大変だって、この前言ってたじゃないか」

 のたまう“自称”家事手伝い、カガリ・ヤマト。



 コペルニクス条約締結からわずか半月後、オーブで、軍民一体になってのクーデターが勃

発した。



 ────世界再構築戦争以前、オーブは、首長制よりも成熟した、共和制の政府を持つい

くつかの諸島国家だった。世界再構築戦争中、旧アメリカ合衆国からの庇護がなくなったこ

れらの国家は崩壊し、無政府状態が続いていた。そこへ、難民として入り込んできた“自称”

日本人達が、軍閥を作って首長家を名乗り、大国に対抗する為と言って連合首長国という世

にも奇妙な政治体系を作り出したのだ。

 オーブ軍が数や質の上では精強といわれながら、実際に本土防衛線になるととたんに弱く

なったのも、これが原因である。統一された国土という概念が浅すぎるのだ。

 そして、大西洋連邦をはじめとする旧地球連合の国家が衰退し、プラントもR.ZAFTのクー

デターによって地上に干渉するどころではない状況に陥り、オーブが実質的に世界一の軍事

大国となった────ことが、皮肉にも、民衆の不満が爆発するトリガーになった。

 旧首長国は漸次解体され、支配層は追放されるかまたは粛清された。広場では、ウズミの

写真や首長国の国旗が焼かれる光景が目にされた。

 そして、オーブは連邦共和制への以降を宣言した。その政府中枢は、オーブを形成している

島々の、先住民達が占めていた。

 しかし、旧首長家も、全てが嫌われていたわけではない。その最たる象徴が、オーブ連邦

共和国暫定初代大統領となった、ロンド・ミナ・サハクである。



 カガリは処刑は免れた。皮肉なことに、ウズミの血族ではないということが、情状の理由だっ

た。国外追放の身となり、アテにできるといえば、皮肉にもデュランダルとミーアのプラント勢

力。

 デュランダルは、一度は敵対した相手であるにもかかわらず、渋ることもなく、カガリにプラ

ントの市民権を与えた。

 そして、カガリは、療養のためにアプリリウスのミーアの元に移住した、キラのところへ転が

り込んできたのである。





「キラー?」

 ミーアはキラの部屋を覗き込む。キラは、パソコンの前にいた。

「あ、ミーア、お帰りなさい」

 キラは振り返ると、にこやかな笑顔で言う。

「ネットサーフィン? あまりやり過ぎないようにね?」

「SOHOで……何かできないかと思ったんだけどね。うん、無理はしていないよ」

 一見、健常者に見えるほどにまで回復したキラだが、その症状は根深かった。

 時折、脳裏へのフラッシュバックとともに、心不全に似た身体的症状を起こした。こうなると、

動かすことができない。酸素吸入させ、回復しないようであれば救急医療の手配が必要だっ

た。

 クーデターの勃発したオーブに置いておくことなどできず、ミーアはキラをプラントに来させ、

同居しながら治療にあたらせた。

 それでもキラは、ヤキン・ドゥーエ戦後とは異なり、積極的に引きこもろうとはしなかった。移

動するには車椅子が欠かせないような状況だったが、ミーアもちょくちょくオフを確保しては、

キラをつれて遊びに出かけた。

 一方のミーアの方は、自分の仕事を続けていた。ラクス・クラインの偽者だったことを公表し、

本名に変えてステージに立つようになっても、その人気は衰えるどころか、ますます高まるほ

どだった。

 ただ、政治にはあまり関わらなくなった。時折、私的にデュランダルやその近しい人とやり取

りがあるだけだ。



「でもさ、ミーア」

 パソコンの電源を落としつつ、キラは訊ねる。

「ん、なーに?」

 よほど急いでかえって来たのか、いつものコスチュームにサマーコートを羽織った姿のミー

アは、そのコートを脱いでハンガーにかけつつ、聞き返す。

「何でミーアは、僕と一緒にいてくれるのか、考えちゃってね」

 キラは苦笑しながら聞いて来る。

「そ、そんなのっ!」

 驚いたような、憤ったような声と表情で、ミーアは言い返す。

「あの時のキラ、ほっとけるわけなかったじゃない!」

「でも、ミーアが背負い込むことはなかったんじゃないか、って考えちゃうんだよ。僕、ミーアに

ひどい言葉かけたことだってあるでしょう?」

 キラが自嘲気味に言う。すると、ミーアは、少し落ち込んだように俯く。

「それは、あたしだって……直接キラに、じゃないけど……ひどいこと、したし……うん、いろん

なこと。だから、その罪滅ぼし、ってわけじゃないけど……」

「ミーア……」



 キラも哀しげな表情をする。

「でも、そんなことで僕がミーアを縛り付けちゃいけないよ……」

 キラがそう言うと、突然、ミーアはつっと顔を上げる。

 ちゅっ

 キラの頬に、ミーアの軽いキス。

「────なんてね」

 おどけた様な笑顔。

「言ったことは嘘じゃないけど、キラと一緒にいるの、今、結構楽しいから」

 バタン、とドアを閉めて出て行くミーア。

 キラは、椅子に座ったまま顔を真っ赤にしていた。

「ご……ごめん、ラクス」



「さーてと、早く晩御飯の支度しなくっちゃ、ぁと」

 ミーアが台所に向かおうとすると、インターホンが鳴った。

「はーい」

 少し困ったような表情をしながら端末を操作すると、モニターに、ひと組の男女の姿が写し

出された。

 バルドフェルドと……否、この表現は少し紛らわしくなった。

『こんばんは~』

「アンディさんに、マリューさん」

 ミーアは玄関に向かうと、扉を開け、2人を招き入れる。リビングでグダグダしていたカガリも、

出てきた。

 マリューは土鍋を持っている。まだ中身はあったかそうだ。

「今日打ち合わせで遅くなるって言ってたでしょう? ご飯、これからじゃ大変かと思って、一

