「くそっ!! 間に合えぇぇぇぇえええ!!!」
眼下で展開する反乱軍と国王軍の衝突も後目に、シンは月歩版のフォースで一路中央広
場の時計台を目指し、突き進んでいた。
クロコダイルによる広場砲撃の示唆――それは、ナタルの予測とぴたりと合致する話だ
った。
ナタルは即刻時計台前への突入を考えたが、もはや完全に混沌のるつぼと化した広場を
突破するのは、ナタルの盾を前面に押し出したとしても、たやすいことではなかった。
そこで、機動力と言う点では最も抜きん出たシンが、時計台へと向かうこととなった。
君一人が行ってどうする、と言うナタルの制止はあったが、しかし、シンには、きっと
あいつ等なら、あの船の仲間たちなら、同じように広場爆破の情報を嗅ぎ付けて動いてい
るだろう、と言う確信があった。
もちろん、根拠などない。ないが、それでも――
「ウチの連中、船長以下バカばっかりですけど、ハナは無駄に効くやつばっかりでもある
んですよ」
などと言い、後ろも見ずに文字通り飛び出して行った。
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「ありゃー、見事に飛んでっちゃいましたね」
「まったく、目的以外は頭の外に放り出してるな、アレは。もう少し大局に立って……」
飛び去ったシンを見やりつつ言いかけたナタルだったが、即座に思い直し、頭を振った。
大局。大局にたった視座。ああ、まあそれが必要と言う立場も、無論存在する。しかし、
彼に、彼らに限って言うならば、そんなものはクソ食らえと言う所なのだろう。
そもそも、以前彼が語った夢からするならば、そんな視座など彼には微塵も必要はある
まい。
未来、将来、可能性――そうしたものを守るためならば、そうした視座も必要だろうが、
彼が願っているのは、そうしたことではない。
今そこにある幸せと、失われてしまった幸せの記憶をこそ、彼は守りたいのだ。
たとえ相手が悪人だろうと、誰かが理不尽に苦しむのなら、それが目の前にあるのなら。
近視眼的と言えば、正にその通りだろう。短慮と誹るならば反論も出来ない。
ガキめ、小僧めと罵り蔑むのも簡単だ。
だが、大局を見て細部を見捨てるぐらいならば、彼はずっと短慮で近視眼的な小僧のま
まで十分だと、胸を張って言うのだろう。
それはもはや、良いか悪いかではない。そうした生き方を彼は選んだのだ。
「まあ、アレが彼らしい行動、と言うことなのだろうな」
「異論はないですね。馬鹿だなーとは思いますけど、中途半端に利口なのよりはマシで
しょう」
「君が言うと重みを感じるな、フレイ」
「そりゃあ、経験者は語るってヤツですよ……で、この人どうするんです?」
「ふむ」
フレイに言われて、ナタルは改めてローレライ――ミーアに向き直った。
ミーアは視線をシンが飛び去った方向へと向け続けていたが、その表情は、レインベー
スの地下で出会った時とは比べ物にならぬほどに、生気に満ちていた。
「事情は、大体先ほど言ったとおりだ。我々としては、君を犯罪者として捕縛する用意は
ない。ただ、彼らについて証言をして欲しい」
「その後は、どうなるんですか?」
ナタルの言葉に、ミーアは向き直って問うた。
「さて、それは君次第だ。君が我々に保護を求めるのならば応じるし、ここに腰を落ち着
けると言うのなら、我々が感知するところではない」
「…………」
「少佐、我々も急ぎませんと」
「ああ。さあ、どうする。我々は今すぐ行動せねばならんのだ」
「私は――」
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その頃、時計台のもとには、すでにルフィとシンを除く麦わら海賊団のメンバーが集ま
りつつあった。
その補助をしたのは、ナタルの言と、ルフィたちの圧倒的な行動力とに意を決したたし
ぎ曹長の命を受けた、海兵たちだった。
シンも、また一路時計台を目指し、アルバーナ上空を駆け抜けて行く。
そして、王宮地下――
「お前は俺には勝てねえ」
「俺はお前を越えて行く」
クロコダイルとルフィ、二人の海賊の、最後の対決が迫っていた。
To be continued...