機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第38話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:24:39

――ダダダッ!ダダッ!ダァッン!!!

4基の有線誘導式兵装、『ガンバレル』一番砲台に、
内蔵されている2門の機関砲が火を噴いた!

射線上に発射された光弾の軌跡が描かれるてゆく!

宇宙空間で大きく螺旋状の弧を描き漂う、この樽型の特殊兵装は、本体から切り離し、
有線誘導によって、それぞれが、この虚空で全く別の動作をする事が可能である。

そして、オレが、狙いを定めた『ジン』への、アウトレンジからの攻撃を可能とするのだ。
だが……

――ドドドッ!ドドッ!! ドォォン!!

オレが放った会心の一撃は分厚いシールドによって防がれちまう!

完全に死角を衝いたその攻撃は、別の角度のレンジから飛び出して来やがった
このもう一体の『ジン』によって完全に防がれてしまったのだ!!

「畜生ぉぉ!!」

狭いコックピット内で、オレは罵り声を上げた。
それが、自分か敵だかは分からない。

――ダダッダ!!ダダダッ!

鋭い、射撃が返されて来やがった!

もう一体の『ジン』がシールドで防御している僅かな間に、
今までオレが狙っていたはずの『ジン』は、直ぐに体勢を立て直すと、
オレのメビウス<ゼロ>に向って精密な射撃を掛けて来やがったのだ!!

――なろうぅ!

「――うぉぉ!?」

オレは絶叫を上げながら、辛うじて操縦桿を思いっきり、引き上げ、
ブースト・ペダルを踏みしめた!
メビウス<ゼロ>の機体の先端が急激に上がり、
背部メインブースターが、緊急回避行動に反応し大きく、唸り声を起てる!

辛うじて、機体は急上昇に成功し、MS用の馬鹿でかいアサルトライフルの精密な射撃は、
機体先端部分を狙われたのが幸いしたのだろうか?
オレは辛うじて避ける事に成功したのだ!

そう、艦載用中口径砲並みにスケールアップされたその銃口は、
モビルアーマー乗りの恐怖の象徴でもあるのだ。

――クソッたれ!!一機も仕留められだとぉ!?

オレの心を焦りと恐怖が蔓延し始める。

そう、今の今まで、スコアを一つも増やす事が出来ないのだ!
このオレが……だ!

「――何だ!?何が起きてやがる!!」

思わず声に出しながら、オレは混乱の極致にあった。
ドックファイトに突入して結構、経つはずなんだ……

―-このオレが、一機も撃墜(お)とせないなんて……!!
――こいつは一体どういうことなんだっ!!
――それは、『ザフト』MS部隊に遭遇する、僅か前の事である。

 突然、エンディミオン基地から火柱が上がったかと思えば、
その中からおかしな物が飛び出てきやがったのだ!

『そいつ』は強烈な光りを放ちながら、艦隊の艦列に突っ込むやがった。
そして、次の瞬間にネルソン級(250m級宇宙戦艦)やドレイク級(130m級護衛艦)が、
それぞれ爆散し、粉々に砕け散ってゆくのだった――

「――冗談だろ……マジかよ?」

オレは、狭いコックピット内で、室温が急激に落ちてゆくような、
そんな嫌な感覚に包まれていた。

冷や汗が背中を伝わり、パイロットスーツの下のシャツを濡らしてゆく。
今までの戦いでかつて味わった事のない感覚だ。
――あいつは一体、何なんだ……?

――ピッピッピ!!

単調な音がコックピット内に響き渡り、周りを見渡すと、左横スクリーンに、
メビウス<ゼロ>が並列して並んでいるのがわかる。

機首に刻まれている№の番号を見て確認すると、『No.13』のマークが輝いている。

『――隊長』

NJの登場によって通信妨害が激しくなったとはいえ、
ここまで近距離の回線は流石には死んでいない。

ラッセルの理知的な声を耳にしたオレは、多少の冷静さを回復していた。
だが……
『おい!!アレ、人型に見えたぞ!やっぱザフトの新型かよ!』

その横から、うるさいケインの叫びが台無しにしてくれる……

№11のマークのメビウス<ゼロ>がオレを挟んで、
ラッセル機の反対側から現れる。

ケインの言う通り、あれは新型『MS』なのだろうか?それにしても『アレ』は異常だぜ!
だが、もしそうならば、もはや旧式の艦船など成す術もないぞ!

