皇女の戦い 第七話

Last-modified: 2020-06-28 (日) 03:43:44

ロンドンでのガンダムファイトの大会...マリナが辛くも勝利を収めた第一戦。
彼女はホテル内に滞在しているアザディスタンの女性医療スタッフから軽めの健康診断を受けていた。
デスタンに殴られた腹部にはアザがあるものの、日頃の鍛錬のお陰で痕は薄い色に留まった。
念の為体内もCTRで診てもらったが問題はなかった。

 

「よし、これなら大丈夫でしょう。流石我が国の代表ですね。皇女様。」
「いえ、ありがとうございます。私も皆さんの期待に応えなければいけませんからここで負ける訳には。」

 

診察時専用の服から白いチュニックと青いロングスカートに着替えると、一礼して部屋を去るマリナ。
外にはシーリンがいつもと変わらぬ落ち着いた、それでいてどこか厳し気な表情で待っていた。

 

「どうやら何もなかったみたいね。」
「ええ、今負けたら申し訳が立たないもの。」
「今回は良かったけど、もしまた挑発するファイターが現れても耳を貸してはだめよ?」
「わかっているわ。少しの隙が命取りになるから...」

 
 

ホテルで借りている個室で休むと気晴らしに出掛けるマリナ。
ロンドンの街は快晴で、人通りも多く活気に溢れている。
公園でゆっくりしたり、ブティックを軽く回ったりして余暇を過ごしていく。
時計が3時を回る頃に行き着いた石の橋。通路を兼ねたそこは補修を重ねており品のある灰色をしていて、同時に多くの人々が行き交った趣深さを感じさせてくれる。
下に流れる澄んだ河には何隻も船が渡り、この国が豊かであることの象徴のように思えてくる。
(私の国ももっと栄えればこんな風に...)
そんな思いを馳せながら青い空を見上げていると...

 
 

突然ボールが目の前に飛んでくるが、咄嗟に躱すマリナ。
サバイバルイレブンで培った敵のパンチや砲撃を回避する能力が自然に働いたのだろう。
ボールはそのまま道路を転がりそうになるが、すぐに拾うマリナ。
前方から、10歳程だろうか金髪の少年が慌てて走ってくる。

 

「いけね!姉ちゃん、大丈夫?ごめんね、驚いたでしょう?」

 

人懐っこそうな表情に焦りを浮かべて近づく。
彼にボールをそっと渡すとニッコリ笑みを見せるマリナ。

 

「大丈夫よ。気にすることないわ。でもここで遊ぶと危ないわよ?」
「ああ、気を付けるよ......あれ?お姉ちゃんどこかで見たような...
 マリナさんでしょ!アザディスタンの。さっきのファイト見たよ。凄かったね。」
「ええ、そうよ。凄くなんてないわ。」

 

口にされるとどこか恥ずかしいのかはにかんで首を横に振る。

 
 

「でも、俺の兄ちゃんはもっとすごいぜ。実はファイターなんだ。イタリアのね。」
「あなたのお兄さんが?......っそうなの。それでどんな人?」
「サッカー選手だよ。レオナルド・バレージって言う。」
「そういえば、他の種目からファイターに転向した人も何人かいるわね。」
「そうそう。マジで凄いんだ。俺の兄ちゃん。元エースストライカーでさ、前いたチームの中でも人気高いんだぜ。」
「そんな凄い人がお兄さんなんて、嬉しいでしょ。」
「ああ、俺もいつか兄貴みたいな凄いサッカー選手になるんだ。
ああ、言い忘れたね。俺はダリオ。」

 

目を輝かせて喋る少年に何だかマリナも微笑ましくなっていく。

 

水面を見下ろしながら語り合う二人。
皇女でありながらたまにシーリンにサラッと注意されることも自然と話せてしまう。

 

「ええ、お姉ちゃん。そういう注意されることあるんだ?何か意外...」
「そうなのよ、まだ未熟だからね。」

 

苦笑いしながら話すマリナ。
楽しくて時間を忘れてしまう。

 

「でもさ、皇女様って言うからもうちょいとっつきにくい人かと思ったけど何かイメージと違う。」
「私、そんなに近づきづらかったかしら...」

 

外交中にできるだけ好印象を与える為、フランクな笑顔や話し方を心掛けてきたが今の会話で少し首を傾げる。

 
 

「うん。もっと無口で堅い人だと思ったからさ。」
「あはは、ちょっとそれって。」
「でも一緒に喋ってて思ったより普通っていうか、近づきやすいっていうか。」
「良かった。それを聞いて安心......っていけない、もうこんな時間...」

 

気づけば辺りはすっかり夕闇色になっていた。
「ダリオ、私門限近いからもう帰らなきゃいけないけど、あなたは一人で大丈夫?
 泊ってる場所同じだけど送ろうか?」
「子ども扱いすんなって、大丈夫。心配いらないよ。
...それに他の国のファイターと一緒にいるともしかしたら兄ちゃん気まずくなるかもだし。」

 

それを聞いた瞬間皇女の口は自然とキュッと結ぶ形になり。

 

「...そうね。ダリオとお兄さんの気持ちも大事だし、今日はここで別れましょ。
 一緒に話せて楽しかったわ、ありがとう。ダリオ。」
「こっちこそ。これからの試合頑張ってね、皇女様。」
ボール片手に元気よく帰るダリオに手を振って見送るマリナ。
ファイトの疲れも完全に忘れて悠々と滞在先のホテルに帰っていく。

 
 

翌日の朝、愛機・ユディータに乗り込むマリナ。
一糸纏わぬ姿で祈るように両手を握りしめ、片膝を着く。
スーツを纏い力一杯立ち上がる。
しなやかな胴体は爽やかな水色、肩と股は薄い水色、手足と臀部は純白というカラーリングだった。

 

機体は他国の者に比べやや小さく華奢だった。
白をメインとして、前腕と脛は落ち着いた紺色。
背中には鋭い矢を収めたケース。右手にはシャープなラインを描いた弓を携えている。

 
 

会場は昨日と変わらぬ熱狂ぶりを見せていた。司会者は声を上げる。
「みなさんお待ちかねー!今日も激しいファイトの行く末を見守ろうではありませんか!!」
「今日最初のカードは先日逆転勝ちしたアザディスタンの皇女、マリナ・イスマイール!
対するはイタリア代表、元サッカー界の英雄レオナルド・バレージ!
どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!」

 

「絶対に負けられない......」

 

強い意志を見せるマリナの瞳は、森林のように鮮やかな緑色をした機体を見据えていた...

 
 

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