緒にどう?」

 笑顔で言う、“マリュー・バルトフェルド”。

 カガリほど厳しくはないにせよ、やはりオーブにい辛くなったマリューは、プラント籍に復帰し

たアンドリュー・バルトフェルドとともに、アプリリウスに移住。それを契機に、籍を入れた。

 熱烈な恋愛という感じではないものの、息の合った夫婦のようなカップル振りを振りまいて

いる2人だった。

「わぁ、ありがとうございます! ささ、あがってください」

「それに、俺の特製ブレンドも久々に……」

「それは要らん!」

 3人の声が、見事に唱和した。







 同じ頃──アーモリー1、ZAFT官舎街。



 暗い部屋に、つけっぱなしにされたテレビが、ニュースを伝えている。

「結局、戦争を完全になくすのは、無理なのかな」

 裸のシンは、ベッドの上でそう、呟いた。

「多分……人間も動物だから。生存権の確保のためには、戦わざるを得ないのよ」

 シンの眼下にいる彼女が、そう答える。

 ニュースの内容は、極東地域で起こっている小規模な戦争だった。

 オーブのクーデターは、他の国家にも少なからず影響を与えた。

 イギリスが大西洋連邦を離脱し、西ユーラシア連邦に所属することとなった。これにより、西

ユーラシアの軍事力、経済基盤は一気に強化された。赤道連合はタイ王国が離脱を宣言、同

様にインドネシアも離脱、前者は完全独立を、後者は汎ムスリム会議参加国となった。有力

な2カ国が抜けたことにより、赤道連合は瓦解した。

 そして、東アジア共和国。日本が分離独立を宣言すると、これに続いて台湾が日本の一部

として分離することを宣言した。東アジア共和国は、第二次世界大戦よりもさらに前、1910年

以前の姿に戻ったのである。しかし、一部だけそれがなされていない。ユーラシア連邦に編入

された北海道だ。

 北海道の奪還のため、新生日本軍は侵攻を開始。一方、連邦自体の崩壊を恐れるユーラ

シア連邦も、激しく抵抗している。

 今流れていたニュースが、それだ。

 このニュースが、プラントで重要視されることには理由がある。表面上中立を宣言したプラン

トだが、実は、新生日本軍にZAFTから義勇兵を──装備品のMSとともに──送り込んでい

た。

「それよりシン……できたらだけど……もう少し欲しいの」

 シンの腕の中で、彼女────シホ・ハーネンフースは、艶かしい声を出した。

「ああ、俺も欲しい」

 シンはシホの言葉に答え、熱く抱く。

 シホはあの戦闘の後、性としての男を求めるようになり、そしてそれに半ば流されるように

答えたシンと、半同棲の爛れた私生活を送るようになった。

 傷の舐めあい。シンは頭ではそう理解していたが、離れることができそうになかった。

「シホが、そんな可愛らしいところを俺に見せ付けるから悪いんだ」

「バカ…………でも、シンならいい。好きよ」

 シホはシンに抱きつき返していた。



 一方のディアッカといえば、軍人をすっぱりと辞めていた。

 オーブの、海水浴場の浜辺に近い通りで、定食屋を開いて、そこそこ繁盛させている。

 店主の恋人であるというウェイトレスも美人と噂だが、そのウェイトレスに厨房は間違っても

任せられないのが唯一の悩みの種だとか。







「あー、疲れた……」

 ミレッタは、オーブ連邦共和国軍に改変後も、縮小された治安部隊に復帰し、士官として多

忙な日々を送っている。

「お帰り、メシ、できてるぜ」

 アロハシャツの上にエプロンという格好をした、顔に傷跡を持つ美丈夫が、笑顔を見せる。

「先に御風呂入りたーい……」

 玄関先で仰向けに転がり、駄々をこねるミレッタ。

「はいはい……それにしても、最近、だいぶ疲れ気味だな、大丈夫か?」

「“ターミナル”の内定がね、進んでるんだ。それで、資料漬けなの~」

「へいへい、士官様は大変ですね、こちとらヒモは、家事でもてなすのが精一杯です」

 言いながら、ネオ・ロアノークは、苦笑しつつ、新妻ミレッタ・ロアノークのために、いそいそと

風呂場の様子を伺いに行くのであった。





 かつてシーゲルが構築し、ラクスが強化した、軍閥組織にまで発展していた“ターミナル”、

“ファクトリー”は、プラントとオーブの共同捜査により、裏ロゴスという烙印が押された。関わり

が深いとされたマルキオ導師もオーブ警察によって逮捕され、終身禁固刑が言い渡されたの

である。





「みんなー、今日は楽しんでくれたかなー!?」

 ステージで踊り、歌い、皆を沸かせたミーアが、ポーズを決めながら言う。

「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 怒涛の波のような歓声が、ホールを満たす。

「それじゃあ最後に、みんなに、あたしが書いた新しい曲を、聴いてみてもらいたいと思いまー

す!」

 そう言いながら、ミーアは、アコースティックギターにピックアップを取り付けた所謂エレアコ

を、スタッフから受け取る。

 軽く位置を調整した後、バックバンドのドラムがスティックでテンポ取りをし、エレキギターと

アコースティックギターの唱和によるイントロが流れる。

 その曲は、ラクスのような歌い込むものとも、今までミーアがしてきたアップテンポのポップス

とも異なる。

 会場は静まる。しかし、盛り下がっているのではない。皆、歌に聞き惚れ、静かに熱気を放

っていた。

 それは、アコースティックギターの調べに、乗せて流すバラード。





ミーアは今、自分の歌を歌っていた────







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