――C・E70年6月2日 10:00――
「マフティー・エリン! Ξガンダム出るぞ!!」
俺の気合と共に『ガンダム』の全システムが俺自身と連動し、コンマ1ミクロンの狂いや遅れも出さずにその巨体は鮮やかに動き始める。
そして、『俺』の背後のメインスラスターが火を吐いた。
ヴォォォォォォォォォッ!!
――『サイコミュ・システム』と完全に連動した『俺』は『Ξガンダム』であり、『Ξガンダム』は『俺自身』となる。
ギュィィッィィィィン!!! ガクンッ!!
カタパルトから射出される際の、急加速のGを体中に受けながら、
――『俺』は『カーゴ・ピサ』からまっしぐらに射出される!
Ξガンダムの双眸が鮮やかな閃光を放つ。
これが俺の眼だ!!
フォオォォォ! フォオォォォン!
ガンダムが放つ息吹は、俺の息吹であり、
ウィィィィィィンッ! ウィィィィィッン!!
ガンダムの膨大なエナジーを生み出す心臓である『核融合炉』の鼓動は、
今や、俺の鼓動の脈動となる。
『俺』は隕石に偽装した『カーゴ・ピサ』から、まっしぐらに『エンディミオン・クレーター』に向かって落ちてゆく――
カーゴからの射出の衝撃とそれに伴う月の重力に引かれる自由落下を受けながら、
『俺』は更に加速を重ねる。
ウィィィィィン!
『Ξガンダム』の特徴的な鋭角の二箇所のチェスト・パーツが変形する。
ブォォォォォン! バシュッ! ガシャン!!
そして、側面から突き出るかのような両肩のショルダー・パーツが前後へと開放されてゆく。
『俺』が……『Ξガンダム』は、高速飛行形態へとチェンジする。
前面にバリヤーが展開され、その鮮やかな光が『俺』を包み込んだ。
そして、機体全体が白銀の光に包みこまれる。
その白く放つ光の輝きは尾を引き、あたかも自分自身が白く輝く『彗星』と化したかのようだ。
――そして『俺』は無重力の月への大舞台へと踊り出た。
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――C・E70年6月2日 10:10――――
地球連合軍 『エンディミオン・クレーター』資源供給基地・管制室――
戦闘が開始され、駐屯している第3艦隊が次々と出撃してゆく中で
基地内は、戦闘への熱狂と狂乱とで混沌とした状態となっていた。
今、現在オペレーターである通信下士官達は、戦況を有利に導く為に情報分析を懸命に行っている最中である。
ある下士官がふと気が付くと基地司令の席にはそこにいるべき筈の司令官の姿が無く、
何故か、代わりに副司令官である准将が指揮を執っていた。
だが、突然異変が発生した為に誰もがその重要かつ些細な疑問を指摘する者がいなかったのだ。
そして他のオペレーター達は、第3艦隊所属の130M級護衛艦である通称ドレイク級が1隻遅れて出撃しているところに注意を引いていた。
「あれ……?」
急に一人のオペレーターが声を不振な声を上げた。
隣にいた同僚はその声を聞き咎め、
「うん? どうした?敵か?」
だが、それに答えたオペレーターは意味不明の言葉を同僚に返すだけだった。
「そ……それが、通信機器が突然、一斉に不備に……」
「なんだと?」
慌てて、彼は自分が担当していたオペレーション・システムを操作するとこちらも一部通信エラーが発生しシステムが正常に稼動しなくなった。
「俺もだ。おかしいな? そちらのレーザー通信は、どうなんだ?!」
隣の別のオペレーターにも声を掛ける。
「そ……それが、こちらも……」
その時、突然……
「うわぁぁぁぁっ!!」
ズッドドッードドドォォドォォン!!!! ドッカァァァァァァンン!!
猛烈な振動と破砕音の為に基地全体が震撼する!!
「なっ……何だ!! 何が起きた!! 状況はどうなっているのだ!!!」
副指令の悲鳴が室内を木霊し、更に周りにもその動揺が伝染する。
「わかりません!! これは……何だ?!」
基地司令から突然緊急連絡が入る。
それに答えようとするオペレーター。
『何事だ!!』
「わかりません!! 突然、つうし――!!
ウぁぁ…!ガァァァっ!!……」
しかし、彼は最後まで答える事が、終に叶わなかった……
――ドガァァァァァァシャァァッーン!! グヮァァッァァーンンン!!
突然、管制室のあちらこちらで激烈な爆発が始まり、
その爆発で生じた破片や爆風で室内中の人や物が吹き飛び
あちこちに千切れ飛んで壁に叩きつけられる。
破片で血達磨になって転がる士官、手足を失いそれを求め全身を朱に染めるオペレーター。
母親や恋人、そして父親を弱々しく呼ぶ声が木魂する。
『母さん……母さん』
『エミリー……』
『お……と……さ……』
『ガハァァァァッ』
飛び出た贓物をかき集めようとして、途端に血反吐を吐き絶命する士官。
……一瞬でこの場はこの世の地獄絵図と化した。
……指揮官卓の前では副指令は立っていた……上半身を失って。
ドォォッォォォッォォン!!
