機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第16話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 19:17:20

 リトルガーデンを出発した麦わら一味ではあったが、その後、更なる困難が彼らを襲った。一味の航海士、ナミ が高熱で倒れたのである。これ以上高熱が続けば命に係わると言う状況にビビは、先にナミの急病を癒し、その後全速でアラバスタへ向かおうと提案した。
 それは、ビビにしてみれば英断だったのだろう。
アラバスタの状況はかなり切迫しており、ビビにしてみれば一刻も早く帰りたい所である筈なのだ。しかし、それでもビビは、まずナミを助ける事を優先した。
 つくづく、敵わないなと、シンは思った。果たして自分がビビの立場であれば、どうだったろうかと。

 これが王家、王族ってものなのか――つくづく、自分がちっちゃく見えるよなあ。

 ともあれ、メリー号は一旦エターナルポースの針を無視し、医者を――医者のいる島を探して、グランドライン上を彷徨っていた。
 辺りの空気は底冷えし、雪までもがちらついている。ビビによればこれは、冬島が近づいた影響なのだそうだ。
 グランドライン上には四つの気候――季節が混在しており、各気候域に含まれた島は、それぞれがおおむねの四季を更に持つと言う。
 CE世界の気象学者などが聞けば卒倒を起こしそうな話であるが、いい加減シンも「まあそういうもんなんだろう」と納得するすべを身に着けていた。
「染まってきた」と言う言い方も可能ではあるが。

「しっかし、昨日のありゃあ一体なんだったんだ?」
「ありゃあ……ただの馬鹿だろう」

 ウソップとサンジが言う、「昨日の馬鹿」――あるいは昨日のカバと言った方が良いかもしれない――ブリキン
グ海賊団と名乗る奇妙な一党の襲撃に際し、連中の頭目らしいワポルとやらの悪食ぶりさえも、そういうものなん
だろう、と納得してしまっていた。大方悪魔の実の能力であるのだろう。
 因みに、そのワポルはあろう事かルフィまでを食べようとし、ゴムゴムのバズーカによって撃退されていた。

「最初に海の上に立ってる奴見つけた時は、てっきりお前の親戚かと思ったんだがなあ」
「ゾロ……お前俺を何だと思ってるんだ?」

 見張り台で横に立ち、シンとは別の方角を見るゾロの言葉に、シンはあきれたようにつっこんだ。が。

「いや、でもお前海の上走れるだろ」
「そうそう。俺もてっきりお前の関係者かと」

 ウソップとサンジまでもが、似たような事を言い出すのに、シンはがっくりとうなだれた。

「俺だって海の上にじっと立ってるなんて出来ねえよ……多分」
「何だ多分ってのは」

 あきれたようなウソップのツッコミに、シンは言葉を返せなかった。実際、今のシンならばフォースや剃、月歩などの応用により、海面だろうが空中だろうがある程度移動する事は可能だ。一箇所に留まるのも、月歩の応用でなんとかなるのは解っている。
 しかし、あの男のように、海面でじっと静止したように立っているとなると、話は別だ。

 フォースの要領で「ため」の状態を維持しながらなら、何とか立っていられるかな? まあ、あんまり意味なさそうだけど。
元来、フォースは剃程じゃなくてもある程度の高速を保ちつつ、剃よりも長い距離を移動する為の技なんだし。まあ、応用として考えれば、それもありかもしれないけど。

 などと考えつつ、望遠鏡をめぐらすシンの視界に、島影らしきものがよぎった。

「と、前方1時の方向に島影!」
「おっしゃ!」

 シンの声に、サンジが舵を握って島への針路をとる。

「それにしても……」

 雪に覆われる島を見ながら、しかし、シンは全く別の事を考えていた。
 ワポルの部下達がメリー号に乗り込んで来た時、一人、顔全体を仮面で覆っている男がいたのだが、その人物の声が、何故かシンには聞き覚えがあるように思えてならなかったのだ。

 でもなあ――俺の知り合いでこっちに……いや、来てないとは限らないけど……あんなカバ野郎の手下に納まるようなヤツって、いたかなあ? 確か仮面から黒い髪の毛がちらっと見えたけど……うーん。

 埒の明かぬ考えを抱いたまま、シンを載せたメリー号は、その島へと向けて進んで行った。

 島に着いた直後、一行は警戒する島民の銃口にさらされた。ルフィなどは危うく暴れそうになりはしたのだが、ビビの窘めにあやまちを認め、ビビと並んで土下座してみせ、ようやく上陸を許される次第となった。
しかし。

「医者がいない?」
「今この国にいる医者は一人だけでね」

 ドルトンと名乗る強面の巨漢は、しかし、実際にはかなり礼儀正しく、道義も弁えた人物らしかった。上陸前の態度は、この国を守ろうとする意思の表れだったのだろう。
 そのドルトンによれば、かつて医療大国と呼ばれたこのドラム王国にいる医師はただ一人で、しかも全く気まぐれに山から下りてくる為、待っているよりはこちらから出向いた方が良いだろう、と言う事だった。
 結局、ルフィとサンジがナミをその医師が住む山頂へ運ぶ事となり、シンとウソップ、ビビの三人は、村で彼らの帰りを待つ事となった。

「君たち、中へ入ったらどうかね」
「いえ、私たちはここで待ってます」
「おう」
「だな」

 ドルトンは、三人を火に当たらせようと誘ったのだが、ビビもウソップもシンも、皆寒さに凍えつつもルフィ達の向かった山の方を向いて動こうとしなかった。

「そうか……じゃあ、私も付き合おう」

 ドルトンは、三人の思いを感じ取り、小さく笑みをこぼし、自分も三人の脇へと腰を下ろした。

「昔はね……ちゃんといたんだよ」
「え?」
「医者さ。わけあって、全員いなくなってしまったんだ」

 ぽつりと、語りだしたドルトンの話の内容は、三人を驚かせるものだった。
たった5人と少人数ながらも、あまりに強大な海賊の襲撃に、それまで王政の布かれていたドラム王国は、亡び、失われたと言うのだ。
 王の名は、ワポル。それは、先日メリー号を襲撃し、ルフィによって撃退されたブリキング海賊団と名乗っていた連中の頭目の名前でもあった。

「海賊など、一時のカモフラージュだろう。ワポルはこの島へ帰ろうとして海を彷徨っているにすぎない」
「だったら、あの船に乗っていた人達は、この国を襲った海賊達に敵わず……島を追い出された兵達なのね……」

 そう言うビビの言葉は、しかし、ドルトンの苦渋に満ちた言葉で否定された。

「あの時ワポルの軍勢は、戦おうとすらしなかった……!」
「え」
「こともあろうに……海賊達の強さを知った途端に、あっさりと国を捨て!! 誰よりも早く、ワポルは海へと逃げ出したのだ!!!」
「それが一国の王のやる事なの?!!!」
「ビビ……って、シン?!」

 ビビの怒りを感じ取ったウソップは、ビビとは逆の側に立つもう一人の仲間から漂う気配に、息を呑んだ。
 ウソップだけではなかった。ドルトンも、自身怒りに燃えていたビビですらも、その異常とも言える気配に、言葉を失った。

「君……?」
「軽業師君……?」

 拳を握り締め、顔を俯かせた麦わら海賊団の軽業師、アスカ・シンが、そこにいた。
 垂れた前髪の間から透けて見える目は、普段のルビー色ではない、真っ赤に燃える、灼熱の炎の輝きを映していた。

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