地球連合宇宙軍第3艦隊に所属している艦の殆どが、

――ネルソン級(250m級宇宙戦艦)
――ドレイク級(130m級護衛艦)

であるのだ。

そして、旗艦は、オレも乗っていたアガメムノン級(300m級宇宙戦艦)の『ジョージ・ブッシュ』だ。

時代の流れによって、ほぼ、旧式への道を辿っているこの戦艦たちによって、
第3艦隊は構成されている。

アガメムノン級(300m級宇宙戦艦)は地球連合軍の宇宙母艦で、
地球連合が保有する艦艇の中で最大級のサイズを誇っている。

連合艦艇としては初めてリニアカタパルトを搭載した艦艇であり、
大量のモビルアーマーが搭載が可能でもある。

そして、両舷にモビルアーマー射出用カタパルトを備えている。
そして、艦砲射撃による戦艦同士の戦闘にも考慮されており、
ザフトの宇宙戦艦に一応は、劣らない性能を誇っている。

しかし、主力艦載機の『メビウス』はご覧の通り5:1という、ザフト軍のMSに一方的に圧倒されるという、
素晴らしい戦力比の結果を上げてくれたお陰で、常に惨敗を喫しているのだ。
今までの殆どが沈められている。

地球連合軍の主力宇宙戦艦であるネルソン級(250m級宇宙戦艦)はモビルアーマー搭載が可能であり、
船体各所にミサイルやビーム砲を多数搭載し、その火力によって敵を征圧する戦術を得意としていた。

だが、見ての通り、MSの登場によってその戦術は陳腐化する。
そして、以降はモビルアーマーの後方支援が主となっているのだ。

そして、ドレイク級(130m級護衛艦)は、地球連合艦艇では最も小型の部類に入る宇宙護衛艦である。
モビルアーマー(MA)母艦としても運用が可能だ。

パラサイトファイター型の艦載機能を持ち、小型な分旋回能力に優れているが、
小回りが効き、機動力が高いMSの動きについていく事は出来ず、今まで多くの艦が沈められた。
こいつの艦長や乗組員になるということは、”動く棺桶に乗せられるのと同じ事だ!”という同意語が出来上がってしまった程だ。

その地球連合宇宙軍、御自慢の宇宙戦艦どもは、MSに懐に入り込まれたら、ご覧の通りだ。

――遠くでまた、1隻が沈められていた……
このままでは、遠からず艦隊は無論の事、全滅の可能性が”大”だろうよ……

――不味いぞ……マジでやばぇよ、これは……

オレの心を絶望と暗黒が支配し始め、どんどんとドライになって来た。
本能として、生き残る為の方策を探し始める。

『隊長……どうします?』

ラッセルの問いにオレはハッとした。
思わず、

「……逃げるぞ」

とポロりと本音が出てくる。

『……ええ。やはり、それしかないでしょうね』

『……だな』

同時に、二人から返答が来る。
ラッセルもケインも馬鹿ではない。

”此処を死守しろ”という馬鹿な命令が出る前に、此処からトンズらをこくのが正しい答えだ。

ハッキリ言ってオレやラッセル、ケインは軍に対する忠誠心など欠片もない。
いや、食う為に軍人なった連中も揃いも揃ってこう結論を出すだろう。

だが、一方で艦隊の仲間を見捨てるのは正直、尻が痒くなる行為だ。

オレも一応は、男なので、仲間を見捨てるという薄汚い行為は、なるだけしたくない。
マジでやばい時は、形振り構わずにトンズらする事のには変わりはないのだが……

視線を後方モニターへと移す。
――そこには、白く光る『人型の怪物』が縦横無尽に暴れてる様子が映っていた。
ニュートロンジャマーにより通信が妨害されているので、此処から艦隊までの通信は、雑音しか入らない。
――だが艦隊は、阿鼻叫喚の地獄絵図と成っている事であろう。

『アイツ』は、今度は、自分に群がるモビルアーマーに対して、
白い光を放ちながら蹂躙してゆく……

――『アノ』化けモンと闘うのは正直、勘弁して欲しい……
どうやら、無謀にもモビルアーマー部隊が迎撃しているようだが、瞬時に蹴散らされているようだ。
逃げろ!お前等が勝てる相手か!犬死だぜ!!