――そして、管制室は、もう一度、激烈な爆風と破片に包み込まれ、断続する振動以外は暗黒へと包まれた……
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――C・E70年6月2日 10:09――――
白く放つ光の輝く閃光の如く『俺』は『エンディミオン・クレーター』に一気に迫る。
資源基地は、クレーターの中心部から円形状に展開している典型的な基地である。
その基地中心上部には開閉式の艦船を基地収納する入り口が存在し、其処をぶち抜いたら『地下発掘所』まで、まっしぐらに到達が可能だということだ。
急速に基地の景観がハッキリをしていく中で俺はある事を思い出していた。
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――出発前のミーティングでの会話を俺は脳裏に浮かべる。
ギルバートやラウ、サラを交えた会話だ。
『――見てくれ。これだよマフティー』
ギルバートは一枚の写真を提示する。その写真を見て横にいるラウも思うところがあるようで、何度か頷いている。
何かの地下施設のようだ何か巨大な円筒状のものが無数に並んでいる。
『こいつは?』
俺は、ギルバートに尋ねると……
『これはサイクロプス・システムです。マフティー」
サラが俺の隣で答えてくれた。
『サイクロプス・システム?』
何のことか俺は分からなかった。ギルバートは一つ頷くと説明を始める。
『……本来は採掘用に、レアメタルの混ざった氷を融解させる為の作業装置であり、その原理はマイクロ波で水を急速に加熱するというものだ。
簡単に言えば、巨大な電子レンジというべきものだよ……」
『それで……?』
俺には話がよく見えない。
ギルバートは真剣なその強い眼差しで俺を凝視する。
『――笑い事ではないのだよマフティー。この説明だけでこの『兵器』恐ろしさがわかるだろう?』
『兵器? どういうことだ? 採掘用の装置だろう?』
ラウが俺とギルバートの話に割り込む。
『わからないかな? こいつは巨大な電子レンジで有効範囲内は『エンディミオン・クレーター』の戦線の全域に及ぶ』
ますますよく分らなくなってきた。俺が首を傾げていると……
それを見た、ギルバートとラウ溜息を吐くと同時に、
顔を見合わせ首を竦めやがった。
ムカッ!と来た俺は二人無視して、
『サラ……説明を頼む』
『はい、マフティー』
『サイクロプス』は本来はレアメタルの混ざった氷を融解させるための装置であり、その原理はマイクロ波で水を急速に加熱するというもの。
……端的に言えば巨大な電子レンジである。
『ここまでの説明はよろしゅうございますね?』
『ああ』
『そして……』
その原理はニュートロンジャマーで範囲を限定されたマイクロ波はその強度を増加させ、有効範囲内にいる生物は体内の水分の沸騰により悉く死に至る。
また、そのときの輻射熱によって装置そのものや設置された建物も破壊する。
モビルスーツなどに積まれている弾薬や推進剤も、水分がわずかでも含まれていると加熱され誘爆を起こすため、
これによってその場にあった兵器の殆どが破壊される。
『なにぃ……? そんなに危険極まりないものなのか!?』
『ええ……ですから……』
現在、攻略を開始しようとしている月面の『エンデュミオンクレーター』にレアメタル採掘用の器材としてその装置は設置されているのだ。
ザフト軍の攻撃を受け敗色が濃厚となった際、連合軍はサイクロプスを暴走させ、ザフトの手に渡る前に採掘施設などを破壊する可能性が極めて高い。
『だが、それは味方を巻き込む事を前提とした下策も下策、最悪の手段だぞ! 仮にも近代の軍だぞ!! そんな事をするのか?』
『やるだろう』
『やるな』
『します』
俺がそれはあり得ないと、否定的見解を出すと同時に、
打ったら響くかのように、三者三様に否定の答えが返ってきやがった。
『何故だ?』
俺は厳しく彼らを問い詰める。本当にこんな蛮行をするのだろうか?
『ブルーコスモスだよ……マフティー』
真摯な声で答えるギルバートのその目は、蒼白く燃えていた。
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ならば、全てを消し去ってやるさ!!
――皆殺しにする!!
「――メガ粒子砲!」
俺の声に反応し『Ξガンダム』は両肩から異形の砲身が伸ばす。
――メガ粒子砲。
『ガンダム』の武装で最大の破壊力を誇る恐るべき兵器だ。
急加速をしながら放つ為に出力を5分の1以下に抑えながら撃たねばならない。
それ程この兵装は途轍もない破壊力を秘めているのだから。
だから、あんな基地の開閉用の遮蔽シャッターごとき紙屑も同然だ。
出力を最小に絞ってでも余裕でブチ抜ける。
「あたれェェェ!!」
ズゴォォォォォォォォォォーーー!!
ガンダムの両肩から膨大な光の奔流が放たれる。
そこを、丁度、運悪く第3艦隊の130M級護衛艦1隻が遅れて出撃しようとしていた。
丁度、ドレイク級は開閉用シャッター入り口付近まで浮上しようとしているところだったのだ。
そこへ膨大なエネルギーをに満ちたメガ粒子のビームの一撃が貫通した。
グワシャァァァァァァァァァァ!!!ドォォォォォォォォォォォォオン!!!
巨大なエネルギーの奔流を受け遮蔽シェッターは消し飛び、出撃しようとしていた130M級護衛艦をあっさりと貫いた。
大規模な爆発が起き、護衛艦はバラバラになりながら落ちてゆく……
『俺』は自分が、開けた『大穴』に一直線に向かう。
その姿を遠くで見れば、光輝く『白い彗星』が、
基地に向かって一直線に落ちてゆく様に見えるであろう――