――ここで母艦の『ジョージ・ブッシュ』の援護に戻ったら、どうなるんだ……オレ。
――死ぬ。絶対に死ぬ。
――艦隊の援護など自殺行為じゃねーか!

グッショりと冷や汗によって全身が濡れ鼠となる。額から絶え間なく汗が流れてくる。
畜生!うっとしい!

焦り、気が立つオレは、密かに、通信を秘匿回線に切り替え、
ケインとラッセルだけにオレの声が聞えるようにする。

「――ラッセル、ケイン。どうするか意見具申してくれ……」

『――エンディミオン基地は全滅とみた方がいいでしょうね……此処は『中継基地』を経由しながら、
 『プトレマイオス』に撤退するのが筋でしょうが……』

とラッセルが冷徹に述べる。

『……俺も逃げるのに賛成。下手したら全滅するぜ。あんな『化けモン』とやってられるか!!
  艦隊は、残念だが俺達が撤退する為の囮になってもらおうぜ?な?兄貴?』

ケインは薄情にも、味方を見捨てる事を提案する。だが、それは同時にオレの本音でもある。
――『卑怯者』と誰がオレ達を責められると言うんだよ!!

そして、オレの心の中にも、天使と悪魔が同時に囁き始める。

オレの心の中で自分の姿をした天使と悪魔が、交互にオレに囁き始めるのだ。
このようにな……

『いいのか!ムウよ!味方を見捨てるなど……オレらしくないだろ?』

『馬鹿いうなよ!巨乳の美人に恋人が出来る前に、此処で死ぬなんて、
 そっちの方が、オレらしくないだろう?』

……結局の所、心の中の神と悪魔がせめぎ合うが、悪魔の方に軍配が上がりそうだ。
オレもその意見に傾きかける。

そう、オレ達3人はこうやって生き残ってきたのだ。
機を見るに敏でなければ、この泥沼のような戦争を生き残れないのだ。

『騎士道』とやらや『軍人魂』等の奇麗事などは、とっくの昔に、
便所の便器に流し込んじまっているのだ。

オペレーターの可愛い子ちゃんの顔が一瞬、浮かぶ。
女を見捨てて逃げるのはオレの主義に反する、のだが……無関係の男は幾ら死んでもかまわん。

……混乱する頭の中は、もはや滅茶苦茶だ。
華麗なオレの頭脳のCPUが異常事態に対処仕切れないのだ。
――『不可能を可能にする』のがオレの信条だったのによ!!

正直、後になって振り返っても、何をしていたか思い出す事も難しい。
どうするかと短く思案していると……

――ピー!ピー!ピー!

今度は、前方のセンサーが熱反応をキャッチした!
そして、センサーと共に、無常にも前方から光点が近づいて来るのモニター越しでわかる……

そう、今度は『ザフト』のMS部隊が攻め寄せて来やがったのだ!!
ッ!!――最悪だぜ……!
ヘルメットの中で、舌打ちが大きく響く!

前方のメインモニターに点滅するメビウス部隊が次々と爆発してゆく!

『訳のわからんモン』によってオレ達、第3艦隊は恐慌をもたらしているのに、
それを輪を掛けて、『ザフト』のMS部隊だ。

――『前門の狼』『後門の虎』と言う奴かよ!!

そう、オレが悪態を吐いていると、脳裏に痛みとも衝撃ともつかない何かが響き渡る!

――ピィキィィィィン!!!

「ッァ――!?何だよこれはよ!!」

出撃直前に感じたものと同じ衝撃だ!!吐き気と激しい痛みが一瞬、オレに襲い掛かった。

「グッ――来る!何か……とてつもない奴が……」

――後方で暴れまくっている、あの『化け物』と同じ位の何かが、オレに向かって来やがる!!
そう、オレにはそれが何故かわかったのだ……

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